第75話 三人の戦士と一体の伝説
一頭目の火竜も流石にこちらを警戒しているのか、グルルと唸るだけで攻撃を仕掛けてこない。
だがこれはやり難いけど、チャンスでもある。
今火竜の視線はテリーに向いている。
なら反対側にいる俺が行けば……。
「ロックスピア!」
俺の言葉と共に火竜の足元から翼に向けて、計16本の石の槍が飛び出した。
しかし石の槍は火竜に当たりはしたが、貫通までは至らない。
しかもこの攻撃で火竜は俺を認識した。
こちらに向かってこようとする火竜。
俺は怯まずに石の槍を増やし、最初の槍が当たった場所を狙って次々と槍を打ち込んでいく。
16本、32本、48本……そして合計64本の槍が翼に当たると、漸く火竜の翼に穴をあけることが出来た。
「よし! これで飛ぶことは出来ない!」
「ヒュ〜、やるねぇ!」
「それでは締めは俺がやろう。
レッド君、俺の前に大きめの土の壁を作ってくれ!」
「え? はい、分かりました」
俺は言われた通りジェフさんの目の前に5メートルくらいの壁を作り出す。
それを確認したジェフさんは俺に向かって笑い、目の前の壁に向かって杖を向けた。
「本来なら俺自身が壁を作るべきなんだろうが、如何せん土は得意ではなくてね」
ジェフさんが俺とテリーに話しかける。
その間にも火竜は何かをしようとしているジェフさんに向かっていく。
「ジェフさん火竜来てますよ!?」
「昔は妻に土の壁を作ってもらっていた。
戦場で私は妻さえいれば誰にも負けないと思えたのもこのコンビネーション魔法のおかげでね。
是非テリーには見てほしい。
行くぞ、フレアボール!」
ジェフさんは土の壁に向けて小さな太陽の様な火の玉を打ち出した。
フレイムボールの上位魔法である魔法に俺の壁は容易く溶ける。
しかし溶けた土は火の玉に押され火竜へと飛んでいく。
質量をもった火の玉は火竜の頭に当たり弾けた。
「ジェフさん?! フレアボールが解けてしまいましたよ?!」
「良く見ててくれ……」
俺とテリーはジェフさんの言葉で火竜へと視線を向ける。
するとそこには顔に張り付けたマグマを必死に剥がそうとしている火竜の姿があった。
「え? 何で剥がれないんだ?!」
「俺があれを操作しているからな。
幾ら暴れようと剥がれることは無い」
少しずつ動きが小さくなっていく火竜。
そうしてしばらくして動かなくなった。
「そう……死ぬまでマグマに包まれる。
火竜を焼くことは難しいが、窒息させることはできる」
ジェフさん普通にすげぇな……。
これで一頭。
一頭ずつならこれで全部いけるんじゃないか?
しかしそうは問屋が卸さない。
洞窟から二頭目が出てくるのとほぼ同時に、上から咆哮が聞こえてきた。
「上?!」
「これは元の作戦を実行も考えないとな……。
とりあえずレッド君、翼を頼む!」
「分かりました! ロックスピア!!」
俺は洞窟から出てきた火竜の翼をさっきと同じ要領で使えなくする。
そしてジェフさんの前に土の壁を作り出し、もう一頭の飛んでいる方を向き直った。
「アイガ! 手伝ってくれ!」
「ジ!!」
「よし、火竜が降りてきたところでストーンエッジだ!」
火竜は着々と高度を下げてきている。
あと少しでストーンエッジの攻撃範囲内だ……。
「今だ!!」
「ジ!」
アイガの眼が点滅し、火竜の真下から高速で打ち出される石の刃が次々と火竜に突き刺さる。
流石に俺の魔法とは威力が段違いだな……。
俺は体中を撃ち抜かれて空中で絶命する火竜からテリーとジェフさんが相手している火竜に注意を向ける。
しかしそれも無駄だったようだ。
俺がそちらに視線を向けたときには、丁度火竜が地面に沈むところだった。
「これで残りは二頭だな」
「そうですね……それにしても残り二頭が出てきませんね。」
「そうだな……確かにこの遅さはおかしい」
むしろ洞窟にはもう何もいないんじゃないだろうか……。
その予想は当たったようだ。
確かに洞窟にはいなかった。
「まだ狩りに行っていた奴らがいたのか……」
「しかも一頭多いし……」
三頭の火竜は群れをなしてこちらに向かって飛んできている。
ふぅ……まだ終わらないか。
「一頭は俺がやろう。 レッド君、3つ壁を作っておいてくれ」
「分かりました。 あと僕も一頭もらいますよ?」
「それじゃあ俺も「テリーは少し火力不足だ」な!?」
「だからアイガ君とコンビで一頭相手にしろ。」
「……分かったよ!」
こうして分担も決まったところで、俺は先ずジェフさんの近くに土の壁を作る。
これでジェフさんの用意は出来た。
次は俺の番だな。
水を目の前に集められるだけ集める!
そうして目の前出来た大きな水の塊に均等に圧力を掛けられるだけ掛けて行く。
「くっ!! キツイな……でもまだまだ!」
俺はそのまま自分の限界まで圧力を加えて行く。
水球の表面が波立ち、既に限界が近い。
もう俺には標的の火竜しか視界に入らない。
後約20メートル……15メートル……10メートル。
「よし、今だ! アクアレーザー!!」
「フレアボール!」
「フレイムゲイザー!」
「ジ!」
ほぼ同時に全ての攻撃が三匹の火竜それぞれに当たる。
その結果は一匹はマグマの波に襲われ、一匹は炎の柱に視界を遮られた後アイガに頭蓋を砕かれ、一匹は物騒な水鉄砲に撃ち抜かれて……こうして火竜の討伐は完了した。