第76話 戦いを終えて
あの後一応周囲を探索して、まだ火竜が残っていないか探してみたが、あれで最後だったらしい。
こうして火竜の討伐を終えた俺達は、今ボガード家へと向かう馬車の中にいた。
「レッド君ありがとう。
君がいなかったら俺達は死んでいたかもしれない」
「いいえ、僕は手伝いをしたにすぎません」
「二頭倒した時点で手伝いを通り越してるけどな」
テリーの言葉もその通りかもしれないが、実際一頭はアイガ……っていうかアイガは二頭倒している。
一番多かったのはジェフさんだけど、アイガはやっぱり伝説なだけあるな。
「俺もまだまだだな……俺だけが一頭も倒していない」
「テリー……そうだな、お前はまだまだだ」
「ジェフさん!?」
「だからもっと強くなれ!
俺よりも、レッド君よりも、誰よりも強くなれ!」
「親父……当たり前じゃねぇか!!
俺はテリー・ド・ボガードだぜ!」
ふぅ……元気になったようでなによりだ。
やっぱりテリーは元気いっぱいじゃないとな!
ボガード邸に戻った俺は、夕食を御馳走になり、食事が終わり次第客間に来てくれと言われたので、客間に向かっていた。
「今日は本当にありがとう。
報酬は、はずませてもらうよ」
「ありがとうございます」
「それにしてもアイガ君は本当に凄まじいな……。
火竜の身体を貫く攻撃……確かストーンエッジといったか。
他にも頭蓋を叩き割った一撃はどんな魔法を使おうとも防げないだろう」
「アイガの力のことは人に話さないでください」
「どうしてかな?
あれだけの力があれば色んな所から引っ張り凧だろう」
「………それが嫌なんです。 僕は平穏に暮らしたい。
それを信条に生きていますから」
「そうか……君は変わっているな!
………だがいい夢だ!」
その後少しだけ話をして、俺はテリーの部屋へと向かった。
「テリー、今日は大変だったね」
「そうだな……出来れば親父とお袋のコンビネーションを生で見たかったな」
「………お母さん亡くなってるんだったっけ」
「あぁ……アンディを産む時に逝っちまった。
そのことをアンディは今も気にしてる。
昔はいつも自分のことを責めてばっかりだったんだけどな、ある日親父がその姿に耐えられなかったのか自分の部屋にアンディを呼び出したんだ。
親父はそこで「自分を責めるな! 自分が生まれたことを後悔するなんて母さんへの侮辱にしかならねぇ!」そう言って思いっきり殴った。
それからは自分を責めることは無くなったんだが、やっぱりどこか気にしてる。
俺はそれがいつか爆発するんじゃないかって心配だ」
「いい兄貴してるじゃないか……。
しょうがないな……それに免じてキュルケに僕のことを話したのは許すよ」
「まだ覚えてたか……今度からは気をつけるぜ」
俺とテリーは笑い合いながら夜遅くまで話し続けた。
翌朝俺は長居するのも悪いと思い、ボガード邸を出ることにした。
音を極力立てないようにボガード邸の玄関に向かうと、そこにはテリーとジェフさんが立っていた。
「水臭いな……挨拶もなしかよ!」
「そうだぞレッド君。 君は短い間とはいえ共に戦った仲間だ。
戦友ともいえる相手を見送らないなんて不義理を、俺たち親子にさせる気か?」
「すみません。挨拶しなかったのは、こんな朝早くに起こすのも悪いかなって思ったので……」
そこまで考えてなかった……これは俺が悪いな。
「気を使ってくれるのは嬉しいが、時にはそれが仇となることも覚えておくといい。
まぁ今回は仇って言うほどでもないけどな」
「今度から気をつけます」
「それにまだ報酬について詳しく話してないだろう?」
「あ!」
「ハハハ、君は本当に欲がないな。
君はお金よりも別の物の方が良さそうだな……。
よし、昨日倒した火竜の爪や牙を好きなだけ持っていくといい」
「え?! でもあれを売れば結構なお金に……」
「いいんだ、売るよりもレッド君の役に立てた方がいいだろう」
「それじゃあ2頭分だけ戴きます」
俺はアイガに頼んで火竜の身体から、爪や牙を取ってきてもらった。
なんか予想より報酬が多くなったなぁ。
嬉しいけど少し申し訳ない。
「それではロジャー殿によろしく」
「また来いよ!」
こうしてテリーからの依頼は完全に終わった。
馬車の中には俺達の他に、小さな山となった火竜の一部。
これを何に使うか考えながら俺は自領へと向かって馬車を走らせた。
〜ジェフ side〜
レッド君は噂通り中々の実力者だったな。
伊達にテリーとアンディを鍛えたわけじゃないな。
「レッド君はいい子だったな」
「当り前じゃねぇか! アイツは俺の相棒なんだからな!」
「そうだったな……」
妻と性別は違うが、テリーとレッド君を見ていると昔の俺達を見ているようだ。
もしテリーが女だったら許婚にしたいくらいだ。
まぁ今息子たちはそれぞれ付き合っている女性がいるみたいだけどな!
「ところでマリーとの仲はどうなったんだ?」
「お、親父には関係ないだろ!!」
俺達はそんな馬鹿話をしながら家へと戻って行った。
「(レッド君位の力を持っていながら平穏に暮らすのは難しいかもしれない。
いつか何かに巻き込まれてしまうだろう。
その時にテリーが助けになれればいいのだが……)
テリー、もしレッド君が困った時は「もちろん駆けつけるぜ!」そうだな……お前ならそう言うと思ったぞ。
流石俺の息子だ!」