第77話 専用防具注文
ボガード領からドリュウズ領へと戻ってきて俺が最初にやったことは、父さんに火竜の素材を何に使うか相談することだった。
「僕が最初に考えたのは、剣に属性を付加出来ないかなって……」
「そういった技術はアカデミーで研究中だと思うが、一個人のために最新鋭の魔剣を作ってもらうのは王族クラスじゃないと無理だろう」
やっぱり無理か……っていうかそんなものいっぱいあったら平民でも貴族に勝てちゃいそうだしな。
表立って出てくることはないか。
俺としては地下水みたいな剣が欲しいけど、意識を乗っ取られるのは勘弁だからアレは使えない。
「大人しく売るっていうのはどうだ?」
「それだったら最初から、ジェフさんにお金で報酬貰ってるよ」
「それもそうだな」
「やっぱり服とかに装飾するのがいいのかな?」
「そこらが妥当だな。
明日にでも武具屋に行ってみるか」
「そうだね!」
翌日朝家を出ると、昼に到着することが出来た。
防具屋は路地裏にあり、薄暗い細道を行ったところにひっそり佇んでいた。
入り口のドアには兜のプレートが張り付けられており、ぱっと見は普通のお店だ。
「ここ?」
「あぁ、俺が昔からお世話になっている防具屋だ」
父さんは特に戸惑うこともなくドアを開けた。
ドアの内側にあった来客を知らせるベルが店内に鳴り響く。
「へ〜い、いらっしゃ……ロジャーの旦那じゃないですか!!
お久しぶりです!」
「久しぶりだな店主」
「いつ以来ですかねぇ。
昔は旦那の部下連中も一緒に来て、色々買っていってくれましたねぇ。
今日は何が御入用で?」
「あぁ今日は俺の息子が火竜を狩ってきたんだが、その素材を使って防具を作ってくれないか?」
店主さんはそこで初めて俺の存在に気付いたようだ。
大分驚いているなぁ……。
「えっと……聞き間違いじゃなければそこの坊ちゃんが火竜を倒したって聞こえたんですが?」
「あぁ、そう言ったんだが?」
「はぁぁぁぁ、驚きませんよ?
旦那の話にいちいち驚いていたら心臓が持ちませんからね。
それでどれくらい素材は有るんですか?」
「よっと、これくらいだな。」
父さんは軽量化の魔法を掛けておいた火竜の牙と爪をカウンターに置いた。
流石に成体二頭分となると結構な量なんだよね。
「………旦那?一応聞きますがこれ何頭分ですか?」
「レッド、何頭分だ?」
「二頭分です」
「ってことは成体を二頭も倒したって言うんですかい?!
しかも一人で!?」
「倒したのは三頭ですね。
一頭は自分で、使い魔が二頭……。」
詳しく言うと全六頭中ジェフさん一人で三頭倒しているんだけど、まぁ別に詳しく話す必要はないだろう。
「蛙の子は蛙ってことか……分かりました。
これだけあれば耐火装備一式揃えられますね。
値段は若干張りますが、性能は保証しますよ」
「そうか、出来るまでどれくらい掛かる?」
「ざっと二カ月ってところですかね。
火竜の素材は火に強いもんで、加工が難しいんでさぁ」
「レッド、学院に送ることになるが大丈夫か?」
「大丈夫だと思うよ」
「じゃあ店主それで頼む」
「ローブと手袋、そしてマスクと靴を作りますが、何か要望は有りますかい?」
店主は俺の方を見ながら要望を聞いてくる。
「出来れば手袋の拳の部分に鉄板入れてくれませんか?
もし殴った時にその鉄板が当たる様に。
そして靴の先端と踵の部分にも鉄板を入れてください。」
「鉄板ですか……いいですけど、珍しいこと頼みますねぇ。
他に要望は有りますかい?」
「あ〜色は黒ベースであまり目立たないものにしてください。
デザインは任せます」
「分かりました。
それじゃあ代金はドリュウズ家に請求しときますぜ?」
「それで問題ない」
「それじゃ旦那と坊ちゃん。 楽しみに待ってて下せぇ。
最高の装備を作って見せるんで!」
「店主の腕は知っている。 信用しているからな」
「楽しみにしています!」
俺と父さんはそのまま武具屋を後にした。
二ヶ月後か……楽しみだなぁ
「レッド、もうそろそろ学院に戻ることになるが、困っていることはないか?」
「(正直授業内容をいつも迷ってるかな?)今のところ先生の一人に嫌われていること以外は問題ないかな?」
「なんだ、何かしたのか?」
「……なんか教師になるにふさわしいか見てやるって言って決闘申し込まれて、それに勝ったら嫌われた」
「……そうか」
「うん」
「頑張れ」
「…………うん」
なんか空気が重くなった。
おのれギトー!! その場にいなくても家族の団欒まで邪魔するなんて………なんていう卑劣!!
父さんも流石にこの空気は……と思ったらしく、露骨に話題を切り替えた。
「そう言えばお前の二つ名が変わったらしいじゃないか。
俺はまだ変わったってことしか聞いてないんだが、どんなのに変わったんだ?」
「………泥水」
そして広まる静寂空間。
またか……またなのかギトー!!
お前いつか杖と牛蒡すり替えてやるからな!!
結局家に帰るまで殆ど喋ることもなく、気不味い空気のまま馬車で過ごしてしまった。
やっぱ二つ名’泥水’は印象良くないよなぁ。
でも泥を使うのも事実だしな……ままならないなぁ。