第79話 母を想う少女対ゴーレム六体
「コインが下に落ちたら開始だ」
「分かってる」
俺は6体のゴーレムを整列させる。
前衛三体、後衛二体、そして角付きの護衛対象。
これで最低でも二体倒さなければ角付きは倒せないだろう。
「……厄介」
「まぁ手は抜けないからね」
俺はコインを上に投げてからタバサ嬢の声に答えた。
まぁ上からトライアングルスペル乱射すれば倒せる可能性はゼロじゃないけど、もし空中にいるときに投石や魔法を受けたら落下死してしまうということも教えているので、そう簡単にその手段は取らないはずだ。
それに現状シルフィードがいないから、空からの攻撃は簡単に出来ない。
そしてついにコインが地面に落ちた。
「(タバサ嬢の魔法の中でこのゴーレムを砕く魔法はないはず。
さぁどう出る!)」
「エアハンマー」
彼女が放った風の槌はゴーレムには当たらずにゴーレムの足元の地面を抉った。
「(外した? いや……そんなはずは……)」
「フライ」
「飛んだ!?」
飛んでいる間は他の魔法を使えないのに、何故空に?
そんなことを考えている内にドンドン速度を上げて高度を上げて行くタバサ嬢。
ある程度まで高度を上げると停止して、どうやら深呼吸しているようだ。
そして次の瞬間タバサ嬢は自由落下を始めた。
「何を考えている!?」
「ウィンディ・アイシクル!」
そう言うことか!!
フライ中に魔法が使えないなら落ちながら撃つ……確かに出来なくもないけど賭けすぎるだろう。
タバサ嬢の目の前には本来なら無数の氷の矢が出るはずなのだが、矢の代わりに一つの大きな氷柱が出来て行く。
「考えたね……確かに自由落下+風で加速させたその氷柱ならゴーレムも壊せるだろう。」
そのまま二メートル以上にもなる氷柱を角付きに向けて発射した。
俺のゴーレムのスピードじゃ回避できそうにないな……。
氷柱は見事目標を貫通し、ゴーレムは地面に還っていった。
「よっと、但し着地をもう少し考えた方がいいかな?」
「……考えておく」
咄嗟に落下地点に走った俺はタバサ嬢をキャッチして、苦言を一言。
流石にタバサ嬢も勝ちにこだわり過ぎたことに気付いたか、少しだけ頬を赤らめてそっぽを向いた。
とりあえずタバサ嬢を地面に立たせて、他のゴーレムを地面に戻していく。
「今回の訓練をクリアしたのはタバサ嬢だけ。
ギーシュ君は明日もこの訓練をやろうね」
「……はい」
「タバサ嬢はとりあえず結果を重視し過ぎているから、手段も少し気にするようにしようか。
確かに結果も大事なんだけど、結果は上出来でも終わったらこっちも瀕死だと予期せぬ事態があった時に対処しきれないからね」
「分かった」
二人ともいい子だ。
俺が鍛えることで少しは彼らが危険を回避出来るようになればいいな。
〜タバサ side〜
今日の訓練を終えて、部屋に戻った私を待っていたのは赤い髪の彼女だった。
「おはようタバサ」
「おはよう
何でここに?」
「偶には一緒に教室行こうと思って来たら、いないじゃない?
でも教科書とかはここにある……なら待ってれば戻ってくるかなって。
予想以上に時間が掛かったけど、何やってたの?」
「訓練」
「真面目ねぇ……まぁいいわ。
一緒に教室に行きましょ!」
「分かった。」
今日は……レッドの授業。
少し楽しみ。
〜side end〜
部屋に帰った俺を待ちかまえていたのは、俺のベットの上で転がっているルイズ嬢だった。
……何やってるんだこの子は。
っていうか俺の部屋のドアノブが爆破されてたんだが?
俺が部屋に入ってきていることに気付いたルイズ嬢は、素早い動きで起き上がってベットの端に腰かけた。
「……何時からいたの?」
「ゴロゴロしてた時からかな?
それとお願いだからドアを爆破するのは止めてくれ」
「だって鍵掛かってるんだもの……」
顔を赤く染めながら言ったからって許されると思うなよ?
っていうかそれは理由になってない。
「今度爆破したら公爵夫人に手紙送るからね?」
「それだけはやめて!
そんなことされたら……(ガクガクブルブル)」
あぁ……トラウマになってるのか。
確かに竜巻の中に放り込まれればそうもなるか。
「分かってるよ。
でも鍵が掛かっているときは普通に諦めてくれ。
僕が部屋にいるときなら普通にノックしてくれれば開けるから」
「分かってるわよ」
ルイズ嬢が俺に対する遠慮がなくなってきたなぁ。
少し前までは昔と同じ可愛い妹みたいだったのに……。
「レッド兄様は朝から何をやってたの?」
「あぁ少し身体を動かしてきたんだ」
「身体を動かす!? 誰と!? もしかしてツェルプストー!?」
「は? 何でここでキュルケの名前が?」
「ハッ! そう言えば兄様がそんなことするわけないわよね……ごめんなさい。
少し取り乱したわ」
「あ、あぁなんか納得してもらえたみたいでなにより」
なんでキュルケの名前が出てきたんだろう?
とりあえずなんか訓練のことはルイズ嬢にバレたら面倒なことになりそうな気がする。
「それにしてもドアノブだけ爆破するなんて、制御が上手くなったんだね」
「当り前よ! 伊達に‘爆発’のルイズって呼ばれてないわ!」
そう、ルイズの二つ名がゼロじゃないんだよ!!
爆発を一つの魔法と意識し始めた辺りでコモンスペルを使えるようになったらしい。
故にゼロになることはないんだけど、爆発って言う二つ名は結構凄いな……俺なんて泥水なんだが?
「はぁ……とりあえず一緒に教室に向かうとしますか」
「そう言えば今日は兄様の講義かぁ……今日は何やるの?」
「あぁ、今日は天候や環境の変化が及ぼす魔法への影響かな」
俺とルイズ嬢は授業のことを話しながら教室へと向かって行った。
また〇〇side書いちゃった……出来れば止めてくださいって言われてたのに。
すいません、出来る限り気をつけますが、どうも書きやすくて。