第83話 同じ様で違う場所の異世界人
ついにこの時が来てしまった……。
使い魔召喚の儀。
二年への進級条件であり、生涯を共にする相棒の召喚をするイベント。
そして恐らく一人の青年が平和な日本からこのファンタジーな世界へと連れてこられる日。
「まだ彼が召喚されるとは決まってないけど、きっと彼なんだろうなぁ」
頑張れよサイト君。
応援しているぞ!……出来る限り巻き込まないでくれると嬉しいなぁ。
「次はミス・ツェルプストーの番ですね」
「彼女なら恐らく火竜を召喚するのじゃないかのぅ」
今は召喚の儀の真っ最中だが、その場にレッドの姿はない。
まぁ監督ではないのだから当たり前なのだが、学院長室で学院長と一緒にその場を覗いていた。
「やっぱり色んな使い魔がいますね」
「そうじゃな。 毎年見ているが、皆個性があって面白い」
そんな話をしている間にキュルケの召喚が終わり、彼女の前にはサラマンダーがいた。
ここは変わらないか……。
「火竜じゃなかったけど、大きなサラマンダーですね……彼女にピッタリだ」
「お主が倒した火竜の成体よりは小ぶりじゃろう?」
「何の話か分かりませんねぇ」
言質でも取りたいのか?
どうせ分かっていて言ってるんだろうけど……なんかニヤニヤしてるし。
「それにしても壮観ですね。
フクロウやジャイアントモールと言った動物たちもいれば、サラマンダーやバジリスクの幼体と言った幻獣の類もいる」
「そうじゃのう」
「おっと、次はタバサ嬢だ」
「お主の弟子4号じゃな」
やっぱり学院長は知っていたか……遠見でもされたかな?
まぁテリー達に教えてたような格闘技を使ってたわけじゃないから問題ない。
「それってテリーとアンディ入れてますね?
彼らは弟子じゃなく……なんて言えばいいのかな。
修行仲間って感じですかね?」
「彼らはお主が師匠と公言しているんじゃがの……まぁお主がそう言うならそうなんじゃろう」
「それにギーシュとタバサ嬢には、模擬戦や戦い方を教えているだけで授業の延長線上のことしかやってませんよ」
「そうじゃの、タバサ嬢に変わった剣を少し教えているが、昔教えていたものとは違うじゃろう。
……お主どれだけ手札隠しておるんじゃ」
「それは秘密ですね」
また話している間に召喚が終わってた。
ん?
「風竜ですね……契約を結んだのにまだ離れませんね」
「何かあったのかの?」
「タバサ嬢がビックリしてますが……」
「じゃがコルベール君が動かないということは、問題があるわけじゃないじゃろ」
韻竜ってわかって驚いたのかな?
それにしてもシルフィードって結構デカイな。
戦った火竜より少し小さいくらいか?
あれ? あの首に巻いている布はなんだ?
「学院長、あの首に巻いている布って何か分かりますか?」
「ん? どれどれ……大分ボロボロじゃが人の服じゃないかの?」
なんか見覚えがある気がするんだよなぁ……。
まぁ会ったことあるはずないんだけど。
「お、次はついにルイズ嬢の番だな」
「お主にとっては妹分じゃったな。
心配か?」
「いえ、信じてますから」
それに原作よりもクラスに馬鹿にされていないために、若干余裕がある。
コモンスペルは問題なく使えるはずだから大丈夫だ。
そんなことより何を召喚するかの方が大事だな。
「爆発特化のメイジが召喚する使い魔……どんなものを呼び出すのかのぅ」
「(本当は爆発特化じゃないんだけどね)予想できませんね。
でもきっと彼女に相応しい使い魔が出てくることでしょう」
俺と学院長は今までとは違い、ルイズ嬢が前に出た瞬間から一言も声を発さずに、ジッと見ている。
ここから‘ゼロの使い魔’は始まる。
物語としての冒険活劇は面白い。
しかしここは俺にとって既に現実世界。
彼らを中心に起こる様々な出来事は油断なんて許されないものばかりだ。
ちゃんと状況を見ながら動かないと、あっけなく死んでしまうかもしれない。
まぁ常にツボツボを装備しているから一撃で死ぬことは余程のことがない限り大丈夫。
しかし慢心はいけない。
今の俺の立場は既に大分ヤバい位置にある。
原作キャラ達との友好関係は自業自得だが、火竜討伐の情報漏れがヤバい。
恐らく近いうちに俺の仕業と言うことがバレるだろう。
その時にしっかり自分の立ち位置を守らないと、国にいい様に使われるだろう。
それだけは駄目だ。
いざという時はゲルマニアに別人として亡命することも考えておこう。
「なんじゃと?! 平民を呼び出しおった?!」
「(やっべ、また見てなかった)……流石ルイズ嬢。
予想の斜め上を爆走しましたね」
学院長は目をひんむいて驚いている。
そして呼び出されたサイト君も目が点になっている。
ルイズ嬢はやはり、コルベール先生に再度召喚することはできないかと聞いているようだ。
周りの生徒達も段々この状況が飲み込めてきたのか、ルイズ嬢をからかい始める。
「ミス・ルイズが何か呟いておるの……」
「あ、キスしましたね」
「呼び出された少年は気絶してしまったようじゃな」
あぁあれって痛いんだっけ……。
まぁ一気に刺青彫るみたいな感じか? それとも焼き鏝的な感じか?
どっちにしても拷問に近いな。
それにしてもやっぱり妹分とは言え、目の前でキスされるとなんか嫌だな。
「さてと、これで全員終わった様じゃな」
「……そうですね」
「なんじゃ不機嫌そうじゃな。
ルイズ嬢の接吻が気に食わんかったのか?」
「……少しだけ」
「青春しとるのぉ」
その後は特に話すこともなく普通に解散したが、部屋に帰ってもやっぱり少しモヤモヤした。
現場に居られないなら、覗けばいいじゃない!
原作ギーシュとの決闘の時に覗いてたなぁと思って今回こんな話にしました。