第85話 葛藤
とりあえずまずこの状況をどうにかするとしますか。
俺は右手を少し動かして、タバサ嬢の視線を右手に送らせる。
そしてその隙に左足で杖を蹴り飛ばす。
「よっと!」
「!?」
これで俺に対する脅しは意味を成さない。
蹴り飛ばした杖も壁に当たって、俺の足元にある。
俺は杖を軽く踏んで、自分の杖を抜く。
「これで状況は逆転した……」
「くっ!」
「レッドも止めるのね! 似合わないのね!!」
まぁ俺としてもやりたくてやっているわけじゃないんだけど……聞かなきゃならないことがあるから、もう少しだけ我慢してくれ。
「俺の近接戦の腕を忘れてたのか?
それとも間合いを間違えたのか?
どっちにしろ訓練の強化が必要だな」
「どうするつもり?」
「どうするも何も、どうしてほしい?」
「………」
正直ここからどう行動するかあんまり考えてなかったんだよね。
とりあえず説教タイムだな。
「はぁ……先ず少し話をしようか。」
「話?」
「説教みたいなもんだ。
先ず幾ら気になる情報があったとしても、冷静さを失うな。
急ぎじゃない限り脅迫や拷問は序盤にすることじゃない。
相手が自分より強いなら余計にな」
「……」
「次に、交渉の際は相手へのメリットを教えることで気を引け。
交渉の初めは感情に訴えるか、メリットで相手の気を引かなければ、突っぱねられることもある」
「………」
「最後に相手の状況も考えろ。
そうしなければ相手にとってのメリットを知るのは難しい。
それ以前に交渉自体が成り立たない場合もある」
「……それで」
「ん?」
「それで……貴方にとってのメリットは何?」
直接聞くか……愚策だな。
悪人なら吹っかけてくるし。
まぁ、いきなりのことだししょうがないか。
「お前が知りたいと言った俺の秘密がもし他の人にバレたら、俺は国から追われるかもしれない」
「え?」
流石にそこまで予想してなかったか?
まぁそんな人間が教師やってるとは思わんわな。
……コルベール先生も俺とは追われる理由が違うが、際どいところだな。
この学院は爆弾がいっぱいだね!
「知ってるかもしれないけど、どの国にも黒い部分は存在する。
そこに俺の存在を知られると、面倒なことになる。
両親に迷惑かけるのは嫌だしな」
「……そう」
少し落ち着いたかな?
そして俺が両親の話をしたら、目に見えて顔を歪めた。
イルククゥも少し安心したようだ。
さぁここからだ。
ここからが本番!
「ところでお前は何で、怪我を治す方法を知りたがる?」
「それは……」
「母親があったという理不尽な目と言うのが関係するのか?」
「覚えて……いたの?」
覚えてたって言うか……ある意味記憶にあったから覚えてたことになるのか?
まぁそんなことはどうでもいい。
「私の母様は薬を盛られて心が壊れてしまった。
今まで色々な薬で治そうとしてみたけど、どれも効果がない……」
「そっか……」
「だから……私に出来ることなら何でもする!
だから母様を、私の母様を助けて!」
「私からもお願いするのね!
お姉さまのお母さんを助けてあげて!」
どうする……どうするどうするどうする!
ふと管理者の言葉を思い出した。
‘自由に生きろ’
何故このタイミングでこの言葉を思い出す……。
俺は今まで自由に生きてきたはずだ。
平穏に暮らしたいという願いを持って、その願いが叶う様に頑張った。
しかし結局王宮には目を付けられ始めている。
このままではどっちにしろ戦争に巻き込まれずに暮らすなんて無理だろう。
なら一人の人を助ける位、大して問題ないんじゃないか?
……ははは、なんだよ俺自身助けたがってるんじゃないか。
何が判断するだよ……答えは決まってたようなもんじゃねぇか!
「詳しくは話せないが、確かに俺ならその症状を治すことが出来るかもしれない」
「なら!!」
「ただし条件がある」
「……それはなに?」
「俺が治したということを人に話さないでくれ。
誰にもだ。
それが受け入れられない場合はこの話はなかったことにしてもらう」
「わかった」
「それと100%治せると決まったわけではないことは覚えておいてほしい。
一応色々と試してみるが……」
「それでもいい! 母様が良くなる可能性があるのなら……それだけで……」
その場で静かに泣き始めたタバサを、イルククゥが抱きしめて頭を撫でていると余程疲れたのかいつの間にか眠ってしまっていた。
「お姉さま寝ちゃったのね……きゅいきゅい」
「あぁそうだな」
「それにしてもレッド……口調変わってるのね」
「これか? 普段は基本猫かぶってるんだよ」
「猫なんか何処にもいないのね?」
「例えだよ例え。
それにしてもタバサが呼びだしたのが俺の知り合いとは……予想外だよ」
「私もビックリしたのね!
そう言えばあの時のお礼まだしてなかったのね!!」
「気にしなくてもいいよ。
俺も忘れてたし」
「それじゃ私の気が済まないのね!
私のできることなら何でもするのね!!」
「それじゃあ何時か必要になるときまで取っておくことにするよ」
俺はそう言って床にあるタバサの杖をイルククゥに渡し、部屋を出ようとした。
「レッド! 私はシルフィって呼んでほしいのね!
……お姉さま以外に人がいなかったらイルククゥって呼んでほしいかも?」
「なんだそれ? でもわかったよ。
人前ではシルフィって呼ぶことにする。
それじゃあ、お休みシルフィ。
タバサをよろしくな」
「任せるのね! おねえさまは私が守るから!
レッドは大船に乗ったつもりでいてほしいのね、きゅいきゅい!」
俺はシルフィに苦笑いを返しながら、タバサの部屋を出た。
まァ予想はついていたでしょうが、手を貸すことにしました。
無理がある?すみません、タバサ外伝書くために甘く見てください!!
小説書くのって大変だな。
オリジナル小説ってもっと大変なんだろうなぁ。
とりあえず次はサイトとの出会いです。