第87話 突如ガリアへ
夜の帳に突如俺の部屋のドアを乱暴に開けたのは、人に化けたシルフィだった。
「レッド、ついて来てほしいのね!!」
「はぁ? 俺は授業の資料を纏めないといけないから忙しいんだが……」
「いいから来るのね!」
そう言って俺を引きずりながら森まで連れこられたわけだが……何故タバサが驚いている?
「なぁタバサ」
「何?」
「何で俺はここに連れてこられたんだ?」
「……知らない」
二人でほぼ同時にシルフィの方を見たら、そこには既に竜の姿に戻った彼女がいた。
彼女もこちらの視線に気付き、こっちに近づいてきた。
「何故彼を連れてきたの?」
「レッドなら絶対お姉さまの力になってくれるのね!」
まさかとは思うが……これ任務に行くのか?
オイオイ、それはヤバいだろ!
がっつりガリア領じゃねぇか!!
俺は静かにその場から去ろうとしたが、服の首元をシルフィに口で引っ張られた。
「えっと……シルフィさん?」
「どうしたのねレッド?」
「俺少し用事を思い出して……」
「大丈夫! きっとすぐ終わるのね!」
「いやだから、俺は何のために連れて行かれるんだ?
それにもし時間が掛かるようなら学院長に話を通さなければいけないんだけど……」
まぁ俺の授業は三日後だから問題ないって言えば問題ないのかもしれない。
でもやっぱりガリア領に行くのはリスキーすぎる。
俺が困っていることが分かったのか、タバサがシルフィの頭を杖で叩いた。
「きゅい!? 痛いのね!! るーるー」
「困ってる」
「でもお姉さまもレッドが一緒だと嬉しいでしょ?」
「それは……」
タバサ嬢がこちらを見る。
そして無言でシルフィの頭を叩く。
「痛い! 何で叩くのね?!」
「うるさい」
はぁ……しょうがないな。
でも流石に変装ぐらいはさせてもらおう。
「はぁ………一回部屋に戻らせてくれ。
学院長に報告して、変装してくるから……。
あと何かするんなら俺はあんまり手伝わないからな。
それでもいいか?」
「いいの?」
「良くないけど……シルフィが俺を呼んでくるってことは危ない可能性があるんだろ?
流石に生徒を危険なところに一人では行かせられないからな」
「ごめんなさい」
「きゅい? なんでお姉さま謝ってるのね?」
この駄竜……一回土に埋めてやろうか?
まぁまたタバサに叩かれてるからいいか。
さぁ変装はどうしようかな。
「やっぱり似合わないのね」「………」
「うるせぇ!」
この会話もこれで四度目だ。
俺は今あの火竜の素材でできた厨二装備に身を包まれている。
そして即席の仮面を作って顔に付けている。
仮面は黒の契約者の主人公を意識した白を基調とする目と口のある部分に穴を開けただけの単調なものだ。
とりあえずこれで顔がバレる事はないだろう。
「依頼を受けに行くのは分かった。
でも俺はそこまでは行けないぞ?」
「きゅい!? 何でなのね! ここまで来ていきなり何なのね!!」
「いや、少しでもバレる可能性減らしたいんだよ。
だから途中で下して、任務受けたら拾いに来てくれ」
「む〜……分かったのね」
多分イザベラとやらに任務を受けに行くんだろう。
もし不敬だから仮面を取れとか言われたら困るしな……。
流石にここは譲れない。
「もうそろそろ着く」
「そっか、ならここら辺で下してくれ」
「分かったのね。
後で迎えに来るからここら辺にいてね、きゅいきゅい!」
シルフィは静かに地面に降り立って、俺を下ろすとタバサ嬢と一緒に飛び立っていった。
俺は二人を見送って、近くにある街へと入っていった。
流石にこの装備は目立つようで、道行く人の視線が凄く気になる。
視線を気にしない様にしながら、俺は酒場へと向かった。
一応情報収集でもしようかと思ったわけだが……入って早速後悔した。
「がっはっはっは、お前が俺に盾突くなんて100年早いんだよ!」
「調子に乗んなよ髭野郎!!」
「なんだなんだ喧嘩か?!おいお前どっちに掛ける?」
「俺は髭に10だ!」
「俺も髭に7だ!」
「おいおい、掛けになんねぇじゃねぇか」
なんだこの世紀末……。
関わり合いに成りたくないな。
俺はとりあえずカウンターに座って、エールを注文する。
「マスター、ここら辺で魔獣か何かを見たっていう情報知らないか?」
「……知らねぇな」
「はぁ……本当に知らないのか?」
俺はため息をつきながらエール代以外にお金を支払った。
まぁ唯で教えてもらえるとは思ってなかったからね。
「……近くの村に翼人の集団が出たって話だ。
何やら討伐隊を近々送るって話を聞いた」
「(翼人?原作イベントにあったか?)そうか、ありがとう」
俺はそう言って店を出ようとすると、野太い声が俺を呼びとめた。
「ちょっと待ちな、そこの兄ちゃん!」
「……なんだ?」
振り向いてみるとそこには、さっきまで喧嘩していた髭がいた。
どうやら禿は後ろに転がっているようだ。
「何の様だ?」
「お前さん強そうだな……俺の団員にならねぇか?」
うわぁ……厄介そうなのに絡まれた。
すっげぇ関わり合いになりたくないなぁ。
オリ展開を混ぜつつタバサ外伝の翼人編を進めます!
因みに主人公はタバサ外伝はあまり深く知りません。
ちょっと知識があるくらいです。