第89話 翼人と青年
しばらく村の外で待っていると、タバサとシルフィが飛んできた。
「お待たせなのね〜!」
「……遅くなった」
「いや、有意義な時間を過ごせた」
「「?」」
「あぁ気にしなくていい。
ところで依頼内容はもしかして翼人退治か?」
「何で知ってるのね、きゅいきゅい!?」
「ちょっと情報収集をな」
「依頼はエギンハイム村の近くにあるライカ欅の森林を占領している翼人を退治すること」
やっぱりか……。
たしか翼人って魔法使えるんだよなぁ。
しかも先住魔法を。
攻撃されたらどうしようかね。
退治が依頼内容だけど……とりあえず正当防衛以外は自重しよう。
「それじゃあ早速エギンハイム村に行くのね〜」
シルフィはそう言って、俺を背中に乗せると村に向けて飛び立った。
しばらく飛んでいると目的の村へと近づいてきたが、何か様子がおかしい。
一部の木が激しく揺れている。
もしかしてもう何か起こっているのか?
「タバサ、急いだ方がいいんじゃないか?」
「急いで」
「きゅい!」
タバサはシルフィの首を軽く叩き、シルフィに指示を伝える。
現場へと近づくと、次第に状況が分かってきた。
どうやら翼人の魔法で木の葉を刃に変えて村人に向けて飛ばしているようだ。
一先ずタバサ嬢は村人を助けるために、魔法を放つ。
「エア・ストーム」
「何?!」
村人の前に巨大な竜巻が現れ、翼人が放った葉の刃を防いでいく。
そのまま竜巻は翼人の方へ向かって行き、何人かの翼人を巻き込んでいった。
村人たちは大規模な魔法戦闘を見て驚いているようだ。
「みんな止めて!」
その声が聞こえた瞬間翼人の動きが鈍った。
その隙を逃さない様にタバサは追撃しようと杖を振ろうとしたが……。
「貴族様! どうか…杖を収めてください!」
村人の青年がタバサに待ったの声を掛ける。
翼人はその隙に飛びあがって、姿を消してしまった。
「どうして止めたの?」
「そ、それは……」
二人の会話を遮る様にオジサンが話しかけてきた。
「もしかして……騎士様ですか?」
「ガリア花壇騎士団のタバサ」
「従者のヘイだ」
俺はとりあえず従者ということにしておいた。
村人は仮面を付けた上に物騒な装備をした俺を見て一瞬眉をひそめるが、直ぐにタバサに目を戻す。
そうして俺達は村に案内されて食事を御馳走になることになった。
……決してタバサの腹が鳴ったからとかではないよ?
食事が用意してありますと案内された場所は村長の家だった。
そこにはテーブルを埋め尽くすほどの料理の数々が並んでおり、タバサは既に料理しか見ていない。
「どうぞ騎士様! 村で最も料理が上手な者に作らせた品です。
心行くまでご堪能ください!」
「……ありがとう」
そう一言言ってタバサは物凄い勢いで料理を口に詰め込んでいく。
……ハムスター?
俺も仮面の下部分を外して、食事をし始めた。
「タバサはどれが好きなんだ?」
「もぐもぐもぐ……ン」
「ハシバミ草か、渋いチョイスだな」
「ヘイは好き?」
「あぁ、好きだ」
俺がそうタバサの方を見て返すと、タバサの頬が少しだけ赤くなった。
なんだ? 怒ったのか?
ハシバミ草取る気ないんだけどな。
そんな賑やかな食事を終えて、各自用意された部屋へと向かう。
「ふぅ……なんかタバサ一人で何とかなるんじゃないかこの案件」
「そうかもしれないのね」
「ッ!? いつの間に入ったんだ!?」
「窓からこっそり入ったのね、きゅいきゅい」
「……タバサにバレたら怒られるぞ?」
「大丈夫なのね、今お姉さまは部屋にいるのね!
ねぇレッド、折角ベットあるからここで寝てもいい?」
「はぁ? じゃあ俺何処で寝ればいいんだよ? 後ヘイって呼べ」
「一緒に寝ればいいのね、きゅいきゅい」
「いやいや! それは無理だろ!」
「私はレッドの匂い好きだからいいのね!」
「だからヘイだって! 後そういう問題じゃ……!?
シルフィ、話は後だ!
今タバサの部屋に翼人が入って行ったぞ!」
窓の外に翼人が見えて、そのまま翼人はタバサの部屋に入っていった。
俺は急いで仮面を付け、シルフィと即座に部屋を出てタバサの部屋のドアを勢いよく開けた。
「大丈夫かタバサ!」「お姉さま無事?!」
「「!?」」「レ……ヘイ、シルフィ?」
「男性の方は見たことありますが、その女性は?」
「彼女はもう一人の従者。
先ほど彼の部屋に到着した」
そこには戦闘の時にタバサを止めた青年と、翼人を止めた翼人がいた。
どう言う状況だ?
「何故タバサの部屋にこの二人が?」
「僕は翼人討伐を止めてもらおうと頼みに……」
「ヨシア……いいの。
このままここにいたらまた戦闘になってしまう。
私たちは精霊の力を戦闘に使いたくないのよ……」
「そんなこと言わないでくれ!
騎士様!どうか上司の方に話を付けてくださいませんか!?」
「それは……難しい」
「なんでですか!!話をする位いいじゃないですか!!」
「落ち着いてヨシア!」
「君は命令でしか動けない人形なのか!どうしても駄目だというなら、ここであんたたちを殺せばアイーシャと……」
「調子に乗るなよお前?」
俺もまだまだ精神が幼いな。
俺は気付くと、ヨシアのことを殴り飛ばしていた。
でもコイツあまりに自分勝手すぎるだろ……。
「お前はタバサが何故お前のめちゃくちゃな要望に文句を言わないのか、考えられねぇみたいだな」
「何を?!」
俺はゆっくりとヨシアに近づいていく。
俺が追撃を加えると思ったのか、アイーシャが俺とヨシアの前に割り込んだ。
「ヨシアが心ない言葉をタバサさんに言ったのは私が謝ります。
だからヨシアをこれ以上傷つけないでください」
「そうなのね! 落ち着くのねヘイ!」「……落ち着く」
「……分かってるよ。
別にもう一回殴ろうと思ったわけじゃないさ。
唯胸倉掴んで立ち上がらせようとしただけだ」
ヨシアはさっきの自分の発言がこの事態を起こしたことに後悔しているようだ。
「すいませんでした騎士様……」
「別にいい。」
「でもどうにか討伐は、中止できませんでしょうか?」
「ヨシア……」
「それは……」
「……この任務は村からの依頼だったはずだな?」
「そう」
「なら翼人が村に危害を加えないということが分かれば依頼を取り消せるだろう」
タバサは少し考えてから俺の顔をしっかりと見て、頷いた。
そんな俺達を見て、アイーシャとヨシアは抱き合って喜んだ。
それから俺達は村人と翼人の仲を取り持つ作戦を話し合った。