第90話 仲違い解消計画
翌朝俺は一人で森に居た。
正直取りたくない手段だったが、思いついた策の中でこれが一番成功率が高い。
「来い、ギドラ」
三本の首、三対の翼を持つ2メートル弱の青い竜。
600族の一匹サザンドラだ。
「今日呼び出した理由は頼みごとがあるんだ。
これから一時間後ぐらいにこの先にある村に飛んで来てくれないか?
そこで俺の仲間がお前のことを軽めに攻撃をする。
その攻撃を余裕といった感じで受けて、俺達の手前にりゅうのいかりを放ってくれ。
そうしたら多分翼の生えた人が攻撃してくると思う。
多分それほどダメージはないだろうけど、数発当たってから地面に落ちてくれ。
そうしたら俺が還す。
これが頼みごとなんだけど……引き受けてくれるか?
もし引き受けてもらえたら、夏休みに家に帰った時に何かしてほしいことがあったら叶えよう」
「グルルッ」
「そっか、ありがとうな」
これが昨日の夜に俺が考えた策。
俺が何か強大な魔獣を連れてくるから、それを翼人と協力して倒してハッピーエンドという作戦が昨日出た中で一番成功確率が高い作戦だ。
「それじゃあ時間まで穴の中に隠れてくれ」
俺はそう言って錬金でギドラの身体がすっぽり入るくらいの穴を作り出す。
ギドラは何も言わずにその穴に入ってくれた。
「ありがとうな、今度絶対お礼するから!」
「グルッ!」
ギドラは首の一本を手の様に振り、気にするなとジェスチャーして伝えてくれた。
本当に……ありがとうな。
村長宅に戻った俺はタバサ達に準備が出来たことを伝えた。
「あの……本当に大丈夫なんですか?」
「あぁ、大丈夫だ。
今は森の中で捕まえておいている」
「そうですか……」
ヨシアはやはり不安なのか、どうも落ち着かない。
アイーシャがヨシアの肩を支えている……いい伴侶だな。
「ところで何を連れてきたのね?」
「飛んで探し回ってたら、見たことない竜がいたから捕まえた」
「りゅ……竜ですか!?」
「あぁ、2メイル位の大きさだけどな(攻撃力、防御力共にヤバいけど)」
「そ、そんなの倒せるんでしょうか……」
今度はアイーシャが不安そうな顔になってしまった。
まぁフォローしておくか。
「大丈夫ですよ。
一応弱らせておいたから」
「それなら安心かも知れませんけど……」
少しは落ち着いたようだな。
それにしてもさっきからタバサが一言も話さないのが気になる。
「タバサ?」
「……」
「タバサ!!」
「ん?! 何?」
「どうしたんだ? 何か考え事か?」
「どうすれば自然に負けられるか考えてた」
「あぉ、そのことなら気にしなくても大丈夫。
竜の攻撃はあまり命中精度が良くなかったからな。
少し避けるだけで十分当たらない。
だからその余波で倒れれば問題ないだろう」
「そう……」
これで準備は完了した。
後はアイツが来てくれれば作戦は開始する。
「うわぁぁぁぁぁぁ竜が飛んできたぞーーーーーーーー!!!」
「始まったか、行くぞ!!」
「「はい」」「分かった」「分かったのね!」
「グルルルルル、ガァァァァァァ!!」
「村人の人達は何か遮蔽物を盾にしてください!」
「エア・ストーム!」
「あ、あれは昨日翼人たちを吹き飛ばした魔法!
あれなら幾ら竜だって……」
まぁアレ見かけだけで、昨日より全然威力弱いんだけどね。
竜巻はギドラに向かって進み、その身を竜巻が巻き込んだ。
しかしギドラが大きく翼を羽ばたかせると、竜巻はあっけなく解けてしまった。
「そ……そんな……」
「ガァァァァァァァ!!」
予定通り俺達目掛けて竜の怒りが飛んできた。
まぁブレスみたいなもんだけど……俺はタバサと竜状態のシルフィに目配せして、竜の怒りが地面に当たった瞬間に自分から後ろに転がった。
「グッ!」「きゅい!」「痛い」
「なんてこった……騎士様が負けちまった……もう御終いだ!!」
村人たちが絶望に染まりそうになった時、ヨシアが勢いよく声を張り上げた。
「みんなまだ諦めるにはまだ早い!!」
「でもどうするんだよ!!」
「たしかに僕たちの力じゃ竜を倒すことはできない。
でも翼人たちなら……」
「でもあいつらが俺達を助けてくれるわけなんて……」
「それは頼んでみないと分からないだろう!!
頼む翼人たち! 今までのことを水に流せとは言わない!
でも今は……今だけは力を貸してくれないだろうか!」
ヨシアがそう言うと、森の方から翼が羽ばたく音が聞こえてくる。
「このまま放っておくと森の危機になるかも知れんしな」
「ヨシア、助けを呼んできたわ!!」
「さぁ村人たちよ! 共に竜を倒そう!!」
村人たちも急展開についていけてないが、徐々に状況を理解し始め、弓などを持ってきた。
ここからはタイミングがシビアだな……。
「村人たちは弓で竜の気を引いてくれ!
私たちは魔法で攻撃する!」
「分かったぜ!」「任せときな!」
そこからは傍から見ると一方的なものだった。
弓は刺さらないが気を引くのに成功し、翼人たちの度重なる魔法で竜は地に伏せて、光となって消えてしまった。
まぁ実際は魔法は殆どダメージ通ってなかったんだけど……だって葉っぱカッターがLv100のサザンドラ相手に大したダメージを与えることはできないのは自明の理。
まさか消えるとは思ってなかった村人と翼人だったが、倒したことに変わりはないので次第に歓声が大きくなり始めた。
そんな翼人と村人合同の宴ムードの中、俺とタバサは小声で話していた。
「作戦は成功みたいだな……」
「良かった」
「それにしても、シルフィ普通に気絶してる様に見えるんだが……」
「竜の攻撃が地面に当たった時に石が飛んできて、頭に当たった」
「あぁ……それは不運だな」
「運がない」
俺達はシルフィの運の無さを嘆きながら、この件が無事に終わってよかったと安堵していた。
原作イベントはやっぱり短く終わらせにくいな。