その15 想いを受け継ぐ者達-StrikerS-3
転機はここから始まった。
「もうやめるんだ、ガリュー!」
レーヴェの捨て身の一撃の効果ははっきりと黒き人型召喚獣の身に現れていた。
その結果、紫の少女達に対して、キャロ達はほぼ無傷で戦えているほどに優勢であった。
(明らかに動きが鈍い……。それなのにこのまま無理をすれば……!)
最悪、死に至るケースもある。
「あなたの名前を……!」
キャロも必死で紫の少女に会話を呼びかけている。
と、そこに眼鏡をかけた女を映すディスプレイが現れる。格好から見るに……戦闘機人。
『あらら〜ん、ダメですよルーお嬢さま。ガリューさんも。戦いの最中、敵の言うことに耳なんか貸しちゃいけません。邪魔なものが出てきたらブッチ殺してまかり通る。それが私達の力の使い道』
「「………!」」
エリオとキャロはその言葉に顔を険しくする。そうやって「まかり通された」結果を知っているからだ。
……目の前で、見たからだ。
『ルーお嬢様にはこの後ぉ、市街地ライフラインの停止ですとか、防衛拠点のぶっつぶしですとか、いろいろお願いしたいお仕事もありますしぃ』
「クアットロ……。でも……」
「……そうやって、彼女達に六課隊舎を襲わせたのか? ヴィヴィオを、さらわせたのか?」
会話に割り込むエリオには、自分の声が酷く乾いて聞こえた。血だまりに沈んだ少年。彼は洗脳の可能性をデータの上で示唆していた。それがこの女によってなされたものだとしたら………。
『Fの残滓は一体何を言ってるんですかぁ? あなたと同じく、「アレ」はもともと私達のもの、奪い返すのが当たり前。邪魔してきた奴をぶち殺して何が悪いんですかぁ?』
「……そうか」
警戒のためにボロボロのガリューに向けていたストラーダを、クアットロと呼ばれた女が映るディスプレイに鋭く向け直して、エリオは冷えきった声で呟いた。自分の中に渦巻く激しい感情……純粋な怒りを押さえ込んで。
「なら、あなたは報いを受けることになる。……僕がそれを出来ないのは残念だけど、なのはさんが必ずそれを成し遂げる」
その言葉にクアットロは目元を歪めた。まるで体に虫けらが張り付いたのを目にしたかのように。
『……不愉快ですねぇ。ルーお嬢様ぁ、さっさとそいつら倒して回収しちゃってくださぁい。……迷ったりしないようにしてあげますからぁ』
最後の一言と同時に緑色のテンプレートが紫の少女の足下で怪しく輝きだす。
それと同時に少女は苦しみだした。
「やっぱり、洗脳……」
「予想通り、なのかな……」
悲しそうではあるが動揺はほとんど見せないエリオとキャロを見て、クアットロはますます不快になりながらも、これからの二人が苦しみながら戦うことを思い、唇を愉悦に歪ませる。
『目の前にいるのがお嬢様の敵で〜す。全力でぶち殺さないと、お母さんに会えませんよぉ?』
その言葉に紫の少女は身を震わせるが、エリオ達は怒りをさらに研ぎ澄まし、もはやクアットロを無視して、次々と召喚される召喚獣達を見据えるのみ。
「……こうなると、説得は無理だね」
「うん、取り敢えず無力化して、洗脳が解除されるのを待つしかない」
エリオの問いかけにキャロは頷く。
二人は、構えた。
「インゼクト…地雷王…ガリュー……。こいつら、……殺して………殺してぇっ!」
紫色の髪の召喚師の叫びとともに第二ラウンドが始まる。
負ける気は、しなかった。
「………っあっ!」
スカリエッティに洗脳されたギンガの右拳によるアッパーが脳を揺らす。
(やっぱりあたし、弱いままなのかな……)
ああ、そういえば。
この前にもこんな風に脳に衝撃を喰らったことがあったっけ……。
スバルは朦朧とする頭で思い出す。
『俺、もっと強くなります。だからまた今度試合をしましょう。今度は勝ちます』
ふと脳裏に浮かんだのは、少年の強い笑み。
(…………何してるんだ、あたしは!)
不意に、スバルの目が開く。
左の手を回転させて、こちらに突き込んでくるギンガの姿を視界に捉える。
(ウイングロード!)
右足の部分に発生させた、青く輝く道。そこにマッハキャリバーを走らせる。
そのまま連携へと、繋ぐ………!
『キャリバーショット、左回転!』
マッハキャリバーの声に押されるようにさらに回し蹴り。
『撃って!』
体勢を崩したギンガへと拳を突きこむ。
「っぉおおおおおお!」
吹き飛ばされたギンガは一瞬驚きの表情を見せ、即座に無表情で構える。
『練習通りです』
「……うん、そうだね。まだ、こんなに動けるんだ。あたしも、マッハキャリバーも」
拳を握りしめ、スバルは俯き、だがすぐに顔を上げた。
消えかけた目の輝きは嘘のように戻り、さっきよりも増しさえしていた。
『はい。私の生まれた理由、あなたの憧れた強さ、彼との約束。何一つ、諦めていないようで安心しました』
「ごめんね。心配かけた。………レーヴェと約束したんだ。『また試合する』って。あの子の蹴りの方が今のアッパーよりも凄かった」
『その通りですね、数値でもそれは明らかです』
だからまだ、戦える。悲しい今を撃ち抜くために………!
「いくよ、マッハキャリバー」
『はい、相棒』
……その言葉に、一瞬あるかなしかの笑みを浮かべ、拳を構える。
カートリッジを3発ロード。
映像で見たときのレーヴェのように、歌うように一言。
「フルドライブ」
『Ignition』
空色のベルカ式魔法陣が展開する。気合いを込める必要はない。もう既に体に満ちあふれているのだから。
「ギア・エクセリオン」
『A.C.S. Stand by』
花が咲くように、翼がマッハキャリバーに生える。
「いくよ、ギン姉………!」
彼のような「乾坤一擲」ではなく、「一撃必倒」への道を。
スバルは、駆け抜けた。
最後の一手。ティアナはそれを打つための準備をしながら自分の愛機……クロスミラージュに話しかける。
「ホントはさ………、ずいぶん前から、気づいてたんだ。……どんなに頑張っても、あたしはきっと、万能無敵の超一流になんて、きっとなれない。……悔しくて、情けなくて……認めたくなくてね……。それは今でもあんまり変わらないんだけど。…だけど」
だけど、そうなれそうな奴だって努力しなければ強くなることはないし、死ぬ気で努力したって敗北を味わうこともある。それを少女は目の当たりにした。
そして同時に、敗北寸前でも先を見据えることを教えられた。
(だからあたしも、自分の戦いを、成長を、諦めないって決めたんだ)
心の中で呟いた、その瞬間、天井の一部が爆発とともに崩壊した。
諦めの悪い凡人が、勝利を目指して意地を見せる。
転機はここから始まった。
「もうやめるんだ、ガリュー!」
レーヴェの捨て身の一撃の効果ははっきりと黒き人型召喚獣の身に現れていた。
その結果、紫の少女達に対して、キャロ達はほぼ無傷で戦えているほどに優勢であった。
(明らかに動きが鈍い……。それなのにこのまま無理をすれば……!)
最悪、死に至るケースもある。
「あなたの名前を……!」
キャロも必死で紫の少女に会話を呼びかけている。
と、そこに眼鏡をかけた女を映すディスプレイが現れる。格好から見るに……戦闘機人。
『あらら〜ん、ダメですよルーお嬢さま。ガリューさんも。戦いの最中、敵の言うことに耳なんか貸しちゃいけません。邪魔なものが出てきたらブッチ殺してまかり通る。それが私達の力の使い道』
「「………!」」
エリオとキャロはその言葉に顔を険しくする。そうやって「まかり通された」結果を知っているからだ。
……目の前で、見たからだ。
『ルーお嬢様にはこの後ぉ、市街地ライフラインの停止ですとか、防衛拠点のぶっつぶしですとか、いろいろお願いしたいお仕事もありますしぃ』
「クアットロ……。でも……」
「……そうやって、彼女達に六課隊舎を襲わせたのか? ヴィヴィオを、さらわせたのか?」
会話に割り込むエリオには、自分の声が酷く乾いて聞こえた。血だまりに沈んだ少年。彼は洗脳の可能性をデータの上で示唆していた。それがこの女によってなされたものだとしたら………。
『Fの残滓は一体何を言ってるんですかぁ? あなたと同じく、「アレ」はもともと私達のもの、奪い返すのが当たり前。邪魔してきた奴をぶち殺して何が悪いんですかぁ?』
「……そうか」
警戒のためにボロボロのガリューに向けていたストラーダを、クアットロと呼ばれた女が映るディスプレイに鋭く向け直して、エリオは冷えきった声で呟いた。自分の中に渦巻く激しい感情……純粋な怒りを押さえ込んで。
「なら、あなたは報いを受けることになる。……僕がそれを出来ないのは残念だけど、なのはさんが必ずそれを成し遂げる」
その言葉にクアットロは目元を歪めた。まるで体に虫けらが張り付いたのを目にしたかのように。
『……不愉快ですねぇ。ルーお嬢様ぁ、さっさとそいつら倒して回収しちゃってくださぁい。……迷ったりしないようにしてあげますからぁ』
最後の一言と同時に緑色のテンプレートが紫の少女の足下で怪しく輝きだす。
それと同時に少女は苦しみだした。
「やっぱり、洗脳……」
「予想通り、なのかな……」
悲しそうではあるが動揺はほとんど見せないエリオとキャロを見て、クアットロはますます不快になりながらも、これからの二人が苦しみながら戦うことを思い、唇を愉悦に歪ませる。
『目の前にいるのがお嬢様の敵で〜す。全力でぶち殺さないと、お母さんに会えませんよぉ?』
その言葉に紫の少女は身を震わせるが、エリオ達は怒りをさらに研ぎ澄まし、もはやクアットロを無視して、次々と召喚される召喚獣達を見据えるのみ。
「……こうなると、説得は無理だね」
「うん、取り敢えず無力化して、洗脳が解除されるのを待つしかない」
エリオの問いかけにキャロは頷く。
二人は、構えた。
「インゼクト…地雷王…ガリュー……。こいつら、……殺して………殺してぇっ!」
紫色の髪の召喚師の叫びとともに第二ラウンドが始まる。
負ける気は、しなかった。
「………っあっ!」
スカリエッティに洗脳されたギンガの右拳によるアッパーが脳を揺らす。
(やっぱりあたし、弱いままなのかな……)
ああ、そういえば。
この前にもこんな風に脳に衝撃を喰らったことがあったっけ……。
スバルは朦朧とする頭で思い出す。
『俺、もっと強くなります。だからまた今度試合をしましょう。今度は勝ちます』
ふと脳裏に浮かんだのは、少年の強い笑み。
(…………何してるんだ、あたしは!)
不意に、スバルの目が開く。
左の手を回転させて、こちらに突き込んでくるギンガの姿を視界に捉える。
(ウイングロード!)
右足の部分に発生させた、青く輝く道。そこにマッハキャリバーを走らせる。
そのまま連携へと、繋ぐ………!
『キャリバーショット、左回転!』
マッハキャリバーの声に押されるようにさらに回し蹴り。
『撃って!』
体勢を崩したギンガへと拳を突きこむ。
「っぉおおおおおお!」
吹き飛ばされたギンガは一瞬驚きの表情を見せ、即座に無表情で構える。
『練習通りです』
「……うん、そうだね。まだ、こんなに動けるんだ。あたしも、マッハキャリバーも」
拳を握りしめ、スバルは俯き、だがすぐに顔を上げた。
消えかけた目の輝きは嘘のように戻り、さっきよりも増しさえしていた。
『はい。私の生まれた理由、あなたの憧れた強さ、彼との約束。何一つ、諦めていないようで安心しました』
「ごめんね。心配かけた。………レーヴェと約束したんだ。『また試合する』って。あの子の蹴りの方が今のアッパーよりも凄かった」
『その通りですね、数値でもそれは明らかです』
だからまだ、戦える。悲しい今を撃ち抜くために………!
「いくよ、マッハキャリバー」
『はい、相棒』
……その言葉に、一瞬あるかなしかの笑みを浮かべ、拳を構える。
カートリッジを3発ロード。
映像で見たときのレーヴェのように、歌うように一言。
「フルドライブ」
『Ignition』
空色のベルカ式魔法陣が展開する。気合いを込める必要はない。もう既に体に満ちあふれているのだから。
「ギア・エクセリオン」
『A.C.S. Stand by』
花が咲くように、翼がマッハキャリバーに生える。
「いくよ、ギン姉………!」
彼のような「乾坤一擲」ではなく、「一撃必倒」への道を。
スバルは、駆け抜けた。
最後の一手。ティアナはそれを打つための準備をしながら自分の愛機……クロスミラージュに話しかける。
「ホントはさ………、ずいぶん前から、気づいてたんだ。……どんなに頑張っても、あたしはきっと、万能無敵の超一流になんて、きっとなれない。……悔しくて、情けなくて……認めたくなくてね……。それは今でもあんまり変わらないんだけど。…だけど」
だけど、そうなれそうな奴だって努力しなければ強くなることはないし、死ぬ気で努力したって敗北を味わうこともある。それを少女は目の当たりにした。
そして同時に、敗北寸前でも先を見据えることを教えられた。
(だからあたしも、自分の戦いを、成長を、諦めないって決めたんだ)
心の中で呟いた、その瞬間、天井の一部が爆発とともに崩壊した。
諦めの悪い凡人が、勝利を目指して意地を見せる。