その17 出番がようやく戻ってきたー!
「……なるほど。で、俺は皆が見舞いにきた日には空気を読んで目覚めることもできず、タイミングがもっとも悪い三日後という皆が事後報告等で忙しくなりそうな時期に目を覚ましてしまったと。もう少し前か後に起きろや砲撃かますぞコラ、と」
「そこまでは言ってないよ!?」
俺が何となく納得して頷いているとなのはさんに突っ込まれた。ヴィヴィオがガタガタ横で震え始めた。トラウマが再発したのだろう、多分。
「なのはママ、砲撃……撃つの?」
「撃たないよっ!? 撃たないからそんな目で見ないで、ヴィヴィオ!」
涙目でヴィヴィオに見上げられなのはさんがわたわたしだした。
なんとかヴィヴィオを落ち着かせたなのはさんが溜め息をつく。
「まったくもう。大人をあんまりからかうものじゃありません! ……まあともかく、無事で良かった。ご家族もそろそろいらっしゃるだろうし、私達はこれでお暇するね」
「はい」
「えっ………」
俺がなのはさんの言葉に頷いたのを見て、ヴィヴィオはまた不安そうな表情でこっちを見た。
「ったく、そんな顔すんなって。もう事件終わったし、俺は当分ココに缶詰で動けない。……暇だから時折遊びにきてくれよ」
「……うん」
「あ、でも帰りが遅くなってもまずいし、夕方は学校の知り合いが来て居辛くなるかもだから、朝来て昼帰る感じだといいな。それだったらいつでもいいぞ」
「うん!」
元気よく頷いたヴィヴィオを見て、俺はようやく安心した。どうやら、あまり心配する必要はないようだ。
なのはさんとヴィヴィオが帰った後、入れ替わるように家族が来た。
「レーヴェッ!」
一番最初に抱きついてきたのは姉のルイーゼだった。
「痛い、痛いよ姉さん」
「あ、ごめんね。……でも心配したんだから!」
後ろにいた兄貴……アーダルベルトも頷いている。
「守るために己の命をとして戦うのが騎士の家に生まれたものとしての責務と考えるのはわかるが、何もそんな歳でそこまで頑張ることはないだろう」
「まあ、目覚めたんだからいいじゃないですか」
「うむ、格上の相手に対して見事な戦いぶりと啖呵だったぞ」
やべえうちの両親超楽観的だ。ていうか何だ、こういうときは感動のアレとかで泣いたりしないのか。
「いやぁ、それだけ信頼しているのさ。ガキの頃から俺達よりも遥かに大人びていたし」
兄貴は遠い目をしながらうんうん頷いている。昔でも思い出しているのだろう。姉さんはにっこり笑って頷いた。
「だね、若くしてイタい病気にかかった兄さんを生暖かい目で見てたし」
「それ関係あるのか!?」
男なら誰でも通る道だしな。俺も前世じゃ……やめよう。気にしたら負けだ。
「まあ、怪我したと聞いた当時は実際私を含めて皆大泣きしましたけれど」
母さんの一言でみんな一気に沈黙した。
「や、それは……」
「だから心配するのは当たり前だし……」
兄と姉は顔を赤らめ、そっぽを向いてぼそぼそ言っている。
「あはは……ありがと」
俺は苦笑して礼を言った。
その後医者が来て軽い診察をしてから何枚か包帯を外してもらった。
その結果を聞いた後、学院は怪我の影響で休学扱いになっていることを教えてもらった後、暇つぶしのためのものを何個か頼むと、俺の家族は部屋から立ち去った。
「ふぅ、いい天気だなー」
『そうですね』
「こういうときは草むらでひなたぼっことかしたいよなー」
『そうなのですか?』
ああ、まあ感覚機能とかまではさすがに載せてないからなー。わかんないか。
「そういうもんさ。というわけで外に出たいんだが……」
『無理です。先ほど主がヴィヴィオ嬢におっしゃっていた通り当分は缶詰です』
「………ですよねー。車椅子とかもダメ?」
『診察してくださった先生に聞いてみればいいのでは? 私見では恐らく一週間ほどは許可されないと思われますが』
「……なら諦める。別に天気のいい日は今日だけじゃないし」
『はい』
「それにしても暇だ。なんかないかな……お」
そういえば、右腕はボロボロだけど左腕は軽傷だし、右も指は動かせるんだよな。
「よっこいしょっ………」
右腕をどうにか固定させた状態で動かして、ディスプレイとキーボードを展開。
「今回の実戦のデータ使ってロイのフレームの設定の見直しでも……」
と俺が目を爛々と輝かせて作業を始めようとしたところ………
「………何をやっているんですか」
ドアの方から呆れたような声が聞こえた。
振り返るとそこにはアインハルトが。
「よ、ひさしぶふぉおおおおお………」
挨拶と同時に右手を挙げようとして悶絶した。その間にアインハルトは何気なく椅子に座る。
「……ほぼ毎日こちらを訪ねていましたが」
「まあ、寝てる間のことは当然ながらわからんし。悪い、心配したか?」
「……………当たり前じゃないですか」
アインハルトの声は震えていた。唇は強く引き結ばれ、目にはたっぷりと涙を溜め、泣くのを必死でこらえようとしていた。
が、すぐに決壊した。
「あなたは私に取って初めての友人で、一番大事な存在です! なのに、なのに、……また、守ることが出来なかったら、私は………!」
「………えっと。すまん」
『取り敢えず謝る』。姉さんを怒らせた時に修得した対女性用奥義だ。が、あまり効果はなかったらしい。
「………病院でボロボロになったあなたを見てゾッとしました。目を覚まさないあなたを見ているのは凄く凄く辛かった!」
……最初の呆れた声はむしろびっくりしすぎて……ってことか。
少女の虹彩異色の目から涙が流れ落ち、きれいに揃えられた足の上に置かれた手の甲に水玉を作る。
「あまり心配させないでください………」
「ごめん。……ありがとうな。もう大丈夫だから」
うーん、頭を撫でてやりたい感じなんだが、ろくに腕を動かせないからなー。左腕の方も右側に座られてるせいで遠いし。体あんまり動かせないし。
泣き止んだ後恥ずかしがる少女にプリントとか宿題とかをいろいろ頼んだら、平日の夕方はここに来ると言っていた。
うん、そうだろうな。休日は鍛錬に集中したいだろうし、平日は学校があるから来るのは夕方だ。これでヴィヴィオと鉢合わせることはなさそうだ。よかったよかった。
今二人を会わせたら何がおきるか分からんからな。当面は様子見だ。
……にしても、どうやら入院生活はあまり退屈せずに済みそうだ。昼には家族や六課の部隊員が様子を見にくるようだし。
「……なるほど。で、俺は皆が見舞いにきた日には空気を読んで目覚めることもできず、タイミングがもっとも悪い三日後という皆が事後報告等で忙しくなりそうな時期に目を覚ましてしまったと。もう少し前か後に起きろや砲撃かますぞコラ、と」
「そこまでは言ってないよ!?」
俺が何となく納得して頷いているとなのはさんに突っ込まれた。ヴィヴィオがガタガタ横で震え始めた。トラウマが再発したのだろう、多分。
「なのはママ、砲撃……撃つの?」
「撃たないよっ!? 撃たないからそんな目で見ないで、ヴィヴィオ!」
涙目でヴィヴィオに見上げられなのはさんがわたわたしだした。
なんとかヴィヴィオを落ち着かせたなのはさんが溜め息をつく。
「まったくもう。大人をあんまりからかうものじゃありません! ……まあともかく、無事で良かった。ご家族もそろそろいらっしゃるだろうし、私達はこれでお暇するね」
「はい」
「えっ………」
俺がなのはさんの言葉に頷いたのを見て、ヴィヴィオはまた不安そうな表情でこっちを見た。
「ったく、そんな顔すんなって。もう事件終わったし、俺は当分ココに缶詰で動けない。……暇だから時折遊びにきてくれよ」
「……うん」
「あ、でも帰りが遅くなってもまずいし、夕方は学校の知り合いが来て居辛くなるかもだから、朝来て昼帰る感じだといいな。それだったらいつでもいいぞ」
「うん!」
元気よく頷いたヴィヴィオを見て、俺はようやく安心した。どうやら、あまり心配する必要はないようだ。
なのはさんとヴィヴィオが帰った後、入れ替わるように家族が来た。
「レーヴェッ!」
一番最初に抱きついてきたのは姉のルイーゼだった。
「痛い、痛いよ姉さん」
「あ、ごめんね。……でも心配したんだから!」
後ろにいた兄貴……アーダルベルトも頷いている。
「守るために己の命をとして戦うのが騎士の家に生まれたものとしての責務と考えるのはわかるが、何もそんな歳でそこまで頑張ることはないだろう」
「まあ、目覚めたんだからいいじゃないですか」
「うむ、格上の相手に対して見事な戦いぶりと啖呵だったぞ」
やべえうちの両親超楽観的だ。ていうか何だ、こういうときは感動のアレとかで泣いたりしないのか。
「いやぁ、それだけ信頼しているのさ。ガキの頃から俺達よりも遥かに大人びていたし」
兄貴は遠い目をしながらうんうん頷いている。昔でも思い出しているのだろう。姉さんはにっこり笑って頷いた。
「だね、若くしてイタい病気にかかった兄さんを生暖かい目で見てたし」
「それ関係あるのか!?」
男なら誰でも通る道だしな。俺も前世じゃ……やめよう。気にしたら負けだ。
「まあ、怪我したと聞いた当時は実際私を含めて皆大泣きしましたけれど」
母さんの一言でみんな一気に沈黙した。
「や、それは……」
「だから心配するのは当たり前だし……」
兄と姉は顔を赤らめ、そっぽを向いてぼそぼそ言っている。
「あはは……ありがと」
俺は苦笑して礼を言った。
その後医者が来て軽い診察をしてから何枚か包帯を外してもらった。
その結果を聞いた後、学院は怪我の影響で休学扱いになっていることを教えてもらった後、暇つぶしのためのものを何個か頼むと、俺の家族は部屋から立ち去った。
「ふぅ、いい天気だなー」
『そうですね』
「こういうときは草むらでひなたぼっことかしたいよなー」
『そうなのですか?』
ああ、まあ感覚機能とかまではさすがに載せてないからなー。わかんないか。
「そういうもんさ。というわけで外に出たいんだが……」
『無理です。先ほど主がヴィヴィオ嬢におっしゃっていた通り当分は缶詰です』
「………ですよねー。車椅子とかもダメ?」
『診察してくださった先生に聞いてみればいいのでは? 私見では恐らく一週間ほどは許可されないと思われますが』
「……なら諦める。別に天気のいい日は今日だけじゃないし」
『はい』
「それにしても暇だ。なんかないかな……お」
そういえば、右腕はボロボロだけど左腕は軽傷だし、右も指は動かせるんだよな。
「よっこいしょっ………」
右腕をどうにか固定させた状態で動かして、ディスプレイとキーボードを展開。
「今回の実戦のデータ使ってロイのフレームの設定の見直しでも……」
と俺が目を爛々と輝かせて作業を始めようとしたところ………
「………何をやっているんですか」
ドアの方から呆れたような声が聞こえた。
振り返るとそこにはアインハルトが。
「よ、ひさしぶふぉおおおおお………」
挨拶と同時に右手を挙げようとして悶絶した。その間にアインハルトは何気なく椅子に座る。
「……ほぼ毎日こちらを訪ねていましたが」
「まあ、寝てる間のことは当然ながらわからんし。悪い、心配したか?」
「……………当たり前じゃないですか」
アインハルトの声は震えていた。唇は強く引き結ばれ、目にはたっぷりと涙を溜め、泣くのを必死でこらえようとしていた。
が、すぐに決壊した。
「あなたは私に取って初めての友人で、一番大事な存在です! なのに、なのに、……また、守ることが出来なかったら、私は………!」
「………えっと。すまん」
『取り敢えず謝る』。姉さんを怒らせた時に修得した対女性用奥義だ。が、あまり効果はなかったらしい。
「………病院でボロボロになったあなたを見てゾッとしました。目を覚まさないあなたを見ているのは凄く凄く辛かった!」
……最初の呆れた声はむしろびっくりしすぎて……ってことか。
少女の虹彩異色の目から涙が流れ落ち、きれいに揃えられた足の上に置かれた手の甲に水玉を作る。
「あまり心配させないでください………」
「ごめん。……ありがとうな。もう大丈夫だから」
うーん、頭を撫でてやりたい感じなんだが、ろくに腕を動かせないからなー。左腕の方も右側に座られてるせいで遠いし。体あんまり動かせないし。
泣き止んだ後恥ずかしがる少女にプリントとか宿題とかをいろいろ頼んだら、平日の夕方はここに来ると言っていた。
うん、そうだろうな。休日は鍛錬に集中したいだろうし、平日は学校があるから来るのは夕方だ。これでヴィヴィオと鉢合わせることはなさそうだ。よかったよかった。
今二人を会わせたら何がおきるか分からんからな。当面は様子見だ。
……にしても、どうやら入院生活はあまり退屈せずに済みそうだ。昼には家族や六課の部隊員が様子を見にくるようだし。