その18 潜入!アルカトラズ島(嘘)
「………海上隔離施設?」
「「うん」」
俺のおうむ返しの問いにエリオとキャロは頷いた。
目を覚ましてから一ヶ月ほど経ったときのことである。
足の方は損傷が少なかったからすぐに歩けるようになり、今はリハビリの真っ最中だ。そろそろ退院も近いはずなんだけど、右腕はまだ治るのに数ヶ月時間がかかるそうだ。
……ちなみにだが、あのあと俺はさらにヴィータさんから説教を受け、映像と解説付きでとことんダメだしされた。当たり前なんだけど理不尽じゃなく筋が通ってるから反発心も覚えずに余計にへこんだ。
……まあ、「心意気は買う」とは言われたけど。というか問題点の解決策とかも一緒に考えてくれた。ヴィータさんのアフターケアまでバッチリなところはさすがプロの教官といったところである。
…ああ。そういえば。
出て行くときにすごく印象に残ることを言ってたっけ……。
というわけで回想スタート。
「そうだ、言い忘れていた」
ヴィータさんは扉に向かう途中で足を止めた。
「へ、何をですか?」
気の抜けた声を思わず上げてしまった俺の方にスターズの赤い副隊長は振り返った。
「お前、『一対一の戦いで騎士に負けはねえ』って言葉、知ってるか?」
「へ? ああ、まあ。近接、個人戦特化型のベルカの騎士は一対一の戦闘において汎用型の遠距離集団戦闘を得意とするミッド式と比べて優位にあるってことですよね」
「確かに単純な戦術論としてはそれであってる。でもな、この言葉にはもう一つの意味があるんだ」
「もう一つの、意味……?」
首をかしげる。原作とかではそんなこと一切入ってなかったような気がするな。
「負けは『ない』んじゃなくて『許されない』んだよ。お前があの時口にしたように、騎士っつーのはそもそもは『誰か』を守るために戦うやつだ。アタシの場合ははやて、この前のお前の場合はヴィヴィオっていう風に。魔導師にもこれは当てはまるが、あっちのほうが『みんなでみんなを守る』って感じは強いからな。どうしても弱くなっちまう」
「…ええ、そのとおりですね」
「騎士の武器が守るのは自分の命だけじゃねー。自分の背中の後ろにいる誰かも守らなきゃなんねー。お前も分かってるだろうけど、敗北すれば次に傷つくのはそいつだからな。だから一対一で勝つ。次の敵とも一対一で勝つ、そのまた次も…ってな。そうやって騎士一人ひとりが守りたい人のために敵を一人ずつ潰していけば全員倒せるだろ」
「……でも理想論、ですね」
集団で襲い掛かってきたときに一人ずつ相手をするというのは容易ではない。集団対集団になっても不可能なときはあるだろう。
「ああそうさ。だが『理想だから』なんて理由で守る相手の見切りなんてつけられねえだろ」
頷いた。そりゃそうだ。そんな見苦しい言い訳で見捨てるなんてできるはずがない。
「ゆえに騎士が戦いの場に臨むときはどんな相手だろうと、敵が何人いようと常に必勝の志をもつべし、ってな。確かに心意気は買う。けどな、騎士になるつもりがあろうとなかろうと、お前がぶっ倒れたら泣くやつが大量にいるんだから、玉砕覚悟ってのはそう簡単にするもんじゃねーよ。じゃあな」
ヴィータさんは扉のほうに向き直る。
俺はその背中に最後の問いを投げかけた。
「ひょっとして、今日はそれを言うことが目的で……?」
「……さあな」
一瞬足を止めたがそのまま歩み去ってしまった。
小さいはずの背中が、妙に大きく見えた。
とまあ、こんなことがあってヴィータさんに対する尊敬度がさらに急上昇した。
で、話は現在に戻る。
いつものように見舞いにきたエリオとキャロは「海上隔離施設に行ってみないか?」と提案してきたのだ。
「ナンバーズ……あの事件に関わった戦闘機人の中で更正プログラムを受けている人達とかがいるんだ」
「はぁ、なるほど。で、なぜ俺が行った方がいいんだ?」
エリオの説明に問いを返すと二人が少し複雑な表情になったのであわてて付け加える。
「ああ、別にその人達のことが嫌い云々とかじゃない。よく知らんし。別に行ってもいいけど、俺は何のために行きゃいいんだ? 事情をほとんど何も知らないから、はっきり言ってすることがない気がする。会って何話せばいいのかよく分からない」
「うーん、別にそんなに気にすることないと思うけど。単純にいろいろと世間話なり何なりすればいいだけの話だと思うよ? ………強いて言うなら」
安心した様子のエリオだったのだが、説明の途中で口を濁した。
「言うなら?」
俺の問い返しにキャロが答えた。
「ルーちゃんが気にしてるの」
「『ルーちゃん』って言うと……?」
「その、レーヴェ君が戦って大けがした召喚士の娘。ルーテシア・アルピーノっていう名前なんだけどね? その子も同じ施設にいて、レーヴェ君に大けがさせちゃったことをかなり気にしてるみたいなの……。……その、やっぱり恨んでる?」
上目遣いで問うキャロに俺は手をひらひら振ってみせる。
「いや、洗脳されてたんだししょうがないんじゃないの? さすがに殺されてたら七代祟る位はしたかもだけど、五体満足で俺生きてるし」
エリオとキャロは『七代祟る』という辺りで若干ビクビクしてたが、どうにか落ち着いたらしい。
「だったらそれをルーテシアに直接伝えてあげてくれないかな? 『気にしすぎなくていい』って」
「………ん、わかった」
まあ別に断る理由もないし、俺は頷いた。
で、数日後。
三角巾で首から右腕を吊ったまま、退院したその足で、エリオやキャロと一緒に海上隔離施設へ。
無愛想な守衛さんの脇を通り過ぎ、よく分からん確認を受けた後、中に入っていく。
当然だがこういう場所に来るのは初めてである。なので、警備が厳重なのか……と言ってもよく分からない。
少なくとも看守の姿はあまり見えないな。
「……ここだよ」
キャロが一つの扉を示す。
音を立てて扉が横に開く。その先には、
ひい、ふう、みい………9人ほどの少女がいた。なんか一人極端に小さいのもいるが。ボーイッシュなのもいるが。その中に、
(…………おっ)
俺の顔を見るなり一人顔を真っ青にした子がいた。ルーテシアだ。
「おっ、エリキャロコンビ、今日はなんか新しい奴連れてきたんスかー?」
赤毛のすげえ明るい人が興味津々な感じでこっち見てきた。
「うん、そうなんだ」
エリオが頷いて目配せしてくるので俺は頷いて自己紹介を始めた。
「レオンハルト・ブランデンブルク。こいつらの友達。趣味はデバイス開発とか戦技の鍛錬とか。レーヴェとかレオンって呼ばれることが多いかな。よろしく」
「うむ、こちらこそ」
長い銀髪で右目に眼帯をかけた、少女が頷き、
「チンクと言う。ここの皆の中で一番の年長者……になるんだろうな」
肩を落としてみせた。どうも身長が低いのを気にしてるっぽい。
取り敢えず励ましてみた。
「大丈夫大丈夫、ほらよく言うじゃん『貧乳はステータスだ! 希少価値だ!』って」
「外の世界にはそんな言葉があるのか!?」
目を剥いて驚愕していた。身長には直接の関係はないのだが突っ込むところはそっちなのか。
「あの、それ私も初耳なんだけど……」
キャロがおずおずと言っているが全力でスルー。
「むう、じゃあアタシらはあんまめずらしくないんスねー」
「こらウェンディ! 揉むなら自分の胸揉みやがれバカ!」
なんか短い赤毛の人が顔を真っ赤にして、ウェンディと呼ばれた施設に入って一番最初に声をかけてきた人が胸を揉んでくるのに抵抗していた。
「こらこらお前達、客人の前だぞ。静かにしないか」
「はーいっス!」
チンクの声にウェンディは頷いて手を離した。揉まれてたほうもしぶしぶ頷いた。
「じゃあ自己紹介っスね。ウェンディっス。よろしくっス!」
「………ノーヴェだ」
なんかずいぶんと自己紹介少ないな! なんかもっとないのか?
……と言おうとして直前で言うのをやめた。
話を聞くに、彼女達は外の世界のことを知らないらしいのだ。
そういう紹介できるような『何か』はこれから得ていくんだろう。
「……うん、よろしくな」
と興味深そうにこっちを見ていた茶色い髪の双子?が名乗ってきた。
「……オットー」
「……ディード」
「「………よろしくお願いします」」
「うん、よろしくー」
頷いていると、
「うん、いい人みたいだね。私はディエチ。よろしく」
後ろから栗毛の女性が名乗ってきた。
「おーおー皆、珍しく積極的だねー。アタシはセイン。よろしく………ってあれ? ルーお嬢様、どしたんですか?」
水色の髪のセインはニカッと笑って挨拶したあと、隣にいるルーテシアの様子がおかしいことに気づいた。
「………めんなさい」
「どうしたんだよルールー、急に謝ったりして」
横にいるリインさんみたいな小ちゃい赤いのが不思議そうな顔をした。
「大けがさせてごめんなさい…………!」
『…………………!』
その一言に皆の空気が変わった。なんだろう、怯えているのか、それとも警戒しているのか…………。
なるほど、六課の人間以外の被害者に会うのは初めてな訳だ。
まあいいや。これは俺がどうこうできる問題じゃないし。
「洗脳されてたんだろ、しょうがないんじゃないか? ほれ、この通り元気だし」
「でも、その右腕………」
「ん、ああ。 数ヶ月後に完治するんだって。………つーかそれを言うならガリューは大丈夫なのか? 俺の攻撃の上にエリオの一撃だろ? ………いや俺の攻撃が全く効いてなかったらそれはそれでへこむけど」
「大けがだったけど、安静にしてれば一年くらいで治るって聞いた。………一番のダメージはあなたの攻撃だったみたい」
「そりゃあ………」
話を振っておいてなんだが、いいのか悪いのか微妙なところである。…………よし、スルーで!
「まあアレだ、あんまり気にすんな。もう二度とあんなことするつもりはないんだろ? だったら別にいいさ」
「…………うん」
ルーテシアはこくりと頷いた。………うん、これにて一件落着………かな?
「あー、あの時ガリューが大怪我したのお前の攻撃だったのか。炎熱の攻撃だったからてっきりシグナムかと」
赤いのがうんうん頷いている。
「まあね。シグナムさんから聞いてるよ、烈火の剣精さん?」
俺の言葉に赤いユニゾンデバイスは胸を張った。
「おう、アギトって言うんだ! よろしくな!」
「うん、よろしく。……それで、君の名前は?」
挨拶してから、瞳を揺らす少女のほうへと向き直る。
「……ルーテシア。ルーテシア・アルピーノ」
「よろしく、ルーテシア」
「……うん」
微笑みながら手を差し出すと、おずおずと握り返された。
……そんな風にして海上隔離施設の皆との交流は始まった。
……後々、俺はルーテシアのデバイスマイスターとしての師匠になり、彼女が本来の性格を取り戻す一助となったと、ルーテシアのお母さん……メガーヌ・アルピーノに感謝されることになるのだが、それはまた別の話である。
「………海上隔離施設?」
「「うん」」
俺のおうむ返しの問いにエリオとキャロは頷いた。
目を覚ましてから一ヶ月ほど経ったときのことである。
足の方は損傷が少なかったからすぐに歩けるようになり、今はリハビリの真っ最中だ。そろそろ退院も近いはずなんだけど、右腕はまだ治るのに数ヶ月時間がかかるそうだ。
……ちなみにだが、あのあと俺はさらにヴィータさんから説教を受け、映像と解説付きでとことんダメだしされた。当たり前なんだけど理不尽じゃなく筋が通ってるから反発心も覚えずに余計にへこんだ。
……まあ、「心意気は買う」とは言われたけど。というか問題点の解決策とかも一緒に考えてくれた。ヴィータさんのアフターケアまでバッチリなところはさすがプロの教官といったところである。
…ああ。そういえば。
出て行くときにすごく印象に残ることを言ってたっけ……。
というわけで回想スタート。
「そうだ、言い忘れていた」
ヴィータさんは扉に向かう途中で足を止めた。
「へ、何をですか?」
気の抜けた声を思わず上げてしまった俺の方にスターズの赤い副隊長は振り返った。
「お前、『一対一の戦いで騎士に負けはねえ』って言葉、知ってるか?」
「へ? ああ、まあ。近接、個人戦特化型のベルカの騎士は一対一の戦闘において汎用型の遠距離集団戦闘を得意とするミッド式と比べて優位にあるってことですよね」
「確かに単純な戦術論としてはそれであってる。でもな、この言葉にはもう一つの意味があるんだ」
「もう一つの、意味……?」
首をかしげる。原作とかではそんなこと一切入ってなかったような気がするな。
「負けは『ない』んじゃなくて『許されない』んだよ。お前があの時口にしたように、騎士っつーのはそもそもは『誰か』を守るために戦うやつだ。アタシの場合ははやて、この前のお前の場合はヴィヴィオっていう風に。魔導師にもこれは当てはまるが、あっちのほうが『みんなでみんなを守る』って感じは強いからな。どうしても弱くなっちまう」
「…ええ、そのとおりですね」
「騎士の武器が守るのは自分の命だけじゃねー。自分の背中の後ろにいる誰かも守らなきゃなんねー。お前も分かってるだろうけど、敗北すれば次に傷つくのはそいつだからな。だから一対一で勝つ。次の敵とも一対一で勝つ、そのまた次も…ってな。そうやって騎士一人ひとりが守りたい人のために敵を一人ずつ潰していけば全員倒せるだろ」
「……でも理想論、ですね」
集団で襲い掛かってきたときに一人ずつ相手をするというのは容易ではない。集団対集団になっても不可能なときはあるだろう。
「ああそうさ。だが『理想だから』なんて理由で守る相手の見切りなんてつけられねえだろ」
頷いた。そりゃそうだ。そんな見苦しい言い訳で見捨てるなんてできるはずがない。
「ゆえに騎士が戦いの場に臨むときはどんな相手だろうと、敵が何人いようと常に必勝の志をもつべし、ってな。確かに心意気は買う。けどな、騎士になるつもりがあろうとなかろうと、お前がぶっ倒れたら泣くやつが大量にいるんだから、玉砕覚悟ってのはそう簡単にするもんじゃねーよ。じゃあな」
ヴィータさんは扉のほうに向き直る。
俺はその背中に最後の問いを投げかけた。
「ひょっとして、今日はそれを言うことが目的で……?」
「……さあな」
一瞬足を止めたがそのまま歩み去ってしまった。
小さいはずの背中が、妙に大きく見えた。
とまあ、こんなことがあってヴィータさんに対する尊敬度がさらに急上昇した。
で、話は現在に戻る。
いつものように見舞いにきたエリオとキャロは「海上隔離施設に行ってみないか?」と提案してきたのだ。
「ナンバーズ……あの事件に関わった戦闘機人の中で更正プログラムを受けている人達とかがいるんだ」
「はぁ、なるほど。で、なぜ俺が行った方がいいんだ?」
エリオの説明に問いを返すと二人が少し複雑な表情になったのであわてて付け加える。
「ああ、別にその人達のことが嫌い云々とかじゃない。よく知らんし。別に行ってもいいけど、俺は何のために行きゃいいんだ? 事情をほとんど何も知らないから、はっきり言ってすることがない気がする。会って何話せばいいのかよく分からない」
「うーん、別にそんなに気にすることないと思うけど。単純にいろいろと世間話なり何なりすればいいだけの話だと思うよ? ………強いて言うなら」
安心した様子のエリオだったのだが、説明の途中で口を濁した。
「言うなら?」
俺の問い返しにキャロが答えた。
「ルーちゃんが気にしてるの」
「『ルーちゃん』って言うと……?」
「その、レーヴェ君が戦って大けがした召喚士の娘。ルーテシア・アルピーノっていう名前なんだけどね? その子も同じ施設にいて、レーヴェ君に大けがさせちゃったことをかなり気にしてるみたいなの……。……その、やっぱり恨んでる?」
上目遣いで問うキャロに俺は手をひらひら振ってみせる。
「いや、洗脳されてたんだししょうがないんじゃないの? さすがに殺されてたら七代祟る位はしたかもだけど、五体満足で俺生きてるし」
エリオとキャロは『七代祟る』という辺りで若干ビクビクしてたが、どうにか落ち着いたらしい。
「だったらそれをルーテシアに直接伝えてあげてくれないかな? 『気にしすぎなくていい』って」
「………ん、わかった」
まあ別に断る理由もないし、俺は頷いた。
で、数日後。
三角巾で首から右腕を吊ったまま、退院したその足で、エリオやキャロと一緒に海上隔離施設へ。
無愛想な守衛さんの脇を通り過ぎ、よく分からん確認を受けた後、中に入っていく。
当然だがこういう場所に来るのは初めてである。なので、警備が厳重なのか……と言ってもよく分からない。
少なくとも看守の姿はあまり見えないな。
「……ここだよ」
キャロが一つの扉を示す。
音を立てて扉が横に開く。その先には、
ひい、ふう、みい………9人ほどの少女がいた。なんか一人極端に小さいのもいるが。ボーイッシュなのもいるが。その中に、
(…………おっ)
俺の顔を見るなり一人顔を真っ青にした子がいた。ルーテシアだ。
「おっ、エリキャロコンビ、今日はなんか新しい奴連れてきたんスかー?」
赤毛のすげえ明るい人が興味津々な感じでこっち見てきた。
「うん、そうなんだ」
エリオが頷いて目配せしてくるので俺は頷いて自己紹介を始めた。
「レオンハルト・ブランデンブルク。こいつらの友達。趣味はデバイス開発とか戦技の鍛錬とか。レーヴェとかレオンって呼ばれることが多いかな。よろしく」
「うむ、こちらこそ」
長い銀髪で右目に眼帯をかけた、少女が頷き、
「チンクと言う。ここの皆の中で一番の年長者……になるんだろうな」
肩を落としてみせた。どうも身長が低いのを気にしてるっぽい。
取り敢えず励ましてみた。
「大丈夫大丈夫、ほらよく言うじゃん『貧乳はステータスだ! 希少価値だ!』って」
「外の世界にはそんな言葉があるのか!?」
目を剥いて驚愕していた。身長には直接の関係はないのだが突っ込むところはそっちなのか。
「あの、それ私も初耳なんだけど……」
キャロがおずおずと言っているが全力でスルー。
「むう、じゃあアタシらはあんまめずらしくないんスねー」
「こらウェンディ! 揉むなら自分の胸揉みやがれバカ!」
なんか短い赤毛の人が顔を真っ赤にして、ウェンディと呼ばれた施設に入って一番最初に声をかけてきた人が胸を揉んでくるのに抵抗していた。
「こらこらお前達、客人の前だぞ。静かにしないか」
「はーいっス!」
チンクの声にウェンディは頷いて手を離した。揉まれてたほうもしぶしぶ頷いた。
「じゃあ自己紹介っスね。ウェンディっス。よろしくっス!」
「………ノーヴェだ」
なんかずいぶんと自己紹介少ないな! なんかもっとないのか?
……と言おうとして直前で言うのをやめた。
話を聞くに、彼女達は外の世界のことを知らないらしいのだ。
そういう紹介できるような『何か』はこれから得ていくんだろう。
「……うん、よろしくな」
と興味深そうにこっちを見ていた茶色い髪の双子?が名乗ってきた。
「……オットー」
「……ディード」
「「………よろしくお願いします」」
「うん、よろしくー」
頷いていると、
「うん、いい人みたいだね。私はディエチ。よろしく」
後ろから栗毛の女性が名乗ってきた。
「おーおー皆、珍しく積極的だねー。アタシはセイン。よろしく………ってあれ? ルーお嬢様、どしたんですか?」
水色の髪のセインはニカッと笑って挨拶したあと、隣にいるルーテシアの様子がおかしいことに気づいた。
「………めんなさい」
「どうしたんだよルールー、急に謝ったりして」
横にいるリインさんみたいな小ちゃい赤いのが不思議そうな顔をした。
「大けがさせてごめんなさい…………!」
『…………………!』
その一言に皆の空気が変わった。なんだろう、怯えているのか、それとも警戒しているのか…………。
なるほど、六課の人間以外の被害者に会うのは初めてな訳だ。
まあいいや。これは俺がどうこうできる問題じゃないし。
「洗脳されてたんだろ、しょうがないんじゃないか? ほれ、この通り元気だし」
「でも、その右腕………」
「ん、ああ。 数ヶ月後に完治するんだって。………つーかそれを言うならガリューは大丈夫なのか? 俺の攻撃の上にエリオの一撃だろ? ………いや俺の攻撃が全く効いてなかったらそれはそれでへこむけど」
「大けがだったけど、安静にしてれば一年くらいで治るって聞いた。………一番のダメージはあなたの攻撃だったみたい」
「そりゃあ………」
話を振っておいてなんだが、いいのか悪いのか微妙なところである。…………よし、スルーで!
「まあアレだ、あんまり気にすんな。もう二度とあんなことするつもりはないんだろ? だったら別にいいさ」
「…………うん」
ルーテシアはこくりと頷いた。………うん、これにて一件落着………かな?
「あー、あの時ガリューが大怪我したのお前の攻撃だったのか。炎熱の攻撃だったからてっきりシグナムかと」
赤いのがうんうん頷いている。
「まあね。シグナムさんから聞いてるよ、烈火の剣精さん?」
俺の言葉に赤いユニゾンデバイスは胸を張った。
「おう、アギトって言うんだ! よろしくな!」
「うん、よろしく。……それで、君の名前は?」
挨拶してから、瞳を揺らす少女のほうへと向き直る。
「……ルーテシア。ルーテシア・アルピーノ」
「よろしく、ルーテシア」
「……うん」
微笑みながら手を差し出すと、おずおずと握り返された。
……そんな風にして海上隔離施設の皆との交流は始まった。
……後々、俺はルーテシアのデバイスマイスターとしての師匠になり、彼女が本来の性格を取り戻す一助となったと、ルーテシアのお母さん……メガーヌ・アルピーノに感謝されることになるのだが、それはまた別の話である。