その27 激戦、喫茶翠屋
金属と金属がぶつかり合う高い音が森の中に響き渡る。
軽い感じで師匠が次々と二刀を振るのに対し、俺は必死に左手に持った銃でそれらの攻撃を叩き落し、右手の剣でどうにか攻撃を加える。全て受け止められてしまうもののこれでもまだいい方だ。最初はうまく両手の役割分担が出来なかったからすぐにぶっ叩かれてたし。
それと、右手に銃左手に剣という場合も練習している。「どういう状況でも対応できるように」だとさ。
「よし、やめ。……『葦の矢』に加えて『一刀一扇』もうまく扱えるようになったな。これで基本の構え三つのうち二つをとりあえずマスターしたわけだ」
「……自分じゃそこまでの実感ないんですが」
「まあ形にすりゃあとは洗練させてくだけだ。ゆっくりやっていけばいいさ」
分かりやすく俺が師、テオドール・アキュラから学んでる流派について語ってみよう。
まずこの流派にもともと名前はない。個人的には「
この流派には二つの極意がある。すなわち「流水」と「総受一攻」だ。
「流水」っていうのは相手の攻撃を見切り、もっとも弱い部分を突くことで相手の攻撃を意のままに操り、こちら側の攻撃を次々と叩き込むという超攻撃型の極意。
「総受一攻」っていうのは文字通り総ての攻撃を受け止めきり、相手に大きな隙が出来たときに一撃叩き込めばいいっていう超防御型の極意である。
……なんか思いっきり矛盾してるが師匠曰く「状況次第だろ」だそうだ。
で、それらの極意の下に三つの構えがある。なぜか二つでもなく四つでもなく三つ。
一つ目が「葦の矢」。半身になって足を前後におき、回避しつつも前に進んでいき相手に攻撃を叩き込む「流水」を体現している。
二つ目が「一刀一扇」。通常の状態から片足だけ一歩踏み出す。相手の攻撃を片方の武器で防御しつつ、片方の武器で攻撃する。防げそうになかったら回避という、都合よく両方の極意をいいとこ取りした構えである。
三つ目が「無方」。足を左右にやや開き、どのような所から来る攻撃も受け止める「総受一攻」を体現している。
二つ目辺りに突っ込みどころが満載だがそこはスルーしろとのことである。
そこから技がある。防ぐのに名前とかはそんなにいらないので要するに名前があるのは攻撃だけだ。どのような構えでも攻撃はあるので基本的に技は共通している。どの構えが向いているというのはあるが。
技は少しづつ教えてもらっている。片方が銃のときでも打撃は出来るのだ。
それで今師匠が言った通り、今二つ目の構えをある程度まともに扱えるようになった。
「でも、『無方』とか向いてなさそうなんだよなあ。ずっと防御して隙を狙うっていうのが」
「相手の動きを見るときとかに一番必要な構えだぞ? それに戦いには忍耐力もなきゃな。総てが短期決戦で片付く訳じゃないんだから。ってことで『無方』教えるから」
「はぁーい……」
しぶしぶ頷く。
……教えられた後は即座に実践となり、師匠の攻撃を防ぎきれずにボコボコにされぼろ雑巾みたいになるのだがそれはまあ語ってもあまり面白味のない話である。
……新暦76年も終わりが近づいていた。
俺はあの後師匠に「しばらく自分でやってみろ」といわれ、いろんな人の攻撃を受ける練習を続けていた。
学院が冬休みに入ってから、ヴィヴィオの攻撃を双剣(魔力刃が出ているもののブレードの機能をオフにしている)で受け続けた後のことである。
「……本気ですか?」
「もちろん!」
笑顔で答えるなのはさんに俺は困惑していた。
「いやでも親子二人の時間を……」
「わたしもレーヴェに来てほしいな、
一瞬で遠慮を封殺された。
年末に時間があるなら実家に来てみないかというのがなのはさんの提案だった。
幸か不幸か、その時期はちょうど暇である。
「おじいちゃんの家のお菓子おいしーよ!」
「それにね、うち、小太刀二刀流の道場もやっているんだ。お姉ちゃんがその技継いでるから、手合わせしたらいろいろ参考になるかもよ?」
ヴィヴィオの言葉をおいといても、なのはさんの言葉はかなり魅力的だった。
実は『無方』、コツが掴みきれなくて苦労していたのだ。『一刀一扇』や『葦の矢』は比較的すぐつかめたのだが。
俺の前世では戦闘民族とも呼ばれていたらしい、高町家の力を借りればうまくいくかもしれない。
「お願いします!」
そんなわけで、年末は第97管理外世界「地球」で過ごす事になった。
転送用のポートで待ち合わせて、すぐに地球に転移するためのゲートに向かった。
着いてすぐ、実家がやっているという喫茶「翠屋」に向かったのだが。
そこは戦場かあるいは阿鼻叫喚の地獄絵図だった。ある意味で。
「ケーキ1ホール、サイズはMですね!」
「お待たせいたしました!ありがとうございました、またのご利用をお待ちしております!」
三人の若い、なのはさんに似た人達が……修羅になっていた。
「そっか……今日クリスマスだよね」
「クリスマス?」
ヴィヴィオが首を傾げたのに対しなのはさんは優しく答える。
「うん、お祝いの日だよ」
「ふーん……」
「まあ分かりやすく言えばいつもよりケーキが大量に売れる日で、家族みんなでケーキを食べる日だろう。多分。俺はそう理解した」
前世の記憶で知っていますなんて口が裂けてもいえない俺はヴィヴィオに超適当に言う。
「なるほどー」
「間違ってはいないけど……」
ばっさりとした俺の説明にうなずくヴィヴィオになのはさんは苦笑した。
と、そこで店員の若い男性がなのはさんに気がついたようだった。
「お、なのは、お帰り」
「ただいま、お父さん」
…………マジかよ。なのはさんの年齢から計算しておそらく40は超えていると推測できるのだが、どう見ても20代後半くらいにしか見えない。
というかなんとなくで分かるけどこの人無茶苦茶強い。おそらく師匠と同等じゃないか。
……まあそれは後で考えればいいか。
「すまんな、今ようやく昼のピークが終わったところなんだ」
「あ、じゃあ手伝うよ」
「ありがたいが、ヴィヴィオちゃんたちもいるだろう?」
なのはさんの申し出になのはさんのお父さんは首を振る。
なので俺も提案することにした。
「あ、よければ俺も手伝いますよ。さっき見てたし、やり方多少教えてくれればいろいろ手伝えると思います」
というか実はこれは好機だったりする。師匠から状況に溶け込む演技も学んでいるのだ。もちろん髪や目の色で若干浮くだろうが、それを考えても自分の演技力を試すチャンスだろう。
「しかし、君も……」
「年齢のことならお気になさらず。誤魔化す方法もありますし」
「あー……」
俺の言葉になのはさんは納得の顔。
「大丈夫だよ、お父さん。レーヴェ君飲み込み早いから即戦力になると思う」
「うーん……じゃあ、お願いしようか」
「わたしも手伝う!」
苦笑するなのはさんのお父さんにヴィヴィオもきらきらした目で迫っていた。
自己紹介をした後に仕事の内容を教えてもらい、大人モードに変身。
そして……。
「いらっしゃいませ」
「あら、見ない顔ね」
おや、常連さんか。金髪碧眼の女性に対して笑顔で丁寧に答える。
「助っ人です。この忙しさですから……」
ひょこっと横から紫がかった黒髪の女性が顔を出す。
「なるほどー。外国人さん?」
「ええ、イギリスから来ました。もともと日本のアニメとかが大好きでそれが高じてこっちに」
……よし、そつなく答えることが出来た。笑顔も引きつってない、大丈夫。
「ふーん………」
と、そこになのはさんが出てきて素っ頓狂な声を上げた。
「あ、すずかちゃん、アリサちゃん!」
「「なのは(ちゃん)!」」
あー、この二人がなのはさんの幼馴染か。たしかになんとなくアニメで見た一期の時の面影がある。
「手伝いに来たと思ったら知らない助っ人がいるからびっくりしちゃったわよ」
「レーヴェ君はね……」
とりあえず会話が弾んでいるようなのですばやくフェードアウト。
次の女性のお客様を出迎える。もちろん笑顔で。
「いらっしゃいませ、ケーキのお買い上げですか?」
「え、ええ」
「でしたらこちらにお並び下さい。申し訳ありませんが少々お待たせしてしまうことになるかもしれません」
「大丈夫よ、ありがとう」
「そうですか?では、失礼します」
その後すずかさんやアリサさんも手伝いに入り、比較的楽に夕方のピークは終わりを告げた。
俺がせわしなく働く様子を時折なのはさんのお父さんが鋭い視線で見ているのに俺は最後まで気づかなかった。
Side 高町なのは
クリスマスのケーキ販売が終わり翠屋で内輪でクリスマスパーティーをした。
エイミィさんやアルフさんたちも来ている。
ヴィヴィオとレーヴェ君の二人も楽しそうに混ざっている。まあレーヴェ君のほうは小さな子達の面倒を見てるって感じだけど。
「なのは」
そんな様子を眺めていた時、後ろから声がしたので振り向く。
「あ、お父さん。どうしたの?」
「いや、レーヴェ君のことだが……」
実は以前の件、お父さんにも相談していたりする。
「……どう? やっぱりまだ引きずっているのかな……」
「いや、だが癒えたという訳ではなくて押さえているというのが近いだろうな。それと、そういうのじゃないと思うんだが……。なのははレーヴェ君の仕事、見ていたか?」
口を濁したお父さんを不思議に思いつつも私はあっさりと答える。
「え、うん。よく働いてくれたし初めてにしてはミスがほとんどなかったような気がするけど……?」
「ああ、確かにな。だがお父さんが気になったのは……顔だ」
「……顔? 笑顔だったような気がするけど……」
「うん、笑顔だった。完璧な
若干声が低くなったような気がするのは気のせいだろうか。
「それはしょうがないよ、初めてなんだから自然には…」
「そうじゃなくて、ほとんど自然に見えるくらい完璧だったのさ。ああいう演技が即座に自然と出来るのは鍛えた役者か………暗殺者くらいだ」
その言葉にはさすがにむっとする。レーヴェ君とは結構長い付き合いだから。
「それはないよ。あの子普通の生まれだし、ヴィヴィオのために命を懸けるようないい子なんだよ?」
「ああ、うん。だから多分気のせいだと思うんだが……」
お父さんは私をなだめるように言って苦笑した。
……お父さんのその考えがある意味完全に的中しているのを知って、私は後で驚愕することになる。
Side end