その28 VS.戦闘民族の長女
クリスマスパーティーの次の日。
早朝に俺は一人で外に出ていた。
いつもと同じく格闘の練習をする。
「……レーヴェ」
後ろから声が聞こえた。振り返りもせずに答える。
「ごめん、起こしちゃったか? ヴィヴィオ」
「ううん、大丈夫。そうじゃなくて、ちょっと体温めてから手合わせって言うか、私と試合してくれない? スバルさんから基礎はだいぶまともになってきたって言われたし」
「…………………」
試合か。まさかこれほど早く言ってくるとは思ってなかったけど。
「いいよ。わかった」
「えへへ……お手柔らかに」
ウォーミングアップをヴィヴィオが終わらせた後。
高町家の道場で俺達は向かい合っていた。
高町家は早起きな人が多いようで、なのはさんやなのはさんのお父さん……士郎さんが見ている。審判はなのはさんのお姉さん……美由希さんだ。
「よろしくお願いします」
「よろしくお願いします!」
その言葉と共に構える。彼我の距離は約5メートル。
「では、始め!」
美由希さんの声と共に腰を低めに落とし、
「うわ、速……!」
ヴィヴィオは声を上げつつも回避しようとする。一撃目は回避した。
だが、いったんそれで突撃を止めて、もう一回全身の体重をこめた打撃を叩き込むべく突撃する。
ガードをかいくぐって腹部に打撃を叩き込む。瞠目したヴィヴィオはどうにか回避しようとしたが、
今度は、避けられない。
「それまで!」
腹部に直撃する寸前で急制動を掛けて寸止めにした。
ヴィヴィオは凍りついたまま動けない。
「……高速での突撃、それによる強力な打撃。奇襲じみていてもそれは立派な戦い方だ。対応は迅速にしなきゃならねえが、それ以上に目……動体視力が必要不可欠だ。一撃目を回避しきったことからも素質はある。今度は三撃目出させるようにしろよ」
今回、わざと覇王流を
相手の評価なんてそこまでしっかりとはやったことないけど、落として上げるというのが基本らしいのでそれに基づいて言ってみた。
「……ありがとうございました」
お辞儀をしたヴィヴィオに礼を返す。
そこに美由希さんが進み出てきた。
「じゃあ次は私と試合ね」
「よろしくお願いします」
頭を下げて今度は置いてあった小太刀の形をした木刀を手に取った。
Side 高町なのは
「手も足も出なかった……」
横でヴィヴィオが悔しがっていた。多分あれで手加減しているんだよね。前にザフィーラさんと試合したときに唱えたっていう言葉もなかったし。
「年齢もあるけど年季違うんだから、しょうがないよ。レーヴェ君も『素質はある』って言ってたじゃない」
「次は三撃、……ううん、四撃出させる」
決意に燃えるヴィヴィオの前で、お姉ちゃんとレーヴェ君が向かい合う。
………すごく小さな声が耳に入った。
「『我は鋼なり』『鋼故に怯まず』………」
……これが、ザフィーラさんとの試合で使った精神集中の……?
Side end
自分自身を一つの武器としてイメージ。
感情なんて武器には
俺は思考を研ぎ澄ませ、美由希さんの様子を見る。
隙がない。師匠ほどではないかもしれないがこの人も相当強い。
「それでは」
だから、
「はじめ!」
最初から全開でいく。
士郎さんの声と共に、構えを『葦の矢』にして一気に突っ込む。
踏み込みとあわせて一気に右の剣で切り上げる。
「うん、速いね」
だがあっさりと左の剣で流される。その間も俺の左手の剣が横薙ぎ一閃。
硬い快音が響く。右の剣で防がれた、そのままフリーになった左の突きが顔面に来る。
首を傾けてかわす。耳の横で剣と髪が擦れた。
そのまま体を低く沈め、右手の剣で首に剣を……
突きつけようとして即座にバックステップ。
俺の左手の剣と鍔迫り合いを維持していた美由希さんの右手の剣が俺の剣を跳ね上げて、そのまま俺の喉元を突こうとしていたのだ。
距離をとった後に即座に再び飛び込む。
「うん、いい感じ。でも」
そう言った直後から、
「まだまだかな」
美由希さんの剣の回転数が上がった。
攻めようにも相手の攻めの方が速くて手数が多いから、かわすしかない。一刀一扇でも防ぎ切れなさそうだ。
ならば、いったん距離をとる。足を肩幅かそれよりやや広く開き、どこから攻撃が来ても大丈夫なように待ち構えるようにする。
「無方」、苦手を克服しなければならないようだ。
「ふーん、いい判断。でも」
その言葉と共に美由希さんは加速。こちらに突っ込んでくる。
「防ぎきれるかな?」
すさまじいスピードでの攻撃。迎撃において意識するのは必要最小限の動き。
この場合隙を突く、隙を作るという行為は完全な防御あってこそ。とりあえずは防御に集中する。
そしてこれは教わったことだが、防ぐ方が攻めるよりも体力は消費しない。
相手の方がスタミナは多いのだから持久戦で削りながら相手の攻撃を見る。
……やっぱり速いし、一つ一つの動きがうまく連動している。防ぐ……というか、防御と同時にその連動の妨害が出来れば隙が作れるかもしれない。
どこで隙を作るのが一番効果的かを考えつつ、でもその一方で防ぐのをやめない。確実に防御の剣を攻撃に間に合わせる。
木刀と木刀がぶつかりあう快音が連続して響く中、俺はふと気がついた。
……あれ、もしかしてうまくいってる?
「くっ……!」
美由希さんが防がれた剣を戻しながら攻撃しようとして……よろめく。スタミナが切れたか。
なら、チャンス!
「………っ!」
思いっきり踏み込み、右手に持った剣で突きを……。
「……なんちゃって」
放つ前に首筋に木刀が突きつけられた。
くそ、フェイクか!
よろめくふりをしたが重心はしっかりと安定させていて、俺が攻め込もうとした瞬間にカウンターってとこだろう。
「相手に不用意な攻撃をさせるためにわざと隙を作って誘うって言うのも立派な戦術だよ?」
「……勉強になりました」
頭を下げてしっかりと礼を言う。本当に参考になった。それに「無方」もこれでコツは掴んだ気がする。
「いや、その歳でそこまで出来るとはたいしたものだ」
俺が解除の鍵詞を唱えていると士郎さんが感心したように言った。
「本当だよー。あれダメだったら技の一つは使おうって思ってたもん」
美由希さんもうんうん頷いている。
……ぐあー、悔しい。
「次は絶対に技使わせます」
「ふふ、期待してるよ」
そう言って美由希さんはウインク。妙にさまになっていた。
と、士郎さんが話しかけてくる。……あれ、目が笑っていないような……?
「それにしても、ずいぶんと実戦的な技だ。うちと似ているな」
「ああ、師匠が元傭兵なんですよ。忍者みたいな感じで、前にどっかの世界で内戦が起こったときとかもいろいろ大
あっさり俺が答えると妙な空気は霧散した。
「ふむ、そうか……。間違った方向に使うことはなさそうで安心したよ。つい動きから少しだけ警戒してしまってね」
やばいことをやらかすんじゃないかと警戒してた、と。勿論やるつもりはないし、やろうとしてもどう見てもその前に潰されそうな気がするんだけどなー。
「はあ……。『うちと似ている』というと?」
「言葉通りの意味さ、御神流は簡単に言ってしまえば影で動くものの使う戦闘術なんだ」
「なるほど………」
俺が納得していると、
「みんなー、もうすぐ朝ご飯よー!」
『はぁーい!』
なのはさんのお母さん……桃子さんが俺達に声をかけて、早朝の練習はお開きになった。
なんでか知らないけど、士郎さんと会話していたなのはさんが「えー!?」と大声をあげてこっちを見た。