その29 図書館戦争(嘘)
『いただきまーす!』
早朝の訓練が終わり、朝ごはんである。
今日のメニューはトーストにベーコンエッグ、サラダにコーンスープとコーヒーあるいは紅茶というオーソドックスな洋食だった。
しっかり完食して「ご馳走様でした」の挨拶をしてから一服。
さて、することもあまりないし、昼までまた練習でも……
「レーヴェ、なのはママが一緒に外に行こうって」
「……ん、わかった」
……普通にあったな、すること。
「昨日来てたカレルとリエラのお家に、フェイトママとクロノ君が今日来るんだって。はやてちゃんの方も今日から休暇で、皆でワイワイやりたいからすずかちゃんの家で全員集合ってことになっているの」
「そうなんだー」
なのはさんのヴィヴィオに向かってされる説明を聞きつつ、なんとなく俺は思った。
……あれ、なんか一人足りない気がするんだけど。
「久しぶりだね、レーヴェ」
「お久しぶりです、フェイトさん」
並外れた屋敷の広さに圧倒されそうになりつつも、とりあえず近くにいる人に挨拶。フェイトさんは仕事で忙しいのもあって六課以来ほとんど会うことが無かった。
八神家は時折行ってるから「久しぶり」って感じじゃないんだよなー。
と、フェイトさんが隣にいた黒髪黒目で長身の男性を紹介する。
「あ、レーヴェ。この人はクロノ・ハラオウン。次元航行部隊の提督さんで、私のお兄ちゃん」
「クロノ・ハラオウンだ。君の事は色んな人から聞いているよ。よろしく」
色んな人、ねえ。シスターシャッハとかはやてさんとかフェイトさんとか………
………………………あ。
足りない一人を思い出した。
とりあえず、挨拶をする前にフェイトさんの方に笑顔で質問。
「すみません、魔法使用の許可もらえませんか?」
フェイトさんはきょとんとした。挨拶を華麗にスルーされた
「え? 何するつもりなの?」
「そりゃあもちろん」
にっこり笑ってハラオウン提督のほうを指差し、
「この人を撃ちます。全力で」
「「なんで(だ)!?」」
兄妹でハモった。声になんだなんだと皆が近寄ってくる。
「あ、挨拶が遅れました。無限書庫の
俺がにっこり笑顔で告げた皮肉たっぷりの言葉にハラオウン提督は凍りついた。
脳裏に会話がよみがえる。
『そっか、僕の分まで楽しんできてね』
『あれ、司書長は行かないんですか、地球?』
『あはは、行きたいのはやまやまだけど、この前の
「………なるほど」
フェイトさんはため息をついた。
「それで魔法使用の許可、もらえますか?」
「……もらえると思う?」
「もちろん!」
俺の即答にフェイトさんはまたため息。
「あのね……」
そこになのはさんの声が割り込んだ。
「じゃあ模擬戦形式にしたらどうかな?」
「へ?」
「……どういうことだ、なのは?」
俺達が問い返すと、なのはさんは嬉々として説明を始めた。
「だからね、レーヴェ君とクロノ君で模擬戦するの。もちろんクロノ君はリミッターつきで、飛行にはある程度制限を設けるけどね。そうしたらクロノ君にとっては一方的にはならなくても済むし、レーヴェ君にとってはいい経験になる上にちゃんと戦えるし一石二鳥だよね?」
「……いいですね、じゃあそうしましょう」
俺はすぐにその案に乗った。
「いや、しかし結界が」
「ここにいる皆が協力すれば簡単だよ。ね、皆、協力してくれる?」
なのはさんが振り返って確認すると、皆、実にイイ笑顔だった。
「もちろん!」
「ああ、楽しそうだ」
「全力でお手伝いします」
「同じくや」
だが、ハラオウン提督はまだ渋る。
「許可が………」
「休暇中の訓練で通るはずだよ?」
「いや、しかし……」
あんまりにも渋るので俺はとりあえず搦め手から攻めることにした。
「おーい、カレル、リエラ。俺とお前のパパがバトルするところ見たくない?」
「「見たい!」」
キラキラした瞳を双子から向けられた父親は、
「卑怯だ……」
呟きつつもがっくりと項垂れ、了解の意を示した。
和やかなお茶会は一変、封鎖結界で行われる模擬戦の鑑賞会となった。
試合開始場所は誰もいない大通りの道路のど真ん中である。
大人モードで、向かい合った先にいる黒いコート型のバリアジャケットを着たハラオウン提督を見る。
……あの両肩あたりについたトゲはなんなんだろう。ファッションなのか。
「一方的に負けたりするなよー!」
「がんばってねレーヴェ!」
「修練の成果を見せてみろ」
「失敗を恐れないで、やれるだけやってみよう!」
「期待しとるでー」
………あれ? ここって俺にとって一応アウェーなはずなのに、なんでこっちにばかり応援の声が来るんだろう?
どうやら俺と同じことに気がついたらしく、もともと物憂げな表情だったハラオウン提督はますます落ち込んだ様子だった。
「……あのぉ」
「言わないでくれ、そして可哀そうなものを見るような目もやめてくれ。頼むから」
「はあ……」
……おっかしーなー。こんなはずじゃなかったんだけど。
なのはさんが声を張り上げる。
「ルールは実戦訓練と同じ! 審判に勝負ありと認められる状態になれば試合終了ね! 審判は私とヴィータちゃんが担当します!」
つまり「一撃当たったらアウト」とかではないと。よし、がんばろう。
「それじゃあレディ…………ゴー!」