その32 俺の知り合いは友達が少ない(初期状態で)
デバイス製作の依頼を受けてから一ヶ月ほど立った頃。
設計を進めつつも、やはり「魔法の合成」という技術に最適化するようにデバイスを作るために、どうしても無限書庫での資料収集を並行してやらなければならないため、その速度はゆっくりしたものだった。過去にも合成を使った魔導師はいるはずだから、それらの戦歴等も探している。
若干これは
じつは八神家にも協力してもらっている。アギトやリインさんのような融合騎の存在との比較も有効ではないかと判断したからだ。
アギトは普通に八神家に溶け込んでいる。この前の年末はルーテシアに会いにいっていたために会えなかったけど、時折一緒に訓練もしていたりする。
魔力光から融合適性があると分かったのでユニゾンもできる。まあシンクロ率はかつてのゼストさん以上シグナムさん未満と言った所だけど。そのため炎熱変換の練習とかも結構進んでいる。
そんな試行錯誤を続けていたある日のことである。
「よお、レーヴェ」
「あれ、ノーヴェじゃん。どしたの?」
無限書庫からの帰りに挨拶してきたのは赤い短髪のボーイッシュな女性だった。
ノーヴェたち保護施設更正組はもう施設を出ている。ディードとオットー、セインが聖王教会行きでそれ以外はナカジマ家に行った。ノーヴェは最近ストライクアーツの段位を取得して、ヴィヴィオに教えているらしい。今度あったらあいつに技教えてやろうかな………。
「ヴィヴィオと一緒にストライクアーツの練習した帰りさ。そうだ、晩飯ウチで食わないか? なんかスバルも頼みたいことがあるって言ってたし」
「え、スバルさんが?」
首をひねってみる。デバイス関連や戦闘機人関連についてはもっとちゃんとした人がいるし、オフトレとかの六課つながりの話は八神家で聞いてるから大丈夫なんだけど。他になんかあったっけ?
まあいいや。
「じゃあご相伴にあずかるよ」
「ああ、親御さんに連絡しとけな。心配するだろうし」
「ああ、うん。連絡しとく。……心配してるかどうかはわからんけど」
結構鍛錬をやっているので、ある程度の危機なら乗り越えられるだろうと信頼されているっぽい。鍛錬のし過ぎはやや心配されてるけど。
「そうだ、また今度試合やろうぜ、格闘のみとフル装備両方で」
「ん、格闘はまだ負けるけどフル装備でやったら今の所1勝3敗だもんな」
そうなのである。最近ではある程度勝ちも拾えるようになってきたのだ。まあ、まだまだ未熟だけど。
「今度も勝たせてもらうぜ」
「この前は俺の勝ちだった。流れはこっちにあるんじゃないか?」
連絡を終わらせ、そんな会話をしつつナカジマ家へ向かった。
「やっほー、レーヴェ! 久しぶりだね!」
「あ、スバルさん。そうですね、お久しぶりです」
スバルさんは訓練とかもあって結構忙しくしていたのだ。最近昇進したらしい。
とそんなスバルさんの背中にたしなめる声があった。ギンガさんだ。
「もう、玄関口でお客さんを止めておかないの。いらっしゃいレーヴェ君、あがって?」
「はい、ギンガさん」
頷いた。
ご飯を食べつつ……大食いの遺伝子を持つクイントさんの娘たち三人の食べっぷりにビビりつつ、話を本題に持っていく。
「それで、頼みって何ですか?」
「えっとね、ヴァイゼンの方に会ってほしい子がいるんだ。最近休暇先で会った子でね。ちょっと複雑な事情がある子なんだけどできれば友達になってあげてほしいんだよ」
スバルさんがヴァイゼンの休暇先で会った子っていうと……トーマ・アヴェニール、Forceの主人公か。
巻き込まれたい訳じゃないけど……ここで断る理由もないな。っていうかいずれどうせ会う事になるんだろうし。
「わかりました。会ってみなきゃ友達になれるかどうかは分からないですけど、今度の試験休みでいいですか?」
「全然構わないよ! ありがとう!」
そんな訳でやってきました第三管理世界ヴァイゼン。
ここでサバイバル訓練とかやったら楽しそうだなーなどと考えつつ、着いたのは、
「………児童保護施設?」
「そうだよ。ここにいる子に会ってほしいの」
「はあ…………」
施設の人に挨拶し、その子を呼び出す。
「トーマ、久しぶり!」
「久しぶり、スゥちゃん! あれ、その子は?」
……「スゥちゃん」ってあだ名に引っかかりを覚えるのは俺だけなのだろうか。
と、まずは挨拶だな。
「初めまして。俺はレオンハルト・ブランデンブルク。スバルさんの、えっと……」
友達というには年齢が離れている気がする。師匠でもないし、どういえばいいのか……
「そう、修行仲間だ。俺も格闘技とかを学んでいるから。後輩としてお世話になっている」
「……今の間は何かな、レーヴェ?」
凄く微妙な目でスバルさんに見られたが気にしないのが吉だ。
「そして今スバルさんが呼んだようによくレーヴェと呼ばれる。別にレオンでも構わないが、名前で呼ぶのは長ったらしいのでお勧めしない。よろしく」
「うん。俺もレーヴェって呼ぶよ。俺はトーマ・アヴェニール。よろしく」
俺が差し出した手をしっかりと握って、トーマは笑った。
とりあえず、時間があるのでふらふら外に出て歩いてみる。
「レーヴェってさ、格闘技やってるんだよね」
「あん? ああ、まあな」
「どうして強くなりたいんだ?」
……「どうして強くなりたいのか」、か。
一応答えとして言えるものを持ってはいる。けど……それはこいつが必要としてる答えじゃないんじゃないか?
ちょっと考えてから答えとして返したのは、
「質問に質問で返すようで悪いんだが、強くなりたいと思うのに明確な理由が必要か? 別に理由はなくたって強くなれるし、強くなりたいと思うのはある意味でどんな奴でも自然なことだろう」
武力にせよ、知力にせよ。なんにせよ楽しいからそれを強化したいと思う奴なんていくらでもいる。まあ力に溺れたら最悪だが。
「……俺ってさ、孤児なんだ」
「そりゃここにいるの見れば分かる。なんだ? 重い話か?」
「まあ、ね。孤児になった原因なんだけど、故郷の町が崩壊してさ。一般には事故ってされてる」
いや、一応知ってるけどさ。ホントにここでもうそれを出してくるとは思わなかった。
「……で、真相は?」
「俺は、見たんだ。多分、町を壊した誰かを。だから……」
「復讐してやりたい、と?」
「……うん。けど正しいのかなって。復讐のために強くなろうとするのは」
「うーん……ちょっと考える。一分くれ」
「え? う、うん」
トーマが戸惑いつつも頷くのを見て、俺は背を向けて考え始めた。
さて。ここでどう答えるべきか。復讐なんて下らないなんて一般論でこいつの心情は納得するか? 答えはNOだ。確実に。
かといって復讐心をあおるとスバルさんが悲しむし。
………よし。
一人頷いて振り返った。
「うん、じゃあ俺の考えを言わせてもらうな」
「うん」
頷くトーマにまず一言。
「まず俺は、復讐なんて下らない……とは思わない」
「……え?」
俯きかけていたトーマが弾かれたように顔を上げた。
「実際に経験してない俺には想像もできないけど、だからこそ、実体験をした訳でもないのにそんなこと俺は言えない」
「……そっか」
また俯くのでさらに言葉を継ぎ足す。
「ただ、何個か忠告。これは師匠に言われたことなんだが。『復讐の言い訳に他人を使うな』」
「……どういうこと?」
「死者は何も語らない。いや、もっと言うと復讐なんてやめろと言っていようが、復讐を望む恨み言を叫んでいようが、俺たちには聞こえない」
「……うん」
「つまり、復讐の理由をはっきりさせろってことさ。死んだ奴が望んでいるからなんて理由じゃなくて、自分が許せないから、自分がそうしたいからそうするんだって事を忘れるなってこと」
「……………」
トーマは顔を上げては俯いて……を繰り返していたのを俯くのに固定させていた。
しょうがないのでさくさくと進めていくことにする。
「で、二つ目。『復讐される覚悟もしろ』」
「その人の親族とかに恨まれる可能性がある………って事だよな」
「そう、それも一生レベルで。そのうえでもう一個。『形はどうあれ、個人的な復讐ていうのは犯罪だ』」
「殺人罪に問われることもあり得る、と」
「理解が早くて助かる。さらに言うと『自分の復讐に他人を巻き込むな』。無関係な人まで危険にさらすことになるからな。そういったデメリットとか覚悟とかを全部抱えた上で復讐がしたい、そのための力が欲しいって言うなら、少なくとも俺は何も言わねえさ」
俺の最後の言葉からしばらくして、トーマは苦笑して、ぼやくように言った。
「………厳しいなあ」
「そうか?」
「厳しいよ。復讐をやめろって簡単なことを言うんじゃなくて、しっかり理解して自分で決めろって言うのは」
「ふーん。ま、助けにはならないかもしれないし厳しいかもしれないけど、相談には乗るさ」
「……ありがと」
「どういたしまして。つーか初対面の人間にこんなこと話してもいいのか?」
感謝の言葉に返事をしつつ、問うてみる。
すると笑ってこう返してきた。
「スゥちゃんの人を見る目はそれなりに信頼してる。それに実際、同情とかも抜きで真面目に話をしてくれただろ?」
……さすが主人公。
しっかりしている。かなわないなあ………。
後々、俺はスバルさんに頼まれてこいつにデバイスを作るのだが、それはまた別の話である。