その33 不完全旗立機関レーヴェ
四年生になった。
デバイスの製作はまだ途中だ。クラス分けではまたリヴァと同じクラスになった。
…………
リヴァも将来的にはDSAAに出るつもりのようで、俺が鍛えているのを知ると即座に一緒にやろうと言ってきた。
もちろん即座に断った。
「理由を聞いてもいいかね? 15文字で」
「バトルスタイルが違いすぎるから」
彼女との過去がどうこう以前にそれだった。
「基礎訓練ならともかく射撃型と近接型が一緒に練習してできることなんざ協力訓練か模擬戦だけだ。個人戦に出るのに協力とかは必要ないだろ、少なくとも今は」
「なるほど、それは一理あるね」
「まあ俺も鬼じゃない。基礎訓練はつきあうし、教えてくれそうな人を紹介してやる。喜べ、全員女性だ」
「よろしく頼むよ!」
というわけでなのはさんとティアナさんとウェンディとディエチを紹介した。
前二人は忙しいから普段は無理だが「機会があれば喜んで」と言っていた。俺の説明でこいつの特性がよほど気になったらしい。
……後日、「鬼ー!」とリヴァに泣いて責められた。意味がわからん。
夏休み、俺は八神家道場の面々の合宿に誘われた。
俺は快諾し、ついでにリヴァも引っ張っていった。こいつ根っからの射撃型だからDSAAの選考会の最初のスパーとかで苦労するかもしれないし。
まあ俺はDSAA参加は来年にするつもりだけど。ちなみにリヴァも今年は参加しないつもりらしい。近接面での弱さをこの一年で克服してから参加するそうだ。
「あれ、アギトじゃん。久しぶり?」
「おー、レーヴェか。確かに最近は仕事とかで会わなかったもんなー」
そんな訳で向かう先は無人世界カルナージ。
ルーテシアがお母さんのメガーヌさんと一緒に暮らしているところだ。
無限書庫での通信のときにいろいろ話してて知ったことだが、なんか家の改築の設計をルーテシアがやってるらしい。
俺は練習の合間にデバイスマイスターのあれこれをルーテシアに教えることになっている。
普段通信とか使って教科は教えているから、今回やるのは実技だ。リヴァのデバイスの製作をやってみせるのである。
さて、リヴァのデバイスの設計図の図面、ミスはないかなー。………うん、ないな。いやむしろルーテシアのテストのために意図的にミスのある設計図を作るというのもいいかもな。よし、やるか。
と俺が設計図をコピーしいろいろ改悪したものを作っていると、
「何してるの?」
ひょこっとミウラが顔を出した。リヴァ? あいつはほかのみんなとガチで大富豪をしている。
「ん、問題作り」
「ふーん………よくわかんないや」
「まあデバイスの設計図とか知らないやつが見てすぐにわかったら逆に怖いけどな」
俺は適当に答えて百カ所のミスを作った設計図を別のファイルに保存し、ディスプレイを閉じた。
「それにしてもデバイス、かぁ……いいなー」
「……まだ早い、なんてことは言わないが、お前には必要ないだろ、今のところは」
DSAAに参戦するには技量が足りないということはミウラ自身承知しているはずだし、基礎をしっかりしてからで大丈夫なはずだ。
「はやてさんたちがそのうちプレゼントしてくれるだろうから、そのときを期待して待っているがいいさ」
「うん、そうする」
こくりとミウラは頷いた。
しばらくしてカルナージに到着。アルピーノ親子が玄関前で出迎えてくれた。
「ようこそ、ホテル・アルピーノへ! 久しぶり師匠、アギト!」
「やっほー、ルールー!」
「うん、久しぶり、ルーテシア。ハイこれ宿題な。『この設計図の中に百個回路のミスあるいは無駄な要素があるからそれら全てを正しい形に書き換えよ』。制限時間は今日の夕食まで。合格したらこれの製作手伝ってもらうから」
ちなみに今は昼である。まあできなくはないだろ。製作手伝いは罰ゲームというよりもむしろご褒美のつもりである。
………つくづく思うが、年下が師匠役やるってどうなんだ。あ、でもなのはさんとかのことを考えると普通なのか。
俺が渡した設計図に目をキラキラさせたルーテシアは、
「了解! ママ、私は部屋に戻るから後は任せた!」
「任されました〜。頑張りなさい」
「アタシもついてくー!」
俺に返事をした後、一言、母親のメガーヌさんに告げて家の中へ駆け戻ってしまった。そんでもってアギトがそれを追っかけてった。
「じゃあ荷物おいたら今日はとりあえず自由時間だな。近くに川があるからそっちの方で遊んでこい。明日からはハードな練習が始まるからな!」
『はーい!』
さて、俺は俺でいろいろ準備をしないとな。デバイス製作の道具とパーツを全て確認しなきゃならないし。
「トロイメライ、持ってきたパーツと設計図からパーツに不備不足がないか一応再確認」
『確認中……問題ありません』
「工具の方は?」
『全て持ち込み済みです、問題ありません。むしろここから家に持ち帰るときのことを意識した方がよろしいのではないかと』
「ん、そうだな。ありがとう、気をつけるよ」
ほかに確認するのは……っと。
「メガーヌさん、少しお聞きしても?」
「ええ、全然構わないわよ」
「『デバイス調整室作った!』ってルーテシアが以前言ってたんですけど。見てみたいなーって」
「ふふ、それは後のお楽しみにとっておいた方がいいわよ。……少なくとも、普通の隊舎にあるようなものくらいには設備が整っているわ」
「それだけ聞ければ十分です」
少なくともある程度便利なものであるという認識で大丈夫だろう。メガーヌさん元局員だし。
なら、他にやっといた方がいいことは……
「レーヴェ、どうしたの? 早く行こ?」
「あ、うん」
ミウラの声に頷きつつ、内心でも頷きを一つ。
……うん、ないな。重要な部分は全部チェックしたし。
水着に着替えて川の方へ向かう。ちなみに男の水着などどうでもいいだろうが、俺のもリヴァのもトランクス型だ。
………「男らしいから」とかよくわからん理由からブーメラン型を持っていこうとしたリヴァを止めるのは大変だった。いや、本当に。
俺が到着したときにはもうみんな川で遊んでいた。まあ俺の方は用事があって遅れたから当然なのだけど。
それにしても結構人数が多いな。芋洗い状態……とまでは言わないまでも、結構な密度だと思う。
さて、下流でのんびりするか、上流の方まで挑戦してみるか……。
「あ、レーヴェ。どうしたの? 川、入らないの?」
考えているとミウラが顔を覗き込んでいた。
当然ながらミウラも水着である。セパレート型で、オレンジ色の布地は活動的な少女によく似合っていた。
「あーいや、少し混んでいるから別のところ行ってみようかなーって考えてた。水着、似合っているぞ」
「えへへ、そう? ……うーん、中にいた時はあんまり気にしてなかったけど、やっぱりちょっと混んで見えるね。ボクも別のところに行こうかな……?」
ミウラも少し考え始めたところでこっちに声がかかった。
「お前たち、今来たのか」
「あ、シグナムさん」
ミウラも俺もはじかれたように顔を上げる。
……うん、一瞬声を失った。
やや桃色に近い、赤の大胆なビキニだった。よく似合っている。
「うわ、きれいですね……。似合ってます」
「そうか? 主はやてが選んでくれたのだ。私は競泳水着にしようと思っていたのだがな……」
グッジョブ、はやてさん。確かに競泳水着も悪くはないがやっぱり正道はこっちだろう。
なにより、赤い布地に包まれたこぼれんばかりの双丘についつい目が引き寄せられてしまう。
……って、痛い。
脇腹を抓られて思わず左を見る。
ちょっと冷たい目で俺のことにらんでいる少女がそこにいた。
「……ミウラ?」
「すけべ」
「うぐッ」
いや、これは男の性というかなんと言うか……。まあいいや。
「それにしてもやっぱり少しここ辺りは混んでますね」
「ふむ、そうだな。目の届く範囲でならもう少し離れたところでも構わないぞ? あまり上流に行き過ぎるのは感心しないが。他の子供たちも疲れてくれば少しづつばらけはじめるだろう」
周りを見渡して、シグナムさんも同じ結論に至ったらしい。俺はその言葉に笑顔で頷く。大丈夫、見るのは顔だけ。そうしないと横にいる少女が怖い。
「はい。じゃあ行くか、ミウラ」
「……ん」
シグナムさんに返事をしてから、そうやってミウラを促して、俺は上流の方へ向かった。
………すこし膨れっ面の少女が、それでも頷いたことに安堵しつつも、どうやって機嫌を直したものかと頭を抱えながら。