その43 断章のリヴァ
「動きが鈍くなってるっスよー」
「まだまだぁっ!」
飛んでくる弾丸を合成で生み出した散弾でまとめて撃ち落とす。
レーヴェに紹介を受けて以来、僕は時折ナカジマ家の人々に訓練でお世話になっている。
友人のあの強さを見て、そのままでいられるはずもない。
「そら、そこで爆発だ」
「相殺するっ…………!」
「後ろから狙われているのも忘れちゃいけないよ」
「分かってます!」
………のだが、いくらなんでもチンクさん、ウェンディさん、ディエチさんの三人同時とかちょっと勘弁してほしい。いくら慣れるためだからといってそれは結構厳しいものがある。限界状況においてこそ人は真の力を発揮できるという話なのだが………。
「あ、楽しそうだね!」
「私も混ざろうかしら………?」
「流石に勘弁してくださいっ!」
やってきたスバルさんとティアナさんに、僕は恥も外聞もなく叫んだ。
「なるほど、制御できる弾丸の数を増やしたいと」
「ええ、デバイスが補助してくれて圧倒的に引き上がりましたけど、それでも合成のこととかを考えるともっと数が欲しい所です」
それともう一つ。
「どうも僕は決め手となるものを魔力弾以外あまり持っていないので………」
「え? あの弾丸の嵐じゃだめなの?」
「…………模擬戦でレーヴェにくぐり抜けられました」
スバルさんの疑問に落ち込み気味に答える。いくら合成できても、狙った場所に敵がいなかったら意味がない。追尾弾も相手の方が弾丸より速かったらだめだ。もっと弾丸の数を増やし、合成の速度と処理能力を上げなければ足止め、封殺なんて出来ない。
つまり、スピード型に抜けられた時、僕には対処が出来なくなるということだ。パワー型でも凄いのならぶち当たっても気にせずに突っ込んでくるだろう。
そのままにしておくにしても、もっと弾丸のバリエーションを増やす必要があるし、欲を言えば強い一撃が欲しい。
「制御能力は確かに高いんだけどね………アレはまだちょっと早いでしょうし」
ティアナさんも考え込んでくれる。
結局、処理能力を上げつつ、いろんな魔法を探してみるということで意見が一致した。
訓練が終わるともう夕方だ。いつもここでの訓練が終わるとナカジマ家のご相伴にあずかっている。
最初は遠慮したのだが、「気にするな」と全員に言われたら何も言えない。特に家で急用がある訳でもないし。
「そういやよ、前から気になってたんだが」
夕食を頂き、洗い物も終わって一服している時に、ゲンヤさんが僕の方を向いて言い出した。
「戦う理由っつうか、強くなりてえ理由だな。物語に憧れたなんて言ってたが」
「あ、はい」
そういえば言った記憶がある。改めて考えてみると結構恥ずかしいけど。
「本当にそれだけか? いや、それならそれで構わねえんだが、どうも腑に落ちなくてよ………」
「……えーと」
少し考え、まあいいか、と思って話してみる。
物語に憧れたのも事実。だがそれはきっかけに過ぎない。だけどこれから話すのはもっと決定的な理由………。
レーヴェにはもう話してある。
レーヴェがかつて教えてくれた一番の理由……決定的な敗北と同じ、僕の心の中に焼きついている原点。
「今から3年前………JS事件から考えると1年ほど前なんですけど、乗っていた船が海難事故にあったんです」
「JS事件の1年前ってことは………災害救助隊に私たちがいた頃よね」
「あ、でもそんなことあったかも。管轄が
ティアナさんが思い出しながら呟き、その言葉に同意しつつも首をひねるスバルさんに僕は頷いてみせた。
「はい、突然の嵐に海が大荒れで、後で聞いたんですがその特別救助隊の方々でも相当厳しかったらしく………正直、犠牲者が出なかったのは奇跡以外の何ものでもなかったそうです。その時、僕は船を探検してました。その場で知り合った女の子と一緒に」
そう、確か黒髪の好奇心旺盛な子だったと思う。背格好から見て年下のはずなのにその元気に振り回されそうになったものだ。
名前とか名乗りもしないで「探検に行こう!」って言われてそのままついていったんだ。
「『避難してください』って言われても、迷ってしまってどこに避難すれば良いのかも分からない状態で。外にいるのは危ないってことだけは理解してたから中の船室の一つに入って二人で震えてました」
大丈夫だよ、と声をかけても自分自身が大丈夫じゃなかった。声も体も震えてた。
「そのうち雷が直撃したらしくて停電と火災が起きて、真っ暗になって二人して震え上がってた所に、助けが来たんです」
今でも心に焼き付いている。扉を開き、助けにきてくれた人のことを。
「顔に大きな傷跡を持ったちょっと強面の人でした。僕らを見つけるなり嬉しそうな顔をして、僕らの頭を撫でて『良く頑張った』って言ってくれて。僕に『女の子を良く守ってたな、少年。偉いぞ』って言ってくれて。そのまま僕らを両脇に抱えて安全な場所まで一直線に連れて行ってくれたんです」
逞しくて、優しい手。僕じゃあの子を守るなんて、助けるなんて出来なかった。
こんなかっこいい男の人に、なりたいと思った。
だから強くなりたいんだ。
「よく考えてみたら、白馬の騎士みたいって言うよりも、あの人みたいに困っている人を助けたいって言うのが一番なのかもしれませんね」
そう言って話を締めくくり、少しぬるくなったお茶を飲んでいると神妙な顔をしてスバルさんが話しかけてきた。
「あのさ、助けてくれた人って顔に傷跡があるって言ってたよね」
「え? はい、そうだったと思います」
特徴的だったから覚えている。
「ひょっとして、この人?」
端末を操作して一枚の画像を見せてくれる。そこには
「………はい。間違いありません。一体どこで………?」
「今の私の上司なんだ。ヴォルツ・スターン司令。ずっと救助隊にいたって聞いたし、もしかしたらと思ったんだけど………」
「不思議な縁もあるものね………」
ギンガさんがしみじみと言った。
「今度、挨拶に行かせてもらっても良いですか?」
「うん、喜ぶと思うよ!」
後日、挨拶に行った時に「成長したな」って頭をがしがし撫でてくれた。
………やっぱり、かっこ良かったな。