その44 Bitter Battles Forever
月日の流れは早いもので、もう年末になろうとしていた。
…………今年もなのはさんの家にお邪魔することになった。
どうやらなのはさんのお兄さん………去年はドイツに行っていたためにいなかった月村恭也さんが俺に興味があるらしい。
「今度はユーノ君も来るからクロノ君に攻撃しちゃだめだよ?」
いや、流石にそれは分かってますよなのはさん。
去年と同じく、やって来てみるとすぐにクリスマスの手伝いに入った。
「あら、あなたは去年の………」
「覚えてていただき光栄です。さ、どうぞこちらへ」
去年会った人の案内もしたりして、忙しく過ごす。途中でその恭也さん一家も来た。
「君がレーヴェ君か。初めまして、月村恭也という」
「あ、こちらこそ初めまして。レオンハルト・ブランデンブルクと言います」
………大人モードで挨拶したのだが、なぜか声がびっくりするほどに似ていた。思わず二人して不思議そうな顔をしてしまった。
「…………あっちで手伝いに行っているのが家内の忍と、娘の雫だ。まあ話は後だな」
「そうですね」
頷き合い、また手伝いに戻った。
その後、去年と同じように内輪でパーティーが開かれたんだけど………
「雫も何かやってるの?」
「うん! 御神流って言って……」
ヴィヴィオは歳の近い雫と会話していた。ちなみに雫の方が一歳上らしい。
………少女達の会話に割って入るのも無粋だったので、普通にカレルとリエラの遊び相手をやってた。
「レーヴェお兄ちゃん、これやろ!」
「はいはい……」
家では末っ子だったし、前世では一人っ子だったので、「お兄ちゃん」と呼ばれると不思議な感じがする。
他の人たちが微笑ましそうに見ているのが若干気になったが、まあ、いいか。
翌朝。
高町家の道場を借りて双剣を振っていると、ヴィヴィオがひょこっと顔を出した。雫も一緒だ。
「ね、レーヴェ。この前の約束! 『今度また技教える』って言ってたよね!」
「はいはい………」
キラキラした目をするヴィヴィオに苦笑して見せる。
光速回転蹴りはこの前教えたんだよな。だったら今度は拳の技の方が良いか。
「じゃあちょっと構えてろよ」
「うん」
防御をするべく構えるヴィヴィオに向かって、打撃を四発。
最初の三撃で相手の防御をこじ開け、四撃目を徹す。
「う、わ…………!」
まあ、最後は勿論寸止めだけど。
「ファングシーケンス。まあ真正面から防御を抜く技だから俺はあまり使わないけど、お前には結構役立つんじゃないか?」
「うん、わかった。ありがと、練習してみる!」
「へえ、結構強いんだ?」
「さてね、俺なんてまだまださ。今年こそ美由希さんとの試合で技の一つは使わせたい所だよ」
後ろからのからかうような声に、驚くこともなく返す。
「ふうん。ならさ」
振り返ると黒髪の少女………月村雫が予想通り小太刀の木刀を二本もって笑みを浮かべていた。
「私と勝負しない? 昨日ヴィヴィオから聞いて興味あったんだよね」
「………ふむ」
まあ実際俺も興味はある。美由希さんにせよ恭也さんにせよ、御神流の技はほぼ間違いなく完成の域に達している。良い経験になるのは間違いないが、良い勝負になるなんてことがないことも間違いない。
それに比べてこの少女は流石に未完だろう。凄まじい天才、逸材の類であったらまた話は変わってくるが、そうでないのであれば彼女とは良い勝負が出来るということになる。
それはそれで良いかもしれない。
「いいよ、乗った。一本勝負で良いか?」
道場の壁に立てかけてある小太刀の木刀を二本手に取り、少し振って感触を確かめながら問うてみる。
「うん。………あ、お父さんが来た」
恭也さんに事の次第を説明する。
そうこうするうちに美由希さんやなのはさんもやって来た。
「確認するぞ、武装は小太刀のみの一本勝負。時間制限はなし。いいか?」
「うん、大丈夫」
「問題ありません」
「では………はじめ!」
声とほぼ同時に振って来た斬撃を受け止める。一足飛びにこっちまで来てそのまま斬り掛かって来たのだ。シャンテよりも早い。
予想通りと思いつつ「無方」の型で防いで様子を見る。微妙に美由希さんと動きが違う、か? 体格の差もあるのかもしれないけど………。
考えながらも相手のリズムを少しずつ掴んでいく。そして、剣のぶつかるリズムを……
「っ!」
こちら側から一気に崩した。僅かに姿勢を崩した相手に右手で剣の一閃を叩き込もうとするが、流石にそう簡単にはいかない。
そのまま「葦の矢」へと切り替えて攻めにかかる。
「『打ち拍子』ってやつ? 危なかったー」
そんなことを言いつつ続く攻撃を防いでいるが、動きに余裕が無くなってきている。まあこっちも油断すれば反撃されるだろうから余裕はほとんどないんだけどな。
しかし、攻撃が続くことに焦れたのか、
「っや!」
雫は思いっきり剣を跳ね上げた。かなりのパワーだ。そのまま距離を取っていったん仕切り直しとなる。
「すっごいなー。同じ歳位の子にこんな強い子がいるなんて……世界って広い」
まあ次元世界って考えるとものすごく広いけどな。
「だからちょっと本気を出そうか、な!」
言葉とともに雫の瞳の奥が真紅に染まった。同時に俺も鍵詞を呟く。さすがにこのままで対処できるなんて考えは捨てた方が良さそうだしな。
「『我は鋼なり』『鋼故に怯まず』『鋼故に惑わず』『一度敵に逢うては一切合財の躊躇なく』『これを討ち滅ぼす凶器なり』」
視界がクリアになり思考速度が加速する。
………どうやら「鉄血転化」を待っててくれたらしい。まあ、こっちも仕切り直しの時に少し待ったからお互い様と言った所だろう。
「じゃあ改めて。永全不動八門一派、御神真刀流小太刀二刀術剣士、月村雫。参ります!」
「特殊強襲型総合魔導戦闘技術、
言葉の直後、先ほどよりも遥かに速いスピードで斬撃………右の斬り上げが来た。しかしこちらも見えている、難なく回避しつつ反撃。型は攻防のバランスの取れた「一刀一扇」だ。
相手の攻撃の軌道を読み、躱し、逸らす。恐らくだが眼が紅く染まってから爆発的に筋力が上がっている。踏み込みの速度、剣速からもそれは明らかだ。安易には受け止められない。だが、まあ問題ない。
(自分より力が強い相手と戦うなんて、いつものことだ)
剣を受け流しつつ「驟雨」を叩き込む。全て防がれるがそれもまた予想通り。あくまで牽制だ。
防がれてる間に少し乱れた体勢を整える。
先ほどよりも遥か上のレベルで俺達は拮抗していた。
ただ、お互い消耗がひどい。そろそろ潮時だろう。
覚悟を決めたとき、同じことを考えていたのか、雫の方から二刀両方で攻撃が来た。
首に胴、どちらも致命箇所。突きつけられたら終わりだ。
胴の一閃は右手の剣で逸らす………と見せかけて柄の部分を正確に刃に叩き込んで撃ち落とす。はっきり言って普通の状態でもう一回同じことをやれと言われても確実に無理なくらい見切りは大変だった。
そのまま首を狙う斬撃は左は逸らしつつ空いた右で攻撃………と思ったら、左手から剣がはね飛ぶ。衝撃で左手が痺れていた。相手の剣で逸らすことも許さずに吹き飛ばされたのだ。
そのまま相手の攻撃が来る。
だが一方でこちらも右手での一閃が既に動いている。全力で、突く。
「それまで!」
恭也さんの声が道場に響き、行動をぴたりとやめる。
自分の首筋を確認してみると、木刀が突きつけられている。
一方で自分の右手の先を確認してみると、雫の喉元に木刀を突きつけている。
あれ? ということは………
「両者引き分け!」
声に何とも言えない気分になる。年下に対して引き分けって…………
だが雫の方も相当悔しがっていた。
「この前覚えたばっかりの徹を使っても勝てないなんて…………。うー、鋼糸と飛針が使えてたら………」
「たらればを言っていても仕方ないだろう。それに彼だってある程度の制限があったんだぞ?」
恭也さんの娘を諭す言葉に内心で深く頷く。魔法が使えたら、転移や射撃を使っていたらどうなっていただろうか。
だが、そんなことは言った所で意味がない。引き分けたという結果だけが事実だ。
解除の鍵詞を唱えてから、少し思い出す。
あれ、御神流相手に技使わせるって目的は達成してる?
まあ、美由希さん相手じゃないから微妙な所だけど。
その後、少し休憩してから美由希さんとやると、二刀ほぼ同時に徹を使われ、剣をたたき落とされて敗北。恭也さんともやらせて貰ったが、やっぱり徹だけで敗北した。
徹、使えるようになりたいな………。アレが加わるだけでパワー不足がある程度補える。
その後はユーノさん達と合流して魔法の方を練習した。
結界魔法とかもなんか上手い使い方ないかな?
射撃も強化したいし………。
そこらへんをクロノ提督やフェイトさん、なのはさんと相談したりしているうちに年末は過ぎていき、あっという間に帰る日になった。
ミッドに帰る時、再戦の約束をした。小太刀のみでの戦績は一勝一敗一分。完全に互角だ。
「次は勝つ」
「こっちの台詞だよ」
………練習を頑張る理由が、一つ増えた。