その45 北方人形劇
聖王教会のデバイスルーム。そこに新たな参加者の姿が見えるようになった。
いや、正確には人間ではない。俺が生み出したデバイスだ。
名前はフランドール。色々悩んだんだけどな。
「フラン、13番のパーツの回路の確認を頼む」
「了解だ、マスター」
燃えるような見事な赤毛と赤い目を持つ、眼鏡をかけたやや小柄な少女型の人形デバイスが、白を基調として所々に緋がアクセントとして入る服を翻して俺の指示に従って動く。ちなみに小柄なのはユニゾンデバイスのデータを活用した結果だ。髪の毛等はAIを先に作り上げた時に聞いた要望による。そこまで色とかはこだわってなかったし、だったら当人に聞いた方が分かりやすい。
眼鏡は伊達だ。そっちの方が雰囲気が出ると考えたらしい。会ったのがシャーリーさんにマリエルさんと両方眼鏡だったのが原因なんだろうか。
………マスターと呼んでくれるし、従順だから良いのだが、どうにも態度が偉そうである。どこかでミスったっけ……?
少し頭を悩ませながらも依頼されたオーバーホールを続けていると、インターホンが鳴った。
「マスター、私が対応してくるか?」
「あ、うん。任せた」
「任された!」
とたた………と走ってドアの方へ向かうフランを眼でちょっと確認して、また机に向かって作業に戻る。
「マスター、レフレンシア副隊長とその友人だったー。入れるぞー」
「ほいほい」
「アリガトナ、コウハイ」
「制作者違うし完成度ならこっちが高いぞ。年功序列は良くないな!」
いや、そんなことでシゥビーニュと言い争わなくても………
やっていた整備がとりあえず一段落した所でバラしてあるパーツを崩さないように脇に避けて応対する。
「………噂には聞いていたが随分と精巧にできたデバイスだ。君が作ったのかい?」
「ええ、まあ。でも周りの協力無しじゃ作れなかったと思いますけど。えっと、今日は依頼ですか、恋愛相談ですか?」
「両方とも………と言いたい所だがどっちも違う。紹介さ」
隣にいる女性のことを手で示す。人形を作った自分が言うのも変かもしれないが、人形のように整った顔立ちの女性だった。カチューシャをつけた金髪の髪の下、口喧嘩をやめて作業に戻ったフランを見つめるルビーのような紅い眼が煌めいていた。
と、レフレンシアさんの言葉にその女性がこちらへと向き直った。改めて真正面からその瞳を見るとあまりの深さに吸い込まれそうになる。
「………エリス・マーガトロイド。人形使いで、レフレンシアの学友よ」
「初めまして。レオンハルト・ブランデンブルク、デバイスマイスターです」
「………人形師は名乗らないのね」
………は?
人形師というのは特に人形を作ることに特化した者が名乗る称号だ。
「あ、いえ。フランが初めて作った人形型デバイスですし、人形型デバイスだけ作る訳でもないので……」
「そう。………あなたの作る人形型デバイス、私も興味あるわ。構造やAIが他の人形師達と違うものをベースにしているのも興味深い。それに……。……うん、合格ね」
え、なにが?
疑問を呈する前に、一つのクリスタルが机の上に置かれた。
「使っていた人形が任務中に壊されてしまったの。あなたなりのやり方でこのコアを使って新しく人形を作ってくれないかしら」
「…………とりあえず拝見しても?」
「ええ、いいわ」
機体のパーソナルネームはサヴェレンティ。レフレンシアさんのシゥビーニュと同じ、単純物理攻撃型だ。唯一の違いはシゥビーニュは手に小型のナイフを持つがサヴェレンティは格闘型らしい……と言った所か。
データの破損状態はそれほどでもない。AIの部分もある程度残っているからサルベージ、復元、再構築、改良すればいい。人形の戦闘用のAIを作り上げるのがまた大変だけど。記憶の部分もなんとか残ってるかな。そこの部分はそのままにして……。
あとは……外装か。
「容姿とかはどうしますか? 映像などの記録があるなら出来る限りそれに沿うように努力しますが」
「……これよ」
示された映像に映っていたのは、赤毛の少女を模した人形だった。若干フランよりも茶色寄り、赤銅色といったところかな。
データを預かり保存する。
「以前の記録は出来る限り残したままの方が良いですよね?」
「ええ、勿論」
エリスさんは即答した。
容姿に合わせて、筋肉、骨格等も計算して、AI構築もあるから………
「相当な時間がかかると思いますが、よろしいですか?」
「構わないわ」
なら多分出来ると思う。思うけど……
「なぜ俺に? それこそ人形師に頼んだ方が早いでしょう」
「……あなたは自分の人形をどう思っているのかしら?」
質問を質問で返された。
「え、フランですか? 大切な仕事のパートナー……ですね」
「そういうことを言える人が今の人形師には全くいないのよ。ただの金儲けの道具としか考えていない」
エリスさんはため息をついた。
「その点あなたは恐らくどんなデバイスでも手を抜こうとしない、お金とか関係なく最高の物を作ろうって考えている。あなたのその作業や、あの人形の出来や扱いからもそれは明らか。さらに既存の物とは違うにしても、あの人形は完成度がかなり高い。信頼に値するデバイスマイスターにして人形師だわ」
レフレンシアさんも頷く。
「シゥビーニュの整備を君に頼むのもそれが理由さ。以前は作ってくれた爺さんに頼んでいたんだが、この前亡くなってしまってね……」
「そうですか……」
「もちろん、レフレンシアからあなたが戦技を磨いているのも聞いているわ。だからその時間まで割かなくても良い、時間がかかっても良いから最高の物を作って。報酬は弾むわ」
「分かりました。やれるだけ、やってみます」
………このデバイス製作が後にある出会いを呼ぶことになるのだが、それについては俺は知る由もなかった。