その46 戦技補完計画
新年度の第一学期も中盤に入り、テストが行われた。
最後の試験が終わり、皆の歓声が爆発する中、
「ふう、…………終わったな、試験も成績も」
「嘘は良くないよ、レーヴェ」
俺が伸びをして呟いた言葉に、リヴァが苦笑した。
まあ、そんな成績は推して知るべしである。あえて言うなら「トップクラスの成績は取ってないけどまあ優秀」と言った所か。
能ある鷹は爪を隠す………とかではなく、他のことに当たっていてそこまで勉強していないのだ。デバイスマイスターの資格や戦闘技能を高めた所で成績に直接的な好影響が出る訳もない。
転生する前の学問以外の分野も結構あるしな。特に魔法関連。いくら戦闘魔法の理論や実践をやっていても戦闘と関係ないものなどは勉強するしかない。
リヴァも同じようなものらしい。まあ魔法関連は理論派のあっちの方が優秀かもしれないが、身体能力ではこっちが上だろう。
全般的に成績優秀と言ってもせいぜいそんなものだ。
「さて、試験休みだね」
「そうだな、オフトレだな」
鞄の中に教科書や文房具を放り込みつつ、二人して頷き合う。もはや成績など遥か彼方である。
オフトレーニング。毎年恒例にするらしく、二回目(らしい)の今年は俺とリヴァも誘われている。機動六課の隊長陣、フォワードメンバーにコロナとヴィヴィオ、そして俺にリヴァだそうだ。あ、あとノーヴェも来るらしい。
格闘の練習がたくさん出来るってヴィヴィオが喜んでたな。
俺達もそういう意味では大喜びだ。教えてくれる人が大量にいるからな。
「射撃も近接も急成長……は無理でも伸びる芽は作りたい所だね。……ホントに」
「全くだ。………やっぱり」
「「
鞄の中に荷物を詰め終わって立ち上がりつつも、二人してため息をつく。決定打となるものがもう一つ欲しい所だ。
俺の場合特に射撃と格闘で。リヴァは近接と射撃で。ローリングサンダーは隙のことを考えるとそこまで汎用的じゃないんだよなあ………。
「まあ、特に僕らは今年はDSAAにも参加するしね」
教室を出て並んで歩きながら、リヴァは少し言葉に力を込めた。
Dimension Sports Activity Asociation………公式魔法戦競技会。その中でも10代の少年達が覇を競う、IMCS………インターミドルチャンピオンシップ男子の部。俺達はこの大会にヴィヴィオやコロナより一足先に参加することになる。
「………つっても、まあ今回は初めてだし『様子見』でもあるからな。都市本戦まで行けたらラッキー……程度に考えとこうぜ、今の所は」
「………行ける可能性が一応はあると考えている辺りが凄いね」
…………かなり意外そうな台詞が飛び出したことにむしろ驚いた。
「………年上ならともかく、同じ年齢以下の奴で自分以上に練習している奴なんて見たことないからな。お前は俺と多分同レベルだろうけど」
「…………なるほど、確かにね。後は年上がどれくらいか、か………。こればっかりはやってみないとね」
俺の言葉に納得してリヴァは頷いた。
そんな台詞を言えるほどには研鑽を積み上げた自負が俺達にはある。
「後は行く人たちはどうするんだっけ?」
「俺達は高町家に集合。八神家とスバルさん、ティアナさんとは次元港で待ち合わせだとさ。エリオとキャロとは現地で合流らしい」
「ふむ、エリオとキャロ嬢とは直接会うのは初めてになるね。用意しなきゃいけないものは………去年の八神家合宿と同じかな?」
「多分そうだろう。買わなきゃいけないものとかも少ないなー……」
校門を出た後も途中で別れるまで俺達はあれやこれやとオフトレについて話を続けた。
そして、翌日。試験結果が出た後。
可もなく不可もなく……というか「優良」ではないが「良」という、予想通りの成績を確認してから、いったん準備のために家に帰る。
制服から私服に着替え、用意してあった荷物を引っさげて先にリヴァと待ち合わせしてから高町家へと向かう。
「こんにちは。よお、ヴィヴィオ」
「やっほー、レーヴェ!」
「お邪魔します」
「いらっしゃい、レーヴェ君、リヴァ君」
玄関のベルを鳴らすと、ヴィヴィオ達が迎えてくれた。
「あれ、ノーヴェは?」
「もう少ししたら来るみたい。コロナと一緒に来るらしいよ」
靴を脱いで家に上がりつつ聞いてみると、端末を確認していたヴィヴィオが答えた。
その言葉の直後、玄関のベルが鳴る。
「『噂をすれば』ってやつだな」
「あはは。はーい!」
俺達がリビングに入った後すぐに、リビングにいる人数は膨れ上がった。
その後、フェイトさんが運転するやや大型のワゴン車に乗って次元港へと向かう。
「新車なの」って言ってたな。
さすが執務官、制限速度などの交通ルールをしっかり守って首都クラナガンの次元港に時間通りに到着した。
次元港で、はやてさん達と合流する。
そこから臨港次元船に乗る。無人世界カルナージに着くまでにおよそ4時間、ホテル・アルピーノのある辺りとの標準時差が7時間だから、あっちの午前中に着くことになる。
間違いなく初日からハードなはずだから船でリヴァ共々先に寝ておく。
出る時は後少しで昼になろうという頃で、朝ご飯の後は軽くお菓子をつまんだくらいという状況で眠れるのかと不安だったのだが、意外とアイマスクをしてすぐに眠ることが出来た。
………眠れる時に寝ておくという師匠の教えがこんなところで役に立つとは思わなかった。
着いてすぐにアルピーノ親子に迎えられた。
「久しぶり、みんな! 師匠、リヴァも!」
「師匠言うな」
「というか『みんな』の中に入っていないのはどういうことなんだい………?」
細かいことは気にしない方が良いと思う。
少し悩むリヴァを尻目に、ルーテシアがこっちへと向きなおる。
「そう言えば師匠」
「だから師匠言うなと………まあいいや。どうした?」
キラキラした目で拳を突き上げて言われた。
「ついに私にも顧客が!」
「ああ、コロナな。完璧なコネ顧客だな。つーか俺とヴィヴィオが紹介した」
「うっ…………!」
言葉に詰まるルーテシア。ちょっといじめすぎたか?
「冗談だ。俺だって最初は教会騎士団の方へ親父の紹介で仕事してたしな。それでお金稼いで
緋色の弾丸のネックレスをつまんでみせてから、コロナに笑いかける。
「こんなんだが、資格はちゃんと持ってるし、仕事は俺もきっちり見てきた。自分の愛機作り、任せても良いと思うぞ」
「はい!」
「むぅ、こんなんって何よ……」
コロナが元気よく頷く。
ルーテシアが少しむくれていたが、顔に赤みが差していたので多分照れ隠しだろう。
さて、早速訓練に行くとするか。
「リヴァ、行くぞ」
「そうだね」
大人達についていこうとするとガシッと腕を掴まれた。
振り返るとヴィヴィオが俺の腕を、ルーテシアがリヴァの腕を掴んでいる。
「午前中くらいは遊ぼうよ! 折角水着持ってきたんだし!」
「そうそう、訓練ばっかりだと飽きちゃうよ?」
「あっちも楽しそうだけどなー」
訓練場の方を見やる。そこで仲裁にノーヴェが入ってきた。
「まあまあ、午後からは訓練の方に行けば良いじゃねえか。だから午前中は川で遊ぼうぜ」
その言葉を受けてヴィヴィオが悪戯っぽく笑った。
「わたしの水着姿だって見たいでしょ?」
「いや、別にガキの水着なんて興味な………」
「み・た・い・で・しょ?」
軽口で答えようとした直後、ギリギリと腕を締め付けながら再確認の言葉。別に痛い訳ではないけど。
『レーヴェ!? なんか僕までルーテシアに腕を締め付けられているんだけど!?』
リヴァの悲鳴まじりの念話を受けてちょっとだけため息をつく。
「………………ミタイデス」
そういう訳で、川遊びである。
着替えて集合した直後、
「リヴァさんもレーヴェも、それいったい何付けてるの?」
ヴィヴィオが俺とリヴァの手首足首に着いている腕輪、足輪に視線を注いだ。
脱いでから気がついた……というかあまり目立たなかったらしい。まあ、アクセサリー目的じゃないから良いんだけどな。
「魔力負荷のバンド。簡単に言うと魔力を成長させる道具だな」
「ま、慣れてないと体を動かすのが大変になるけどね」
リヴァと二人で答える。
実はこれ、フランに作らせたものである。あいつがミスをせずに設計図通りに作れるかのチェックでもあったのだが、完璧だった。
そんな訳でフランには俺がいない間の教会のデバイスルームの管理を一部任せていたりする。
「そうなんだー。私も付けてみようかな……」
「結構大変だと思うけど。………うーん、言葉で説明するよりも実際に付けた方が早いか。ほれ」
一個外して渡してみる。一瞬で体が凄く軽くなった。
「わー♪」
歓声を上げて左腕に付けた直後、ヴィヴィオは河原に突っ伏した。
「痛……っていうか体、動かない………! これ四つも付けてるの!?」
「慣れればどうってことないよ」
リヴァが苦笑して答えた。
その間に俺が腕輪を外し、また自分の腕に付ける。
「わ、わたし用にちょっと負荷緩めの作ってもらっても良い……?」
「わ、わたしもお願いします!」
ヴィヴィオとコロナの言葉にニヤリと笑う。
「ご利用ありがとうございます」
「こんなところでも営業かよ……」
ノーヴェが呆れて言った。
そこから先は普通に泳いだり、水斬りの練習したりとまったりとした時間を俺達は昼まで過ごした。