その47 トレーニング上等。
川遊びではさしてハプニングもなく、そのままお昼ご飯である。
バーベキューなど、体を冷やさないように温かいものを用意してくれたようだ。
オニオンスープの温かさも五臓六腑に染み渡る。
「レーヴェ君とリヴァ君は午後はこっちに参加するんだよね?」
「「はい!」」
二人で元気よく返事。
「かなりきついけど大丈夫かな……」
「流石に魔力負荷バンドは外しますよ」
心配げなフェイトさんに笑って答える。リヴァも平気そうな表情だ。
「基本的にフィジカルトレーニングは緩めにして魔法訓練の方に参加するつもりですから大丈夫だと思います」
「じゃあ私たちは中に入ってデバイス作りのためのデータ取りをしますか!」
ルーテシアはコロナとヴィヴィオの方を向いた。
「いいなー、コロナ。わたしもデバイス欲しいなー………」
言いつつヴィヴィオがなのはさんの方を見るが、
「まだいらないでしょ?」
「欲しいな目線」は見事に笑顔で跳ね返された。
がっくりしつつもルーテシア達についていくことにしたらしい。
しかし、三人が中に入った直後、俺はなのはさんに声をかけられた。
「あのね、レーヴェ君」
「なんですか?」
「確かにわたしもそろそろヴィヴィオにデバイスが必要かなって思うの。それで君に作ってもらった方がヴィヴィオが喜ぶと思うんだけど……。依頼しても良い?」
………うあー。タイミングの悪さに思わず心の中で呻く。
「……申し訳ないんですけど、ちょっと今大きい仕事が入っていて……結構厳しいと思います」
勿論、大きい仕事とはあの戦闘用人形デバイス「サヴェレンティ」の修復というか再構築である。
「そっか。ごめんね」
「いえ、こちらこそすみません。………………あ、でも」
ふっと何かが脳裏を掠めた。そのまま直感が命じるままにトロイメライの中に眠るデータの山を漁る。
そして、一枚の設計図を見つけ出す。俺はそれを複雑な気持ちで見つめた。
それはかつて、
これをベースにシステムを書き換えて、ヴィヴィオ用に調節、すこし改良すれば………
「………ベースになる設計図とある程度の改良案くらいなら出せると思います。実際に作るのは結構厳しいですけど」
「ホント!? それでも嬉しいよ、ありがとう!」
なのはさんは俺の手を握ってぶんぶん振った。
まあそんなことがありつつも、午後のトレーニングスタートである。
気分をすっきりさせるためにとりあえず
「「ちょっと待て」」
いきなりヴィータさんとシグナムさんに止められた。
「普通ロープ掴んで多少慎重にできるだけ早く行くもんだろうが!」
「え、でもこんなに太いんですよ? これくらい余裕です」
直径2cmほどの綱を握ってみせる。師匠の訓練で使ったワイヤーとかもっと細かったもんな………。
「……前はどれくらいの太さだったんだ?」
シグナムさんのため息まじりの質問にちょっと考えてから答える。
「………直径3.5mmくらいでしょうか。風が強くて大変でした」
「………お前の師匠と一度しっかり話した方が良い気がしてきたよ」
なぜか疲れたような表情でヴィータさんが言った。
壁途中まで走って登って疲れてきたところでロープをつかんだ時も止められた。
「師匠とか壁に立てますけど。滝を落ちてくる岩を次から次へと飛び移って登ってたんですが」
「………それはただの人外だ」
あれ、ヴィータさん達守護騎士って一応生物学的には人間じゃなかったような……。師匠はDNA的に多分完璧に人間のはずだけど。
流石に
銃と剣を持ち換える時間がないし、直射弾だけでの迎撃は無理があるから全部躱すか剣で撃ち落とすしかない。
3分たった時には肩で息をしていた。
「しかし、ほとんど場所動いていないな」
「『防御魔法に頼りすぎるな。見て、躱せるものは躱して躱せないものは斬れ』って師匠が」
炸裂弾でも予兆があるから爆風を斬って多少緩和は出来るし。
師匠の修行の一環で速度的には火器の実弾と同じものを斬る練習したから魔力弾はもう怖くない。法律的に大丈夫なのかと思ったが、良く似た魔力弾を撃つ装置らしい。その言葉になぜか全く安心できなかった。
「お前の師匠ホントにどんな訓練やってるんだ………」
「えっと……」
「いや、言わなくて良い。聞くと疲れそうな気がする」
「絶対的な運動能力……筋力とか持久力とかは年齢もあるからともかくとして、動体視力やバランス感覚、反射神経とかはとんでもないね」
「………ありがとうございます」
なのはさんの評価に恐縮する。
……褒められてるんだよな?
「じゃあ模擬戦やるから。レーヴェ君はライトニングの方、リヴァ君は
「「はい!」」
元気よく頷き、決められた場所へと向かった。
…………のだが。
「え、あれ?」
チームの組み合わせはこうである。
Aチーム、フェイトさん、シグナムさん
Bチーム、エリオ、キャロ、俺。
戦力比がおかしすぎる気がしてならない。
「………どうするよ? いや、俺とエリオが前に出て、キャロが後方支援なのは良いんだけど、そこから先」
引きつった顔でチームの二人に聞いてみる。
エリオはちょっと考えてから、
「うーん、僕はフェイトさんとやろうかな」
「じゃあ俺はシグナムさんと、か」
そこは頷く。しかし……
「後方支援って言ってもブーストだけになっちまうか? いや、タイミング併せてフリードの
「うーん、そこは念話で調整かな。ブーストの内容はこっちで状況見て判断するね」
「了解!」
キャロの言葉にエリオが頷き、作戦会議は終了となった。
「準備は良いか?」
シグナムさんがレヴァンティンを構えて、戦意を滾らせながらゆるりと笑う。
「いつでも」
最初から鉄血転化を使う。そうでもしないと瞬殺される気すらするからな。
隣にはストラーダを構え、一瞬たりとも見逃すまいと相手を観察するエリオがいる。
「じゃあ、やろうか」
そのエリオの視線の先、フェイトさんの言葉の一拍後、俺達は同時に地を蹴った。
Side オリヴァルト・アスラシオン
模擬戦の組み合わせは隊長組VSフォワード+僕になった。相当大変そうだ。
「………どうしますか? 数的には有利ですけど、僕は足手まといになってしまいそうな予感すらするんですが」
「大丈夫だよ、あたし達が鍛えてきたんだから足手まといにはならないって!」
スバルさんが思わず不安げな声を出してしまった僕の肩を叩く。ちょっと痛い。
「私も同感、大丈夫よ。でもそれよりも今は作戦ね」
ティアナさんが冷静に状況を分析する。
「といっても基本的には前線は前線同士、後衛は後衛同士になりそうね。スバル、とりあえず絶対にヴィータ副隊長をこっちに近づけさせないで。リヴァは私と一緒になのはさんをどうにか封じるわ。手数ではこっちが上だからどこかで勝機を見出せるかもしれない。そうなったらスバルも副隊長はほっぽり出していいから全力でなのはさんを倒す。その後はヴィータ副隊長を集中攻撃よ」
ヴィータさんがこちらに到着するのとなのはさんを倒し切るののどっちが先か、という勝負になりそうだ。
「あくまで基本ですよね? 時折支援射撃を入れて運が良ければヴィータさんをバインド、その後なのはさんを集中攻撃が最高の流れですし」
「そうね、ただ問題は………」
ティアナさんは僕の言葉に頷くも、作戦会議をしている相手の方を見て少し苦い顔をした。
「それをあのベテラン二人が許してくれるかどうかなのよね……」
作戦会議の時間が終わった後、僕はティアナさんが立ってるビルの屋上………の隣のビルの屋上に立っていた。
流石に砲撃での一網打尽は避けたいから少し距離を取ることにしたんだ。
「じゃあ、模擬戦開始!」
「「「はい!」」」
ティアナさんとともに周囲に魔力弾を多数形成し、一斉に撃ち放った。
青紫の弾丸とオレンジの弾丸が桜色の弾丸とぶつかり合い、砕け散る。
それを背景に赤と青の打撃が衝突。
連続する轟音が戦いの幕開けを告げた。
Side end