その48 ノーバトル・ノーライフ
模擬戦とそれに続く訓練を終えた後、俺はボロボロになっていた。試合結果は敗北同然のタイムアップによる引き分けである。
シグナムさん達がリミッター掛けてたのもあって結構いいところまではいけたと思うけど。
やはり中距離での高火力が必要だとつくづく思わされた。
よろよろと宿へ向かって歩いていると、ふらふらと歩いている金髪の後ろ姿を見つけた。
「………大丈夫か、リヴァ?」
「君と同じくらいにはボロボロなんじゃないかな?」
声に振り返ったリヴァがやや苦い笑みを浮かべて答えた。
っと、そういえば。
「試合、どうだった? こっちは敗北同然の引き分けだけど」
「似たようなものだ、と答えておくよ。なのはさんに砲撃を一発撃たれるだけで、こっちは立て直しが必要になったからね。崩れないようにしつつ、チャンスを狙ったんだけど……まあ一回は『あと少し』って時もあったかな」
「………遠いな」
トップランクまで至る道は。いや、先が見えないだけでその手前で止まってしまうこともありうるのかもしれないけど。
「………そうだね」
一発で察したリヴァは頷いた。
到着したらすぐに夕食だった。
初対面のエリオがスバルと同レベルの大食いをするのにドン引きするリヴァを尻目に、やや多めの夕食をさっさと食べ終える。
食後の運動も大事なので、外に出て剣を振るう。
リヴァはリヴァで射撃を練習していたようだ。
その後に、まだ灯りの灯っていたデバイスルームに向かう。
「調子はどうだ?」
「うん、いい感じ。今はデータとにらめっこしつつ設計とか考えてるとこ」
「そっか、頑張れよ」
邪魔するのはまずいか。
ドアを閉めて自分の寝る部屋へと足を向けたところで、
「お」
「む」
リヴァを発見した。
「リヴァ、どうした? デバイスのメンテナンスか?」
「あ、いや。少しルーテシアに聞きたいこと………というか頼みたいことがあってね」
………うーん。
強い意志のこもった瞳を見て俺はちょっと悩んだ。
「今あいつデバイス作りのために色々やってるしな……。あ、でも息抜きとかもした方がいいか。俺相手だとデバイスの話になって息抜きにならないし。よし、行ってこい。鍵は閉めとくから」
ちなみに今回は俺とリヴァは同室である。
「寝る場所がっ!?」
「冗談だ」
「全く………」
ぶつぶつ言いつつも、リヴァはデバイスルームのドアを開ける。
話の立ち聞きなんて趣味がある訳でもないので、素直に部屋に戻って寝た。
Side オリヴァルト・アスラシオン
部屋に入り、まずは尋ねる。
「邪魔して済まない。ルーテシア、ちょっといいかな?」
作業を停止してルーテシアは僕の方に向き直った。
「いいわよ、どうしたの? デバイスの調整ならちょっと待ってほしいんだけど」
「………君達は師弟揃って同じ考え方か」
レーヴェは「師匠と呼ぶな」などと言っていたが、これは呼ばれてもしょうがないと思う。
「え?」
「いや、何でもない」
首を振って、話を戻す。
「少し、頼みたいことがあるんだ」
「何? 出来ることならやるわよ?」
いったん深呼吸して、その頼みを口にする。
「僕に…………を教えてほしい」
僕の言葉に対し、ルーテシアが表情に浮かべたのは拒絶でも了承でもなく、純粋な疑問だった。
「別に構わないけど………。明日の陸戦試合を見越してって言うなら、はっきり言って付け焼き刃過ぎて役に立たないと思うわよ?」
「分かってる。流石に僕も一晩でどうにかなる訳がないのは承知しているさ」
頷き、さらに説明の言葉を付け加える。
「僕が見越しているのは明日じゃない、DSAAだ。そのために手札を増やすことが急務でね」
やはり勝ちたいのだ。たとえ相手がレーヴェであったとしても。そして行けるところまで行きたい。そのための手札を僕はかき集めているのだ。
「ふうん………」
僕のことをじっと見つめたルーテシアは、しばらくしてふいっとまたディスプレイの方に戻った。
「……ならもう遅いから明日にしましょ。私は今回の試合には参加しないし、あなたに体力が残ってれば、の話になるけど」
「残しておくさ、絶対に。………ありがとう」
「……どういたしまして」
彼女の後ろ姿、耳が少し紅くなっていたことに僕は最後まで気がつかなかった。
Side end
翌日。
朝起きて、練習してシャワーを浴びる。
その後朝ご飯を食べて………
「で、昨日何やってたんだ結局」
「秘密だよ」
リヴァに聞いたらしれっと答えられた。まあ、それならそれでいいんだけど。
だから男のウィンクとかやめろっつーに。
今日は陸戦訓練試合である。朝ご飯の時にチームが発表された。
そのチーム分けとは…………。
「僕らは八神家側か」
リヴァの言葉に頭の中でそれぞれのポジションを考え……即座に意図を予想する。
「……まあ妥当だろ。あっちはフォワード全員にフェイトさんなのはさんの二人にノーヴェ。こっちははやてさんにシグナムさんにヴィータさん、ザフィーラさんにシャマルさんと、ユニゾンデバイスの二人と俺達だ。人数的にはおかしいかもしれないが、リインさんにアギトは間違いなくユニゾンするから実質的な人数は7対7で変わらん。しかもあっちは優秀な中盤……
俺の言葉にリヴァは頷いた。
「まあ中盤が未熟な僕しかいないからね、やれるだけのことはやるけれど。要するに僕らは人数で同等な最前線が押し切れれば勝ち、練度と人数で負けている中盤の援護で崩壊すれば負けって所かな」
「しかも時間制限付き。多分はやてさんが広域魔法かますのに合わせて、ティアナさんかなのはさんのスターライトが来る。そうなれば後は野となれ山となれ……でもないけど状況次第、運に近いかな」
その後チームで作戦会議が開かれたけど、そこでの結論はおおむね予想通りだった。
「序盤は前線は基本的には1on1や。均衡が崩れたら一気に畳み掛けるよ」
『了解!』
まあ、一つ奇策を用意してるけど。
ちなみにこっちは赤チーム、向こうは青チームである。
作戦会議が終わったところで、モニターにメガーヌさんとガリューの姿が映る。
『それじゃあ元気に、試合開始!』
ガリューが叩いた銅鑼の音を合図に全員が定位置へと移動する。
さて、俺の相手は…………と。
……………うわぁ。