その50 魔王様がみてる
Side オリヴァルト・アスラシオン
さて、と。
親友がシャマルさんの下に運ばれたのを確認しつつ、僕はフェイトさんの方を注視していた。
牽制の意味合いも込めて魔力弾を多数自分の周囲に展開する。
そして、周囲だけでなく広範囲に渡って魔力弾を展開していく。
そう、まるで機雷のように。
フェイトさんのスピードに今の僕ではレーヴェのようには対応できない。なら、対応できるものに任せれば良い。自動反応型の機雷ならそれも可能だろう。
うかつに飛び込めば大ダメージを喰らう。今のLPではかなりまずい事態といえるだろう。恐らくそれはフェイトさんも分かっているはずだ。
……どう来るか。
見つめる中、バルディッシュを左手で握り、開いた右手をこちらに向けて………
「プラズマスマッシャー!」
ッ! 予想していたパターンの一つ!
砲撃で機雷群を打ち崩し、そのまま近接攻撃か!
砲撃は機雷群によって無効化されてこちらにダメージは来てないけど………
(どこから、来る……………!?)
そのまま正面か。
裏を突いて、死角か。
辺りを見回していたその時、
背筋に寒気が走った。
(後ろか!)
振り返りつつ、展開していた魔力弾を合成していく。
ヴェス達の感知のおかげでどこからどう攻撃をしているか手に取るように分かる。
やや遠距離からの大剣での一閃だ。
ヴェスとフェンの軌道予測にそってその合成した弾丸を並べていく。
弾丸は光を発し………、
「く、ぅっ!」
急場の作りのため次々と作り出した防御魔法が破られていく。僕は奥歯を噛み締め、次々とシールドを生み出す!
……レーヴェは、半分以上削った。なら、残りの半分を削るのは僕の役割だ。
このまま彼に負けてなんていられない。
先を行かれちゃ駄目なんだ。追いついて、並んで、追い越さなきゃ……!
計27層、全部斬り破られ……でもその役割は果たした。
緩衝によってかなりスピードが落ちた、迫る刃に向けて僕は自身で一つの魔法を起動する。
展開するのはやはり自らを守る防御魔法。……だがそれは、他のものとは少々毛色が違っていた。
異音が、響く。
まるで何かに
賭けに、勝った………!
「
「ええ、なのはさん直伝です」
驚愕の声を上げるフェイトさんに彼のようにニヤリと笑みを返す。
ヴェスを持つ左手の方から展開されたその魔法は、バルディッシュの金色に輝く魔力刃を確かに押しとどめていた。
直後にバインド。
「そして」
フェンの先に光が宿る。さらにいくつか残っていた魔力弾もその光の球の中に飛び込み威力を上げていく。
「クロスファイア」
『Buster』
ティアナさんのクロスファイアシュートを砲撃用にアレンジした。なのはさんのストライクスターズほどじゃないけど相当な威力のはず。
タイミング的には直撃のはずなんだけど………
「躱された……!」
ギリギリでバインドをほどいて緊急離脱されたのだ。けど、僕の言葉を否定する声が聞こえた。
「ううん、回避しきれなくて擦ったよ。正直相当ギリギリだから……ここは退く」
フェイトさんがLP200の状態で苦笑し……、そのまま相手の陣営へと飛び去っていった。
「仕留め損なった……いや、この考え方は傲慢かな」
防御の時に衝撃でちょっとだけ削られたLPを確認し、苦笑する。
『そうだよマスター。落とされないのが大事だったんだから!』
『そうですよ。痛撃を与えて追い返したのです。十分な戦果かと』
「そうだね………っ!」
気がついたら目の前に凄まじい速度で高速弾が来ていた。ギリギリで首を傾けて躱す。頬を擦っただけで相当脳に衝撃が来た。
危ない、もう少し油断してたら直撃して落とされていたかもしれない。LPが500ほど減った。
「……なのはさんか」
『そうみたいだね。あ、ティアナさんはまだリタイアはしてないけどぼろぼろみたいだよ? シグナムさんもだけど』
「アドバンテージを一つゲット、かな」
しかし、最前線は膠着したまま皆の疲労が蓄積している。時間も結構経っているし、そろそろ決着だろうか。
そうなると僕は再び支援射撃。レーヴェは……そろそろ前線に戻る頃か。けど、向こうのエリオも戻る頃だろう。
「フェイトさんとシグナムさんは多分そのまま帰還せずに衝突、相打ち……。前線は恐らく完全な消耗戦のまま……だとすれば突破口を開いて相手に追加で決定打となるダメージを与えられるのは……レーヴェだけか」
そして向こうもまた然り。結局、突破した方に天秤が傾く。……まあ、その前にはやてさんやなのはさんの大威力の攻撃が発生したら………、そこから先は、もはやギャンブルだろう。
「……それで、インターバルは終わったのかい?」
『ああ、もうばっちりだ。持ちこたえてくれて助かった』
後方から駆け行くレーヴェに言葉をかける。さっきとは逆の構図だ。
……おや?
「アギトはどうしたんだい? 一緒にいたはずだが」
『ああ、先にシグナムさんの加勢に行ってるよ』
……なるほど、フェイトさんの撃墜に万全を期すという訳だ。
「……なら、先は任せるよ。道は僕が切り開く」
『頼む』
……よし。
魔力弾を展開して、前方を睨む。前を走る友へと向かう桜色の弾丸を狙って……、
魔力弾を、重ねた。
Side end
目の前に迫るなのはさんの魔力弾が、後ろからやって来るリヴァの青紫の魔力弾に相殺されていく。
駆け抜ける先に、見覚えのある赤毛が見えた。
一気に決めようとしているのか、こちらに思いっきり突っ込んできている。
既に鍵詞を唱えて思考をクリアにしていた俺は、トロイメライが出したこちらと相手の速度の計算から転移の座標を設定、起動。
「なっ………!」
目の前にいきなり現れた俺にエリオは目を剥いた。俺はその隙を見逃さず容赦なく急所へと刃を叩き込もうとするが、さすが管理局員というべきか、動揺から一瞬で復帰してギリギリで受け止められた。続いてほぼ零距離で頭に打ち込んだ射撃も首をひねって回避される。
「紫電一閃っ!」
そのまま、反撃を仕掛けて来るが……若干、大振りだ。
軌道を読んで避けつつ、魔力弾の置き土産を用意。離脱した直後に爆発させる。
「くっ………!」
苦悶の表情を浮かべるエリオだが、即座に体勢を整える辺りは見事としか言いようが無い。
そこから先、エリオはずっと大振りな攻撃は出さず、あまり隙も見せてくれなかった。だが、それはこっちも同じこと。お互い相手を崩せないまま時間は過ぎて行く。
一方で、リヴァはなんとかSLBのチャージを押さえようとしてなのはさんに向かって魔力弾を放っていたが、すべてティアナさんの射撃に横から撃ち落とされていた。ただ、これでティアナさんはSLBをチャージする余裕がない。
シグナムさんも相打ちとはいえフェイトさんを倒したし、これでダブル、トリプルブレイカーの心配だけはしないでいい。
まあ、単体でも十分高威力なんだけど、はやてさんの広域魔法の方が多分威力は一段上のはずだ。
勿論、あくまで予想に過ぎない。ひょっとしたら一点突破でぶち抜いて来るかもしれない。
だったら、俺がするべきことは……。
チャージの終わりまで、後少しというとき、エリオが強引に突破を仕掛けてきた。
(やはり考えることは一緒、か!)
双剣を振りかぶり迎撃する。
一瞬、ストラーダの穂先と双剣の切っ先が交差した。
「サンダーレイジ!」
「桜花狂咲!」
……っ。擦っただけでも相当なダメージ。避け損ねた右足なんてもうほとんど動かない。恐らく相当量の電気をつぎ込んだのだろう。
が、相手も同じ。これではやてさんの所には行けないはずだ。
けど、俺の方は最後の仕事が残っている。
座標を設定。転移。
転移した先は、勿論、
「スターライト……!」
俺の出現に動揺した隙に防御魔法を張れるだけ張る。……3層か。まあ、まだマシだろう。
双剣を目の前に構える。
「……ブレイカー!」
砲撃を真っ正面から受ける。第一層は一秒持たずに脆くも砕け散る。だがその間に、俺はさらに三層目を強化していた。腰にぶら下がった双銃のホルスターからの
二層目もすぐに消し飛ぶ。もともと高速戦闘型だから防御が薄いのも影響してるのかもな。
そして、三層目。
「く、ぅッ……!」
ある程度持ち堪えてくれた。
さらにカートリッジをロード。だがそれでも耐えきれない。
蜘蛛の巣状にひび割れが走り、砕けた。
手にした双剣を砲撃に叩き付ける。勿論防ぎきれず、ダメージは凄まじい勢いで蓄積される。双剣の魔力刃も砕け散った。
「つあああああああぁっ!」
最後の力を振り絞る。出来る限り、砲撃を体で受け止めようとして
意識が、光に呑まれた。
「う、ん……?」
気がついたとき目の前に見えたのは青い空。横に誰かがいる。後頭部には柔らかくてどこか固い感触が……、
「膝枕……?」
思わず呟いて身じろぎしたとき、どうやら俺を膝枕していたらしいヴィヴィオがぱっとこっちを見た。
「あ、目、覚めたんだ。もう、無茶しすぎ!」
いきなり怒られた。
「集団戦での勝利のためには最高の一手だっただろ?」
笑って返し、立ち上がる。どうやらリヴァはルーテシアに膝枕されているらしい。
「それで、勝敗は?」
「はやてさんチームの勝利だよ。レーヴェの頑張りが実を結んだみたい」
全員ぼろぼろになっていた前線は軒並み壊滅。後方まで攻撃が届くか否か、相殺しきれるかどうかで勝負の結果は変わっていた訳だが、俺の介入がある程度そこに影響を与えたらしい。
「でも、ヴィータさんもなのはママも後で説教だって怒ってたよ! フェイトママとの戦いでやったビルも破壊と爆破も含めて!」
「勘弁してくれ………」
思わず、天を仰いだ。
その後リヴァが目を覚ましてから、さらにチームを組み直して戦いは行われ……、俺とリヴァは襤褸雑巾になった。フェイトさん、そんなに罠に嵌められたのを悔しがって必死で攻撃しなくても……。
とはいえ、相当経験値を詰むことが出来たのだから良しとしよう。
その翌日はヴィヴィオ達に引っ張り回されっぱなしだった。やれやれ、少しは休ませてほしいんだがな……。
Side 高町なのは
「ヴィータちゃん、レーヴェ君のことなんだけど」
私はヴィヴィオと一緒に野山で山菜採りをするレーヴェ君を見つつ、話を切り出した。
するとヴィータちゃんも分かってたように返す。ここら辺は十年以上の付き合いの賜物じゃないかな。
「ああ、アタシもあんな真似するとは思ってなかったな。いや、戦略的勝利のためにはあれが最善手だったんだろうが……。問題はあのレベルの砲撃が非殺傷設定かどうか分からない時にあいつが同じように目的のためだけに突っ込むかもしれねーって所か?」
「うん……。犠牲を顧みずに勝つってことを最優先にしたらあの行動は間違ってない。でも、あの子が大けがしたらヴィヴィオが悲しむし……」
「ただ、一応一線はわきまえていると思うけどな。それこそJS事件の時に説教したし、それでわかんねーほどあいつはアホじゃねー」
「なら良いんだけど……」
「どうした?」
私が声を落としたのに気づいて、ヴィータちゃんが不思議そうに聞いてきた。
「ううん、直接は多分関係ないんだけど。最近気づいたんだけどね、その……」
「どうしたんだ? はっきり言ってくんなきゃわかんねーぞ?」
「少しずつ、レーヴェ君が、私達……ううん、ヴィヴィオと距離をとろうとしているみたいなの」
「……別にそんな風には見えねーが」
ヴィータちゃんはレーヴェにじゃれつくヴィヴィオの方を見て眉をひそめた。
「あくまで勘なんだけどね? ヴィヴィオの遊びの誘いとかいつも練習を理由にして遠慮するし、こういうオフトレも誘わないと来ない。さっきの膝枕も気がついたらすぐに離れちゃったし。ヴィヴィオの練習とかは見てあげてるみたいだけど……」
「DSAAの準備で忙しいんじゃねーのか?」
「ううん、よくよく考えてみると、あの絶交の話を聞いた辺りからだったと思う」
「ふーん……。まあうちの道場の門下生とも遊びに行くーってのはねーな。でもそれは強くなろうとするのに全力を傾けるとかじゃねーのか? お前もそうだったし、ティアナだってそうだったろ。デバイス作るので息抜きはしてるみたいだし」
「そう、なのかな……」
「なにより、いつまでもアタシ達にべったりなわけねーだろ。リヴァとだって仲良くやってるしな、それもあって時間が取れないだけなんじゃねーか?」
「それなら良いんだけど……」
ヴィータちゃんと同じように遊んでいる皆を眺める。
………その疑問の正解が「半々」であったことを私達が知るのは、一年後のことだった。
Side out