その50.5 とある魔法の固定砲台
放課後。校舎裏。
この二言で大半の人が連想するのは二つだけだ。すなわち、
……「闘争」か、「告白」か。
わたしが今直面しているのは、幸か不幸か後者だった。
「ごめんなさい。今の所、誰とも付き合う気はないの」
わたしが目の前に立っている割と顔の整った人にさらりと答えを返す。この告白が一度目という訳じゃない。最初は返事を返すのに緊張もしたけど、正直もう慣れた。
「……ど、どうしてダメなのか、聞いてもいいかな」
「今は勉強と練習で忙しいの。わたし、来年で
絶望を表情に浮かべた人に対してばっさりと答える。別に隠すような話でもないし、特待とるために並大抵じゃない努力が必要なのはバカでも分かる。
「そうか………」
それでおしまいだった。以前、「それでも……!」とか言ってくる人に対して「しつこい人は嫌い」と言ったのは案外効果的だったらしい。ちなみに無理矢理手を出そうとしてきたやつは魔法的に叩き潰した。
その後、私はクラナガンでお茶を楽しみつつ、友達と二人で話に花を咲かせていた。
「相変わらずモテるねえ、ルイーゼは」
「面倒なだけよ。あなたこそモテモテじゃない、ハリー」
「女子にモテるってのもなあ……」
苦笑したのは友達のハリー・トライベッカだ。以前ちょっとした大立ち回りをした時に偶然共闘して、それで仲良くなった。
「お前だって『いつかは恋愛……』とか考えてるんだろ?」
「まあね。まだ想像もつかないけど」
「そりゃ、オレもだけどさ。なら、相手に求める条件とかあるのか? オレの場合は強さと優しさが第一だけど」
「そうねえ……」
言われてとりあえず考えてみる。
「顔はまあよっぽどひどくなければ良いわ。正直、うちの兄弟……特に兄が結構顔立ちが整っているから割と見飽きてるのよね」
「随分と贅沢な発言だな……」
「慣れればそんなもんよ。強さも……最低限自分のみを守るくらいのことが出来れば良いわ。心というか芯が強いのは大前提だけど。兄弟が両方ともわたしより強いし慣れ」
「待て、ちょっと待ってくれ」
「何よ?」
ハリーの顔を見るとどこか疲れた目をしていた。何か変なことを言ったかな、わたし。
「お前より強い? お前の兄貴と弟が?」
「ええ」
「あのさ、それ相当だぞ。オレと最初にあった時、超堅い防御魔法で身を守りつつ、襲ってくるチンピラどもを軒並み砲撃かまして叩き潰してたお前よりも強いだと?」
「そうよ。実際、ほぼ全部攻撃躱されるし。防御の方も鋭い一閃で普通に切り裂かれかねないもの」
兄、ベルがパワーアタッカー。
弟、レーヴェはスピードファイター。
その二人と比べると私はまた別の意味で対称的だ。移動をほぼ捨て、火力と防御に特化したスタイル。莫大な魔力量でひたすら撃ちまくる。とりあえず目の前の的を薙ぎ払う固定砲台タイプなのだ。
「この前練習場のシミュレータの建物全部壊して更地にして担当の人に『もうやめてくれ』って泣きつかれてたお前がな……」
「ストレスがたまってたのよ」
わたしのあっさりとした答えに呆れてため息を着くハリー。
「お前、知らないかもしれないけど色々言われてるぞ。『
「同じ年頃の男の子ってそういう二つ名好きよね」
「オレは女だ!」
「分かってるわよ。それにしても、ねえ。わたし、射撃もちゃんとやってるのに」
「……そう言う問題か?」
「しょうがないじゃない、運動は得意でも魔法での近接戦がどうも兄弟と比べて向いてないみたいだし、射撃は遺伝なのか誘導できないし。多弾生成できるのが唯一の救いね」
「………はあ」
再びため息をつくハリー。
「幸せが逃げるわよ」
「お前のせいでな。ったく、お前がDSAAに出ないって言うのがおかしいと思うんだけどな」
「あまり趣味じゃないのよ。あ、今度の大会、弟が出るらしいわよ」
「へえ、そいつは楽しみだ。……っと、話がめちゃくちゃずれたな、戻そう」
「あ、ハリーの条件から考えると弟はそれなりに優良物件だけど既に目を付けてる子が何人かいるみたいよ」
「いや、オレじゃなくてお前の方な。顔は別に普通でいい、あんまり強くなくてもOK、芯が強いのが大事。それで……他は?」
「さあ?」
「『さあ?』って………お前顔といい家といい実力といいスペックが凄い高いんだから、あんまり自分を安く売るなよ?」
「心に留めておくわ」
わたしの言葉にハリーは「ホントに大丈夫か」とでも言いたげな目をした。
喫茶店を出て、エルセアの方に戻るというハリーと一緒に駅まで歩く。
「そう言えば、あなたはDSAAに向けて調整は進んでるの? この前言ってた一撃でぼろぼろにされた一昨年の抜刀居合の対策とか」
「うっ、うっ……」
「ほら泣かない。それで、対策は?」
「ぐす、いちおーできてる」
「ならよかったわ。応援してる」
「……ありがと」
……全く、こういう所がわたしの友人の可愛い所なのだ。思わずぎゅっと抱きしめたくなる。
少し邪念を抱きながら歩いていると、目の前から
「ドロボー! ひったくりよ、捕まえて!」
叫び声が聞こえた。見ると、前から走ってくるバイクの運転手が何か女物のバックを掴んでいる。
……許せない。
「ハリー、足止めするから取っ捕まえて。開幕よ、
「あいよ、セットアップ!」
『承知』
ハリーがセットアップするのを横目に見つつ、わたしは即セットアップ、弟が作ってくれた愛用の
『Scarlet Buster』
「ファイア」
即座に砲撃を叩き込んだ。バイクをバインドで捕え、さっきの砲撃でバイクから吹き飛ばされるひったくり犯にもう一度杖を向ける。
「もう一発。スカーレット」
『Buster』
空を舞うひったくり犯を撃墜。そこでようやくハリーが犯人を捕える。
「大人しくしやがれ……って、完全に伸びてるな」
高速直射砲による精密連続射撃は完全にわたしの領分だ。実際、バイクも道路車線をはみ出さないように止めたし、撃ち落とす先も安全を確認している。
「相変わらず恐ろしい砲撃だ」
「普通よこんなの」
弟の伝手で教えてくれた高町なのは教導官のおかげ、と言ってもいい。
まあ、犯罪者を捕えるのに成功してよかったよかった。
………その場にやってきた局員さんに「やりすぎ」と怒られました。くすん。