長い事お待たせしました。
その53 謎の冥王X 参
手っ取り早くその後に起きたことを説明しよう。
バレた。泣かれた。怒られた。
どこからあの戦いがバレたのか。言うまでもない、一緒に戦っていた局員さんだ。事情聴取という時点でミウラにはあっさりとバレて、しかも聴取してくるのがティアナさんという時点でもう十分である。
ミウラは知った直後から本気で大泣き。
ヴィヴィオもティアナさん経由でバレて大泣き。
どっちもなだめるのがそりゃもう大変だった。
それで無茶をしたことと女の子を泣かせたことでティアナさんを皮切りに八神家一同とナカジマ家となのはさんとフェイトさんからの雷が待っていた。本気で死ぬかと思った。
……両親からの怒りが全然なかったのはどういうことなのか。曰く「あの事件で無茶をする性格なのは分かってたし、性分と割り切った」とのことである。親父はともかく母親は涙ぐんでいたので申し訳なかったけど。
それで、ティアナさんの事情聴取だけど。
「……冥府の炎王イクスヴェリア?」
「はい。完全に記憶してる訳ではないので完璧で正確とは言いがたいんですけど…」
「無限書庫に行けばもっと詳しい情報が間違いなく得られる」と話した上で概要を説明すると、ティアナさんは真剣な表情で聞き入り、何度も頷いて、
「じゃあ、オットーの方に頼んでみる。あんたはしばらく忙しいんでしょ?」
「ええ。でも、また何か協力できることがあったら何でも言ってください」
捜査において重要な情報を得られたと喜んでいた。
さらに翌日。
ミウラに謝るために、俺は八神家に来ていた。
……よく考えたら、あんな事件があった後なんだから、ミウラが来なくてもおかしくはないのだけれど。
でも、いた。
「ミウラ、ちょっと向こうで話さない? ……この前の事件のことで」
「……うん」
ミウラが頷いて、俺たちは少し離れた道場の裏に出た。
「…ごめん」
全部話した。彼女の名前と事情は流石に伏せたけど、それ以外の部分は隠さなかった。
傷つけるかもしれない。でも、隠し続けてさらに傷つけるよりはマシだと思った。
「………そ、っか」
ミウラは俯いて、ぼそりと一言、そう漏らした。
「ねえ、今でもボクのこと、重ねて見てる?」
「……いや、今は見えない。時折重なって見えるだけだし、そうしないように努力するつもり。……お前が許してくれれば、だけど」
「………なら、逆に考えればいいんだよね」
「え? 逆?」
「いつかその人に再会した時。その人がボクと重なって見えちゃうくらい、これからいっぱい思い出を作っていけば、そういうことも無くなるでしょ?」
ミウラは顔を上げて悪戯っぽい笑みを見せた。
「……うん、許したげる。でも条件があるよ? 一つ目は出来るだけでいいから、他の
「それは、勿論」
力を込めて首を縦に振ると、ミウラはさらに笑って、
「二つ目は、今から一緒にお風呂に行くこと」
「……え?」
「さすがにそれは他の人とはやったことないでしょ? ほら、行こ!」
わけも分からぬまま、俺は力強いミウラの手に引っ張られていった。
ヴィータさん達が止めるかと思いきや、「ま、しょうがねえか」とあっさりスルー。
そのまま風呂場に突入した。そう、そのまま。水着すら着ないで。
………誤解のないように言うが、風呂場では俺は何もやっていない。精々ミウラの背中を流したり髪の毛を洗ったりしたくらいだ。相手をなるべく見ないようにしたのは言うまでもないことである。
逆にミウラのスキンシップが過激だった。
俺も外見年齢はともかく精神年齢は単純に考えればきっと大人のレベル。ツルペタだし大丈夫だろうと思っていたら、普通にきめ細かい肌が偶然こすりつけられたりしてドキドキして危うくナニカに目覚めるところだった。
出る時に「また入ろうね」とか言われたけど、うん、無理。正直俺の理性がもつかかなり怪しい。
昼から思いがけずシャワーを浴びて少なくとも身体はすっきりした俺が次に向かったのは、師匠の家だった。
「そうか。使ったか」
「はい。でも偶然みたいです。朝試してみたんですけど上手くいかなくて……」
「まあそう簡単に使われちゃ俺も立つ瀬がねえさ」
師匠曰く。
鉄血転化は、いわゆる心身のリミッターを一度外し、戦闘用に最適化して
「最終的には本能を自分で呼び起こして掛け直す……どころか鍵詞だけで一気に最適化状態まで持っていくレベルになるな。そこから先はいろいろだ。鍵詞の短縮、最適化の設定の見直し……戦い方によって用途は微妙に変わるから、本人によるカスタマイズみたいなのが必要になる。ま、要修行だな」
「よろしくお願いします」
「おう。で、その昨日の事件だ。マリアージュにイクスヴェリア……か」
「ええ、何か知ってるんですか?」
「ずっと前、傭兵稼業やってた時にな。依頼人から聞いたことがある。オルセアの内戦地域だ。トレディア・グラーゼって名前の何ともイカれた思想のじいさんだったが、金払いはよかったよ。依頼内容は確か遺跡内部までの護衛と敵対勢力の排除だったか。ま、依頼達成は楽だったが」
……そんなつながりがあるとは思ってもいなかった。
「だが、あの爺さん今更なぜ出てきた? 一連の事件に関連があると考えても、はっきり言って遅すぎる。鍵が見つかりそうだと聞いたのは5年以上前だし………少し調べてみるか」
呟く師匠の目は……かつて傭兵であった頃を思わせる鋭い目だった。
さらにその翌日の夜。
一連の事件と同様の火災がベルウィードホテルで発生したものの、被害は以前と比較して軽微というニュースを見た後のこと。
ギンガさんから通信があった。たしか事情聴取の時に一緒に捜査することになったってティアナさんが言ってたな。
「あのね、お願いがあるの。別に断ってくれてもいいんだけど」
「あの事件の関係ですか?」
「そう。それである人と話をしてほしいんだ」
「へ? 人ですか?」
「うん。………ジェイル・スカリエッティ」
ぶったまげた。
彼に会うことになったという事態に驚いたのではない。
彼が俺に会いたがっているという事実に驚いたのだ。
なぜ会いたがっていると思ったか。普通に考えてみれば、管理局側がわざわざ俺を面会させるメリットがないからだ。そう考えると、スカリエッティが何かの条件としておれに会うことを提示してきたと判断するのが一番簡単だ。
しかし、どこで俺に興味を持った? ヴィヴィオ関連の何かか……?
「あの、いやなら別に」
「いえ、行きます」
興味を持った理由も気になるし、何より、少しばかり
「明日でいいんですか?」
「うん、昼過ぎに地上本部前で待ってるから」
「分かりました。授業終わった後に行きます」
「うん、よろしくね」
さて、無限の欲望。
顔を見たことは何度もあるし、シミュレーターで戦ったこともあるが、本人に対面するのはこれが初めて。
まああっちは虜囚の身。心配することはないんだろうが、それでもあいつの圧倒的な知と狂気、片鱗くらいは見れるかもしれない。
不謹慎かもしれないが、少し………楽しみだ。
次回、スカリエッティと対峙。あと2話程続きます。