いよいよX編最後です。
さて、前書き代わりに感想返しをば。
>羊羽さん
わりと前の話……師匠との邂逅で名前はさりげなく出てますよー。その24の最後あたり。というか、今回冒頭でも出てきてしまうのですが。
StSの頃はゆりかごの完全AMF状態で隊長陣がほぼ何も出来ませんでしたから、ほぼ確実に敗北でしょうね……。
>ジム3さん
流石にエクリプスウィルスを治す所までは出来るかどうかは分かりませんが、あくまで確認です。救えるのか、否か。あるいはもう一度スカリエッティとの交渉なんて事もあるかもしれません。それに、主人公だけで救う訳でもないでしょうし。
>はぐれ メタルさん
「元は古代ベルカの魔導書」という設定だったので、無限書庫のところで偶然知った……あるいはデバイスマイスターとして仕事をしていた時に偶然教会騎士団の中で噂を耳にした……といった事にして誤摩化す事になると思います。この時点でもうトーマの故郷の事件とかは起きていますし、実際特務が出てくる前も事件は(辺境の方で)結構起きていたのではないかと。……あくまで推測になってしまいますが。
その55 謎の冥王X 伍
Side テオドール・アキュラ
火災の起きているマリンガーデンのすぐ近くのビルの上から俺は事態を眺めていた。
………やれやれ、捕まえたか。
あの様子だとリスクを承知で証拠を流す必要もなかったか?
しかしまあ、アイツは………レーヴェは俺からすれば弟子だし、俺にとっても関わりのある所だったからな。
ある程度は協力して正解だっただろう。
それにしても。
「捕まって、よかったじゃねえか」
何となく、俺は路地裏で倒れている女……ルネッサ・マグナスに向けて呟いた。まあこの距離だ。聞こえているはずなんかないんだろうが。
あの女はちょうどトレディアの依頼を受けていた時に見た覚えがある。もっともその頃はアイツはまだガキだ。今の俺を覚えているかどうかも怪しいものだが。破滅的な目をしていたから妙に記憶に残っていた。ああいうのは早死にするものだと思ってたが、例外はどんな所にでもあるらしい。
そう、もし仮に捕まっていなかったら。逃げ切っていたら。
「その時は、かつて置いた仕事道具をもう一度手に取らなきゃならなかったかもしれないからな」
気づかぬ所で命拾いをしたマグナスに向けて嘯いて、俺はその場を去る事にした。
さて、あの弟子の「鉄血転化」の調整もどうにかしないとな………。
Side end
結局俺はその後の火災の方には行けなかった。……というか、流石に止められた。
しかし、死者なしで結局無事に解決したのだから、出張る必要もなかっただろう。
海上隔離施設に保護されたイクスの見舞いには時折ヴィヴィオと一緒に行っている。
修行とかの理由で断る事もあるので、まあヴィヴィオ程の頻度ではない。
そして、マリアージュ事件から一ヶ月と少し。いよいよ、明日からDSAAのインターミドル・チャンピオンシップがはじまる。
学院の昼休み。
いつもの様にリヴァと食堂で昼食をとろうと思っていたのだが、
「レーヴェ! 一緒にご飯食べよ!」
「あの、もしよろしければ、なんですけど」
ヴィヴィオとコロナから昼食の誘いがあった。断る理由も別段見つからないので了承する。
「ん、ああ。分かった」
「なら、僕は失礼しグエッ!? な、何をするのかなレーヴェ?」
逃げ出そうとしたリヴァの首根っこを引っ掴む。
念話でどうにか説得した。
『お前も来い。一人で二人の女子の面倒なんか見てられるか』
『両手に花という言葉に真っ向から喧嘩を売ってるね………』
リヴァが力なくため息をつくが、そんな事は知った事ではない。
「き、気が変わった。僕もご一緒させてもらうよ」
「じゃ、食堂の席探すぞ」
リヴァを頷かせてからそう言うと、ヴィヴィオは少しもじもじして、
「えっと、中庭で食べたいなーって。私、お弁当持ってきてるし」
「そうか、なら席を取っといてくれ。そこのリヴァは楯か何かに使え。購買へ行ってくる」
『最近僕の扱い酷くないかな!?』
『元々だ。お前はカリモフメロンパンでいいな?』
『人は糖分だけで生きて行ける訳じゃないんだよ!?』
『なら焼きそばパンで大量に炭水化物を取れば問題ないな』
『どこが!?』
『仕方ない、イチゴミルクも買ってきてやる』
『だから……いや、もういいや』
超高速でリヴァとの連絡をすませ、購買という名の戦場へダッシュ。
「ふえ!? あ、そうじゃなくて……行っちゃった」
「一秒の差が勝敗を分けるからねえ」
ちなみに俺が買ったのは最高難易度を誇るBLTサンド。リヴァが微妙な視線を送って来るのは断じて気にしない。
いや、それはいつもの事なのだが。今回はもうちょっと重要な理由があったりする。
「あのねレーヴェ、今イクスから映像通信が来てるの!」
「そうか、良かったな」
「うん! ……じゃなくて、レーヴェもこっちに来なよ!」
「はいはい……」
近寄ってみると、以前から寝顔だけは見た事のある少女……イクスがなにやら恐縮していた。
『あの、お話はお聞きしています。申し訳ありませんでした』
「……あ、マリアージュの事か。別に気にする必要はない。あなたが命令した訳じゃないし、実際生きている」
『ですが……』
「……はあ。そんな問答に時間を費やす暇があったら、もう少しヴィヴィオと話してやってくれないか? 俺としては古代ベルカの王関連で聞きたい事………特に
俺のため息まじりの言葉にイクスは不思議そうな顔をしていたが、しばらくしてふんわりと微笑んで、
『あ、いえ。その……じゃあ、お言葉に甘えさせていただきます』
……BLTサンドをかじりつつ、和気藹々と会話する様子を眺めていると、リヴァが寄って来た。
「随分とゆったりしてるじゃないか、明日からインターミドルだって言うのに」
「まだ初戦だろ。………あのな、よっぽど運が悪くない限り俺達は最低でもエリートの予選三回戦位までは勝ち上がれるって誰もが太鼓判を押してるんだ。そんな運が悪い事態を想定してもあまり意味がないし、こんな所で緊張してちゃ身が持たんぞ」
「……それもそうだね」
そろそろ昼休みも終わる。教室に戻ろうとしてた所で、ヴィヴィオが通信画面を閉じてこっちに来た。
「楽しかったか?」
「うん。……あのさレーヴェ、覇王って? さっき言ってたよね」
教室に向かいつつ、後ろから話しかけてきたヴィヴィオの言葉に少しどきりとする。
イクスとの会話、きっちり覚えてたのか。
まあ、誤摩化し方はいくらでもある。
「……古代ベルカの王の一人さ。記録によると武術に優れてたらしい。それがどんなもんだったのかちょっと興味があってな」
「ふーん……」
そのまま俺は教室へと戻った。あの事をより鮮明に思い出して出てきた心の鈍痛を抱えたまま。
Side 高町ヴィヴィオ
無邪気に質問したとき、わたしは気づかなかった。気づく事が出来なかった。
覇王という言葉が彼の口から出てきた意味に。
レーヴェが見せようとしなかった胸の痛みに。
気がついたのは翌年の春……覇王の血脈を受け継ぐ少女と出会った後の事だった。
やっとX編が終わりました。
次からやりたい放題の「一年前の男達のDSAA」編……言い換えれば「なんでお前ら転生者じゃないんだよ編」が始まります。
原作の方に倣い、最初はキャラの紹介からですね。……そこでもう何となく大部分の方はいろいろと察してしまいそうな……