今回も感想返しを。
>いためしさん
実はにじファンの時もその話で結構色々あったのですが、St.ヒルデの初等科は5年生までだそうです。恐らく年齢等の問題もそこらへんではないでしょうか。
さて、登場するキャラ全てが何らかの元ネタが存在します。あるいはデバイスの名前すらも。全て完膚なきまでに読み切る人はさて、いらっしゃるのでしょうか。
その56 戦場に集う怪物達
ミッドチルダ西部、エルセア地方。
「泰斗流」という札が掲げられた、こじんまりとした道場の中でその男は無心に身体を動かしていた。
蹴りが空気を引き裂き、拳が砲弾のような速度で放たれる。
しかしそれでいて、力任せな様子ではない。力に振り回される事なく、完全に制御下に置いている。
一流……否、超一流と呼ぶにふさわしい技量だった。
痩せてはいるが、かなり引き締まった体躯だ。浅黒い肌の下は強靭な筋肉で覆われている。その爛々とした赤い目と、身体から溢れ出る獰猛な戦意は凶暴な一匹狼を思わせた。
「……こんな時間からやっているの?」
呆れたような声が後ろから聞こえた。オレンジ色の髪の男は拳を振るいながら答える。
「ああ、もうすぐ大会だからな」
「まったく、
「ハッ、カマトトぶってんじゃねえよ。テメエも同じじゃねえか、キリカ」
毒づかれた黒髪の女性……キリカ・コクランは、何も聞こえなかったような顔で言葉を続ける。
「それで、今回はどうなの?」
「………予感がする」
「ふうん、どんな?」
「勿論……!」
キリカの冷たい微笑に答えながらも、その豪快にして精緻な動きは止まらない。
腹の底に衝撃が来るような強い踏み込み……震脚の後に、全身の動きを使って拳を振り抜く。
10mほど先にある床の間で花瓶に生けられた花が、拳圧で揺れた。
「面白い敵と戦える予感に決まってるだろうが………!」
その男は……ジェクト・ヴァゼックは、歯を剥き出しにして猛々しく笑った。
ジェクト・ヴァゼック(17)
Style 泰斗流
Skill 発勁
Magic 近代ベルカ
Device『ブラストギア』
インターミドル参加履歴:5回
最高戦績:都市本戦 2位入賞
ミッドチルダ東部、13区。
パークロードをはじめとする娯楽施設で賑わう12区の隣。
そこでは大柄な青年が自分のデバイスを磨いていた。ぼさぼさの黒髪の下、金色の目を隠すように鼻先に丸形のサングラスを掛け、どこか気だるそうな雰囲気を纏っているものの、その磨く手は手抜きを一切していない。
またそのデバイスが異様だ。管理局の一般的な魔導師が持つような簡易的で洗練されたものとはかけ離れている。無骨なそれは質量兵器の対戦車ライフルかなにかを思わせた。
じっくりと磨き続ける青年の後ろから声がかかる。
「よう若人! しっかり磨いてるかい?」
「……
「それにしてもこの
元は人外を滅するための技術だったんだがね、と愉快げに呟くプラチナブロンドの女性をちらりと見やった後、ため息をついて磨く作業に戻る。
「別にそっちの仕事も継ぐつもりだから安心してくれていい。………どのみち、最後だしな」
「ああ、年齢の話か。執行官は継いでくれなくてもいいんだけど………」
特務執行官。自然保護隊の中に存在する仕事の一つである。自然保護隊の任務は基本的に自然の観察・保護であるが、観察している中、ごくごく稀に、突然変異種が生まれる事がある。それが普通の存在ならば良いものの、逆に自然を破壊する……すなわち、別の生物を絶滅させかねない存在であったり、世界に対して毒となる存在であったりする場合がある。あるいは、技術者型の次元犯罪者が生物で実験を行い、結果として生まれた危険な動物が野に放たれる……などと言った事も多少存在する。実際、そのせいで彼の師匠……フィリシスの故郷である世界は汚染され、人の住めない世界になった。
特務執行官とはそういった世界に悪影響を起こしかねない危険生物を世界を守るためという理由の下に抹殺する、いわば汚れ仕事である。犯罪歴のある人間でも実力があればその資格は取れるが、その危険故に殉職者も多い。故郷を滅ぼしたモノへの憎悪を糧として戦ってきたフィリシスも大怪我をして引退をしている。
「ま、死なない程度に頑張んなよー……あの娘が泣いちゃうから」
そこに無表情の少女が顔を出した。蒼い髪に、赤い目。手に持った盆の上に、冷たい茶の入ったコップが乗っていた。
「お茶を持ってきました」
「ああ、ありがとうな、ティオ」
「…………負けてもいいので、絶対に帰ってきてください」
呟く少女……ティオ・フェルナンデスに苦笑して、青年…エリック・
「ま、やるだけやるとするさ。……きっちり生き尽くしてから死ぬって決めたんでな」
エリック・プラトー・スタインバーグ(19)
Style
Skill 知覚加速
Magic オーバル・アルマデウス式
Device『スフォルテンド』
インターミドル参加履歴:3回
最高戦績:都市選抜 2位入賞(都市本戦優勝)
ミッドチルダ南部、アルトセイム地方。
のどかな牧羊地帯で、左手に篭手型のデバイスを装着した金髪の少年が魔法の練習をしている。
「よっと」
かけ声一発とともに周囲に魔法陣が浮かび上がり、無数の銀の鎖がそこから生まれでる。
召喚魔法。その中でも練金召喚ともいわれる無機物召喚だ。
「さて、と」
召喚した銀鎖を操作して、近くに置いておいたボールを掴ませる。そのまま鎖を利用したお手玉を始めた。
異常なまでの制御能力と言っていいだろう。
「やっぱり操作難しいなー……」
実際に見る事もせずにボールを弄ぶ。
と、不意に危機感を覚えて少年は銀鎖の一部を後頭部を守るように動かした。
「ウチの前で大道芸やってんじゃないわよ!」
「おぐぉっ!」
少女の怒鳴り声とともにスパナが飛んできて………銀鎖での緩衝をものともせずに後頭部から少年を打ち倒した。
……少し痙攣していたが、しばらくして少年は大きなたんこぶを作った状態で立ち上がる。
「……あのなサラ」
「なに?」
首を傾げる黒髪の少女……サラ・カーティスに向けて少年は喚いた。
「スパナはやめろ! 俺じゃなかったら死んでる!」
「大丈夫よ、あんたにしかやらないから」
「俺でもやめてくれ! 言ってくれれば聞くから!」
「ホントに聞いたかしら? 大方、初めての大会だからって気合い入れてるんでしょ」
「むぐっ」
サラの言葉に少年は押し黙る。
「大丈夫よ、あんたなら。あたしの作ったデバイスがあるんだし」
「………本当に大丈夫か、シルバーウルフ」
少年は篭手状のデバイスに声をかけた。単純な甲冑のそれよりも複雑で無骨なそれは、一瞬駆動音を立て、
『大丈夫です、マイスターは時折思考が変な方向にいきますが、それ以外は優秀です』
「その暴走が心配なんだよなー………はぐ!?」
「殴るわよ」
「殴ってから言うな!」
涙目になって二段目のたんこぶを押さえる少年に、サラはため息をついた。
「まあやるからには全力でね。頑張りなさいよ、応援してるから」
「……おう、任せろ」
その言葉に少年は……ヴァン・エルリックは不敵な笑みを浮かべた。
ヴァン・エルリック(14)
Style 練金格闘
Skill 瞬間練金
Magic アメストリス式
Device『シルバーウルフ』
インターミドル参加歴:初出場
ミッドチルダ首都、クラナガンの市民公園、公共魔法練習場。
そこで一人のプラチナブロンドの青年が皮肉げな微笑を浮かべながら、長銃型のデバイスを手に射撃練習を行っていた。
狙う的の中心部以外に当たっている様子はない。
まさに百発百中だった。
「……ここにいらっしゃったんですか」
「ああ、少し待ってくれ、チェルシー」
もう一発で終わりだ、と姿を見せたメイドに告げて、引き金を引く。
その弾丸もまた、過たず中心を射抜いた。
「それで、父上と母上は今日も喧嘩かな?」
「いえ、その……」
「まあいいさ、僕の邪魔をしないのであればね」
言いよどむチェルシーに鼻を鳴らしてみせて、青年は用意されていた高級車の助手席に乗り込む。
自分の射撃の成績も、それを見て唖然とする他の人々も当然のものとして興味も持たないまま。
「こちらもあちらの邪魔はしない。喧嘩も浮気も不倫も好きにやってくれ。ただし、こちらの邪魔をするようであれば、僕も本気で怒る。そういう契約だからね」
「若様………」
「いや、君がそのような顔をする必要はないよ、チェルシー。『親はなくとも子は育つ』、なるほど至言じゃないか」
くすくすと暗い笑みを浮かべる青年にチェルシーは何も言う事が出来なかった。
雰囲気が暗いものの、常に従者の気遣いは忘れない。
雰囲気が暗いのは家の事情で仕方のない事だし、使用人達にも優しく接する事から、実は彼は家の中で一番、使用人達からの信頼は厚い。
そのような事にも大して興味は示さないまま、
「さあ、久々の楽しい戦いの始まりだ。精々楽しむとしようじゃないか………!」
冷たい笑みを浮かべて、彼は………ラウ・オルコットは宣言した。
ラウ・オルコット(16)
Style 遠距離封殺射撃
Skill
Magic ミッドチルダ
Device『プロヴィデント・ティアーズ』
インターミドル参加歴:3回
最高戦績:都市本戦5位入賞
ミッドチルダ北部、廃棄都市区画。
立ち入りがある程度制限されているものの、周囲への影響を一切考えずに魔法の練習を行うにはちょうどいい場所だった。
そこで何かが崩れ落ちるような轟音が響く。
廃墟と化していた建物の一つが突如として崩壊したのだ。
勿論、自然現象ではほとんどあり得ない。
それを引き起こした……引き起こしてしまった大柄な少年は右手に身の丈程の大剣をぶら下げたまま、左手でぐしゃぐしゃと赤い髪を掻いた。
「あー、うるせえ……もうちょっと小さいの狙えば良かったぜ」
目の前で土煙を上げる崩壊した建物の一部に、鋭利な切断面が見える。
どうやらその少年が斬ったらしい。それも力任せにではなく、技術的に。
しばらく「あー」だの「うー」だのうめき声を上げてから、少年は気を取り直したように大剣を両手で握り、
「よし、気にせず次いってみるか!」
「ダメです!」
ぴょん、という擬音が似合う感じで金髪の小さな少女が後ろの路地から飛び出てきた。髪をツインテールで結び、背丈に合わせたツナギを着た少女は涙目で少年を睨む。
「すっごい大きな音でした。びっくりして心臓飛び出ちゃうかと思いました。反省してください」
「ああ、さっき反省した。そういう訳でもっと小さいのを狙う事に……」
「結局壊したら大きな音するじゃないですか!」
「大丈夫大丈夫、今度は音押さえるから。なあリッド?」
少年が大剣型のアームドデバイスに声をかけると、即座に同意が返ってきた。
『OK, I'm ready』
「ダメですってばー! ………もう。言う事聞かないならお昼抜きですよ!」
「そ、そいつは困る!」
慌てて少年はそっぽを向いた少女のご機嫌取りに走る。
「なら、むやみに建物を壊さないでください!」
「う……わかった。以後気をつける」
「もう、…………大会が近いのは分かってますけど、そんなに焦らなくてもいいと思います」
「いや、別に焦ってなんか」
少年は言い返そうとするが少女の……ピア・ラッセルの微笑みで思わず口が止まった。
「あなたが強いのはわたしが一番良く知ってますから」
「……わかったよ」
かなわねえなあ、とぼやき、赤毛の少年は……レイヴン・
レイヴン・オーヴァ・ストライフ(14)
Style 重剣士
Skill
Magic 近代ベルカ
Device『セイクリッドブレイズ』
インターミドル参加歴:初出場
ミッドチルダ北部、ベルカ自治領。
ベルカ自治領の中でも聖王教会本部等の集まる中心部から遠く離れた辺境の村。
その村の中にそびえる大きな樹の上で、一人の紅い髪をポニーテールにまとめた少年が美味しそうにリンゴをかじっていた。どうやら食べるつもりなのは手に持った一個のみにとどまらない様で、その腕にはどっさりとリンゴが抱えられている。
「……家の手伝いもしないでなーにやってんのよ」
「よお。食うかい?」
下から聞こえた声の主に視線を向け、少年は新しいリンゴを手に持って示してみせた。
車いすに乗った蒼い髪の少女は、少し顔をしかめてみせた。
「食うかい、とかいってる場合じゃないっつーの。……まあ貰うけど」
「ほれ」
少年が放り投げたリンゴを少女は見事にキャッチ。そのままかじり始める。
「家の手伝いは一足早く終わらせたんでね、休憩してるんだ」
「何もそんな所で休憩しなくてもいいでしょうに。バカと煙は高い所が好きってやつかねー」
毒づきつつ、少女はのんびりしている少年をちらりと見た。
「そろそろだね」
「ああ。お前もこのタイミングで複雑骨折たぁまたアンラッキーだな。暴走する車から子供かばうなんて、すげーとは思うけど」
「うん……。まあいいよ、来年があるし。あたしとしてはあんたがどこまでやるのかが気になるわねー」
「なーに、未だに
「……最年少で最高段位をとる可能性の高い天才の台詞とは思えないわねー」
呆れて苦笑した蒼い髪の少女……サヤカ・ユンに少年は笑って答える。
「大丈夫、俺より凄いのなんて世界には沢山いるさ、きっと」
「早く凄い人と戦えるといいね、ルヴィ?」
蒼い目を細めるサヤカの言葉に少年は……アルヴィル・アプリコット=イシマエルはルビーのように紅い目をキラキラさせて、笑みを浮かべて大きく頷いた。
「うん、楽しみだ!」
アルヴィル・アプリコット=イシマエル(12)
Style 始祖伝承鎗術
Skill 割断
Magic 真正古代ベルカ
Device『シグリッド』
IM参加歴:初出場
ミッドチルダ首都郊外、St.ヒルデ魔法学院。
二人の少年が帰宅の途についていた。
「じゃあ、また明日」
「ああ、また明日、だな」
分かれ道のところで二人は言葉を交わす。
「君とはなるべく先……出来れば本戦の決勝とかで会えたらいいな」
「おいおい、そりゃドラマチックすぎるだろう」
おどけて言うオリヴァルトにレオンハルトはおどけて返した。
「そういうのは、とりあえず最初の一戦で相手を倒してから考える事にしよう」
「同感だ。どうかあっさり負けないでくれよ? 格好がつかない」
「こっちの台詞だ」
笑いあって、今度こそ二人は別れた。
オリヴァルトのデバイス、フェネクスの方にはメールが来ていた。どうやら、ルーテシアもしばらくこちらに来て試合を見て行くらしい。
「……気合いを入れないとね」
少し笑みを浮かべてオリヴァルトは道を歩く。
レオンハルトのトロイメライの方にはヴィヴィオからのメールがあった。曰く、『絶対に見に行く!』らしい。
「まあ、気にしすぎるのも問題か」
応援を意識しすぎず自然体でいこうと、レオンハルトは歩みを変えないまま、家へと向かった。
オリヴァルト・アスラシオン(11)
Style 中距離射砲撃
Skill 術式合成
Magic ミッドチルダ
Device『ヴェスピッド』『フェネクス』
レオンハルト・ブランデンブルク(11)
Style
Skill フェイントストライカー
Magic 近代ベルカ&ミッドハイブリッド
Device『トロイメライ』
後に評論家達は口を揃えるようになる。
『男子DSAAにおけるミッドの黄金時代の始まり』
『世界クラスの怪物が一都市で争う異常事態』
『この時代にいる事が出来た自分の幸運に感謝したい』
どちらかと言えば華やかで、しなやかな強さが発揮される女性達のDSAA、インターミドルチャンピオンシップ。
その裏で、獰猛で荒々しい若き男達のインターミドルが、始まる。
という訳で次回から戦闘開始です。