今回は主人公の出番無し。代わりに皆さんが忘れてるであろうあのキャラが………
閑話 ある夏の日
Side 織斑一夏
夏休みも終わりが近づいて来た。
和人は「仕事が増えて行くのが遅れる」と言っていた。残念だが、二学期入ってから来るのを待つことにしよう。あいつは千冬姉より自己管理しっかりしてるみたいだしな。
そんなある日、いつもの面々……シャル、セシリア、鈴、箒、ラウラが家に遊びに来た。タイミングって凄いよな。
さて、大人数だし、手軽に作れる麺物でも………
ピン、ポーン
ドアのベルが鳴る。
他に誰か遊びにくる奴いたかな……?
「はい?」
出てみると、そこに立っていたのは………
「やっほ、一夏くん! 元気にしてる?」
桜井智子………和人の母さんだった。
「は、はあ……」
「むう、返事に気迫がないなあ。………まあいいか。それより」
手に持ったタッパーをこちらに渡して来た。中には煮物が入っていた。
「一人なんでしょ? ご飯作ったら余ったからお裾分け。お昼食べた後だったら、晩ご飯にでも食べてね」
「いつもありがとうございます……」
深々と頭を下げる。
この人は俺と千冬姉が二人で暮らしていた時から、
「息子のついでみたいなものだから気にしないで」
と言って俺たちの面倒をよく見てくれていた。旦那さんは海外に単身赴任中で時折そちらに遊びに行くこともあるらしいが、
「家族皆の帰る場所を守るのが私の役目だから」
と言って生活の拠点は変えていないらしい。
そう、とてもいい人なのだ。…………唯一ある欠点を除けば。
「おい一夏、玄関先で何を話し込んでい………」
「あら? あらあらあら?」
智子さんが妙な笑みを浮かべて箒の方ににじり寄ってくる。
「ひょっとして……箒ちゃん?」
「は、はい……ご無沙汰しております」
箒も世話になったことがあるので、頭を下げている。
だが、その行為が問題だった。
キュピーン!っと智子さんの目が輝いた。
その目は、じっと頭を下げることで強調されている、箒の大きな胸だけを凝視していた。
「フフフフフ……ずいぶんと成長したみたいね………?」
じりっ、とにじり寄る。箒は、昔千冬姉や束さんが同じ目をした智子さんに受けていた被害を思い出したらしく、顔色を真っ青にしていた。
「ひっ………!」
「さあ……」
手をワキワキと動かして………
「成長具合がどんなもんか確かめさせなさーいっ!」
「きゃぁああああああああああああああああああ!」
智子さんは箒の胸を揉みしだいた。
「た、たっ助けろ一夏!」
「ど、どうやってだよ!?」
玄関での騒ぎを聞きつけたのか、皆がゾロゾロとやって来る。
「おい、どうした……」
「何かありましたの……」
「何騒いでるのよ全く……」
「あはは、にぎやかだね………」
全員、箒の惨状を見て口がふさがらなかった。箒が涙目で皆を見て、
「み、みんな! たすけ」
全員、クルリと振り返ってもとの場所に戻ろうとする。
「さ、さあ、戻りましょうか」
「そ、そうだね」
「わ、私は何も見なかった」
「ひ、昼はやっぱり蕎麦かしら」
「は、薄情者ぉー!」
その声で、箒にむしゃぶりついていた智子さんが顔を上げる。
また目が輝いた。
「新しい美少女が四人も……フ、フフフフフフフフフフフフ!」
「「「「ひっ」」」」
「きゃっほーい!」
「「「「きゃぁあああああああああああ!」」」」
阿鼻叫喚の地獄絵図が始まった。
………どうにも、ピンク色の地獄絵図だったけど。
どうにかこうにか、ラウラと箒が押さえ込んだものの、智子さんは軍人のラウラが驚愕するほどの身体能力と執念でもって、しばらくの間、皆を蹂躙していた。
皆、実に息が荒い。
「はぁ、はあ、な、なんだこいつは! 特殊工作員か何かなのか!?」
さんざん頬擦りされたラウラが吐き捨てる。
「ほ、本当にとんでもないくらいの勢いで迫ってきたよね」
同じく頬擦りされまくったシャルも頷くが、俺や鈴、箒はビミョーな顔をするしかなかった。
「な、なんなのですかこの方は!?」
セシリアが凄まじい剣幕で聞いてくるので、取り敢えず俺は答えた。
「この人は桜井智子………和人の母親だ」
「「「………はぁああああああああああ!?」」」
「ちょ、ちょっと待ってくださいまし! あの和人博士のお母様ですの!? これが!?」
「ちょっとー。『これ』扱いは酷いんじゃないの」
「………残念ながら、事実だ」
セシリアの質問に智子さんが文句を言うが、それを無視して箒は渋々肯定した。
「じゃ、じゃあ、皆が『ふざけた奴』ってカズト博士を評価してたのは」
「同じ性癖があったのか………?」
「いや、さすがにそれは無いから」
シャルとラウラの問いに俺は首を振った。
「うん、あいつはベクトルが違うわね」
鈴が俺の言葉に頷く。
「もしもーし、ほどいてほしいんだけど……」
ラウラに縄で縛られた智子さんが、芋虫のようになった状態で体をくねらせる。俺たちはそれを残念そうな目で見た。
「これさえ無ければいい人なんだけどなー……」
「本当にね………」
「全くだ……」
この人の被害にあったのは彼女達だけじゃない。さっき言ったように、いなくなるまでは束さんまでもが揉まれていたのだ。
「もう、しませんか?」
俺が問いかけると智子さんは無邪気な笑顔を見せた。
「うん、もう美少女分は補充完了したから」
「美少女分って何よ………」
鈴が呟いた。
その後智子さんには昼ご飯を作る手伝いまでしてもらった。
昼食後そのまま智子さんも一緒にトランプをしている最中に、動揺させるためか、箒や俺の恥ずかしい秘密が大量に暴露され、俺たちは顔を真っ赤にするしか無かった。
わいわいと騒ぎながら午後四時をすぎた頃。
「なんだ、にぎやかだと思ったらお前た、ち……」
智子さんの目が再び怪しく輝く。
「ちょ、智子さん?美少女分は補充したんじゃ………」
「美少女分は補充されていても美女分は補充されてないのよキャッホーイ!」
飛び込んだ智子さんに「やれやれ」とため息をついた千冬姉は
「ふんっ!」
どげしぃっ!
智子さんに上段回し蹴りを叩き込んだ。
「ぎゃぁああああああああああああああああ!」
見事なピッチャー返し。
鞠のようにこっちに吹っ飛んで来た智子さんは、
「「げふっ………」」
俺に直撃した。
その後、しばらくして、千冬姉が出る時に智子さんを引きずっていった。
ずるずると引きずられる智子さんに、皆、言葉が見つからなかった。
Side end
Side ???
織斑家の近くで俺達は護衛対象……桜井智子の様子を見ていた。
「………やれやれだ」
「本当にな……」
二人してため息をつく。
俺たちは桜井和人博士の母君の陰ながらの護衛を任されているのだが、日頃から苦労が絶えない。
普段も普通に神経を尖らせていなければならないのは当然だが、
やはり天才の母親なのか、感覚が俺たちとずれていて、護衛しにくいことこの上なかった。
例えば、である。
イタリアに観光に行った時に彼女の目の前でマフィアの抗争が始まった。
皆普通に逃げ出すのに、彼女は、
「あらあら、派手な撮影ねー」
とのほほんとパスタを食っていた。
銀行強盗が来ようが迫撃砲弾が降ろうが平然としている。
普通、こういう度胸を持つのは俺たち護衛であって被保護者ではないのではないかと思うのだが、いつも平然としているから仕方ない。
給料がいいので続けているが、これで給料少なかったりしたら間違いなく辞表を出している。
とはいえ、「母に負担をかけないようにしてほしい」というのが依頼人の願いだ。しっかり果たさなければ。
『ぎゃぁああああああああああああああああ!』
………響き渡る、お世辞にも綺麗とは言えない悲鳴を聞いて、俺はたった今した決意が即座に崩れ落ちてしまいそうな気がした。
Side end
………実は、この話を書くためだけに主人公の母の設定を作りました。
……うん、人間時には遊び心も大事だよね!
次回、主人公の専用ISがそのヴェールを脱ぐ……はず。閑話連続させてもあれですし。
感想誤字脱字等あればよろしくお願いします。