今日で連載一周年。そう考えると、少し感慨深いものがあります。
書き始めた時はのんびり細々とやっていこうと思っていたのですが……、いろいろ、ありましたねえ……。一部は私がやらかしたのかもしれませんが。
さて、今回からしばらくはシリアス編。ぶっちゃけ終わりに至るためのフラグも用意し始めます。
裏話2 静かなる襲撃
北アメリカ大陸北西部、第十六国防戦略拠点。通称『
以前の事件をきっかけに準備された作戦が今、発動されようとしていた。
「いたぞ、侵入者だ! ISの所持が疑われる、射撃を集中して時間稼ぎに専念しろ! 応援も今要請した!」
「……雑魚が」
鬱陶しげな声を出し、少女……エムはIS「サイレント・ゼフィルス」を展開、長大な『スターブレイカー』という名のライフルを取り出し、兵士を次々と撃ち抜いていく。
「目的はなんだ!」
「ここに封印されているIS……『
「なに………!? …………っ!く、全員待避だ! 『イーター』の使用が許可された!」
『り、了解!』
兵士達全員が『イーター』という言葉に顔を引きつらせ、整然と撤退を開始した。
「………?」
エムは兵士が去って行くことに疑問を抱きつつも、好都合だと考えてハイパーセンサーに映るマップを確認して先に進む。
ひときわ大きな、鉄で出来た通路に出たところに、それはあった。
一見すると巨大な鉄の塊。しかしいくつもの砲口がその怪物の凶悪さを主張していた。
『イーター』。正式名称『
かつて全盛期の終わり頃、この国ではとある新兵器開発計画があった。それはいくつかの成果を上げたが、時代とともに自然消滅してしまう。
しかし、「
彼……桜井和人はいくつかの技術的問題を解決し、局地戦においてはISでも不利となるほどの兵器を生み出した。それらを生み出した理由が「開発に行き詰まった時の暇つぶし」だと言うのは笑えない事実である。もっとも、高額で、ISほどの万能性はなかったため、試作品と一部の完成品が使われるのみとなっている。
これはそのうちの一つ。簡潔に言えば、「50を超えるレールガンを束ねたもの」と言えるだろう。その重さ、反動から人が操るにはあまりにも凶悪すぎるのでロボットに操作させるしか無い訳だが、連射性能まで持つそれは文字通り一瞬で大型戦車を跡形も無く喰い尽くす。
「くっ!」
即座に身を翻し、その道からどうにか離脱する。直後、イーターの咆哮が聞こえた。
それはもはや音だけで兵器ではないかと思わせるほどのもので、エムが警戒していた跳弾なども一切無かった。そもそも跳ねるための壁を喰い破ってしまうのだ。
ISのシールドすら破りかねないそれを見て、攻略を考える。
その後しばらくして、先ほどの通路にエムは姿を現した。
再び起きる咆哮。エムはそれを即座に回避しつつ、『スターブレイカー』を『イーター』に向けて数発放つ。
実弾とBTエネルギー、両方ともこのライフルは撃てるのだが、今回撃ったのはBTエネルギーであった。
直後、内側から爆発する。
このイーターの問題の一つが熱である。当然冷却システムがあるのだが、それをBTエネルギーで破壊したのだ。そしてさらに熱を持った砲身を歪ませ、その結果、外へ向かうはずのエネルギーが内側で爆発した。
「鉄くずが………手間をかけさせる」
苛立たしげに呟き、先に進むと新たな影があった。人影……だが、先ほどのイーターの事もあって警戒していた直後、それは来た。
「っ!?」
光の羽のようなエネルギー弾が連射される。回避しようとするが……
(軌道を変えただと!?)
回避した先へとエネルギー弾が向かい、そのままエムに直撃する。
「お前は………」
「ナターシャ・ファイルス。国籍は米国で、将来日本の国籍取得予定。S&B社所属のISテストパイロット。そしてこの
すらすらと言いつつ、
「悪いけど、彼が蘇らせてくれたこの子を渡すつもりは無いし………いろいろ、聞きたい事があるのよね」
「………嵌められた、か」
「封印されている」というのは欺瞞情報。
「ふん……手間が省けた」
「あら、そんなに与し易い相手に見えるのかしら? なら………」
直後、ハイパーセンサーの
通路の、エムがちょうどいたところの左の壁が轟音とともに崩れ去り、虎模様のISが姿を現す。壁を拳で打ち砕いたのだ。
「2対1でもそんなに平然としてられるのかよ、
「アメリカの第三世代型『ファング・クエイク』か」
「おう。そして国家代表のイーリス・コーリングだ。ついでに言うとお前らが奪いやがった第二世代型『アラクネ』の前操縦者だぜ?」
そう言ってシャドーボクシングのように拳を振るってみせる。
「イーリ、私の分も残しておいてね。カズを危険にさらした償いはきっちりしてもらうから」
「了解、私が『アラクネ』の恨みを存分に叩き込んだらな」
かなり物騒なことを言っているが、その二人の目は本気だった。
『エム、即座に下がりなさい、折角の機体を失うわけにはいかないし……
流石に2対1は不利だ。さらに応援のISが駆けつけたら手に負えなくなる。
「………了解」
「逃がすかよ! ナタル!」
「ええ、私は先回りしてるわ」
そのまま銀の福音は別の方向へと向きを変えて一直線に飛ぶ。
一方、イーリスはそのまま追撃へと移っていた。
エムはBTエネルギーによる高速機動狙撃と同時に最高速で後退する。
イーリスは追いながらも狙撃を回避しなければならないため、距離は離される一方。地上まで100メートルのところで既に50メートル以上引き離されていた。
しかし、イーリスに焦りは見えなかった。
出口の辺りで親友が待ち構えていたからだ。
「展開」
展開装甲機能を持つ銀の竪琴が強く光り、エネルギーブレードが無数に現れる。通り抜けようとすれば即座にズタズタにされるだろう。
しかし、そこでエムは一言、ぼそりと嘲弄を含ませて言った。
「……やはり、見事に踊ってくれたな。こちらにここまでISを集中してくれるとは」
「っ!?」
ナターシャの中で思考が巡る。彼女の目的は恐らくこの
単純に戦力差を考えた上層部から命令を受けてとの判断も出来る。だがその言葉からするべき判断は………
「陽動…………!?」
ナターシャが動揺した隙を突いて、エムは横をすり抜ける。
「しまっ……!」
慌ててナターシャがブレードで斬りつけるが、エムはわずかに傷を負ったのみ。
そのまま一気に瞬時加速を利用して避けられる。
「逃がさない!」
元々高機動戦闘型である銀の福音を駆ってエムを追う。エムはビットも用いて連続で射撃を加えてくるが、ナターシャはブレードで全て遮り、そのまま突っ込む。
「く……!」
忌々しげに顔を歪め、エムは斬り破られた部分の装甲を強制破棄。さらにシールド・ビットを放出、一瞬だけ防御をして即座に破棄。高性能爆薬で目くらましも兼ねてダメージを与える。
「このっ……!」
ナターシャがそれを防いで、反撃に移ろうとした時、もうエムはそこにいなかった。
ハイパーセンサーの視覚拡大映像に遥か蒼穹の彼方に、わずかに色の違う蒼が映るのみだった。
「く………」
諦めて、上層部に連絡を取る。陽動である可能性を告げると、最悪の答えが返ってきた。
曰く、ちょうど同時に別の基地………コロラド州ピーターソン基地にて第三世代VFの試験機と第二世代VFの量産機が数機奪われたらしい。
「そん、な………」
捕えることが出来なかったことの悔しさと、想い人への申し訳なさとで、ナターシャは肩を落とした。
そんなわけで6巻最初の部分が若干変化しました。ここから大幅にずれていくと思います。
それにしても………、三人称のコツを掴みたいところです。