第二話
小四の冬休み、俺は長野にいた。
と言っても、スキーをするためじゃない。
腹を空かせたツキノワグマと、戦うためだ。
あれ?なんか、おかしくない?
「グオオオオオオオオオオオオオ!」
「死ぬ、これは死ぬ!死んじゃいますよ師匠!?」
「大丈夫大丈夫。いざとなったら助けてあげるから」
「こんなの絶対おかしいよぉおおおおおおおおおおおお!」
………結局ツキノワグマにはなんとか勝利した。本気で死ぬかと思った。
春休みも連れて行かれた。今度は北海道だった。もちろん、カニを食ったり、ジャガバタ食ったりするためではない。
今 度 は ヒ グ マ だ っ た
「ぎゃああああああああああああああ!死ぬ、マジで死ぬ!」
ちなみに、ツキノワグマの体長は大体150cm。それに対し、ヒグマは大きいと3mになる。なめとんのか。
そんな状況で我が師匠は平然とし、コロコロと笑っている。
「あはは、こわがりだなあケンは」
「ヘェエルプミィイイイイイイイイイイ!」
ぎりぎりで勝利した。死ななくてよかった。
小学五年生になった。その間も修行は続けていた。最近では神器の中に潜り、前所有者達からアドバイスを受けるようになった。
なんというか、気のいい人ばかりだった。「剣士らしい」、と言うべきか。
で、その一人に『数を作ると質が落ちるなら、一本の剣にすべてを賭けてみれば?』と言われて納得した。
木場は数を頼りにしている部分が一部あった。
俺はあいつじゃないんだから、あいつとは違う戦い方を見つける。それだけだ。
ということで、一本の剣に集中しようとするが、なかなか上手く行かない。
『こういうのって自己暗示が大事なんじゃないかな』という師匠の言葉を思い出す。
(自己暗示か……ならば)
俺は呪文を唱えながら、魔剣を想像した。
疾風を纏い、相手を鋭く切り裂く細剣 を。
「汝、真実を掴むもの、風を汝の手に委ねん……神を殺せ」
思っていた通りの一本の剣が現れた。
(剣に名前を付ける事で、意味を与え、強化する、か)
「汝に『烈風の細剣 』の名を授ける」
その言葉に細剣は……否、魔剣『アリア』は嬉しそうに輝いた。
「今は眠れ」
呟くと、細剣が消え失せた。だが、多分いつでも呼び出せる、と思う。また文言を唱える必要があるだろうが。
そして夏休み。
宿題が終わってしまうと、また連れ出された。また遠くなった。中東のとある荒れ地だった。宿題をもっとゆっくりやる方法を考えなければ。
今度はドラゴンだった。
体長およそ4m、体高およそ1.5mの化け物だった。思わず師匠に確認する。
「あの、師匠」
「なんだい?」
「あれ、なんですか」
「うん、今回の課題はあれ」
「無理っぽくないですか」
「大丈夫、竜っていっても下位竜種、空を飛ばない地竜だし。多分何とかなるよ」
「はあ……」
「うん、じゃ、いってらっしゃい」
「いってきます……」
肩を落としつつ地竜の元へ。その時、
(頑張りましょう、お手伝いします)
自分の内側から声が聞こえたような気がした。思わず笑みが浮かぶ。
「そうだな。じゃあお願いするか」
手を前に出し、呪文を唱える。
「眠りを解け。真実を掴め。風をこの手に。……神を殺せ」
最後の一言とともに、魔剣『アリア』が顕れる。
「じゃあ、いっちょやるか!」
俺は風をまとって地竜の元へ駆けた。アリアのおかげで体が軽い。
気づいた地竜は黄色い瞳をギロリとこちらに向け、咆哮する。
おれは纏う風のおかげで咆哮そのものに吹き飛ばされたりする事はなく、そのまま突っ込み、
(まずは初手……!)
ひと突きで右目を貫いた。
「ガアアアアアアアアアアアアアアア!」
地竜は凄まじい絶叫を上げ、のたうち回る。近づけないまま様子を見ていると、殺意が増した左目で俺を睨んでいた。
そのまま土煙を上げてこちらに突撃してくる。
(……今です!)
アリアのアドバイスを受けて、俺は地竜の右側へ跳んだ。
視界を封じられた側にいるので、地竜には俺の姿が消えたように感じられただろう。
そのまま突きを何発か繰り出すが固い鱗に阻まれて、なかなか有効なダメージを与えられない。
「っと!」
気づいた地竜がこちらへ向いて噛み付こうとしてきた。素早く後ろに跳び退る。
(今のままでは有効打を与えられない、か)
(…大丈夫です。手はあります)
考えていると『アリア』から声がした。
その言葉を信じようと思う。いずれにせよこのままでは勝ち目ないし。
もう一度同じ手を使うべく様子を見る。
そして隙をついてまた同じところに飛び込んだ。
(集中して纏っている風全てを剣に纏わせ、鋭くするイメージを!)
想像 する。もうひとつの刀身がアリアに重なるように。
そしてそのまま、俺は突いた。
今度は容易く貫いた。
(今です!魔剣の力を解放して下さい!)
俺の場合、魔剣を一本に絞っているため、魔剣にはいつも強い力を内包させている。
その力を解放する。普段は暴走しないようにするためリミッターをかけてあるから、そのリミッターを解くために力ある言葉を紡ぐ。
「唸れ烈風…恐怖とともに消えよ、哭け、極限の嵐!」
魔剣解放、『恐慌の大嵐 』。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
凄まじい勢いの風が、地竜の内側で荒れ狂い、内側から地竜をバラバラにした。
端的に言うと、かなりグロかった。
と、ふと手元を見ると剣がボロボロになっていた。
おそらく、刀身が耐えられなかったのだろう。
「お疲れさん、今は眠れ」
呟くと、また魔剣は消えた。
解放しつつそれを制御するのにはかなりの体力を使う。一発限りの大技だ。
疲れきった足取りで、返り血を受け、血まみれになったまま師匠の方へ歩み寄る。
「これで、いいですか」
「うん、なかなか良かったよ。まあちょっと時間がかかったかな?」
平然とそんな事をのたまう師匠にげんなりしていると、師匠の背後の方に
俺が倒したものより、ふた回り大きい地竜が現れた。
「ま、師匠 、あれ……」
「うん?」
振り返って確認し、またこちらへ向き直った。
「ケン、後一本だけ魔剣作って渡してくれないかな」
「……わかりました」
要望通り一本だけ作り出し、師匠に渡す。
「まあ今回はよく頑張ったしね、少し技を見せてあげる」
くるくると魔剣を回す。そして、
「これは基本的に大きい相手にしか使えないんだけど、多分君もそのうち使えるようになるだろうから。他の使い道もあるし」
トン、と師匠は地面を魔剣で突いた。
それと同時に、
ズバアアアアアアアアアアア!
魔剣が瞬時に砕け散り、地面が大きな地竜の方まで一気に割れ、地竜もまた真っ二つになっていた。
ズズン!
その地竜の残骸が崩れ落ちる。
「……は?」
驚愕、呆れ、その両方が混ぜこぜになって、俺はそんな間の抜けた言葉しか出せなかった。
「これはね、地脈の力を解放して敵を切り裂く大技なんだ。かなり使い道は限られるし隙も大きい。けど、これを大きな力を持った存在の体に使う、つまり相手の体の脈を地脈と見立てて使うと、相手の力が暴走、強制解放されて、たいていの相手は死ぬ、文字通りの必殺技になる。まあ、強い相手限定だけどね」
滔々と今使った技の解説を続ける師匠。
「秘技、天地神明破乖剣 。覚えておくといいよ」
「……そんなん出来るかー!」
正気に戻った俺は、絶叫した。
小四の冬休み、俺は長野にいた。
と言っても、スキーをするためじゃない。
腹を空かせたツキノワグマと、戦うためだ。
あれ?なんか、おかしくない?
「グオオオオオオオオオオオオオ!」
「死ぬ、これは死ぬ!死んじゃいますよ師匠!?」
「大丈夫大丈夫。いざとなったら助けてあげるから」
「こんなの絶対おかしいよぉおおおおおおおおおおおお!」
………結局ツキノワグマにはなんとか勝利した。本気で死ぬかと思った。
春休みも連れて行かれた。今度は北海道だった。もちろん、カニを食ったり、ジャガバタ食ったりするためではない。
今 度 は ヒ グ マ だ っ た
「ぎゃああああああああああああああ!死ぬ、マジで死ぬ!」
ちなみに、ツキノワグマの体長は大体150cm。それに対し、ヒグマは大きいと3mになる。なめとんのか。
そんな状況で我が師匠は平然とし、コロコロと笑っている。
「あはは、こわがりだなあケンは」
「ヘェエルプミィイイイイイイイイイイ!」
ぎりぎりで勝利した。死ななくてよかった。
小学五年生になった。その間も修行は続けていた。最近では神器の中に潜り、前所有者達からアドバイスを受けるようになった。
なんというか、気のいい人ばかりだった。「剣士らしい」、と言うべきか。
で、その一人に『数を作ると質が落ちるなら、一本の剣にすべてを賭けてみれば?』と言われて納得した。
木場は数を頼りにしている部分が一部あった。
俺はあいつじゃないんだから、あいつとは違う戦い方を見つける。それだけだ。
ということで、一本の剣に集中しようとするが、なかなか上手く行かない。
『こういうのって自己暗示が大事なんじゃないかな』という師匠の言葉を思い出す。
(自己暗示か……ならば)
俺は呪文を唱えながら、魔剣を想像した。
疾風を纏い、相手を鋭く切り裂く
「汝、真実を掴むもの、風を汝の手に委ねん……神を殺せ」
思っていた通りの一本の剣が現れた。
(剣に名前を付ける事で、意味を与え、強化する、か)
「汝に『
その言葉に細剣は……否、魔剣『アリア』は嬉しそうに輝いた。
「今は眠れ」
呟くと、細剣が消え失せた。だが、多分いつでも呼び出せる、と思う。また文言を唱える必要があるだろうが。
そして夏休み。
宿題が終わってしまうと、また連れ出された。また遠くなった。中東のとある荒れ地だった。宿題をもっとゆっくりやる方法を考えなければ。
今度はドラゴンだった。
体長およそ4m、体高およそ1.5mの化け物だった。思わず師匠に確認する。
「あの、師匠」
「なんだい?」
「あれ、なんですか」
「うん、今回の課題はあれ」
「無理っぽくないですか」
「大丈夫、竜っていっても下位竜種、空を飛ばない地竜だし。多分何とかなるよ」
「はあ……」
「うん、じゃ、いってらっしゃい」
「いってきます……」
肩を落としつつ地竜の元へ。その時、
(頑張りましょう、お手伝いします)
自分の内側から声が聞こえたような気がした。思わず笑みが浮かぶ。
「そうだな。じゃあお願いするか」
手を前に出し、呪文を唱える。
「眠りを解け。真実を掴め。風をこの手に。……神を殺せ」
最後の一言とともに、魔剣『アリア』が顕れる。
「じゃあ、いっちょやるか!」
俺は風をまとって地竜の元へ駆けた。アリアのおかげで体が軽い。
気づいた地竜は黄色い瞳をギロリとこちらに向け、咆哮する。
おれは纏う風のおかげで咆哮そのものに吹き飛ばされたりする事はなく、そのまま突っ込み、
(まずは初手……!)
ひと突きで右目を貫いた。
「ガアアアアアアアアアアアアアアア!」
地竜は凄まじい絶叫を上げ、のたうち回る。近づけないまま様子を見ていると、殺意が増した左目で俺を睨んでいた。
そのまま土煙を上げてこちらに突撃してくる。
(……今です!)
アリアのアドバイスを受けて、俺は地竜の右側へ跳んだ。
視界を封じられた側にいるので、地竜には俺の姿が消えたように感じられただろう。
そのまま突きを何発か繰り出すが固い鱗に阻まれて、なかなか有効なダメージを与えられない。
「っと!」
気づいた地竜がこちらへ向いて噛み付こうとしてきた。素早く後ろに跳び退る。
(今のままでは有効打を与えられない、か)
(…大丈夫です。手はあります)
考えていると『アリア』から声がした。
その言葉を信じようと思う。いずれにせよこのままでは勝ち目ないし。
もう一度同じ手を使うべく様子を見る。
そして隙をついてまた同じところに飛び込んだ。
(集中して纏っている風全てを剣に纏わせ、鋭くするイメージを!)
そしてそのまま、俺は突いた。
今度は容易く貫いた。
(今です!魔剣の力を解放して下さい!)
俺の場合、魔剣を一本に絞っているため、魔剣にはいつも強い力を内包させている。
その力を解放する。普段は暴走しないようにするためリミッターをかけてあるから、そのリミッターを解くために力ある言葉を紡ぐ。
「唸れ烈風…恐怖とともに消えよ、哭け、極限の嵐!」
魔剣解放、『
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
凄まじい勢いの風が、地竜の内側で荒れ狂い、内側から地竜をバラバラにした。
端的に言うと、かなりグロかった。
と、ふと手元を見ると剣がボロボロになっていた。
おそらく、刀身が耐えられなかったのだろう。
「お疲れさん、今は眠れ」
呟くと、また魔剣は消えた。
解放しつつそれを制御するのにはかなりの体力を使う。一発限りの大技だ。
疲れきった足取りで、返り血を受け、血まみれになったまま師匠の方へ歩み寄る。
「これで、いいですか」
「うん、なかなか良かったよ。まあちょっと時間がかかったかな?」
平然とそんな事をのたまう師匠にげんなりしていると、師匠の背後の方に
俺が倒したものより、ふた回り大きい地竜が現れた。
「ま、
「うん?」
振り返って確認し、またこちらへ向き直った。
「ケン、後一本だけ魔剣作って渡してくれないかな」
「……わかりました」
要望通り一本だけ作り出し、師匠に渡す。
「まあ今回はよく頑張ったしね、少し技を見せてあげる」
くるくると魔剣を回す。そして、
「これは基本的に大きい相手にしか使えないんだけど、多分君もそのうち使えるようになるだろうから。他の使い道もあるし」
トン、と師匠は地面を魔剣で突いた。
それと同時に、
ズバアアアアアアアアアアア!
魔剣が瞬時に砕け散り、地面が大きな地竜の方まで一気に割れ、地竜もまた真っ二つになっていた。
ズズン!
その地竜の残骸が崩れ落ちる。
「……は?」
驚愕、呆れ、その両方が混ぜこぜになって、俺はそんな間の抜けた言葉しか出せなかった。
「これはね、地脈の力を解放して敵を切り裂く大技なんだ。かなり使い道は限られるし隙も大きい。けど、これを大きな力を持った存在の体に使う、つまり相手の体の脈を地脈と見立てて使うと、相手の力が暴走、強制解放されて、たいていの相手は死ぬ、文字通りの必殺技になる。まあ、強い相手限定だけどね」
滔々と今使った技の解説を続ける師匠。
「秘技、
「……そんなん出来るかー!」
正気に戻った俺は、絶叫した。