第三話
冬休み、今度は他流試合の連続だった。
古流武術・篠ノ之流、飛天御剣流、小太刀二刀・御神流、巌流、柳生新陰流、八葉一刀流、無限一刀流。
かなり大変だった。飛天御剣流とか御神流とか普通に速過ぎて負けたし。それ以外も、勝ったけどものすっごいギリギリだった。魔剣も使えなかったし。
ただ、そんなの押しのけてびっくりしたのは、俺の修行がかなりヤバいものである事。
「去年の春にヒグマと戦った」という一言に皆絶句していた。
いや、薄々そうじゃないかなーと思ってたけど、実際に「それはヤバい」と真顔で言われると来るものがある。
普通、山ごもりとかしてもせいぜい猪を狩るくらいだそうだ。
まあ強くなっている事は実感できているからいいけど。
最近長期休暇に恐怖を覚え始めている自分に疑問を抱きつつも、今日も学校へ向かう。
ちなみに、学校での体育で本気を出す事はほとんどない。あまりにも常識外れすぎるからだ。
そして小学六年生になった。
師匠は今年で修行は終わりと言っていた。大体のところは教えたので、後は自分でどうにかしろとの事だった。
思い返してみると、朝いきなり包丁持って襲いかかられることによって殺気に相当敏感になったり、警戒心をいつも持つようになったりした。
長期休暇の時も地獄のような戦いを師匠が見守る中こなして度胸はだいぶついた。
うん、肉体面はもちろん精神面もかなり強くなったと思う。
師匠、ありがとうございました!
「うん?何を言っているんだい?それを言うのは時期尚早だよ」
え?
「卒業試験を夏休みにするからそのつもりでいてね?」
………………イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
夏休みになった。
………余談だが、他の同級生と対称的に、夏休みが近づくに連れ憂鬱そうな顔が増えていく俺を、皆が怪訝そうな顔で見ていた。中には「大丈夫?」と聞いてくる子もいた。あの時には「平気だよ」って答えたけど……
全然平気じゃない。めちゃめちゃヤバい。
ここは東欧の奥地。目の前には高い塔がそびえ立っている。
師匠曰く、ここの塔の最上階まで登って、塔の主に挨拶した後、戻って来れたらいいらしい。
この塔の主ってそんなにヤバいのか?
「師匠、ここの主ってどんな人なんですか?」
「人じゃないよ」
「へ?」
「吸血鬼の真祖、日の下を歩めるもの の姫君だって。ボクも噂だけで、会った事はないよ」
いや、死ぬだろ、普通。
ジト目になった俺を軽くスルーして、師匠は「行っておいで」と言って、
俺を塔の中に蹴り込んだ。
どんがらがっしゃーん!
サッカーボールよろしく蹴り込まれて中に入った後、ギィイと音をたてて閉まる扉を恨めしげに見つつ、取り敢えず俺は諦めた。
しょうがない、登るか。
幸か不幸か、修行の成果により、足は全く疲れなかった。
あまり時間をかけずに塔の最上階へたどり着く。
さて、どうするか。
A.剣を持って中に入る。→自分以上の相手であれば即死。
B.剣を持たずに中に入る。→和やかムードの可能性あり。
……よし、B案で!『和平の使者は武器を持たない』って小ちゃくて赤い女の子も言ってたしね!
コンコン、とまずはノック。
「入れ」
美しい声が聞こえたので中に入る事にする。
扉の先にいたのは、目が覚めるほどの美少女だった。
見た目上の年齢は俺と同じ位か。きれいな銀髪の下、ルビーのような赤い目が輝いている。
「我が塔へようこそ。私はセリアーナ・ヴラディ。この塔の主にして、真祖の吸血鬼と言う奴だ」
知ってますと言いそうになるのをこらえて、俺も返事を返す。
「ケンタ・タチバナ。ただの人間です」
「ふむ、して、何用かな?」
「帰りたいので一階のドアの鍵を開けて下さい」
俺がそういうと信じられないかのように目を見開き、ついで体を震わせ始め、最後には大笑いしだした。
「く、くく、……アハハ!ハハハハハハハハッ!……まさかそのような申し出をするためだけにここまで!?私を討ちにきたのではなく!?面白い、面白すぎるぞ少年!」
「討ったところで帰れなければ意味ないですし、あなたを討つ事に魅力も感じません。ついでに言うと討てる気がしません。……返答や如何に?」
「……いいだろう、開けてやる。ただし条件がある」
「なんですか?」
「私を楽しませるものをもってこい。一年以内にだ。約束を破れば君を地の果てまで追いかけて殺してやる。最近本を全て読み尽くしてしまってな、暇でしょうがないのだ」
えー、面倒だろそれ……と言いたくなるのを必死で我慢。
「あなたがどういうものが好きでどういうものが嫌いかわからないのに見繕えというのは酷な話じゃありませんか?」
「君の感覚で構わんよ。何かを持ってきてくれればいい」
取り敢えず考えた。そして、
「転送魔法って使えますか?」
「うん?ああ、使えるぞ」
「それで一度家に行って、見繕って持ってきて戻ってきます。それで面白いかどうか判断して下さい。あ、ちなみに日本語読めますよね?」
「無論だ。わかった、やってみよう。しばし待て」
意識を集中させているようだった。やがて魔方陣が展開する。
「そこに立って行きたい場所を想像しろ。五分後に同じ場所に魔方陣を開く」
「わかりました」
シュン、という音がした後、見慣れた部屋の中にいた。
早速、近くのライトノベル、マンガ、携帯ゲームを持ち出す。
そして五分後、
「うん?なんだ、戻ってきたのか」
戻ってくるって最初に言っただろうがちったあ信用しやがれとか思っている事をおくびにも出さずに、
「ええ。こんな感じでよろしいですか?」
「……ちょっと見せてくれ」
で、数時間後。
セリアーナは見事にドップリとはまっていた。
「こんな面白いのが人間の世界にはまだまだあるのか!?」
「ええ、まあ。ネット回線でも引いたらどうです?こんな高いところでは難しいかもしれませんが。そうすれば通販で買えますよ」
「そうする!」
……喜んでもらえたようで何よりだ。
……と、突然セリアーナが楽しそうな表情をやめ、ぽつりぽつりと話し始めた。
「……私はな、元々一人だったのだ。人間にも、同族にも疎まれてな」
「………え?吸血鬼でも真祖って滅茶苦茶高貴だったはずじゃないんですか?しかもハイ・デイライトウォーカーでしょう?」
「高貴だからこそ、さ。位が高過ぎて、誰も近づかない。両親すらも。だから私は今までこうして一人で過ごしてきた」
「……」
「だが、君は種族も違う私にこんなによくしてくれた。遊ぶものを持ってきただけと言うかもしれないがそれだけでも十分だ。だからどうか」
真剣な、寂しそうな目でこう言った。
「私の、友達になってくれないか」
上目遣いの瞳が少し潤んでいる。魅了の力か何かなのだろうか?いや、友達になってほしいものにそんなものかけたりはしないだろう。だが、素のままで十分彼女の瞳は俺を魅了していた。
「いいですよ」
「!……本当か?」
「まあ実家遠いから文通が基本になりそうですけど、時折遊びにくるようであれば歓迎しますよ。こっちから行くのは金がかかるから難しいけど」
近くの紙に住所とメアドを書いて渡す。それを見て彼女は大輪の花が咲いたような笑顔になった。
「……うん、ありがとう!」
「気にしないで、セリア」
「……『セリア』?」
「友達なんだろ?だから愛称で呼ぼうかなって。なんかまずかったか?」
「いや、全然構わないぞ!」
「じゃあセリア、また今度」
「うむ!またな!」
出てくると、師匠が待っていた。
「やあ。倒したのかい?」
「別に挨拶して帰ってくればいいんでしょう?友達になりましたよ」
「……ふふ、そうか。じゃあこれで卒業だな。」
「……ありがとうございました」
「ボクもなかなか楽しかったよ。………そうだ」
師匠は持っていた刀をこちらに渡して来た。
「卒業祝い。魔剣取り出すのバレたら大変だろうから、練習にはこれを使うといい」
「……ありがとうございます」
「じゃあボクはそろそろ行くよ。元気でね、ケン!」
「師匠も!」
後で気がついたのだが、これって俺、形はどうあれ外国の片田舎に取り残されてないか?
なんというか、帰ってくるまで凄く苦労したとだけ言っておく。
冬休み、今度は他流試合の連続だった。
古流武術・篠ノ之流、飛天御剣流、小太刀二刀・御神流、巌流、柳生新陰流、八葉一刀流、無限一刀流。
かなり大変だった。飛天御剣流とか御神流とか普通に速過ぎて負けたし。それ以外も、勝ったけどものすっごいギリギリだった。魔剣も使えなかったし。
ただ、そんなの押しのけてびっくりしたのは、俺の修行がかなりヤバいものである事。
「去年の春にヒグマと戦った」という一言に皆絶句していた。
いや、薄々そうじゃないかなーと思ってたけど、実際に「それはヤバい」と真顔で言われると来るものがある。
普通、山ごもりとかしてもせいぜい猪を狩るくらいだそうだ。
まあ強くなっている事は実感できているからいいけど。
最近長期休暇に恐怖を覚え始めている自分に疑問を抱きつつも、今日も学校へ向かう。
ちなみに、学校での体育で本気を出す事はほとんどない。あまりにも常識外れすぎるからだ。
そして小学六年生になった。
師匠は今年で修行は終わりと言っていた。大体のところは教えたので、後は自分でどうにかしろとの事だった。
思い返してみると、朝いきなり包丁持って襲いかかられることによって殺気に相当敏感になったり、警戒心をいつも持つようになったりした。
長期休暇の時も地獄のような戦いを師匠が見守る中こなして度胸はだいぶついた。
うん、肉体面はもちろん精神面もかなり強くなったと思う。
師匠、ありがとうございました!
「うん?何を言っているんだい?それを言うのは時期尚早だよ」
え?
「卒業試験を夏休みにするからそのつもりでいてね?」
………………イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!
夏休みになった。
………余談だが、他の同級生と対称的に、夏休みが近づくに連れ憂鬱そうな顔が増えていく俺を、皆が怪訝そうな顔で見ていた。中には「大丈夫?」と聞いてくる子もいた。あの時には「平気だよ」って答えたけど……
全然平気じゃない。めちゃめちゃヤバい。
ここは東欧の奥地。目の前には高い塔がそびえ立っている。
師匠曰く、ここの塔の最上階まで登って、塔の主に挨拶した後、戻って来れたらいいらしい。
この塔の主ってそんなにヤバいのか?
「師匠、ここの主ってどんな人なんですか?」
「人じゃないよ」
「へ?」
「吸血鬼の真祖、
いや、死ぬだろ、普通。
ジト目になった俺を軽くスルーして、師匠は「行っておいで」と言って、
俺を塔の中に蹴り込んだ。
どんがらがっしゃーん!
サッカーボールよろしく蹴り込まれて中に入った後、ギィイと音をたてて閉まる扉を恨めしげに見つつ、取り敢えず俺は諦めた。
しょうがない、登るか。
幸か不幸か、修行の成果により、足は全く疲れなかった。
あまり時間をかけずに塔の最上階へたどり着く。
さて、どうするか。
A.剣を持って中に入る。→自分以上の相手であれば即死。
B.剣を持たずに中に入る。→和やかムードの可能性あり。
……よし、B案で!『和平の使者は武器を持たない』って小ちゃくて赤い女の子も言ってたしね!
コンコン、とまずはノック。
「入れ」
美しい声が聞こえたので中に入る事にする。
扉の先にいたのは、目が覚めるほどの美少女だった。
見た目上の年齢は俺と同じ位か。きれいな銀髪の下、ルビーのような赤い目が輝いている。
「我が塔へようこそ。私はセリアーナ・ヴラディ。この塔の主にして、真祖の吸血鬼と言う奴だ」
知ってますと言いそうになるのをこらえて、俺も返事を返す。
「ケンタ・タチバナ。ただの人間です」
「ふむ、して、何用かな?」
「帰りたいので一階のドアの鍵を開けて下さい」
俺がそういうと信じられないかのように目を見開き、ついで体を震わせ始め、最後には大笑いしだした。
「く、くく、……アハハ!ハハハハハハハハッ!……まさかそのような申し出をするためだけにここまで!?私を討ちにきたのではなく!?面白い、面白すぎるぞ少年!」
「討ったところで帰れなければ意味ないですし、あなたを討つ事に魅力も感じません。ついでに言うと討てる気がしません。……返答や如何に?」
「……いいだろう、開けてやる。ただし条件がある」
「なんですか?」
「私を楽しませるものをもってこい。一年以内にだ。約束を破れば君を地の果てまで追いかけて殺してやる。最近本を全て読み尽くしてしまってな、暇でしょうがないのだ」
えー、面倒だろそれ……と言いたくなるのを必死で我慢。
「あなたがどういうものが好きでどういうものが嫌いかわからないのに見繕えというのは酷な話じゃありませんか?」
「君の感覚で構わんよ。何かを持ってきてくれればいい」
取り敢えず考えた。そして、
「転送魔法って使えますか?」
「うん?ああ、使えるぞ」
「それで一度家に行って、見繕って持ってきて戻ってきます。それで面白いかどうか判断して下さい。あ、ちなみに日本語読めますよね?」
「無論だ。わかった、やってみよう。しばし待て」
意識を集中させているようだった。やがて魔方陣が展開する。
「そこに立って行きたい場所を想像しろ。五分後に同じ場所に魔方陣を開く」
「わかりました」
シュン、という音がした後、見慣れた部屋の中にいた。
早速、近くのライトノベル、マンガ、携帯ゲームを持ち出す。
そして五分後、
「うん?なんだ、戻ってきたのか」
戻ってくるって最初に言っただろうがちったあ信用しやがれとか思っている事をおくびにも出さずに、
「ええ。こんな感じでよろしいですか?」
「……ちょっと見せてくれ」
で、数時間後。
セリアーナは見事にドップリとはまっていた。
「こんな面白いのが人間の世界にはまだまだあるのか!?」
「ええ、まあ。ネット回線でも引いたらどうです?こんな高いところでは難しいかもしれませんが。そうすれば通販で買えますよ」
「そうする!」
……喜んでもらえたようで何よりだ。
……と、突然セリアーナが楽しそうな表情をやめ、ぽつりぽつりと話し始めた。
「……私はな、元々一人だったのだ。人間にも、同族にも疎まれてな」
「………え?吸血鬼でも真祖って滅茶苦茶高貴だったはずじゃないんですか?しかもハイ・デイライトウォーカーでしょう?」
「高貴だからこそ、さ。位が高過ぎて、誰も近づかない。両親すらも。だから私は今までこうして一人で過ごしてきた」
「……」
「だが、君は種族も違う私にこんなによくしてくれた。遊ぶものを持ってきただけと言うかもしれないがそれだけでも十分だ。だからどうか」
真剣な、寂しそうな目でこう言った。
「私の、友達になってくれないか」
上目遣いの瞳が少し潤んでいる。魅了の力か何かなのだろうか?いや、友達になってほしいものにそんなものかけたりはしないだろう。だが、素のままで十分彼女の瞳は俺を魅了していた。
「いいですよ」
「!……本当か?」
「まあ実家遠いから文通が基本になりそうですけど、時折遊びにくるようであれば歓迎しますよ。こっちから行くのは金がかかるから難しいけど」
近くの紙に住所とメアドを書いて渡す。それを見て彼女は大輪の花が咲いたような笑顔になった。
「……うん、ありがとう!」
「気にしないで、セリア」
「……『セリア』?」
「友達なんだろ?だから愛称で呼ぼうかなって。なんかまずかったか?」
「いや、全然構わないぞ!」
「じゃあセリア、また今度」
「うむ!またな!」
出てくると、師匠が待っていた。
「やあ。倒したのかい?」
「別に挨拶して帰ってくればいいんでしょう?友達になりましたよ」
「……ふふ、そうか。じゃあこれで卒業だな。」
「……ありがとうございました」
「ボクもなかなか楽しかったよ。………そうだ」
師匠は持っていた刀をこちらに渡して来た。
「卒業祝い。魔剣取り出すのバレたら大変だろうから、練習にはこれを使うといい」
「……ありがとうございます」
「じゃあボクはそろそろ行くよ。元気でね、ケン!」
「師匠も!」
後で気がついたのだが、これって俺、形はどうあれ外国の片田舎に取り残されてないか?
なんというか、帰ってくるまで凄く苦労したとだけ言っておく。