第四話
中学二年生になった。
あれからも鍛錬は怠らず、作る魔剣もバリエーションが増えた。
で、基本的に俺は平和な日常を過ごしていた。
ときおりセリアが遊びに来る。
一人で塔にいる時間がいくら潰しても暇すぎるそうだ。
夏コミとか冬コミとかも一緒に行くようになったし。そういった日常と比べると退屈なのだろう。
十八禁の本を見て真っ赤になってるのを見て和んだりもした。
そうやって俺は日々を平和に過ごしていた。
師匠との修行のせいか、長い休みになるとどこかに行くという習慣がついてしまった。無論、コミケには影響がないように。
今年は西欧……フランスの方へ行ってみるつもりである。秘境探索とか、面白そうだ。
フランス、東のとある秘境に俺はいた。
幻獣種かなにかいないかなーと辺りをぶらついていると、水の音がした。
泉かなにかあるのだろうか?音がする方へ近づいて行くと、
きれいな、女性の歌声が聞こえた。
恐らく泉の辺りにいる者が歌っているのだろう。
取り敢えずそちらに近づくと
泉の中、翼を生やした美しい少女が全裸で歌っていた。
急いで木陰に隠れる。覗いてるとか思われたら殺されかねない。
が、足音でバレたらしい。
「……誰?」
「あーいや、別に怪しい者じゃない」
「怪しくないんだったら、出て来ればいい」
「その前に、服を来てくれないか?」
その言葉に少女は反応した。
「………見たの?」
「ちょっとだけ」
嘘ついてバレるよりはましかと正直に答える。
「……ちょっと待って」
泉から出たようだ。そして衣擦れの音。こういうのはどうにも居心地が悪くて仕方がない。
「もう大丈夫」
その声を聞いて、俺は木陰から姿を見せた。
改めてもう一度その少女を眺める。青い髪で体の後ろに同じ色の翼が生えている。目の色は金色だ。
「それで、あなたは誰?」
もう一度少女が問う。
俺は肩をすくめて答えた。
「ただの旅行者だ。秘境探索が趣味でね」
「……ハンターじゃないの?」
「だったらあんたが歌っている間に襲いかかってる」
「私たちの事、よく知らないはずなのにあまり驚かないのね」
「真祖の吸血鬼と友達になればこういう事に対する驚きは耐性がつく」
俺の言葉を冗談ととったのか少女はくすくす笑った。
「別にそれでも疑うなら確認してみるといい。俺は武器を持ち歩いていない。せいぜい魚を釣るための針がいいとこだ」
「……うん、わかった」
そういって、少女は俺の荷物の中を探し始めた。
その背中に声をかけてみる。
「ところで君の種族は?」
「なんだと思う?」
即で返された。取り敢えず有翼の魔物で考えてみる。
「セイレーンかハーピーか。それぐらいしか浮かばないな」
「セイレーンであってるよ」
「下半身は鳥じゃないんだな、そう聞いてたんだけど」
「そういう風にする事も出来るけど、歩きづらいからこっちの方がいいの」
「そうかい」
「……本当に針以外何も持っていないのね」
「それ以外はなくても何とかなるからな。それで、どうするんだ?隠蔽のために俺を殺すとか?」
「そんな事しないわ。けど、今ハンター達がかぎ回っているの。そいつらが帰ったら帰してあげる」
「なるほど、脅されたりするのも嫌だしな。わかった、従おう。それで俺はどこに行けばいいんだ?」
「私の家」
一つ屋根の下か。大丈夫かなあ?
案内に従って進んで行くと、古式ゆかしい隠れ里っぽいものが現れた。
で、案の定、門の辺りで族長らしき人(?)と一悶着あった。
「フィーナ、お前はいったい何を考えておるのじゃ、人間を連れてくるなど!」
「ハンターが帰るまでおいておかないと、情報が漏れる可能性があるわ。それに殺しても、行方不明になった場所からここが割り出されるかもしれない」
……なかなかに冷徹な思考だ。感心する。
「……仕方あるまい。おい、人間」
「なんだ」
「この里で下手な真似はするなよ」
それだけ言って族長は去って行った。
「下手な真似って何だよ……」
思わずそう呟いた。
「脱走とかよ」
少女……フィーナが俺の呟きに答える。
「そういやフィーナって名前なんだな」
「名乗ってなかった?そういえばあなたの名前も聞いてないわね」
「剣太だ」
「そう、ケンタ。よろしく」
「こちらこそ」
思わぬ長期滞在になってしまったがまあいいだろう。
フィーナの仕事は服飾だそうだ。その仕事を手伝う位しか仕事がなく
端的に言うと、退屈だった。
魔剣ももう何日も作っていない。
が、それ以外はおおむね良好だった。飯もうまかったし、夜露に濡れずに済むのもありがたかった。
彼女の話は面白いものだったし、外の世界の話を俺がすると目を輝かせて聞いてくれた。
それから十日ほどして、凶報が届いた。
どうやら俺とは関係なしに捕まった奴がいたらしい。
そいつが里の場所を吐いた可能性があるとの事だった。
「で?これからどうするの?」
フィーナに尋ねると、弓を用意していた彼女は
「戦うわ」
との事だった。勇ましいこった。やれやれ。
この家を出る事にする。
荷物をまとめ始めた。
「どこに行くつもり?」
見咎めたフィーナが問う。
「なに、ハンター達に見つかったって事は、俺がここにいる意味もねえってこった。そんな俺がどこで何しようが自由だろ?」
「私たちを売るつもりなの?」
「もう既に手に入ってる情報を奴らに売ったところで何のうまみもないだろうからそんな真似はしない。する意味もない」
「……そう。なら勝手に行くといいわ」
「ん、そうさせてもらう。ここでの生活、退屈だったがそれ以外は悪いもんでもなかったぞ」
「……」
仏頂面で沈黙したフィーナを気にせずに荷造りを続ける。
そう、悪いものではなかった。
少なくともハンター達と敵対してもいいと思える程度には。
しばらくしてフィーナが出て行った後荷物をまとめ終わった俺は、内側の五本の魔剣……その中の一本をイメージし、呼びかける。
(出番があるかもしれない。よろしく頼むぞ)
(はい、お任せを)
柔らかな声で答えられた。
Side フィーナ
私はあの人間に何を期待していたのだろう。
あいつがハンターの一部でないとしても、ともに戦ってくれるなんてあり得ないのだ。
あいつは「よそ者」で「居候」でしかないんだから。
……ハンター達が現れた。皆、物々しい武装をしている。
「魔物どもよ、今日が裁きの日だ!」
勝手なことを言う。あいつは私たちの事を魔物と呼んだ事は一度もなかった。
……私は何を考えているのだろう。あいつの事は関係ないのに。
ハンター達に矢を放ち、同時に小規模な風の魔法を放つ。
が、全て奴らが手に持った光の剣にかき消されてしまう。
その上、奴らは火を放ち始めた。
………このままでは私たちの里が焼かれてしまう。
同じ事を考え、焦って襲いかかった青年が一刀の元に斬り伏せられる。
ハンター達の下卑た笑い声が響く。
もう、駄目なのかな……。
絶望しかかっていた時、懐かしい声が聞こえた。
「眠りを解け。全てを阻め。永遠をこの手に。……神を殺せ」
その呪文のような言葉とともに辺り一体を冷気が満たし、火を消し止めた。
水蒸気で視界がかすむ中、私はあいつの名前を呼んだ。
「……ケンタ!」
Side end
「眠りを解け。全てを阻め。永遠をこの手に。……神を殺せ」
その一言とともに『魔剣創造』によって生み出したサーベル『絶氷の片刃剣 』が姿を現した。
圧倒的な冷気であふれ、周りの火が消し止められていく。水蒸気で視界がかすむが、そんな事は問題にならない。師匠との修行のせいか、気配を読むのには慣れている。
「ここの位置を漏らさないと誓約するなら帰してやらない事もないが……断る場合は貴様らを殺す」
「貴様、何者だ!」
「この里の居候、だっ!」
再び火を放とうとした男の手首を切り落とす。傷口が即座に凍り付いた。
「ガアアアアアアア!」
「貴様、魔剣使いか!」
「わかっているなら言わなくていい。それで、返答は?」
俺の言葉に、吐き捨てるようにリーダーと思しき男が答えた。
「ふん、魔物どもに味方する以上、貴様も神の敵!神意を持って滅殺する!」
…………そうかい。
(…クローゼ、準備を)
(承知しました)
次々と攻撃を闇雲に繰り出してくる相手をあしらい、あるいは反撃する。
そうして霧が晴れた時。
俺は十名ほどのハンターに囲まれていた。
「これならば貴様も対抗できまい!」
さっきと同じ男が傲然と告げる。
が、俺はそれを無視して唱えた。
「炎が命を示すならば氷結は終焉なり。せめて刹那にて砕けよ」
「…っ!貴様!」
魔剣『クローゼ』の力を解放する。
魔剣解放、『絶対零度 』
凄まじい冷気が溢れ出し、周りの人間全てが氷柱に閉じ込められ、そして、
氷柱が砕け散った。
「ふう、戦闘終了、か。ありがとうクローゼ、今は眠れ」
クローゼをまた元に戻し、里のもの達の方へ振り返った。
彼らは怯えていた。凄まじい力を操った俺に対して。
けど、そんな中から声が聞こえた。
「ありがとう、ケンタ。私たちの里を守ってくれて。あなたはよそ者なのに、関係ない私たちを助けてくれた。その事に深い感謝を」
フィーナだった。
「一宿一飯の恩義と言うやつを返しただけだ。気にしないでくれ」
「ううん。それでは十分じゃないの。私たちの借りの方が大きいわ」
「なら、どうすりゃいいんだ?この里も多分移転するんだろ?下手に訪ねようとして尾行されてもあれだし」
「私をあなたの従者にしてほしいの」
「……………は?」
何を言ってるのかわからない。わからないが、とりあえず止めた方がいいような気がした。
「あなたに私が一生を捧げる事で、里の借りを返す」
「おいおい、そんな事言ったら親御さんが」
「言ってなかった?私孤児よ」
「外の世界は厳しいぞ」
「興味深いわ」
「翼がバレたら」
「なんとか隠すわ」
「つーかこれ人身御供じゃねえか!反対するやついないのかよ!?」
「ケンタ殿」
周りにツッコミを入れていると族長が俺に声をかけた。
「もともとこの娘は孤独な身の上。この娘は元々外界に興味があったのだし、あなたになら任せる事も出来ましょう」
「いや、しかし……」
「では他に何をお望みかな?」
「いえ、特にないです……」
折れるしかなかった。
「これからよろしくお願いします、ご主人様」
「…………敬語とかその呼び名とかやめて、くすぐったいから」
「ふふ。うん、よろしく、ケンタ」
確かに嬉しい。嬉しいのだが……
親父とおふくろにどう言い訳しよう…………?
セリアも間違いなくなんか言ってくるだろうし…………
ため息半分、喜び半分で俺は帰途についた。
中学二年生になった。
あれからも鍛錬は怠らず、作る魔剣もバリエーションが増えた。
で、基本的に俺は平和な日常を過ごしていた。
ときおりセリアが遊びに来る。
一人で塔にいる時間がいくら潰しても暇すぎるそうだ。
夏コミとか冬コミとかも一緒に行くようになったし。そういった日常と比べると退屈なのだろう。
十八禁の本を見て真っ赤になってるのを見て和んだりもした。
そうやって俺は日々を平和に過ごしていた。
師匠との修行のせいか、長い休みになるとどこかに行くという習慣がついてしまった。無論、コミケには影響がないように。
今年は西欧……フランスの方へ行ってみるつもりである。秘境探索とか、面白そうだ。
フランス、東のとある秘境に俺はいた。
幻獣種かなにかいないかなーと辺りをぶらついていると、水の音がした。
泉かなにかあるのだろうか?音がする方へ近づいて行くと、
きれいな、女性の歌声が聞こえた。
恐らく泉の辺りにいる者が歌っているのだろう。
取り敢えずそちらに近づくと
泉の中、翼を生やした美しい少女が全裸で歌っていた。
急いで木陰に隠れる。覗いてるとか思われたら殺されかねない。
が、足音でバレたらしい。
「……誰?」
「あーいや、別に怪しい者じゃない」
「怪しくないんだったら、出て来ればいい」
「その前に、服を来てくれないか?」
その言葉に少女は反応した。
「………見たの?」
「ちょっとだけ」
嘘ついてバレるよりはましかと正直に答える。
「……ちょっと待って」
泉から出たようだ。そして衣擦れの音。こういうのはどうにも居心地が悪くて仕方がない。
「もう大丈夫」
その声を聞いて、俺は木陰から姿を見せた。
改めてもう一度その少女を眺める。青い髪で体の後ろに同じ色の翼が生えている。目の色は金色だ。
「それで、あなたは誰?」
もう一度少女が問う。
俺は肩をすくめて答えた。
「ただの旅行者だ。秘境探索が趣味でね」
「……ハンターじゃないの?」
「だったらあんたが歌っている間に襲いかかってる」
「私たちの事、よく知らないはずなのにあまり驚かないのね」
「真祖の吸血鬼と友達になればこういう事に対する驚きは耐性がつく」
俺の言葉を冗談ととったのか少女はくすくす笑った。
「別にそれでも疑うなら確認してみるといい。俺は武器を持ち歩いていない。せいぜい魚を釣るための針がいいとこだ」
「……うん、わかった」
そういって、少女は俺の荷物の中を探し始めた。
その背中に声をかけてみる。
「ところで君の種族は?」
「なんだと思う?」
即で返された。取り敢えず有翼の魔物で考えてみる。
「セイレーンかハーピーか。それぐらいしか浮かばないな」
「セイレーンであってるよ」
「下半身は鳥じゃないんだな、そう聞いてたんだけど」
「そういう風にする事も出来るけど、歩きづらいからこっちの方がいいの」
「そうかい」
「……本当に針以外何も持っていないのね」
「それ以外はなくても何とかなるからな。それで、どうするんだ?隠蔽のために俺を殺すとか?」
「そんな事しないわ。けど、今ハンター達がかぎ回っているの。そいつらが帰ったら帰してあげる」
「なるほど、脅されたりするのも嫌だしな。わかった、従おう。それで俺はどこに行けばいいんだ?」
「私の家」
一つ屋根の下か。大丈夫かなあ?
案内に従って進んで行くと、古式ゆかしい隠れ里っぽいものが現れた。
で、案の定、門の辺りで族長らしき人(?)と一悶着あった。
「フィーナ、お前はいったい何を考えておるのじゃ、人間を連れてくるなど!」
「ハンターが帰るまでおいておかないと、情報が漏れる可能性があるわ。それに殺しても、行方不明になった場所からここが割り出されるかもしれない」
……なかなかに冷徹な思考だ。感心する。
「……仕方あるまい。おい、人間」
「なんだ」
「この里で下手な真似はするなよ」
それだけ言って族長は去って行った。
「下手な真似って何だよ……」
思わずそう呟いた。
「脱走とかよ」
少女……フィーナが俺の呟きに答える。
「そういやフィーナって名前なんだな」
「名乗ってなかった?そういえばあなたの名前も聞いてないわね」
「剣太だ」
「そう、ケンタ。よろしく」
「こちらこそ」
思わぬ長期滞在になってしまったがまあいいだろう。
フィーナの仕事は服飾だそうだ。その仕事を手伝う位しか仕事がなく
端的に言うと、退屈だった。
魔剣ももう何日も作っていない。
が、それ以外はおおむね良好だった。飯もうまかったし、夜露に濡れずに済むのもありがたかった。
彼女の話は面白いものだったし、外の世界の話を俺がすると目を輝かせて聞いてくれた。
それから十日ほどして、凶報が届いた。
どうやら俺とは関係なしに捕まった奴がいたらしい。
そいつが里の場所を吐いた可能性があるとの事だった。
「で?これからどうするの?」
フィーナに尋ねると、弓を用意していた彼女は
「戦うわ」
との事だった。勇ましいこった。やれやれ。
この家を出る事にする。
荷物をまとめ始めた。
「どこに行くつもり?」
見咎めたフィーナが問う。
「なに、ハンター達に見つかったって事は、俺がここにいる意味もねえってこった。そんな俺がどこで何しようが自由だろ?」
「私たちを売るつもりなの?」
「もう既に手に入ってる情報を奴らに売ったところで何のうまみもないだろうからそんな真似はしない。する意味もない」
「……そう。なら勝手に行くといいわ」
「ん、そうさせてもらう。ここでの生活、退屈だったがそれ以外は悪いもんでもなかったぞ」
「……」
仏頂面で沈黙したフィーナを気にせずに荷造りを続ける。
そう、悪いものではなかった。
少なくともハンター達と敵対してもいいと思える程度には。
しばらくしてフィーナが出て行った後荷物をまとめ終わった俺は、内側の五本の魔剣……その中の一本をイメージし、呼びかける。
(出番があるかもしれない。よろしく頼むぞ)
(はい、お任せを)
柔らかな声で答えられた。
Side フィーナ
私はあの人間に何を期待していたのだろう。
あいつがハンターの一部でないとしても、ともに戦ってくれるなんてあり得ないのだ。
あいつは「よそ者」で「居候」でしかないんだから。
……ハンター達が現れた。皆、物々しい武装をしている。
「魔物どもよ、今日が裁きの日だ!」
勝手なことを言う。あいつは私たちの事を魔物と呼んだ事は一度もなかった。
……私は何を考えているのだろう。あいつの事は関係ないのに。
ハンター達に矢を放ち、同時に小規模な風の魔法を放つ。
が、全て奴らが手に持った光の剣にかき消されてしまう。
その上、奴らは火を放ち始めた。
………このままでは私たちの里が焼かれてしまう。
同じ事を考え、焦って襲いかかった青年が一刀の元に斬り伏せられる。
ハンター達の下卑た笑い声が響く。
もう、駄目なのかな……。
絶望しかかっていた時、懐かしい声が聞こえた。
「眠りを解け。全てを阻め。永遠をこの手に。……神を殺せ」
その呪文のような言葉とともに辺り一体を冷気が満たし、火を消し止めた。
水蒸気で視界がかすむ中、私はあいつの名前を呼んだ。
「……ケンタ!」
Side end
「眠りを解け。全てを阻め。永遠をこの手に。……神を殺せ」
その一言とともに『魔剣創造』によって生み出したサーベル『
圧倒的な冷気であふれ、周りの火が消し止められていく。水蒸気で視界がかすむが、そんな事は問題にならない。師匠との修行のせいか、気配を読むのには慣れている。
「ここの位置を漏らさないと誓約するなら帰してやらない事もないが……断る場合は貴様らを殺す」
「貴様、何者だ!」
「この里の居候、だっ!」
再び火を放とうとした男の手首を切り落とす。傷口が即座に凍り付いた。
「ガアアアアアアア!」
「貴様、魔剣使いか!」
「わかっているなら言わなくていい。それで、返答は?」
俺の言葉に、吐き捨てるようにリーダーと思しき男が答えた。
「ふん、魔物どもに味方する以上、貴様も神の敵!神意を持って滅殺する!」
…………そうかい。
(…クローゼ、準備を)
(承知しました)
次々と攻撃を闇雲に繰り出してくる相手をあしらい、あるいは反撃する。
そうして霧が晴れた時。
俺は十名ほどのハンターに囲まれていた。
「これならば貴様も対抗できまい!」
さっきと同じ男が傲然と告げる。
が、俺はそれを無視して唱えた。
「炎が命を示すならば氷結は終焉なり。せめて刹那にて砕けよ」
「…っ!貴様!」
魔剣『クローゼ』の力を解放する。
魔剣解放、『
凄まじい冷気が溢れ出し、周りの人間全てが氷柱に閉じ込められ、そして、
氷柱が砕け散った。
「ふう、戦闘終了、か。ありがとうクローゼ、今は眠れ」
クローゼをまた元に戻し、里のもの達の方へ振り返った。
彼らは怯えていた。凄まじい力を操った俺に対して。
けど、そんな中から声が聞こえた。
「ありがとう、ケンタ。私たちの里を守ってくれて。あなたはよそ者なのに、関係ない私たちを助けてくれた。その事に深い感謝を」
フィーナだった。
「一宿一飯の恩義と言うやつを返しただけだ。気にしないでくれ」
「ううん。それでは十分じゃないの。私たちの借りの方が大きいわ」
「なら、どうすりゃいいんだ?この里も多分移転するんだろ?下手に訪ねようとして尾行されてもあれだし」
「私をあなたの従者にしてほしいの」
「……………は?」
何を言ってるのかわからない。わからないが、とりあえず止めた方がいいような気がした。
「あなたに私が一生を捧げる事で、里の借りを返す」
「おいおい、そんな事言ったら親御さんが」
「言ってなかった?私孤児よ」
「外の世界は厳しいぞ」
「興味深いわ」
「翼がバレたら」
「なんとか隠すわ」
「つーかこれ人身御供じゃねえか!反対するやついないのかよ!?」
「ケンタ殿」
周りにツッコミを入れていると族長が俺に声をかけた。
「もともとこの娘は孤独な身の上。この娘は元々外界に興味があったのだし、あなたになら任せる事も出来ましょう」
「いや、しかし……」
「では他に何をお望みかな?」
「いえ、特にないです……」
折れるしかなかった。
「これからよろしくお願いします、ご主人様」
「…………敬語とかその呼び名とかやめて、くすぐったいから」
「ふふ。うん、よろしく、ケンタ」
確かに嬉しい。嬉しいのだが……
親父とおふくろにどう言い訳しよう…………?
セリアも間違いなくなんか言ってくるだろうし…………
ため息半分、喜び半分で俺は帰途についた。