中学編最後の事件です。
第五話
「旅行先で村を追放されるのを偶然見つけて、預ける相手がいないから連れて来た」
と親に説明した。無論嘘である。
怪しい顔をされていたが、フィーナは平然と、
「命を救われた恩返しをしたいのですお義母様」
とか言って丸め込んでしまった。なんで義母扱いしてるんだとツッコミを入れようかと思ったが空気を読んでやめた。
当然セリアも大荒れだった。
「私達は友達でそこの女よりは付き合い長いはずなのに私の方は同棲が許されないとはどういう事だ!」
一息で怒鳴られた。が、
「じゃあ吸血鬼の連中から許可とってこい」
と言ったら黙った。まだ、やっぱりしがらみは大変なようだ。
こうしてフィーナはうちのメイドになった。メイド服着てないけど。
どうして着ないのかって?金かかるし翼出した時に破れる事の補修費考えると馬鹿にならねえんだよ!
「甲斐性なし」
こうして美少女とのドキドキ共同生活が始まった訳だが、はっきり言って凄まじく大変だった。
ガスコンロが使えない、電子レンジで中身が爆発する、トースターの時間が長過ぎて黒こげとかならまだいい。
トイレの仕組みがよくわかっていなかったり、シャワーが使えなかったりするのがもっとも大変だった。
風呂場から飛び出てきて全裸で「このお風呂の仕組みよくわからない」とか泣き顔で言われたのには、興奮とかする以前にこっちが泣きそうになった。
メイドというのは世話するものであってされるものではないはずなのに、なんで俺はメイドの世話をしているのだろう?今時の流行か、そうなのか。
どうにかこうにかド田舎出身のセイレーンメイドが文明になじんで来たところにまた事件は起きた。
俺、ドラゴンの力とか持ち合わせてないのに、厄介ごとが向こうからどんどん来るってどういう事なんだよ!?
あれか?完璧なトラブルメイカー体質なのか?
そう、それは中三の冬の頃の事である。受験も推薦にして、楽々と大学付属高校行くぜー!となっていたので、普通に遊びほうける事が多かった頃。
帰宅途中に、いきなり影が差して、上を見上げてみたところ、
空から女の子が降って来た。
慌てて受け止める。重力加速度というやつに則ってそれは凄まじい衝撃を俺の腕に齎した。きっつい。
が、受け止めたもののどうにも
……………………黒い、翼?
急いで確認する。ぴったりとしたライダースーツのようなものを纏った少女は黒髪で、黒い翼が生えていた。脇腹辺りから血が出ている。
格好から、天狗のたぐいとは考えにくい。
………………こいつ、堕天使か。
堕天使と言えば聖書上の三大勢力の一つで、総督の趣味は神器の研究だったはず。
もし彼らに存在を知られて、俺を消すとか拉致とかの話になったらまずい。
一方で、放置したら放置したでなんか厄介ごとを呼びそうな気もする。
……………これ、この前のフィーナがいた里にとっての俺と同じ状況じゃないか?
「……………とりあえず、連れて帰るか」
取り敢えずその少女をおぶって帰る事にした。
おお、背中にふにゅんと柔らかい感触が……
あの事件を一緒に経験したため、フィーナは事情を話すとすぐに理解した。
今は堕天使の傷を手当してもらっている。服脱がさなきゃいけないから当然だよな。
「ごめんケンタ!傷に塗るのって正露丸でいいんだっけ!?」
「それは胃薬だぁあああ!」
そもそもどうやって正露丸を塗るのだ。
……俺が手当てしなきゃいけなくなるところだった。怪我らしい怪我とかした事なかったもんな……。
「ケンタ、彼女、目を覚ましたよ」
「わかった、今行く」
堕天使を寝かしている部屋の方へ向かう。
部屋につくと、少女はベッドで体を起こしていた。
「楽にしていいぞ」
「いえ、お気になさらず」
表情がやや硬い。正体の事とかが気になっているのだろう。
「……あの、私達の事は」
「知ってる。堕天使だろ。そういうのと関わる事は少なくなかったからな」
「……そうですか」
まだ、こっちが敵か味方か測りかねているようだ。
それはこちらも同じ事だけど。
「あの、助けていただきありがとうございました」
「別にいい。見捨てても後味が悪いから助けたっていうのが大きいからな。それよりも」
じっと瞳を見据える。すこし気圧されたように少女は身じろぎした。
「単刀直入に聞く。なんであんなところに落ちて来た?お前の目的は何だ?」
「………」
「怪我を負っていて、力つきて倒れたという感じだった。途中まで誰かに追いかけられて逃げていた、と考えると、また敵が出てくるかもしれん」
「……すぐにこの家は出ます」
「出てもこっちに影響が来る可能性は零にはならない。話してもらう」
しばらくためらっていたようだったが、決心したような顔をして切り出した。
「
「戦争起こそうと企んでる平和が嫌いなクソ野郎共のことだろ。三大勢力とそれ以外のところの過激派を集めたような感じになってるとか、神器所有者を狙っているとか聞いた事がある」
原作知識から。
「そこまでわかっているなら話は早いですね。私はそこのスパイをしていて、つい先日バレました」
「で、追いかけられていた、と。相手の数、種族、武装は?」
「十名ほどで、旧魔王派の悪魔です。武装は普通の剣でした。……まさか、戦うおつもりですか?」
「それぐらいなら何とかなる」
「バカな!あなたはただの人間で、しょ……う?」
俺が取り出した魔剣を見て声を失ったようだ。
「あんたの上司には絶対言わないでくれよ?」
「神器…『魔剣創造』……!」
くるくると取り出した剣を回し、
「こっちにも被害が来そうだからな、片付ける」
ばし!と掴んだ。少女を見据える。
「手伝ってもらうぞ。俺は立花剣太。あんた、名前は?」
「………ルティナベール、といいます。ティナ、と呼んで下さい」
「わかった、よろしくティナ」
「こちらこそ」
しっかりと握手を交わした。
作戦は非常に単純だ。
すなわち、おとり作戦。
ティナが俺たちに暗示をかけて俺の家に拠点を作ったように見せかける。
恐らく、敵はティナが家を出てしばらくしたときを狙うだろう。
Side ルティナベール
名も知らぬ学校の前。
予想通り、五名の男が私の前に現れた。
「これだから堕天使は信用できんのだ。ここで貴様を抹殺し、戦いの前祝いとするとしよう」
「おお、そうですな!」
延々とくだらない言葉を吐く悪魔達に私は静かに問いかける。
「………いいんですか?」
「……何がだ?」
「以前私を追いかけて来たときは十名だったでしょう」
「ふん、残りの奴らは予備だ。貴様など我々五人で十分……っ!」
いきなり後ろの悪魔が絶叫を上げ斬り倒された。
「ふう、悪いな、少し時間がかかった」
「問題ありません、こちらも」
光の槍を無造作に放つ。一体が消し飛んだ。
「今から始めようとしていたところです」
Side end
今宵扱うのは『
挟み撃ちにあって苦い顔をする悪魔を無視してティナに声をかける。
「もう家に帰ってろ。残りは全部俺がやっとくから。元々お前の役目はこいつらを引きずり出すことだったんだし」
「しかし……」
「傷、完治してないだろ?それにさっきの連中よりは強そうだしな」
「……わかりました。お先に失礼します」
「おい、待て!」
立ち去って行く彼女に敵が目を引かれ、その隙にさらにもう一人斬り倒す。
「おいおい、こっちを忘れているんじゃないか?それともそんな事も気にする事が出来ないほどの無能なのか?」
「「………人間風情がなめるなああアアアアア!」」
俺の挑発に激昂した二人が襲いかかってくる。
頭に血が上っているせいか、連携がとれていない攻撃を容易く回避。そしてうまく校庭に誘導する。
……うん、ここなら周りを気にせずにやれそうだ。
(そのようだな)
クールである一方、こちらを戦友として扱っているような声音を聞き、苦笑する。
「なにがおかしいィイイイ!?」
「あんたらの無様が」
獣のような咆哮を上げて突っ込んでくる悪魔二人をしっかり見据えて唱える。
「暗闇に迷える光よ、我に集いその力解き放て!」
魔剣解放、『
カッ!ズガガガガガガン!!
一瞬の閃光と轟音の後、もはや残っているのはまるで恐竜に踏み荒らされたかのように荒れ、焦げ臭いにおいを放つ地面だけだった。
「………任務完了っと」
こうして俺は帰途についた。
……余談だが、俺が通っている学校の校庭の一部はあの日以来、俺たちが卒業するまで使える状態にはならなかったらしい。
……いや、皆、ホントに済まん……。
さて、傷も癒えたし帰ってもらおうかとするとティナが異を唱えた。
曰く、
「今後もここが禍の団に狙われる可能性はありますし、しばらく潜伏した方が良さそうなので。それに命を助けてもらった恩返しもまだ出来ていませんし」
だそうだ。俺が学校に行っている間退屈なフィーナが諸手を上げて賛成した事で、多数決で2:1となり家主であるはずの俺が敗退。
生活費、大丈夫かなあ……?
もうすぐ高校入るのに……。
最近ため息の量が増えたのではないかと思わずにはいられない俺であった。
今回の詠唱の元ネタ、わかる方は相当な強者かと思われます。
これはどうでもいいのですが、今のところ出ている魔剣の作者のイメージを。
アリア……聖剣の刀鍛冶の魔剣アリア。口調等若干穏やかな感じに。
クローゼ……空の軌跡の登場人物、リベール王国の王太女クローディア・フォン・アウスレーゼ
イライザ……アリアと同じく魔剣イライザ…ではなく、FF13の主人公ライトニング
次からとうとう高校編!悪魔も出るよ!旧派じゃないよ!
感想誤字脱字等あればよろしくお願いします。