高校編スタート。今回はバトルなしです。
第六話
高校生になった。
飛角大学付属高校に入った俺は最初の委員決めで、もっとも人気がなさそうなものを選んだ。その方が決める時にいろいろ楽だし、その仕事は嫌いではない。
………すなわち、図書委員である。
男女共学で、各委員は男女一人ずつ必要となるのだが、図書委員は男子で立候補した俺と、女子で立候補した
部活等に入るつもりはないので(夜遅くまで家を空けているとあの二人が何かやらかしそうで怖い)、俺が放課後にやるのはこの仕事のみとなった。
そんな訳で司書先生から説明を受け、本宮と貸し出しカウンターで受付をすることになった。
最初はどいつもこいつも珍しさから来るために人がいっぱいになってやかましくなるのだが、五月半ばになるとみんな飽きて一気にがらんどうになる。
そんな状況で黒の長髪に黒い瞳、眼鏡装備の彼女はいつも変わらずに、無口無表情を保ち、受付を淡々とこなし、本を読み続けていた。その姿には近寄りがたい何かがあった。
ある時、思い切って話しかけてみた。
「本、好きなのか?」
言ってすぐに後悔した。本が嫌いなのにこの仕事に立候補するやつがいるものか。
が、俺が予想した冷たい返事は来なかった。少し顔を覗き込んでみると、本宮は驚いたかのように目を見開き、ついでパチパチと瞬きをしていた。
その後しばらくして、返って来たのは少し予想外の返事だった。
「…別に。ただここにいると落ち着くってだけ」
「……落ち着く?ああ、静かだからってことか。お前物静かそうなタイプに見えるし」
『別に』という解答に納得したが、
「違う」
頭ごなしに否定された。
「生まれたときから、家には本が大量にあったから。こういう本が沢山あるところにいると、家みたいで落ち着くの」
「……家から通ってるんじゃないのか?」
「下宿してる」
「そうか………」
そういや、うちの居候二人も故郷とか思い出したりするんだろうか。フィーナもティナも故郷を思い出せる物なんてほとんど持ってないだろうし、ましてやフィーナは帰る事がほとんどない身だ。
寂しくないんだろうか?
それとも、俺の見えないところで寂しがっているのだろうか。
考え込んでいる俺に今度は本宮の方から質問が来た。
「あなたは、好きなの?読書」
「………まあな」
そんな純粋な瞳で聞かれたら、口が裂けても「楽したかったっていう理由が一番」とか言えない。
「どんな本が好き?」
「小説」
「どんな?」
「探偵、SF、コメディも好きだが一番好きなのはファンタジーだと思う」
「どういうファンタジー?勧善懲悪物とか?」
「うーん、それも悪くない。でもどっちかと言えば、『どちらが悪』ってことを定めないやつが好き。戦争とかってどっちにもそれなりの大義があるだろう?信念のぶつかり合いっていうかさ。そういうのの方が好きだな」
「………ふーん」
興味深そうな目で俺を見ている。何だろう?と俺が見つめ返すと、彼女は口を開き、
「ミオー、そろそろ帰るよー」
それを妨げるように元気な女の子の声が聞こえた。
声がした方を見てみると、黒い髪をポニーテールに纏めた少女が現れた。
「友達か?」
「……そう」
「うん?ミオ、そちらの男の子は誰だい?」
「クラスメイト。同じ図書委員」
「ふーん……」
くるくるとした茶色い瞳が覗き込んでくる。
「あたし1-Aの
「1-Bの立花剣太。よろしく、御影」
「こちらこそ!」
握手。手の肌が凄く柔らかい。
「じゃ、そろそろ帰ろうか?」
「……うん」
御影の声に本宮が頷く。気になった俺は一つ尋ねた。幼なじみということは、同じところから来たのだろう。
ということは、
「同じ下宿に住んでるのか?」
「下宿?」
御影は少し首をひねったが本宮が御影の服の裾を引っ張り、長身の彼女を見上げていた。
それを見て納得したように一つ頷く。
……ちなみに言っとくと、身長は差があったが胸の大きさはほとんど変わらないようだ。
「うん、そうなるね。もっとも今は下宿先の家族がいないから、実質貸家状態だけど」
「二人だけだとすげえ広く感じそうだな」
実際経験した俺の感想だ。今考えてみると両親もフィーナもティナもおらず、セリアも遊びに来ていないときは家がやたら広く感じられて仕方なかった。
「大丈夫。もう二人いるからね」
朗らかに御影が答えるのに合わせ、本宮がこくこくと頷く。
「ずいぶんと広い家なんだな、家族に加えて四人入れられるなんて」
「うーんと、その人たちにとってはこっちの家は別荘みたいなものなの。だからそんなでもないよ」
どんな金持ちだそいつ。
Side 本宮澪
帰る途中のことだ。
「ずいぶんと面白い子だね、ミオの認識阻害を突破するなんてさ」
アイカは楽しそうに笑う。私は淡々と答えた。
「あの人、多分神器所有者」
「へえ、なるほどねえ。でもそれだけじゃなさそうだったよ。私達の事は気づいてなかったけど、あの子」
「わかってる。複数の術……多分堕天使の加護がかかってた」
「でも妙なんだよねえ、その割には堕天使の気配はこの街にないし、『悪魔倒すぜー!』といった感じでもない」
「あの人、真面目に『勧善懲悪よりもどちらが悪とか決めない話の方が好き』って言ってた」
「なるほど、つまり敵に回るかどうかはまだ不明、か………」
考え込むアイカに私は声をかける。
「まだこっちに来て私達も日が浅い。観察」
「………そうだね。じっくり見定めていこうか。あの子があたし達の………」
敵になるか、味方になるか。
まあ、パイロット版読んでる方は気づいてますよね。
彼女達の正体とか。