パイロット版の部分はちょっと手直し。
第七話
取り敢えず、家に帰ってすぐに、フィーナとティナに寂しくないのか、故郷が恋しくないのか聞いてみた。
ティナは淡々とだが決意を込めた表情で
「恩返しをする前に帰るつもりはありません」
フィーナは何故か少し泣きそうな顔になって、
「私がここにいると迷惑なの?」
…………どうやら勘違いさせてしまったらしい。
まずそうではないと言って落ち着かせ、とりあえず昨日の会話について話したあと、郷愁とかを我慢する必要はないと懇切丁寧に説明したら、納得してくれた。
どうやらそういうのはなく、二人ともかなりここになじんでいるようだ。
曰く、
「孤児だし」
「中級堕天使は競争社会で、仲良くとかあんまりなかったし」
との事である。
……なじんでいるのは良い事なのだろう。多分。
翌日、図書館で仕事をしていると、びっくりするような事態が起きた。本宮の方から、俺に話しかけて来たのだ。
「……ねえ」
「あん?なんだ?」
仕事の時をのぞけば、あまり本宮から声をかけてくる事はないので、俺は驚いてすぐに尋ね返した。
「悪魔ってどう思う?」
「…なんで、そんな事を聞くんだ?」
少し警戒しながら尋ねる。こいつはどの陣営の存在だ。味方か?敵か?
「ファンタジー小説が好きみたいだから。単純に悪魔を『悪い奴』って考えてるようにも見えないし」
「そう、だな…」
まあ確かに、悪いだけの奴と考えている訳じゃない。原作からだけの影響ではない。哀れにも人間の魔術師に脅され酷使されている悪魔の話とかも読んだ事があるからだろう。すごくユーモアたっぷりの悪魔で、辞書のように分厚かったその小説を読みふけった事を覚えている。
「こんな言い方変だけど、天使も悪魔も大して変わらないと思う」
「…どうして?」
不思議そうに尋ねる本宮に、俺は答えた。
「だって、両方とも強い力に引っ張られて仕えてるって事は変わらないんじゃないか?神に仕えるか魔王に仕えるかの違いでしかない。神と魔王って言うのはどっちも遠くに住んでて、秩序と混沌を俺の生活に与えてるんだと思う。秩序が強すぎた管理社会も、混沌が強すぎる『万人の万人に対する闘争状態』も俺は嫌だからな。要するに、天使も悪魔もバランスを崩さないでいてくれたら俺は嬉しいね」
可愛い女の子の前で喋りすぎた。しかも廚二みたいな言葉を。そう後悔した俺だったが、むしろ本宮は今まで見た事ないくらい目をキラキラさせて(ただし無表情)訊いてきた。
「じゃあ天使と悪魔、どっちかって言われればどっちに来てほしい?」
これは……こいつ悪魔か?と思ったが口に出さない。出してもいい事なんか何もない。
とはいえ俺は真面目に本心から答える。嘘付いてもバレそうだしな。
「最近日常があんまり面白くないし……若干刺激が増える悪魔の方かな」
その瞬間、ぱぁっと顔が一瞬輝いたように見えた。すげえ嬉しそうな笑顔だった。惚れそうだった。…確定、だな。
その後、彼女は時たま俺に質問してくるようになった。
後で聞いた話だが、人間の世界で悪魔がどう見られているのかが気になっていたらしい。
「72の悪魔で知っているやつ?」
「そう」
「えーと、よくラノベとか漫画とかで出てくるのは、バアル、バルバトス、グラシャラボラス、フォルネウス、マルコシアス、ストラス、フールフール、かな。あ、グシオン、ボティスが出てくるのもあった。アガリアレプトは違うし………あ、ダンタリオン忘れてた!」
「!」
「ダンタリオンの持つ知識ってとんでもない量あって、それが書物として図書館になってるって話だけど、いっぺん読んでみたいよな。しかもそれを管理してるのが凄くきれいな美少女なんだって話があった」
「……ふーん」
「あ、でも発明好きの変態ジジイって感じで書かれているのもあったな」
「…………そう」
見ると、いっぺん雰囲気が凄い勢いで明るくなった後、一気にズドンと落ち込んでいた。………まあ、いいか。
そう、ちょうどその日の夕方の事だった。
いきなり結界を張られ、堕天使が何人か空から降りて来た。
身構えて様子を見つめていると、一番強そうなやつがずかずかとこっちに歩いて来て、俺の目の前に立ち横柄な口調で言った。
「貴様は一体なんだ?神器所有者のようだが、
……あっちゃー。いざという時のためという事でティナにかけてもらっていた加護が悪影響になったか。どうしよう。上手くごまかすか………
「俺が最期を看取った堕天使がこれをかけてくれた。神器については知らん」
「そうか。ならばついて来てもらおう。それと、そいつの名は?」
「……ルティナベールだ」勝手に殺してすまんティナ。
「ふん、あの穏健派の女か。こんな所で死ぬとはやはり無能だな。まあいい、早くついてこい」
キリキリキリキリ……ブツンッ!
「……断る」
「なんだと?」
「俺はあいつの友達だった。友を無能呼ばわりするようなやつになどついていくと思うか?」
「私は『ついてこい』と言ったのだ。頼んでいる訳ではない。殺しても構わぬのだし、従わぬなら痛い目を見てもら」
「眠りを解け。闇をまとえ。結末を我が手に。……神を殺せ」
「!きさ…」
ズドッ!
目の前にいた堕天使の男を、生み出したフランベルジュ「
(こんな胸くそ悪い奴ら、とっとと片付けるわよ!)
「だな」
相手が同様から立ち直る前に、剣にまとわせた黒い炎を広範囲に放出。
「ぎゃあああああ!」
「熱い!熱い!」
悶え苦しんでいる所を斬り捨てて楽にしてやる。
が、気づかぬうちに何人かには空に逃げられたようだ。上から光の槍が雨のように降り注ぐ。
「まあでもこの程度をよけられなかったら師匠に殺されるけどな!」
容易く回避。剣先を空へと向ける。
「かますぞ、エヴァ」
(任せなさい!)
「猛きよ、汝に触れし者全てを滅ぼさん」
魔剣解放、『
その瞬間、爆風とともに空が燃えて、全てを焼き尽くした。
「よし、戦闘終了かな。帰ってティナに報告」
ドスッ!
……何か、胸の辺りから嫌な音と衝撃がきた。
「……え?」
振り返ると、最後の力を振り絞って槍を放ったのか、消えていきながらも歪んだ笑みを見せる堕天使の生き残りが一人いた。
……仕留め損なっていたか。
患部を見るとどう見たって致命傷だった。
(マスター!しっかり!)
(気を確かに持って!)
魔剣達が内側から声をかけてくれるが、これはちょっと無理っぽい。だってもう既に意識が朦朧として来たし。
「………まだ、死にたくないんだけどなー」
セリアやフィーナ、ティナも上手くやっていけるのかな。心配だ。あいつら俺がいなかったらどうやって生きていくんだろう。
まだ死ねない。
まだ死にたくないっ…………!
「………そう」
意識が闇に落ちる直前、聞き慣れた声が聞こえた気がした。
どのキャラが何で出て来たか、確認するのも悪くないかと。
ちなみに作中の天使と悪魔観はまかでみを参考にさせていただきました。
あと今回の魔剣のイメージキャラクターは中の人つながりで千鳥かなめ。
辞書みたいに分厚かったあの小説、読んだ人はいるのでしょうか?
次回悪魔化です。