予告通り、レーティングゲーム準備編です。
ここで彼らが使う能力の一端を見せられればな、と。
第十二話
話を聞くとこういう事らしい。
ミオの事を知っていた、というか冥界の学校でいじめっ子だったサレオス家のドリルは、ダンスをせずに食事をとっていた、元いじめられっ子のミオの仮面をはぎ取ったあげく、喧嘩を売ったそうだ。
「本ばかり読んでいて戦いでは何も出来ない姫君のことだからきっと眷属も弱いのでしょうねそれに比べて私は……」
と言われて、「私の眷属を馬鹿にするな」とうちの御主人は相手の仮面をはぎ取り頬に平手打ち一発。
それに逆ギレしたドリルが、
「よろしいですわならば決闘です」
と言って、ミオがそれを受けて、今に至る、と。
「ミオ」
「……何?」
「グッジョブ」
「………当然」
とはいえ、すぐに行おうにも都合がつかないので、一週間後になった。
それまで特訓らしい。
ダンスの次は戦闘の特訓か。やれやれ。
……とはいえ、俺が学ぶのは魔力の使い方だけで、肉弾戦については教える側なんだけどな。
二日目。
「うぅぅ………」
「強い………」
「一回も勝てません………」
三人が地に伏して呻いている。裕美、エリーゼ、リリィの神器持ち三人の相手をしていたのだ。
ちなみに訓練となれば俺は誰であっても容赦しない。実戦で生き残ってもらうために厳しい訓練をするのは当然だ。
「どーしてそんなに強いのよぉー……?」
「そりゃ長年の修行の賜物……だけどまあ、あえて言うなら二つの要素が結構大きいかな」
「二つの……」
「要素?」
「一つ目。神器を用いない戦い方……神器に頼り過ぎない戦い方の修練。俺の場合は剣術だった。リリィは俺と同じ、裕美とエリーゼの場合は格闘とかだろうな、多分」
「……神器は絶対じゃないって事ですか?」
「そう。燃費が悪かったり、使うタイミングが難しかったりとか、な」
リリィの声に頷いてみせる。
「もちろん、神器は強力だけど、それに頼りすぎると対策も組まれやすい。その上、神器に頼り過ぎない戦い方を学ぶことは、神器を使用した戦いにもいい影響を及ぼす」
「………なるほど、です」
エリーゼ達が納得したところで、次へ進む。
「二つ目、神器をよく理解する事。長所短所だけじゃなくて、『こういう使い方も出来るのでは?』って言う事を考える事」
「より上手く神器を使いこなせるようになるためね」
「ああ。攻撃にせよ防御にせよ、幅が広がると相手も対策を多数考えなければならなくなる。バリエーションは多い方がいい」
「でも、そんな簡単にはいきませんよ……」
「俺の場合は瞑想して、神器に潜って俺の前の使用者達と会話したり、どう使うか一緒に考えたりしてたな」
「なるほど、神器って私達以前に使っていた使用者が死んだ事で、私達に移って来たものだものね」
「よし、じゃあ理解したところで、もう一本いくぞー」
「「「ちょっ………まっ」」」
三日目。
ミオ直々に魔力制御訓練。
「魔力の使い方か………」
「………どうしたの?」
「何パターンか思い浮かぶんだが最初はどれにしたもんかなー、と」
「………言ってみて」
「魔力による身体強化っていうのを基本に考えているんだけど。体の動きから無駄をそぎ落とすか、魔力を纏う形にするか、魔力を電気に変えて体中の筋肉と、脳を刺激する形にするか」
「………ほとんど無い無駄をそぎ落とすなんてそれこそ無駄。初心者のあなたにとって魔力を電気に変えて使い続けるのは簡単じゃないし、失敗したときを考えるとリスクが高い。取り敢えずは纏う形にするべき」
「サンキュ。あ、あと思いついたのがあるんだ。瞬間加速、瞬動って奴なんだけど」
「………やってみせて」
「はいよ」
悪魔の翼を広げ、魔力を背骨辺りに集中させ、一点に向け放出。その反動で一気に加速。アニメやラノベを知ってるとこういう時いいよな。
着地後即座に足の部分に魔力を溜めて、爆発させる。その勢いでもといた場所に戻り、ミオの目の前で着地。
「どーよ」
「………制御できるようになれば凄いけど、まだ出力調整が甘い。要修行」
「了解」
その後訓練を終え、ティナが練習しているところを見た。
光と闇……恐らく堕天使の光力と悪魔の魔力がそれぞれ右手と左手にあって、そしてそれを合わせようとして……
バチィッ!
二つの力がスパークして、失敗した。
「うぅ、上手くいかないなあ」
「何やってるんだ?」
「相反する純粋な力を混ぜたエネルギーを自分の中に取り込む事で自身を大幅に強化できるって漫画に」
「現実と漫画をごっちゃにするな………」
俺が言う事ではないかもしれないが。
「いや、上手くいきそうなのよ、後少しで。他にもその力を弓の形にして放つ事で相手を消し飛ばしたりとか。レーティングゲームだと危険だからそっちはあんまり重視してないけど」
「……そっか。まあ、がんばれよ」
五日目。
「〜、〜、〜♪」
ビシビシッ、バキッ!
「………何やってるんだ、フィーナ?」
「超音波や衝撃波で相手を内外から破壊するっていうのがセリアが貸してくれた漫画にあったから。音で相手を操る精神感応の方も練習中なんだけど、そっちの方は生まれから考えても、実際にやってみても得意だからこっちを優先してるの」
「………俺が読んだ小説では、その二つを両方極めるのって、短距離走と長距離マラソンを同時に極めるようなものだって書いてあったぞ?」ていうか、みんな漫画かよ、俺も人の事言えないけどさ。
「表現として悪くないわね。でもそれは人間の話よ?私、セイレーンだし。その上歌を儀式魔法にする呪歌もだいぶ覚えてきたしね」
「半端ないな、お前………」
「え、そう?」
フィーナが首を傾げ、そしてある方向を見る。そっちの方を見ると、
「「やああああああ!」」
裕美とエリーゼがセリアに挑んでいた。前言った格闘訓練の一環だろう。にしても、短期間でセリアに挑むようになるとは……。
「甘いっ!身の程を……」
セリアは迎撃すべく、体のバネを存分に使い、
「知れえぇぇぇっ!」
回し蹴り一発。
ズドン!
「「ぎゃああああああああああ!」」
「………あっちの方が、半端ないと思うけど」
「………言われてみれば」
六日目。つまり練習最終日。
「「剣太」さん」
「んぁ?なんだ、エリーゼ、裕美?」
「神器は所有者の想いを糧にして進化すると聞きましたけど……」
「私達、明確な強い想いとか抱いてないような気がするのよね。リリィはあるみたいだけど恥ずかしがって言ってくれないのよ」
「それで、俺の意見が聞きたいと。……俺のも相当恥ずかしいんだけどなー」
まあ、いいか。
「
「神様すら殺せる13の強力な神器の事ですよね」
「たしかそのうちの一つ、
原作主人公、リアス・グレモリー眷属の兵士
「まあ赤龍帝は今あんま重要じゃないんだ。……俺の神器『魔剣創造』はその13の中に入っているか?」
「たしか、入ってなかったはずです………。他にも所有者がいると聞いた事がありますし」
そうだよな、リアス・グレモリー眷属の騎士、
「じゃあなんで俺は毎度呪文を唱えて魔剣を呼び出す時、最後に『神を殺せ』ってつけると思う?普通に考えて出来るはずないのに」
「え………?それは…………」
「ん………?まさか…………!」
「そういうこと。それが俺の願い。神器が神滅具じゃなくても、神を殺せるくらい強くなりたいって言うのが願いだから、いつも願掛けみたいに唱えてる」
もともと魔剣を作る時に参考にした物語とは、少し事情が異なるけれど。
「それぐらい強くなれば皆を守る事だって出来るだろ?まあ、一人で背負い込むつもりはないけどさ」
「そう、ですか……」
「神器を使って戦う以上、願うのは、想うのはどんな形にせよ『強くなりたい』だ。どうして、どんな風に強くなりたいのか、それを考えればいい」
「どうして……、どんな風に……か」
「理由なんて、復讐、誰かを守りたい、理想を実現させたいとかいろいろだ。『どんな風』ってのも、重視するのは、欲しいのはパワーか、それともスピードか、防御かとかもあるからな。俺はバランス……状況対応能力だったけど」
「そう……ですか」
「焦る必要はないさ、ゆっくり考えりゃいい。悪魔の寿命は長いんだから」
そして、大会当日。
控え室でミーティング。相手の戦歴、陣営を見て話し合う。
「相手は王が一、女王が一、戦車が二、騎士が二、僧侶が二、兵士が三か」
質の面はともかく、数では普通に負けている。相手は全ての駒を使っているみたいだから、三人の兵士も精鋭なんだろう。
「兵士三駒分使った鵺が厄介だね」
「私が他の兵士と纏めて相手をしよう。女王にプロモーションされてもパワーで対応が出来るからな」
アイカの言葉にセリアが返す。
「護衛としてミオの側には何人、誰を残す?」
「私とティナが。最近遠距離攻撃を私も覚えたので」
とリリィ。
「私は向こうの女王と女王対決、かな」
とアイカが茶目っ気たっぷりにウインク。
「騎士二体は俺がなんとかする。裕美とエリーゼはフィーナの支援で戦車二人をどうにかしてくれ」
「わ、わかりました」
「まあ、事態は流動的だから何とも言えないけどね」
「まかせて!」
「………裕美の言う通り状況は流動的。あくまで現段階での話だし、臨機応変に動いて」
「「「「「「「「了解!」」」」」」」」
ミオの言葉に、眷属全員が頷いた時、
コンコン。
控え室のドアがノックされた。
「どちらさまー?」
アイカが出て対応する。
「た、立花剣太はいるだろうか………?」
ん?この声は………
「ティレイアさん?」
「あ、ああ。あのあと、レーティングゲームが行われると聞いてね」
舞踏会のときとは違い、黒の、胸元の開いた大胆なカジュアルスーツだった。
「剣太、この人とはどういう関係?」
「えぇっとぉ……」
アイカの質問にちょっとうろたえる。未来の愛人とか言ったらヤバいよな、やっぱり。
「か、仮面舞踏会で知り合ったんだ。居心地悪い同士ってことで」
「ふぅーん、そーなんだぁー」
「………怪しい」
なんでお前らジト目なんだよ。
「あ、そ、それで、その、応援ついでに軽くつまめるものを持って来たんだ」
ティレイアさんが手に持っていたバスケットを差し出す。
中に入っていたのは、手作りと思われるクッキーだった。
一つつまんで食べてみる。
「おいしいです」
「……!ほ、本当か!」
「嘘ついてどうするんですか。ありがとう、ティレイアさん」
「っ………!」
ぎゅっ。
急にティレイアさんが抱きついて来た。
「てぃ、てぃれいあさん?」
突然の出来事に舌が回らない。
「心配なんだ……君がいなくなるかもしれないと不安で仕方がないんだ」
「あ……えと」
「怪我をするのが当たり前なのはわかっている。死ぬようなアクシデントがある事も。だからどうか……せめて五体満足で、生きて帰って来てくれ」
「……はい」
震えるティレイアさんの背中に手を回そうとして、
不意に、後ろからの妙に突き刺さる視線に気づいた。痛い、そして妙に熱い。
「あの、ティレイアさん」
「……ああ、私はもう行く。応援しているよ、未来の
ちゅっ。
最後の一言と頬へのキスで、後ろから突き刺さる視線がますます痛くなった。痛い痛い熱い熱い。
「「「「「「………
ティレイアさんの背中が見えなくなった後、おそるおそる振り返ってみると、アイカと裕美以外全員が殺気をたっぷり含んだ目で俺を睨んでいらっしゃった。
アイカと裕美はなんか、呆れたような目をしている。
「……『未来の主』ってどういうこと?」
六人を代表したミオからの問いに、俺は冷や汗をだらだら流しながら固まった。
拝啓、ティレイアさん。
クッキー、大変美味しゅうございました。
ですが、レーティングゲームの前に、そもそもこの控え室で俺が生き残れるかどうか不安です。
そして予告通り修羅場。
次回レーティングゲーム開始です。そこまで長くはしないつもりです。