予告通り主人公空気回です。
でもその分他がかっこいいよ!
第十四話
Side エリーゼ・クライン
大ピンチです。
相手は、兵士三人、騎士一人、戦車二人、僧侶二人をこちらに差し向けてきました。残りの女王ともう一人の騎士は王の護衛でしょう。
それに対して、こちらは女王のアイカさん、戦車のセリアさん、兵士の私とユミさんと相手の半分しか数がいません。
遠距離の仲間がポイントに着けば二人少ないだけで済みますし、ケンタさんたちがくればこっちが優勢になりますが……、
「くっ………!」
「ほらほら、どうしたのぉ!」
鵺と、戦車二人を相手にセリアさんは互角に戦っています。アイカさんも、僧侶二人の援護攻撃を上手く妨害しているようです。
私達は……
「遅いじゃない、止まって見えるわよ!」
スピードの速い、剣を持った騎士に翻弄され、その間に他の兵士二人から弱めの攻撃を受けるというハラスメント攻撃の中にいました。
『………もう少し、耐えて』
「了解っ…………うっ!」
浅い切り傷がまた脇腹に出来る。
二人は自分の相手で手一杯みたいだし、私達が騎士の方をなんとかしなければ状況が打開できない……!
「にしても、影を操る能力? 気持ち悪いわねー。吐き気がする、わ!」
蹴りを叩き込まれる。でも、私にとって痛かったのは『気持ち悪い』の一言。
私は親に、その能力の不気味さ故に捨てられた。
路頭を迷っているところを、ミオさんに拾われた。
役に立つと言われながらも、自分の能力が嫌いで………
……なのに、彼は能力を見せるなり『かっこいい』
と言ってくれた。
気持ち悪くないかと聞くと、『全然?よく漫画ではある能力だし』
って言って、色んな少年漫画やライトノベルを見せてくれた。
(やっぱり気持ち、悪いのかな………)
心が折れかける。でも、
あの人が目をキラキラさせて『こんな使い方はどうだ!?』っていつも提案してくれたのを思い出した。
『かっけー!』ってテンション高くして笑いかけてくれたのを思い出した。
『自分を否定するな』
って言ってくれたのを、思い出した………!
「……………ない」
「えぇ〜、よく聞こえなかったわ〜。もう一回言ってくれるぅ〜?」
「気持ち悪くなんて……ないっ………!」
「はあ? 何言ってんのよあんた? 影を操る能力なんて気持ち悪いだけでしょうが!」
敵の騎士の女性が吐き捨てる。でも、もう私はそんな言葉に負けたりしない。
「それは、あなたが、無知なだけ………本当は、この能力は」
声を張り上げて、絶叫した。そうだ、この
「ヒーローが使うみたいな、かっこいい能力なんだからぁあああ!」
わだかまっていた想いが弾け、体の中で力が変化していくのを感じた。
そして、力が……収束する。
出来ましたよ、ケンタさん。
あなたが憧れた、キラキラした目で語ってくれた、影のあるクールなヒーローが操るみたいな、かっこいい能力が。
体を黒いライダースーツのようなものが覆っていく。その上に黒いマントを羽織り、夜闇でも敵を見分けられる暗視機構付きの顔右半部を覆う仮面を顔に付けた私は、静かに構える。
「なによ……それ? まさか………」
そして、手の甲を少し震えている相手に向ける形で手を差し出し………
「
クイクイ、と挑発するように人差し指、中指、薬指の三本を二回折り曲げてみせた。
「………っ! 禁手と言ってもたかが下位神器じゃない! なめんじゃないわよ、死に損ないがぁ!」
震えを払い捨てるように、激昂した騎士の女性は突っ込んで来るけど、剣が切ったのはただの分身。
「な……手応えがあったは、ずっ………!」
相手が動揺している間にふところに現れた私は相手の脇腹に肘を叩き込む。
「いつの間にっ………!」
吹き飛ばされた騎士はそれでもこちらに向かって斬り掛かろうとするが、
「がっ…………!」
これが私の禁手『闇夜の影身』の能力。私と完全に同等の力を持つ、実体ある影人形を生み出し、影から影へと私も分身も次々と短距離転移して、入れ替わりながら攻撃を叩き込む………!
まだ、分身は一人しかいないけど、修練次第で増えていくはず。
私は拳を構え、足から練り上げた力を拳に乗せて……
斬撃がかするのを無視して、打ち、……出す!
「断空……一閃!」
ズドン!
頬に見事に攻撃を当てられた騎士は光に包まれて消えた。これで私達が相手しなきゃならないのは兵士だけ……!
と、そこで私のもとに魔力攻撃が降り注がんとする。
「エリーゼ!」
ユミさんが悲痛な叫びをあげるけど、
「大丈夫です」
ふわりと、マントを翻すと、その中に消えた弾は即座に敵僧侶の後ろの影から出て来る。闇夜の大盾の力も健在だ。
ズガガッガガ!
「ぐっ……そんな……」
その僧侶も光に包まれて消えた。
「ナイスだよ、エリーゼ!」
アイカさんが賛辞をくれる。
「さ、残り二人も片付けましょう!」
私がユミさんに言うと、
「ううん」
敵に目を向けたまま、ユミさんは首を横に振った。
「セリアがさすがにへばって来てる。あんたが騎士の攻撃を集中的に受けてくれたおかげで、こっちは防御に集中できて、ダメージあんまり来てないから、セリアの方行ってあげて」
「でも……!」
「大丈夫よ」
ユミさんは力強く笑った。
「あんただけに見せ場、あげるつもり無いわよ?ここからは私の活躍シーンなんだから」
「……はい!」
頷き、私はセリアさんの元へと駆け出した。
Side 七街裕美
……とは言ったものの、数の上で不利である事に代わりは無い。質の上でも相手は会わせて駒五つ分。私は駒二つ分。
でも、さすがのセリアも削り合いでスタミナが限界に近づいている。あっちの方を先にどうにかしないとまずいだろう。
この状態でミオとティナを待つだけの時間稼ぎなら、私にも出来るはずだ。
………そうじゃない。
私はさっきエリーゼになんて言った?『ここからは私の活躍シーン』って言ったんだ。
彼女は自分の力を受け入れてかっこ良く決めてみせた。
剣太は言っていた。どうして強くなりたいのか、どういう風に強くなりたいか、それが大事だと。
エリーゼは自分の力をどうにかしたかった。ヒーローのようにかっこ良く、バランスのとれた強さを求めた。
私は……ずっと自分が、親がいないくらいしか特別な要素が無い普通な子だった。親がいないという事情を皆知っていたから、誰かに頼られる事なんてほとんどなかった。普通だったせいで、誰かに頼る必要もあまり無かった。
………神器を持っているとわかるまでは。
わかったときはすごく嬉しかった。親がいないだけ、なんのプラス要素もないと思っていた人生に思わぬプラス要素があったのだから。これで誰かに認めてもらえる。これで誰かに喜んでもらえる!
でも、結局その神器も対した事の無いありふれた下位神器で………、結局私は、普通の眷属悪魔だった。
多分今、ミオの眷属の中で最弱は私だろう。
エリーゼと一緒に修行して来た。剣太から話を聞いて以来、セリアに実戦形式で死にそうになるまで稽古をつけてもらったし、朝起きるときと寝る前に神器の中に潜って、何も見えない暗闇の中、前所有者やこの神器が宿すドラゴンを探していた。
でもそれは普通のことでしかなかったのかもしれない。きっとみんな、私と同じぐらい努力している。だから、この差が縮まる事はないのかもしれない。
でも、私は………、置いていかれたくなくて。
「ああ……そうだ」
私の呟きに怪訝な顔をする、目の前の悪魔二人。
でもそんなのは気にしない、私は答えを見つけたから。
……私は、誰かに認められたいから強くなりたいんだ。
………誰かを支えられるように、誰かに頼られるような強さが欲しいんだ。
だから、強がってあんな事言ったんじゃないか。
「だったら……」
ここで、実現してやる。
戦闘力が低くても、皆に頼られるような神器使いになってやる!
その決意が私の中の何かを目覚めさせた。
視界が光に包まれる。
『ほう?儂を目覚めさせるような強い想いを持った使い手は久方ぶりよの』
あなた………誰?
目の前にいるのは羊の角を生やした、暗灰色の蛇のような龍だった。
『お主の中に宿っているものだ』
……ドラゴン?
『そう、儂の名は
………よくわからない。
『ふっふ、今は知らんでもいい。久々の現世だ、儂も存分に楽しませてもらおう。孤高にして唯一を求めた龍の欠片が、孤独を厭い、誰かを支える事を望む少女の内にいるというのも、また一興』
え………それって……
『さあ、いこうではないか我が宿主殿。まずは彼奴らを鉤爪で引き裂くとしよう』
光に包まれていた視界が元に戻った時、
何故か、言うべき言葉がわかっているような気がした。
「…………
その声とともに何も無かった右手に、各指の先に湾曲した刃が着いた篭手が出現した。
「禁手、
『承知っ!』
龍の手の力で、二倍に強化された脚力で走る。狙うのは三駒分使われた男の兵士の方。
「一つの戦いで二つも神器が覚醒するだと!? 聞いていないぞそんなこと………!」
戸惑っていたものの、もと拳法家なのか、ゆらりと構えて正拳突きが来る!
それを私はガシッ!と右手で掴んだ。
同時に神器から声が発せられる。
『
その声とともに相手の動きが弱まった。
「く………体が……」
「『龍の鉤爪』の能力は掴む事で指定した相手の動きを阻害し、ダメージ量を倍にする力、さ!」
ドゴッ!
左のストレートが入る。まともに喰らった兵士は思い切り吹き飛んだ。
「っ! このぉ!」
もう片方の兵士が手に持った槍で突こうとして私のもとに走り出し……
『「
耳のイヤホンから声が聞こえ思わず顔がほころぶ。
『恋符「マスタースパーク」を起動』
ズバアアアアアアアアア!
槍を持った兵士はミオの放った七色の光に飲み込まれて消えた。
もう一人の方はと見ると……
足下に電気を帯びた白い剣……恐らく聖剣が突き刺さってる。
『
そのリリィの声と同時に白い聖剣が聖なるオーラをまき散らして爆発し、ただでさえ強力なのに、倍になったダメージを受け、拳法家らしき兵士も消えた。
思わず苦笑する。
「ここから活躍ってところだったのに、タイミングがいいんだか悪いんだか」
『なら、これから活躍すればいい』
ふと周りを見回してみる。
アイカも僧侶を倒したようだし、増援が先ほどようやく来たようだ。
戦車二人を既に倒し、今鵺をフルボッコしている。
援助の必要などどこにもなさそうだ。
「………これから?」
『………ごめん』
残るは、無傷の女王と騎士、そして王。こちらが数では逆転したが、ダメージを回復しても疲労は大きい。
最後まで、油断せずにいこう。
Side end
という訳で禁手祭りでした。
全員同時に禁手化はまずいだろうと考え、何とか分けようと思ったらこうなりました。皆さま、アイデアありがとうございました。
そうそう、まだ二人とも決意の強さで禁手化したので、実力があまり伴わず、禁手の力使いこなせてません。わかりやすく原作版で言うと、イッセーに対するタンニーンの修行が若干甘かった状態です。また、裕美はこれで終わりません。オリジナル要素、クルアッハはそのための伏線です。これで終わったら寂しいですしね。
次回、レーティングゲーム後編。主人公が多分かっこいい回です。
感想誤字脱字等あればよろしくお願いします。