今回は主人公活躍します。たぶん。
第十五話
「どうするよ?あれが罠って可能性も……?」
「ない。驕り高ぶった状態のあれにそんな脳はない」
珍しくめちゃくちゃ辛辣だなうちの主。即答だし。
「じゃあどうする?一気に飛びかかって全員でボコるか?王同士で一騎打ちってのは勘弁な、こんな状況でそれは無い」
「わかってる。そんな真似をするつもりは無い。でも………」
ミオは少し後ろを振り返る。傷を癒す事は出来ても疲れは癒せないようで、エリーゼとセリアは疲労が限界だった。アイカも疲れが隠せていないし、裕美も見せてはいないが少しは疲れているだろう。
「余裕があるのは俺、ミオ、ティナ、フィーナ、リリィか。で、ここからまだやれそうだけど、王の相手はきついってのはアイカと裕美、と」
「確実を期して分担で行く。リリィが前衛、アイカが後衛で騎士を倒す。裕美が前衛、ティナが後衛で、私とフィーナの援護で女王を倒す。裕美が限界になったらティナを前衛に回す」
「………俺は?」
「王の足止め。両方に援護させないで。少し時間を稼いでくれれば確実にそちらに回れるし、あなたならそれぐらいは平気のはず」
「了解、と。そうそう、ミオ、もう一つ質問を忘れていた」
「……何?」
「時間を稼ぐってのはいいが」
ニヤリ、と不敵に笑んでみせる。
「別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」
「………当然」
そして俺たちは、それぞれの目標に向けて駆け出した。
「フィーナ。裕美の援護、手伝う」
「ありがと、ミオ!」
ミオが口ずさんだ歌とともに、戦闘が開始する。
歌ってるのは、「薔薇」の名を冠する赤きドラゴンの少女との出会い、そして愛と戦いの物語。
……どいつもこいつもアニソン好きだな! いやたぶん俺の影響なんだろうけども!
女王と騎士が俺を足止めせんとするが、リリィと裕美の攻撃によって封じられる。
脇目も振らずに駆け抜け、
そして俺は、ドリル………エスピーナ・サレオスの前にたどり着いた。
相手は何も言ってこない。ただこちらを睨みつけているだけだ。
いきなり攻撃するのも騎士らしくないな、と考え、まずは一礼してみせる。
「お初にお目にかかる、エスピーナ・サレオス嬢。俺は立花剣太、ミオ・ダンタリオンの騎士だ」
「ふん、下賎な犬が何の用ですの?」
「………倒させていただく」
「はっ! やってみせなさいな!」
アリアを呼び出し、瞬動を駆使して高速で一気に突きかかる。
足に魔力を溜めていた事を見抜かれていたのか、空へと飛んで逃げながら無数の魔力弾………おそらく属性は破壊だろうと当たりをつける……をこちらに向かって降り注がせる。
「肉片になりなさい!」
ズガガガガガガガガガガガガ!!
絶え間の無い攻撃。でも………
「………なっ」
俺は直撃コースの魔弾のみを切り裂き、そのまま相手の方へと飛んでいた。
その勢いで相手に突きを叩き込む。
「くっ………!」
相手は多層防御術式を展開。突きが何層も食い破るが、そのまま防御術式を爆発させ、地上に相手が降り立つ。
たいしたダメージも受けずに俺も地上に降りた。
「下僕風情が生意気な………!」
「その下僕に対し有効打を一発も当てられない上級悪魔は何なんでしょうなあ?」
からかい返してやる。これで挑発に乗ってこっちに攻撃しまくってくれれば楽なんだが。
「うぐぐ……。………フン」
途中で意図に気づいたのか、ドリルは俺を嘲笑する。
「さすがは本ばかり読んでる悪魔の眷属。語彙だけは豊富なようですわね」
「ご丁寧にどうも」
肩をすくめてみせる。
だが、次の言葉が問題だった。
「やはり下手に知恵をつけた下僕は駄目ですわね、あの裏切り者のアガリアレプト家のように主人を裏切るかもしれませんし。馬鹿なのがちょうどいいのですわ。そうそう、ダンタリオンも知恵ばかり身につけようとしている家なのでしたっけ?………裏切るかもしれないものが多いと大変ですわね。オーッホッホッホ!!!」
甲高い笑い声がしゃくに障る。だが、それ以上に言葉の内容に激怒した。
「………黙ってろよドリル」
「………何ですって?」
「黙ってろって言ったんだよ掘削機。知恵をつけて何が悪いってんだ?満足な豚よりも不満足な人間である方がよいって言葉も知らないのか?ああ知らねえな馬鹿だもんな。知恵を必死でつけて、その頭を魔王様のために、他の悪魔のために使おうとするのが間違いだなんて誰にも言わせねえ。何より、俺の主の家と、俺の大事な人の一人の家を貶したってのが許せない。万死に値するぞ、それは」
「っ、あなた、万死に値するですって!?しかもわたくしの髪を掘削機扱いするなど……、それこそ万死に値しますわ!」
先に言ってきたのはどっちだ。だがそんな事はどうでもいい。
アリアを元に戻し、怒りのままに新しい呪文を紡ぐ。
「黄昏よりも昏きもの、血の流れより紅きもの。時の流れとともに在りし、偉大なる汝の名において、我ここに、闇に誓わん!我等が前に立ち塞がりし全ての愚かなるものに、我と汝が力もて、等しく滅びを与えんことを!」
神を殺す?そんなの今は関係ない。
ただ………こいつを
………出来上がった剣は禍々しい紅色の剣だった。
「汝に『
答えるように、その剣は不気味に輝いた。
殺気をこめてドリルを睨みつける。
たじろいだようだが、すぐさまもとの威勢を取り戻し、
二番のサビが終わり、調子が変わる。
ミオとフィーナの歌が佳境に入った時。
「所詮、虚仮威しですわ!」
無数の魔弾を放った。
俺はそれを斬り払うように剣を振る。
一瞬で、俺の元に向かっていた全ての魔弾が
「! ……な、なんですのその剣は!?」
「……さっきの詠唱を聴いていなかったのか? 黄昏よりも昏き冥界を支配するのは誰だ? 血の流れよりも紅き髪を持つのは? 滅びを与えると、最後に俺は言ったな?」
「………ま、まさか」
「そう、これは現魔王の一人、『
もっとも滅びの力を振るうたびに凄まじいエネルギーを持っていかれるんだが、そんなことは言う必要が無い。
「魔王様と同じ力で死ねるんだ。ラッキーだと思うことだな………!」
再び俺が駆け出すと、ドリルは恐慌を引き起こしたように魔弾をまき散らし始めた。
その全てを消滅させ、ドリルの首めがけて剣を振り下ろさんとした時………
ドリルが一瞬で、目の前から消え去った。
『
その声を聞いて、剣を振り下ろすべき相手が敗北したのだと知った。
でも、怒りが収まらない。
ものに当たるようだけど……
「古の龍すら滅ぼせし力よ、その力を解き放て」
魔剣解放、「
赤黒い光が敵の本陣のあった場所めがけて奔り、
全てを消し飛ばした。
すっきりしたー、と思っていると、
不意に、視界がぐらりと揺れる。
「……ミスった。ただでさえ魔力消費激しいのに、八つ当たりに魔力使いすぎた」
そのまま俺は、仲間が走りよってくるのを確認し……ゆっくり倒れた。
Side ティレイア・アガリアレプト
内輪もめの決闘のため、観客はいつもより少なかったが、それでも観客は皆絶句していた。
………私の愛する人に。
攻撃全てをルシファーさまと同じ属性の力を宿す剣でもって消滅させ、上級悪魔を完全に一対一で大した傷も負わずに倒してみせた。
また、勝った後、魔力が少ない状況で、魔剣の力を解放し、山一つを消し飛ばした。
……その代償に、魔力切れで倒れてしまったようだけど。
審判役を終えた、ルシファーさまの眷属筆頭の『女王』であるグレイフィアさまが呟いた。
「まさか、我が主と同種の力を不完全ながらも用いんとするとは……驚きました」
その言葉に皆が賛同する。
「もはや本当に72の旧序列は意味を成さなくなりましたな」
「ミオさまも見事な指揮を見せた。今後のレーティングゲームでの采配にも期待が高まりますな」
「騎士の少年も凄まじい剣腕を見せたが、少女の方も凄かったですな」
「北欧術式と神器の合わせ技。元堕天使やセイレーンも力を上手に使っていたようですし、兵士二人はこの戦いで禁手に至った。今後は彼らの上級悪魔への昇進についても考慮しなければなりなせんな」
最後の言葉は私にとって朗報だった。彼の元に行く日が近づいたのだ。
……それにあの時彼はアガリアレプト家を「俺の大事な人の一人の家」と言って、侮辱にも本気で怒ってくれた。
それが何より嬉しかった。彼が実際に私を大事にしようとしてくれているというのがわかったから。
「よし、お見舞いに行こう」
そう決意して、私は彼が寝ている病室を探しに行った。
後ろでこんな嬉しい会話が交わされているのにも気づかぬまま。
「それにしても、アガリアレプト家を指して大事な人の一人の家、ですか。悪魔の未来は明るいですな」
「他にも大事な人がいると言っているのと同じですな。ま、もとより一夫多妻は認められております。かの少年、ダンタリオン家だけでなくアガリアレプト家の復興にも手を貸しそうですな。喜ばしいことか、それとも否か……」
「グレイフィア殿の家と同じく、恭順し、今はともに働く仲間なのですから、昔に囚われすぎるのもよくないかと」
「そうですな。……すでに彼が上級悪魔の仲間に入ってくるのが待ちきれません」
「ええ、彼は活躍しそうだ。やはり種の存続のため、転生悪魔を入れるという意見は正しかった」
「おや、そういえばそのアガリアレプト家の令嬢はいかがなさったのかな?」
「先ほど部屋を出て行かれましたよ。……彼に会うためかと」
「青春ですな……。若い頃を思い出します」
Side end
起きたらまず最初に説教された。時代は省エネ。八つ当たり良くない。あげく自爆とかアホだろとさんざん周りから貶された俺はベッドの上で土下座した。………あれ? 俺一応病人のはずだよね?
「魔力切れは病気じゃない。それよりもあなたの脳の方が重症」
いやミオお前それひどいだろと非難しようとしたら、周りの連中は皆頷いていた。くそ、コイツらグルか。
「……私の家の侮辱に対して怒ってくれた面もあるから、とりあえず許す」
少し顔を紅く染めて、そっぽを向いて言われた。ほっとしたのもつかの間、
「じゃあ、本題に入りましょうか」
フィーナに目が笑っていない笑顔で言われた。レーティングゲーム前の恐怖が蘇った。
そのとき、
コンコン。
ドアがノックされた。エリーゼが開けるとそこにいたのは、
「や、やあ。大丈夫かな?」
取り敢えず、ティレイアさんと一緒に事情を説明。
アイカとミオは二人とも複雑そうな顔で『そこまで酷かったとは……』と言っていた。
一応、引き取るとかそういう点において納得してもらったから、取り敢えずの危機は回避成功……
「でもティレイア、一番はあげないからね?」
「一番に出来ないかもしれないとは言われたが、ならこちらを一番に選んでもらうように努力すればいいだけのこと。私も退く気はないよ」
「………私も、負けない。他の男と違って、一緒にいると楽しいから」
「ま、負けません!」
「同じく。譲るつもりは無いですよ?」
「私もですっ!」
「無論、私もだ」
……してもなんかまたヤバいことに……
女の子が俺を奪い合う、ねえ。ある訳ないし、あったらいいなと思っていたけど、実際にそうなると……
めちゃくちゃ、きついな。
魔剣は呪文見て偶然設定を思いつきました。そして衝動的に書きいれました。燃費が悪すぎるので、出てくる機会はおそらくもうほとんどないかと。
名前の由来はとっても簡単。『護くんに女神の祝福を』の『魔王の剣』と、あの呪文が得意技だった天才魔導師の名前を足して二で割りました。
次回は説明回。文章の半分を『なんでこんなところで禁手になったの、ていうかこの程度でなれるの?』という皆さまの鋭いご指摘に答えるための辻褄合わせから思いつきました。
………自分のもう片方の連載作品でもそうなんですが、バランスとか設定とか、最初しっかり考えていたつもりでも、客観的になりきれないせいか、やっぱり甘い部分があります。だから後で辻褄合わせをしなきゃいけなくなるんですね。
いつかそういうことをする必要がないような文章を書けるようになりたいものです。
今後の方針とかも出ますよ。
感想誤字脱字等あればよろしくお願いします。