時系列的に三巻に入ります。
そして頑張って辻褄合わせしてみた結果がここに……こんな設定で大丈夫か?
第十六話
七月、駒王協定が結ばれた。
わかりやすく言うと、聖書上の三大勢力……天使、堕天使、悪魔が和平を結び、協調体制をとることになった。
だが敵がいない訳ではない。以前も言った戦争大好きな
という訳で、協調体制と共にこの危機を脱却すべく、相互の技術供与や人員派遣が行われるようになったのだが。
「どうも初めまして。私はアルマロス。堕天使の幹部をやっています」
こっちに来たのは大物だった。元堕天使のティナが呆然としている。
曰く、
「ここは悪魔にとって人間界における参謀本部のような側面があり、駒王学園を含むグレモリー領と並んで重要な土地です。なので私が派遣されました。天使の方からもガブリエルが来る予定です。こちらのダンタリオン眷属の神器の成長にも協力させてもらいます。」
だそうだ。
で、この前エリーゼと裕美が禁手になったーって言う話俺たちがしたら、興味を持ったらしく、至った状況や能力の内容、そして以前の俺たちの修行の内容を訊いてきたのでそれぞれ丁寧に答えると、呆れたような顔をして言われた。
「ずいぶんと無茶をするものです。神器の中に何のサポートも無しに潜るとは。それも一時間も」
え?それのどこが無茶なんだ?普通じゃね?
俺が疑問を抱いてることに気づいたようで、アルマロスさんはため息をついて説明した。
「神器の中でも前所有者の記憶といった辺りは特にデリケートな部分です。データでは、あなた達が体験した程度の小さなきっかけでは普通禁手には至りません。実力も十分と言い切れるほどのものではない。禁手に至れたのはデリケートな部分が刺激されていたから、というのが大きいでしょうね」
じゃあ別にいいじゃん。至れたんだし。
「確かに結果的にはよかったですが、何のサポートもなしだとリスクがあるのです。………下手をすれば、神器に精神を喰われるところですよ?一時間など精神の負担が大き過ぎて普通耐えられません。むしろそれが成長の糧になったのかもしれませんが、危険過ぎます。それに実力が不十分ということは、禁手に振り回されるということ、禁手の負担が普通よりも大きいということも意味しています。段階を飛ばした分は後でなんとかしなければならないのです」
はあ、なるほど。
……………。
「……え? 精神を喰われる? つか、普通耐えられない?」
「そう言いました」
………取り敢えず、エリーゼと裕美に土下座した。
「知らない間に命を危険に晒してスイマセンでしたァァアアアアッ!」
『結果的に禁手になれたから許す』と言ってくれたので土下座をやめると、アルマロスさんは話を続けた。
「さて、さっきも言ったように二人とも修練が足りないまま禁手に至ってしまったので、使いこなせるように修行をしていただきます。少し調べさせてもらいましたが、発動できるとはいえ、代償にある程度生命力を持って行かれているようですしね。禁手の継続時間も延ばしてもらいます。さて、エリーゼさんは影の操作に習熟してもらいます。分身の影を増やすだけでなく、体の一部のみを影で増やす、纏った影の形を武器に変えるなども可能になるでしょう。………それと七街裕美さん」
アルマロスさんは裕美の方に向き直った。
「………はい」
「あなたの龍の手に宿っているのは暴君龍だとさっき言いましたね?」
「はい、禁手になったと同時に声が聞こえて………。でも禁手にはもう至っちゃったんだしあまり関係ないのでは?」
「………龍の手にはドラゴンが封じられている、これは大前提です」
「? はい」
何を当たり前なことをと皆が疑問の表情を浮かべる。
「でも、それぞれの龍の手にどういうドラゴンが封じられているかはそれぞれ違います。つまり、
アルマロスさんは教師よろしく指を立ててみせた。
「なぜ、ドラゴンの種類が異なっているのに、宿っている『一定時間力を倍にする』という能力は同じなのでしょう?そして、なぜ、それぞれのドラゴン固有の力は禁手にすら存在していないのでしょう?」
……全員、沈黙した。確かにそうだ。封じられているドラゴンの種類が違うのに、能力が全て同じというのはおかしい。禁手でならその特性が出てもおかしくないのにそれでも出なかった。
「答えは簡単です。『一定時間力を倍にする能力』は龍王より下の全てのドラゴンに共通しているからです。禁手の『動きの阻害、ダメージの上昇』も同様。………龍の手は強力に封印されていて、本来の力が引き出せていないのです。………ですが」
一度言葉を切る。
「暴君龍の意識を目覚めさせたことで、七街さんはその力を引き出せる可能性があります。言うなればあなたは神器『龍の手』を禁手まで至らせると同時に暴君龍の意識を目覚めさせたことで、神器を変質させたのです。ただの『龍の手』から……、そうですね、名付けるならば『
「………それってつまり私の能力がまだ強くなれるってことですか!?」
「そうなります。もちろん、覚醒したばかりの力を使いこなせるようになってから、少しずつ暴君龍の力を引き出す形になりますので、時間はかかりますが」
またアルマロスさんはため息をつく。
「これはやはり、先ほど言った神器に潜ったことによる効果が大きいのでしょうね。危険な賭けに知らない間に大勝ちしていたと言ったところでしょうか。………あとでアザゼルに報告しなければ」
「………そっかぁ。私、もっと強くなれるんだ」
裕美は嬉しそうだった。自分の目標もこの前決めたみたいで、すっきりした表情をしていたし、目に見える目標に燃えているみたいだ。この先実力で抜かれることもあるかもしれない。まあ、簡単に譲るつもりは無いけどな。
「………禍の団が本格的な活動を開始したのに伴い、我々も力をつけて行く必要があります」
アルマロスさんが真剣な表情になった。
「先ほど言った二人の修行だけでなく、魔剣創造と聖剣創造の禁手化を目指した鍛錬も夏休みにやりたいと思います。強くて損なことはありませんし、テロリストへの自衛手段は多い方がいい。………近いうちに若手悪魔の会合があるんでしたね?その際にレーティングゲームを行うことを考えています。その時期まで冥界で修行を行うという計画を立てています」
なるほど……。そうなると、今年は旅をする先を考える必要がないのか。冥界行き決定だしな。
「その予定なら大丈夫。………それが終わったらすぐに私達は鈴鹿に行く」
ミオが答えた。
「……鈴鹿、ですか?どうしてまた……?」
「あそこは京の妖怪から独立している妖怪達の集まりがあるから。……京に妖怪は多いけど、全ての妖怪が京にいるわけじゃない。魔王さま達が交渉に行く前に、以前コンタクトをとったことがある私達で挨拶に行っておく。多分無いとは思うけど、禍の団に参加されても困る」
「……なるほど、情報の統括を担当しているのは伊達ではないようですね」
アルマロスさんが感心したところで、彼がやってきて初めての、俺たちダンタリオン眷属のミーティングは終了した。
……………悪魔になって初めての夏休み、か。忙しくなりそうだな、最初から最後まで。
………まあ、まずはいつもと同じく宿題を片付けますか。
作者の貧困な脳の中では一番いい設定のはず。
次回はまだ修行は開始しません。忘れていた伏線を思い出したのでそれを回収するのが大きいです。
感想誤字脱字等あればよろしくお願いします。
感想でご指摘を受けて少し修正しました。