あえて言います。
途中辺り半分実体験入ってます。
第十七話
今日から夏休みである。
師匠に剣を習っていた時代の習慣がまだ残っているのか、徹夜をした結果、宿題はもう終わっていた。
凄まじくいい気分のまま………徹夜明けでテンションがおかしくなっているだけかもしれないが……朝食を作り始めていると、
「もう、私の仕事をとらないでよ」
不満そうな声が後ろからしたので、振り替えってみると、パジャマ姿のフィーナがいた。
………言い忘れていたが、まだ同居中である。
「いや、ついテンションが上がってな。コミケのカタログ買って計画たてるのが楽しみなんだよなー。セリアやフィーナにも手伝ってもらうから。あ、ティナにここで恩返し頼むのもいいかも!どうしよっかなー」
「………え」
「あん? どしたフィーナ?」
フィーナはしばらく考え込み、
……後ろめたそうな声で、テンションが上がっている俺に言った。
「冥界に八月二十日辺りまで行くってミオ言ってたよね。………行けるの?」
「…………………あ」
ちなみに夏コミは毎年8月の中旬に行われる。
………俺の夏休みは開始早々から暗雲が立ちこめてきていた。
「一日だけなら」
事情を話してミオに懇願したらOKされた。まあ、最終日だけでも行けるならいいけど。
「前日の夜に出立とか出来る?」
「…………そこまでする必要ある?」
………こやつ、わかってないな。
「夏コミを舐めるな…………ッ!」
サークルチケットを持たない人間はどれぐらい早朝から並ぶのか。スタッフの人達がいかに面白くネタを織り交ぜて指示を出してくれるか。『これより開始します』と言われた時に起きる拍手とともに膨らむ期待感。炎天下の中、東館壁サークルの列に並んでいて目の前で『売り切れました』となったときの虚無感と絶望。それ故に得た時に噛み締めるものの大きさ。『これにて終了です』と言われたときの虚脱感と幸福感。全てこんこんと説教した。
「これが理解できないとは…………神経を疑うぞ!」
「………普通に女性に対して男性成人向けの同人誌買ってくるように指示するお前に神経を疑われても痛くも痒くもないが」
セリアの呆れたような声とともに何故か室温が一気に下がったような錯覚を得た。視線が痛い。
「………ていうか、私達もそうだけどティレイアだっているじゃないですか。リアルに何か不満でもあるんですか?」
「別にそういう本ばっか買ってるわけじゃないし、むしろそういう本は同年代では多くない方なんだが……。そうだな、女の子は甘いものは別腹って言うだろ?」
ティナの質問にたとえ話で返すと、皆、『何を言っているのだろう』と首を縦に振りながらも不思議そうな顔をした。
「それと同じだ。男の子にはいろいろいてね、『二次元いらない派』『むしろ二次元主食派』『二次元は別腹派』の三種類がいるんだ。俺は最後の奴だけど」
「なんかケーキと同列に語られている気がする………。そんなに二次元の女っていいの?」
「そうだな、ギャルゲだと、心の動きがわかりやすいから相手しやすい。そんなに金がかからない。いついかなるときでも起動すれば相手してくれる。永遠に老けない。色んな属性を楽しめる。こういうのが大きな長所かな………って」
……おいおい。なんか全員恐ろしい形相をしているぞ。
「別次元からまさかの強敵出現………」
「いっそ全部消してしまえばよいのでは………?」
「また買うだけ。………ここは敵の情報収集を開始するべき」
「下手に争いあって二次元の女にとられたとか悲惨ですからね………」
こそこそと話をした後に頷きあって、リリィ、ミオ、エリーゼ、ティナの四人は声を揃えた。
「「「「私達も行く(行きます)」」」」
「下手すりゃレーティングゲームよりもきついぞ?………そんな覚悟で大丈夫か?」
「「「「大丈夫だ、問題ない」」」」
……今年は大所帯になりそうだ。買いたいものがいろいろ買えるな。
冥界に行く日が来た。俺たちの修行プランを考えてくれてるアルマロスさんは先に別ルートで行ったらしい。
全員、すでに何回か冥界には訪れているので、転送魔方陣を使ってダンタリオン家へ行った。
見慣れた道を歩き、見慣れた道を行く。………最初は驚いていたけど、流石に慣れた。
中に入ると、無数の本が至る所にある書棚に収められている。
出迎えたのは見たことの無い男女だったが、その人の隣にリオロスさまがいるのを見ると何となく察しはつく。
………ミオの両親だ。取り敢えず膝をついて頭を垂れておく。
「お帰り、ミオ。時折仕事ついでに来てくれていたというのに、一度も顔も見せられなくて済まなかったね」
「ごめんなさい。仕事が忙しくて。でも今日はずっと一緒よ」
「はい。ただ今戻りました、お父様、お母様」
………話を聞くと、代々ダンタリオン家は悪魔の軍情報部のトップと悪魔が支配する領域の中で一番大きい図書館の館長の役割を担っているらしい。当主は前者で、引退したら後者の職に就くとか。
『
「立花剣太くん、だったね?」
「は」
声をかけられたので頷く。
「レーティングゲームの映像、見させてもらったよ。君がいるなら娘も安心だ。これからも娘を守ってやってほしい。物理的にも、精神的にも」
「勿論です」
後でこんな会話があったことを俺は知らない。
「振る舞いは紳士的……マナーも悪くない…悪魔文字も学習済み、上流階級についても情報を扱う上で理解しているようだし…どの女の子にも優しいのは欠点だけどミオも認めているみたいだし…………、アガリアレプト家の令嬢も嫁ぐつもりでいるけど、第二夫人でも構わないようね………これなら問題ないかしら。ねえ、あなた?」
「そうだな。彼になら娘を任せられそうだ」
前と同じように旧首都ルシファードに着く。ミオは原作のリアス・グレモリー程人気はないし、目立つのも嫌っていたから、普通にすいすいとバスに乗り、都市の中で一番大きなホールに着いた。
ここで若手悪魔、旧家、上級悪魔のお偉いさんが集まるらしい。
待合室と思われる部屋の大きな扉を開けると、二つの集団がいた。それぞれのトップと思われるもの達が会話をしている。和やかでもないが、剣呑でもなさそうだ。
片方の悪魔の集団のトップ………青いローブを纏う眼鏡の女性は見知っている。事務仕事で冥界に行ったりした時に時折顔を合わせるからだ。
もう片方……筋骨隆々の男の方は知らない。けど原作知識から思い出す限り、多分………
考えているとミオはすたすたその二人の元に歩み寄って行った。
「久しぶり、シーグ姉様。そして初めまして、サイラオーグ・バアル殿。ミオ・ダンタリオンです」
「……ええ。久しぶり、ミオ」
「こちらこそ初めまして、だな。サイラオーグ・バアルだ。当主殿にも劣らぬ才気はこちらも聞き及んでいる」
「……買い被りかと」
「そうかな? サレオス家との試合では見事に勝利を収めたではないか。……優秀な眷属もいるようだしな」
視線がこちらに向く。何も言わず、一礼して見つめ返した。するとサイラオーグさんはフッと微笑み、そのまま視線を元に戻した。
ディオドラ・アスタロトの集団が入ってきたときに挨拶して、サイラオーグさんが少し離れた後も、ミオは世間話を続けていたのだが。
バタンッ!
ドアを蹴り破ってきたヤンキーがいた。全身に魔術的なタトゥーを入れている。
「は、なんで俺がこんな場所まで来てわざわざ挨拶しなきゃなんねえんだよ!」
そのまま、どかどか足音をたててこっちに歩み寄って来る。
「おい、そこのガキ! なんでこんなとこにいやがるんだ? ここはガキの遊び場じゃねえんだよ! 帰っておままごとでもしてな!」
カチン、と来たらしくミオは呟いた。
「黙れチンピラ風情が」
「なんだとコラァ!」
激昂するが無視するつもりのようだ。
「知性が欠片も無い。あなたこそ、幼稚園からやり直したら?」
「同感ね」
アガレスの次期当主が頷く。
サイラオーグさんは付き合ってられないとばかりに部屋の外へと出て行って扉を閉めた。アスタロトは関わらないつもりらしい。
三チームが二対一に別れてにらみ合う構図となっているが、劣勢のはずのヤンキーは平然と罵倒を続けている。アガレスの次期当主……シーグヴァイラさんの方が今度は口論に応じているようだ。オーラのぶつかり合いで部屋の装飾品が壊れとんで行く。
ミオがそっと呟いた。多分俺に向けてだろう。
「衣服と武装のみ。出来る?」
「お望みとあらばいつでも」
即答した。
そして、大きな扉が再び開いた瞬間。ヤンキーが罵倒し、
「は、なら俺がそこの個室で開通式を行ってやるよ、二人纏めてなぁ!」
ミオが指をぱちんと弾き、
俺は生み出した剣を振りながらヤンキー集団の間を駆け抜けた。
全員の武装及び服がぼろぼろになって地に落ちる。
「………無様」
「てめえ!」
激昂したヤンキーが拳を振り上げた瞬間、もう一人の騎士……リリィが聖剣を突きつける。
「……消滅してみますか?」
淡々とした声にあるのは凄まじい殺気だ。
ヤンキーの他の眷属達が構えようとするがもう遅い。シーグヴァイラさんの方も驚愕を飲み込んで戦闘態勢に入っていた。
勝負は既に決しているも同然だった。
そこにバアル家次期当主が割って入って来る。
「アガレス家の姫シーグヴァイラ、ダンタリオン家の姫ミオ、グラシャラボラス家の凶児ゼファードル。これ以上やるなら俺が相手をする。いいか、いきなりだが、これは最後通告だ。次の言動次第で俺は拳を容赦なく放つ」
「………戻って。これ以上やる必要は無い。もう十分」
淡々とミオはそう俺たちに指示を出すことで答えた。シーグヴァイラさんも同様に戦闘態勢をやめる。
コケにされたヤンキーがキレた。こっちじゃなくてサイラオーグさんの方に。あそこから挽回できるとでも思っていたのか?本当にアホなのだろうか。
「バアル家の無能が……」
ドゴンッ!!
サイラオーグさんにぶん殴られたヤンキーが吹き飛ばされ、一撃で気を失っていた。
そっちの方には興味を失った様子で、ミオは淡々と告げる。
「スタッフ、呼んできて。部屋、直してもらう」
「御意」
頷いて、俺は部屋を出た。途中でシトリー家ともあったので一礼してその後スタッフを呼びに行った。
部屋に戻ってきてスタッフが修復を終えた後、自己紹介が始まった。
アガレス家次期当主シーグヴァイラ、
グレモリー家次期当主リアス、
バアル家次期当主サイラオーグ、
シトリー家次期当主ソーナ、
アスタロト家次期当主ディオドラ、
ダンタリオン家ミオ
の六人で行われた。うん、うちだけ次期当主じゃないんだよな。ヤンキー……ゼファードル・グラシャラボラスは医務室だそうだ。
と眷属を眺めているといきなり話しかけられた。
「君の神器も『魔剣創造』なのかな?」
「……あなたと違って、至っていない身ですが」
グレモリー家の騎士の一人、木場祐斗だった。確かもう禁手に至っていて、聖魔剣を作れるようになったと聞いた。噂に違わぬイケメンフェイスである。
「いや、純粋な剣腕だけでも十分凄いよ」
「師匠に比べればまだまだです」
あの人に追いつける気がしない。空間を純粋な剣技で切り裂くとかどんだけかと。
「それでも凄いさ。……いずれ試合をしたいな」
「その時は御指南お願いします」
「こちらこそ!」
しっかりと握手した。
その時、使用人によって行事とやらの開始が告げられた。
俺たちを見下ろす形でお偉いさん連中が座っている。見下した目が実に鬱陶しい。
若き悪魔を見定める会合だのなんだのって説明のあと、デビュー前にレーティングゲームをこの七名ですることになったという説明を受け、俺たち実戦投入はまだ先だという話を聞き、最後にそれぞれの目標を訊いてきた。皆の答えは、魔王になる、レーティングゲームの戦いで優勝、レーティングゲームの学校を建てる、エトセトラ。
最後にミオの番になった時、ミオはこう言った。
「未だに旧序列を絶対と考えている無能共の思考を叩き直すことです」
思いっきり頭が固い連中に喧嘩を売ってるような発言であるが、普通に魔王さまには受け入れられた。それ以外のお偉いさんの中にこめかみピクピクさせているのがいたが、何も言わないので、まあいいだろう。
その後シトリーとグレモリーの試合が行われることが決まった。その後、それぞれの家とやることになるらしい。
七家……奇数なので、俺たちは弾かれるかと思いきや、グレモリー家とやった後、回復してからシトリー家が相手をしてくれるらしい。アルマロスさんが提案してくれたようだ。いいのかなーと思っていたら、『経験値が積める』と、当のシトリー家次期当主殿は喜んでいた。
さて、およそ二週間。夏コミまで修行頑張るぞー!
皆さんわかっていると思いますが、女の子に買わせる云々は実体験ではありません。
そして原作キャラとのコンタクト。少しだけ。
というわけで次回から修行編です。
絵師百人展見に行くので、明日は更新できないかもです。
感想誤字脱字等あればよろしくお願いします。