修行の日々です。
時折ラブラブ描写が入ります。けっこう書くのきつかった。
第十九話
というわけで朝、転送魔方陣の上に乗ってリリィと一緒にアガリアレプト家へ。
転送が完了するなりいきなり抱きしめられた。
「会いたかったよ」
ティレイアさんだった。
リリィの視線が痛い。妙に突き刺さる。
「さ、まずは私の親を紹介しよう」
ますます鋭くなった視線に、俺は首をすくめたくなった。
「やあ、よく来てくれたね。私の娘も君になら任せられそうだ」
なぜか妙にフレンドリーだったティレイアさんの両親及び兄上との会話に内心ビクビクしながら、昼食を終えると、
修行場までティレイアさんが案内してくれることになった。
「礼儀正しく真面目。ダンタリオン家の姫君のお気に入りであることも考えると第二夫人でも相当優遇されるでしょう。父上と母上はどう思いますか?」
「うむ、あの子と共にに優しい家庭が築けるならば誰でも構わないと思っていたが、はっきり言って望外だ」
「そうですね、将来性まで鑑みるとかなりの優良物件でしょう」
ティレイアさんが見ていきたいというのを「危ないから」と押しとどめ、先に帰ってもらう。
「必ず後で戻りますから心配しないでください」
って抱きしめて言わなきゃならなかったけどな!これ死亡フラグじゃないか……?
素振り、型稽古、そして軽い打ち合いをやって体をほぐした後、
魔獣に挑むことになった。
「………これ、死にません?」
リリィの呟きに俺は平然と答えた。この程度の相手か。油断さえしなければ死亡フラグは回避されたと考えてもいいだろう。
「この程度なら問題ない。11の時に挑んだ地竜より少し大きいくらいだ」
「どんな人生送ってるんですか………」
「師匠が化け物だったんだ。人間のはずなのに」
目の前にいるキメラを前に俺は答えた。
というわけで戦闘開始。
これくらいなら俺は楽勝なので、リリィにやらせてみる。
『GYAAAAAAAAAAAA!!!』
吠えるキメラ。口から火炎を吐いてくるので慌ててリリィは跳び退る。
「うわ、あつっ!」
「そうそう、今回は弓と北欧魔術の使用禁止な」
「ええ!? なんでですかっとお!」
リリィが顔をこっちに向けようとしてから気づいて慌てて敵の方を見ると、キメラは爪を振り上げていた。
あわてて転がり、よける。
「そりゃ剣術の練習してるんだから。実際、術式使ったら瞬殺だぞ」
「うぅ……、わかりました………」
リリィは泣きそうになりながら氷の聖剣を作り出し、炎を防御。大量の水蒸気ががわき出し、辺りが見えなくなる。
思わず俺は呟いた。
「それは悪手だぞ……」
「キャッ!」
キメラの爪の一撃をかろうじて防ぎつつも、リリィは吹き飛ばされた。
「あいつらは鼻がいいんだ、霧の中でも攻撃できる。防御するなら風で炎を吹き飛ばすべきだった」
「っなら!」
リリィは氷の聖剣の出力を上げた。たちまち蒸気が冷却され、水分となって消えていく。
リリィの目の前には水浸しになったキメラがいた。
「今!」
リリィは即座に聖剣を雷の属性に変換。そのまま駆け寄ろうとするが、爪が一閃。だがその軌道を見切って前に突っ込むことで躱す。
「っやぁ!」
雷属性の突きが入り、
ビガガガガガ!
突き刺された部分から、内外両方に高圧電流を流されたキメラはどおっ!と大きな音を立てて倒れた。
「うむ、なかなか。………今回の失敗は?」
リリィに訊く。毎度反省をして次につなげることが大事だ。
「氷属性を簡単にぶつけてしまったのは失敗でした。視界が塞がれた時相手に鋭い嗅覚があることを考えていなかった」
「わかっているならよし」
と、つがいと思われるもう一匹のキメラが怒りの咆哮を上げてこちらに突進していた。この近辺で家畜が大量に奪われているという報告があった。多分二匹いたからだろう。子供は……まだいないようだ。
「悪いが、倒させてもらうぞ」
火炎を吐いてくるのを素早く躱し、キメラの頭部を、生み出したバスタードソードの魔剣フランシスカで叩き斬る。
あっさりと倒れたキメラがもう動かないのを確認してから、剣を振って血糊を払い、そして剣を消した。
「私が苦労して倒したのをあれほどあっさり……」
リリィが少し呆然として呟いていたので、
「年季が違う。言っただろ、問題ないって」
淡々とそう返した。
帰ってきてから夕食をアガリアレプト家と共にすませ、一緒の部屋で寝ると珍しく駄々をこねるティレイアさんを説得し、
ベッドの中に入って眠りについた。
修行開始からちょうど一週間。
グリフォンを叩きのめし、ヒッポグリフがアガリアレプトの領民を襲っているのを斬り捨て、石化の息を吐いてくるコカトリスを風で息ごと切り裂き、野生のガルムが飛びかかってくるのを剣で真っ二つにし、そうやって害となる魔獣を薙ぎ払っていたある朝のことである。
いつものように顔を洗い、リリィと一緒にランニングをしていたときのこと。
遠くに黒い影が見えたので、取り敢えず物見台に訊いてみる。
「今日誰か来るんですかー?」
「いえ、そのような予定は………あれは!」
一瞬で顔を真っ青にした物見の悪魔は絶叫した。
「敵襲! 禍の団、旧魔王派です!」
Side ティレイア・アガリアレプト
「敵襲だと!?」
起きていきなり告げられた私は混乱するしか無かった。
「はい、ただいま住民を避難させております!」
「………彼らは?」
最初に訊かなければならないのはそれだった。父や兄は戦うだろう。当然だ、ここの領主なのだから。
だが彼らは客人だ。この戦に巻き込んでいい道理は無い。
「いえ、それが……」
私のところに報告に来た侍女は口ごもる。嫌な予感が止まらない。
「『いついかなるときも、民を護るは騎士の役目。アガリアレプト卿もいらっしゃるのに時間がかかるだろうから、時間稼ぎを死なない程度にしてくる』と二人とも出てしまいまして………」
「なんだと!?」
Side end
取り敢えず、敵に話をしてみようと思ったのだが、そんなことをする前に敵から魔力の攻撃が飛んできた。
「リリィ、弓と北欧魔術で支援を頼む。敵が近づいてきたときは即座に支援を取りやめて近接戦闘に移ってくれて構わない」
「わかりました!」
応じたリリィは即座に形成した弓に雷の聖剣の矢をつがえ、北欧術式で拡散させながら放つ。音速の三倍で突き進んだ複数の矢は敵の防御術式をあっさりと突き破り、敵陣の中程まで突き進んでから
「
聖剣が爆発し、聖なるオーラの爆撃が発生する。これで相当数削ったな。
そのまま支援のための北欧術式の魔方陣を次々と宙に出現させるリリィを尻目に、
俺は敵陣へと駆け出した。
………これ、役に立つかもな。今回は相手に容赦しなくていいし巻き込みかねない味方もいない。
走りながら考えた俺は新しい魔剣……否、魔刀を生み出すために刀が鍛えられる様子をイメージをしながら呟く。
「水減し。小割。選別。積み重ね。鍛錬。折り返し。折り返し。折り返し。折り返し。折り返し。折り返し。心鉄成形。皮鉄成形。造り込み。素延べ。鋒作り。火造り。荒仕上げ。土置き。赤め。焼き入れ。鍛冶押し。下地研ぎ。備水砥。改正砥。中名倉砥。細名倉砥。内曇地砥。仕上研ぎ。砕き地艶。拭い。刃取り。磨き。帽子なるめ」
最後のキーワードを自信を持って紡いだ。
「……柄収め!」
瞬間、黒く、鈍く輝く禍々しい刀が出来上がった。
「汝に『金色夜叉』の名を授ける」
俺はそう声をかけ、早速出来た刀を眼前の敵へ振るう。
一刀の下に切り捨てた後、一気に剣を薙ぎ払った。
「限定解放」
と呟きながら。
「がっ……!」
与えたのは致命傷とは言えない傷だったが、敵は突如として悶えたかと思うと死に至った。
「貴様、何をした!?」
俺が次々と斬り払い、リリィの援護が敵を消し飛ばしていって、敵の数が五百近くから三十まで減ったとき、とうとう敵の指揮官と思われる上級悪魔が悲鳴を上げた。
「この刀の特性は『一斬必殺』。属性は『毒』だ。この刀の刀身には大量の呪毒が仕込んである。中級悪魔までなら即死レベルだ。解毒は俺にしか出来ない。もっとも、治療用の神器や、強力な解毒術式でもあれば話は別だが」
無論、そんな毒を常時発生させていては、こちらの疲労も半端無いので、時間制限を自分でかけている。敵を切るわずかな時しか毒は発動していない。
「貴様こそなぜここを狙う? もっと重要な場所を狙った攻撃でもすればいいものを」
酷いセリフだが事実である。そういった場所にはテロリスト対策の部隊がきっちり用意されてるから、俺たちがこんな仕事はしなくてもよかったはずなのだ。
「ここの領主は知っているか?」
「アガリアレプト卿がどうかしたのか?」
「奴らは裏切り者だ! 私達を裏切って反魔王勢力に身を落とした! 奴らに復讐するのは我々の活動において必要なことなのだ!」
「………はぁ。言いたいことはそれだけか?」
「………なんだと?」
「お前らを裏切った、だから復讐する、ね。自分が裏切られるような真似したのが悪いんだろ。悪魔が滅びようと関係ないなんて言う奴についていく悪魔はただの狂信者だけだ。……なにより、それはアガリアレプト卿にとっても苦渋の決断だったはずだ。今味方であるはずの現魔王派の連中からも『いつ裏切るかわからない』なんて言われるくらい蔑まれているんだからな」
「フン!たとえこちらについたとしても、即座に殺してやる! 一家全員な!」
「……そのセリフは俺に『殺してくれ』って言ってるようなもんだってこと、理解しているか?」
「……何?」
「悪いが、容赦しない。ティレイアさんを殺すなんて言ってるような奴は、俺が全員切り伏せてやる………!」
殺気を込めて睨みつけ、剣を構える。
その時、声がかかった。
「その言葉、妹が聞けば大変喜ぶだろう。私も実に嬉しかった」
声のした方に振り返ると、プラチナブロンドの髪で眼鏡をかけた若くてかっこいい男性がいた。
「アガリアレプト卿……?」
「とはいえ、ここは我々の領地。君達のおかげで民に一切の被害は出ずに済んだとは言え、指揮官くらいは我々が片付けなければこの領地を与っている意味も無い。……ここから先は任せてくれるかな? 妹に降り掛かるかもしれない危険は、私が完膚なきまでに叩き伏せよう」
「……わかりました」
頷いて剣を下げた。
「アガリアレプト! この裏切り者め!」
「彼が言っていた通りだよ。私は悪魔という種を滅ぼしてでも敵との戦いを続けるという狂信者にはなれなかった」
アガリアレプト卿は、手を挙げて、強力な魔力が込められた槍を無数に出現させ、密集陣形を取らせる。貫通属性が強化されているのだろう。
手を振り下ろすことでそのまま槍を突っ込ませ、残った敵を全て貫いた。
「がぁっ………!」
「だから、私はたとえ味方から裏切り者と蔑まれてでも、種の存続を選んだんだ……」
そう呟き、アガリアレプト卿は瞑目した。
それはこの戦いの終わりの合図のようだった。
Side ???
遠くから僕たちは戦いの様子を眺めていた。
「ふむ、面白いな、あの男」
「アガリアレプトのことかい?」
おもしろがって僕は聞いてみた。
「否。刀でもって無数の敵を斬り捨てた奴だ」
……やはり彼か。卓越した剣腕は確かに彼に取っては魅力的だろう。
「……悪いが彼とは僕がやらせてもらうよ。魔剣同士の戦いがしたいんだ」
「ふん、聖魔剣を狙えばいいのではないか?」
「……僕らの事情はわかっているだろう?味方からも嫌われている『反英雄』とされる者達」
「……なら、奴の仲間に強い奴はいるか?」
「禁手使い二人がいたよ。単体ならともかく複数で襲いかかってきたら………、先祖と同じく、剛力無双の君でも楽しめるかもね」
「ならいい。行くぞ………モードレッド」
「わかったよ、呂布」
いずれ、また会おう。………立花剣太。
Side end
とうとう彼らの敵が現れました。英雄派の中で『反英雄』とされる異端の者達。出てきているのはまだわずかですが、敵も大体考えてあります。
戦場のヴァルキュリアシリーズに例えて考えてみると、
原作主人公イッセー達グレモリー眷属は第7小隊
匙元士郎達シトリー眷属は第1小隊
になるかな、と。
そう考えた時、イッセー達グレモリー眷属の敵はヴァーリチームであり、英雄派のトップたる曹操達です。こいつらが例えで言うと帝国ですね。
ならダンタリオン眷属の立ち位置は、と考えた場合、ネームレス以外思い浮かびませんでした。もちろん懲罰部隊としての側面は一切ありませんが、裏側で活躍する者達として書いた方が楽しいかなと感じました。なんてったって外伝ですし。
だからカラミティ・レーヴェンにあたる存在を作ってみました。こいつらとの戦いが物語の主軸になります。
ここから物語は加速する………はずです。ええ、させます。
……どうでもいいかもしれませんが、今回の魔刀の元ネタ、複合版なのですが、両方気づいた人は……まあ、いますよね、きっと。