レーティングゲーム、中編です。
第二十二話
Side セリアーナ・ヴラディ
私達は試合開始後、階段を駆け下り、玄関から表へと出て、そのまま西館を目指していた。
表に出たところを攻撃されるかと思ったのだが、その心配は杞憂だった。
西館の一階に足を踏み入れる。
………前方にいくつか人影。
記録で見た。確かあれはカウンター使いの『女王』と格闘に秀でた『戦車』、そして『僧侶』だ。
「ごきげんよう、皆さん。他の方々はどうされました?」
女王のセリフに淡々と返す。
「………言うと思うか?」
「まあ、別に言ってくれなくても問題ありません。別働隊への対策は用意してあります」
「………そうか」
だがここに三人来ている。王は動かない、護衛に一人誰かつく。敵メンバーが8人であることを考えると、その対策とやらはせいぜい3人だろう。その程度に倒されるほど、彼は弱くない。
「……動揺しないのですね」
「する必要が無い。………行くぞ」
その一言とともに私は『女王』を無視して、脇を駆け抜け『戦車』を蹴り飛ばそうとする。
同時に、エリーゼと裕美はまずは『僧侶』を倒そうと、エリーゼが禁手化した状態で相手の影へ転移し、裕美は鉤爪を出現させ…………、
瞬間、私の目の前に大きな鏡が現れた。
突然の出現に、勢いを止められぬまま、蹴り足が鏡に吸い込まれ……鏡を粉砕する。
ズォオオオオオオオン!
「ぐっ…………!」
割れた鏡から波動が生まれ凄まじい衝撃を浴びた。これは『女王』の神器、『
だが、私が攻撃したのは『戦車』だったはず………まさか!
「きゃっ…………!」
「っ…………!」
同時にエリーゼと裕美の悲鳴がしたので振り向くと、彼女たちは『僧侶』に蹴り飛ばされていた。だがその威力はどう考えても『戦車』のものだ。
ハメられた…………!
「
私の叫びに、『戦車』………いや、『女王』が冷たい笑みを浮かべる。同時に魔法が解除され、彼女達は真の姿を晒した。『戦車』が『僧侶』に、『僧侶』が『女王』に、『女王』が『戦車』に化けていたのだ。
「記録映像を見れば、パワータイプのあなたはカウンター使いを狙わないようにするでしょうから、その心理を逆手に取らせてもらいました。これで私達はそれぞれ相性のいい相手と戦えるように分断でき、あなた達は深刻なダメージを負った。転送も時間の問題でしょう」
言葉とともに襲ってきた『僧侶』の魔法の弾丸をかろうじて回避。
確かにこれはまずい。
…………だが、このままでは終われない。
二人も身を起こしていた。
私は『女王』に向けて構える。そしてそのまま走り、蹴りを………
「馬鹿の一つ覚えのように!」
叫びながら『女王』が再び鏡を出現させる、同時に手に持った長刀で攻撃を仕掛けようとするが……、
「そうでもないぞ?」
私の蹴り足は鏡をすり抜け、『女王』の脇腹に突き刺さった。倒せたかどうかはわからないが、かなりのダメージを与えたはずだ。さすがに長刀を防ぐことは出来ず、私もさらに重いダメージをもらったが。
……霧への部分変化、一応は修行のおかげで発動できるようになっていた。もっとも、集中力が必要だし、長いことは保てない未完成な物ではあるが。
『
その音声を耳にして、そちらへと目をやると……
殴られながらも必死で『戦車』を押さえ込む裕美の姿があった。
「エリーゼ、やっちゃえ!」
「っぁぁぁぁああああああ!」
裕美の叫びに答えて『戦車』の影から出現したエリーゼは、腕に影を纏わせ、さらに影から彼女の本来の腕の動きをトレースする黒い腕を何本も作り出し、『戦車』を殴りつけた。
「断空拳、十影閃!」
ズドン!
エリーゼが『戦車』を吹き飛ばすと同時に、裕美が光に包まれていく。限界ぎりぎりまで頑張っていたのだろう。
と、考えている間に私の体も光に包まれていく。
「エリーゼ、後は任せる」
「………はい!」
元気な返事を聞くのを最後に、私の意識は闇に閉ざされた。
『ミオ・ダンタリオンさまの『戦車』一名、『兵士』一名、リタイヤ』
『ソーナ・シトリーさまの『戦車』一名、リタイヤ』
Side end
『ミオ・ダンタリオンさまの『戦車』一名、『兵士』一名、リタイヤ』
『ソーナ・シトリーさまの『戦車』一名、リタイヤ』
そのアナウンスを聞いたのは、戦闘開始から二分経ったときのことだった。
セリアと、裕美かエリーゼのいずれかがやられたか。想定外のイレギュラーが発生したのだろう。
「はっ!どうやらこっちの方が有利みたいだな!」
匙さんが挑発してくるが、俺はそれに乗る気はなかった。
何のために二分もわざわざ戦っていたのか。
それは、相手を一気に無傷で倒す準備のためだった。
相手は、『騎士』の攻撃で俺の動きを封じた上で、匙さんの神器の、力を吸い取るラインによってこちらの動きを防ごうとしていた。その上、もう一人の『兵士』も攻撃を仕掛けてくる。誰かを無視して誰かを攻撃しようとすれば、その時点で、いくらか必ずダメージが入るのが決定となってしまう。『王』と戦う前にそれは避けたい。俺は防ぎ、躱しながら、準備をして、相手の様子を探るしか無かった。
でも、もう準備ができた。心の中で、持っているバスタードソードの魔剣……『フラン』に声をかける。
(やるぞ、フラン)
(はい!)
抜刀術のように、『フラン』を脇に構える。
魔剣創造では鞘を作ることは出来ないし、そもそも『フラン』は両刃だから抜刀術は難しい。だが一方で、俺が今から真似をする技には、鞘が必要ないうえ、抜刀術は異なる形の居合に近い。
抜刀術はその特性上、鞘による摩擦でどうしても威力と速度が落ちてしまう。
その居合い切りを
(あくまで以前の試合の見よう見まねなんだがな………)
だがそれで十分。他の技と組み合わせれば、間違いなく必殺の一撃となる。
『騎士』が警戒しながらも襲いかかってくる。『兵士』達の攻撃も全て見切り、
バキンッ!
俺は、フランの一閃めで相手の持つ剣ごと騎士を斬り捨て、懐に飛び込みつつ、二閃めで更なる剣撃を浴びせる。
二分間の立ち合いで、剣の弱いところは把握済みだ。
(燕返しからの
ザシュッ!
が、感触がどうも浅かった。そのまま体を回転させ、もう一撃。
(重ね刃………!)
ズバン!
強烈な三連撃を受け、即座に『騎士』の女性は光に包まれる。
「な…………!」
それに動揺した相手の一瞬の隙を狙って、まずは匙さんの脇を駆け抜けながら、これも以前の試合で見た技………
(唐竹(からたけ)、
の九連撃を叩き込む。やはり未完成の見よう見まねゆえ、一部は防がれたがそれでも五発はまともに入った。
「ぐあっ………!」
「匙先輩!」
鋭く切り刻まれた匙さんを見てもう一人の『兵士』が悲鳴を上げるが、その時には俺はその『兵士』のもとへと駆けていた。
そのまま、鋭い一閃を突き込む………!
(
ドスッ!
『フラン』に貫かれた『兵士』も倒れる。
とりあえず、三人を倒して俺は一息。
「ふう………」
これで再びこちらが有利になった。
『フラン』についた血を、振るうことで払い、剣を戻すと、
俺は西館の敵本陣への道を再び駆け出した。
『ソーナ・シトリーさまの『騎士』一名、『兵士』二名、リタイヤ』
主人公が凄まじい強さを見せてくれました。
名前のついた全部の技がネタです。ついでですが、燕返しはFateが元ネタ…ではありません。一部についてはアニメ化決定が嬉しかったという言い訳を先にさせていただきたいです。
感想誤字脱字等ありましたらよろしくお願いします。