レーティングゲーム、後編。
第二十三話
Side エリーゼ・クライン
私はセリアさんたちを見送ってから即座に敵を確認。戦車にやられたダメージが少し残っているけど、この程度なら問題ない。
「くっ……………」
敵の『女王』が、セリアさんの蹴りで顔を苦痛に歪ませ、持っていたフェニックスの涙を自らに振りかけた。
相手は完全回復。これで二対一。でも……
歌が聞こえた。宵闇の中を駆け抜けるような曲……ようやくだ。
いや、事態の変遷があまりに早くて誰を援助すればいいのかわからなかったのだろう。
歌が私に力を与えてくれる。そして恐らく……ゲームももうすぐ終わるはずだ。
私は素早く『僧侶』の背後に回り、腕の部分に纏った影を剣に変化させて背中を一閃。
「ぐっ………」
後ろから『女王』が手に持った長刀で斬り掛かってくるが、文字通り調子に乗っている私は素早く回避、カウンターを避けるため、『女王』の影から分身が手を出して足を掴み、背中を貫こうとするが、さすがは『女王』、即座に振り払って防御する。
膠着状態。お互いに有効打を当てられない。
(まあ、最低条件は満たしてますし、もうすぐケリがつくはずだからいいんですけど)
そこにアナウンスが鳴り響く。
『ソーナ・シトリーさまの『騎士』一名、『兵士』二名、リタイヤ』
「っ、そんな!?」
『女王』は驚いていたようだが、私は平気だった。あの人ならやれるだろう。
そのままハラスメント攻撃を続けていると、
ズダン!
歌の終わりとともに私の背中の方から凄まじい閃光、そして大きな音がして、敵『女王』は瞬時に全身を光に包まれ姿を消した。
私は振り返ることも無く問う。
「……屋根伝いに行くんじゃなかったんですか?」
「後顧の憂いは断っておくべき」
ミオさんは平然と答えた。
「にしても『我等光のうちに在りし闇より逃れること能わず』……ですか。今回は闇に隠れた光で倒した感じですけど」
「……上手いことを言う」
感心したようにミオさんは頷いた。
恐らく、もう彼はたどり着いている頃だろう。
チェックメイトを掛けるため、私達も向かわなければ。
Side end
Side アルマロス
VIPルームは沈黙していた。三人まとめて瞬殺した『騎士』の存在。そして、策を読まれることすら想定したミオ嬢の策に。
特に『騎士』……立花くんだ。彼が無傷で倒した中にはあの赤龍帝を苦戦させた少年も含まれている。
そして何よりあの言葉。
「くく、『龍王の欠片を斬るもまた一興』か。面白い、面白いぞ、あの騎士」
元龍王にして最上級悪魔のタンニーンがそう言って笑う。総督……アザゼルもニヤニヤ笑っていた。
「『神滅具を持たずして神すら殺す強者を目指す』……ね。いい目標だ。アルマロス」
「はい」
こちらに声がかかったので返事を返す。
「お前がダンタリオン眷属担当だったな。あの『騎士』、実力が今のじゃ測りきれなかった。どれくらい強い?」
「一例を挙げますと………」
彼の話を思い出す。
「彼が転生することとなった原因は、我々の中の過激派のようです」
「それがどうした?」
怪訝な顔で尋ねるアザゼル。
「戦いで相打ちになった末の転生なのですが……」
一息置いて、告げた。
「中級堕天使十体との相打ちだそうです」
「……人間の時点でそれだけの実力があるってことか」
「ええ、なんでも師匠が人間なのに化け物らしく、わずか11で地竜と戦わせられたと言っていました。嘘か本当かはわかりませんが……」
「どうもホラには思えんな。これを見ていると」
「……ええ」
頷いた。
「実戦に即投入しても一切問題ないと断言できるレベルです」
「そりゃ凄い」
アザゼルが感心していると、オーディンが横で呟いていた。
「神すら殺す……か。なかなかに凄まじい願いを持っておるようじゃな。じゃがそれよりも」
「あの
お付きのヴァルキリーも呟いている。
彼らが見ていたのはリリィさんの姿だった。
「ああ、そういえば……」
Side end
本陣には『王』も残りの『僧侶』もいなかった。
罠でもあるのかと考えたが、まああっても斬ればいいかと思い直し、堂々と中に入る。
誰もいない。さては屋上かと思って上がっても誰もいない。
下にいるのかと見回すと……いた。
庭園の近くだ。水があるから、彼女の魔力で水を操る力に適しているのだろう。
もう既にその水のすべてを掌握しているはずだ。俺は氷属性のサーベル型魔剣『クローゼ』を取り出し、その場へと駆け出した。
たどり着いた先にいたソーナ・シトリー嬢に向け取り敢えず言ってみる。
「これで
「……ええ。でもまだ諦めるわけにはいかないわ。まだ私が残っているのだから」
「……そうか」
なかなかの気概、グレモリー眷属と戦っていたときの様子を見ても思ったが、改めて感服する。
「さて、あなたは大波のように押し寄せる軍勢も斬れるのかしら?」
水で無数の獣達……中にはドラゴンもいる……を作り出し、シトリー家次期当主は不敵に微笑んだ。
「斬ってみせるさ………必要とあらばな!」
俺も不敵に笑みを浮かべて答え、彼女のもとへと駆け出した。
俺はひたすら、水で出来た人形を凍らせると同時に斬り裂きながら前へ突き進む。
こういう魔力制御というのは術者の思考に依存する。
つまり、
(超高速で移動しているから相手の目には追いつかないはず! 後ろは気にしない!)
そのまま進み続け目の前にいる相手を斬…………
斬ろうとしたところで、相手が姿を変え、僧侶になった。いや、戻ったというべきか。
「幻術による変装………!」
後で聞いた話だが、シトリー家のこの術の使用は二回目だったそうだ。
俺に斬られながらも、拘束魔法を発動し、俺の動きを封じて………!
「今です、会長!」
僧侶の叫びに首だけでどうにか後ろを振り返ると、
凄まじい量の水が上から降ってきた。
………大瀑布が俺に襲いかからんとしていた。
ザァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!
…………………………………………………………。
「これでかなりのダメージを与えられたはず……。転送も時間の問題でしょう」
そう呟く敵の『王』の言葉に俺は立ち上がって答える。
「………そうでもない」
「っ……………! どうやってあの攻撃を防いだのですか!?」
「簡単だよ」
驚愕している敵に対して、剣でさっきまでいた場所を指す。
そこは白く輝き、凍り付いていた。
「………凍らせた」
そう、『クローゼ』の力を解放したのだ。
無論、基礎魔力で劣っているため、一部しか凍らせられなかったのだが、それで十分だった。
かなりの衝撃が緩和された。
アナウンスが鳴り響く。
『ソーナ・シトリーさまの「僧侶」一名、リタイヤ』
「さて、今度こそ……」
クローゼを戻し、高速で戦うことを主体とした風のレイピア型魔剣『アリア』を取り出す。
そして、
「
用いる技は決まっている。高速の突きによる八連撃『スター・スプラッシュ』……
相手が焦りながらも水で迎撃しようとする。
その前に俺の突きが届かんとし……
ズドン!
さらにその前に、白い聖剣の矢がソーナ・シトリー嬢を貫いた。
『投了を確認。ミオ・ダンタリオンさまの勝利です』
………折角かっこ良く王を倒して決めるところだったのに。
………後でリリィに文句言っとかなきゃ。
……文句を言ったところ、「もっと手早く倒しとけば良かったんですよ」とあっさり返された。
俺はゲーム中に四人を一人で倒したことを讃えられ、魔王様から……ではなく、堕天使総督のアザゼルさんから直々になんか貰った。
勲章らしい。なんで魔王様じゃないのかと言うと、「俺が声をかけたかったから頼んだ」そうだ。
「凄まじい戦いぶりだったぜ。タンニーンも評価していた。神器の研究者として言わせてもらうが、お前の目指す道……困難だろうが不可能じゃないぞ。……期待している」
うん、なんか、すげえ嬉しかった。
一方で、
「お主がピアニィーナの娘か……確かに面影があるのお」
「先輩、結婚して子供まで作ってたなんて……。でも………」
「母を知っているんですか!?」
リリィがオーディンとそのお付きのヴァルキリーの元に詰め寄っていた。
「ええ、彼女は
「まさかその子がこうして悪魔となってわし達と出会うことになるとは……奇妙な縁もある物よ」
感慨深げにオーディンが頷く。
「今度、ヴァルキリーとして現役だった時の先輩の話をしましょうか? 他の仲の良かったヴァルキリーにも声をかけてみます」
「っ、お願いします!」
……よかったな、リリィ。
……そして、もう一つ。
「……どうも」
「………お前か」
俺が病室に入ると匙さんは非常に嫌な顔をした。当然か。
「お加減はいかがですか?」
「……おかげさまで良好だよ」
「そうですか。………あの時は挑発するためにあんなことを言いましたが」
「………」
「あれは嘘です。はっきり言って、油断していたら危なかった。全力を出さなければ、あのような真似は出来ませんでした。怒らせてもチームワークは全く崩れませんでしたし」
「は、無傷で倒しておいてよく言うぜ。………だが、次は負けねえぞ」
強い意志を目に浮かべ笑って匙さんはそう言った。
「俺も、そう簡単に負けるつもりはありませんよ」
笑って返す。病室のドアノブに手をかけ、振り返って一礼。
「では、いずれまた」
「……ああ!」
こうして夏休みの冥界での日々が終わり……俺達は人間界へと帰ることとなった。
さて、次は鈴鹿だ。………きな臭いことにならなきゃいいが。
あの曲は作者の大のお気に入りで、エリーゼに使うことは『闇夜の大盾』の能力で決定していた時点で決まっていました。あの曲を挿入歌としたアニメが凄まじく衝撃的だったのを今でも覚えています。第一話で話がひっくり返るアニメなんてほとんどないですし。
……というか、あれで最後に出てきた本編の主人公……声、谷口、じゃなかった、白石稔さんじゃん!あの人が正統派主人公やるアニメとかすげえ見たかった!
……なんでネタについてこんなに熱く語ってるんでしょう私。
さて次回は鈴鹿の妖怪編。察しのいい方はお気づきですよね、この後なにがあるか。
感想誤字脱字等あればよろしくお願いします。