……ヤバい。今回、途中から超シリアス。
第二十五話
決闘当日。要するに翌日。
朝、親しげに挨拶をしてくる鈴音さんにこちらもフレンドリーに返していると、仲間達の視線がざくざく刺さってきた。
「昨日何してたんだ」
などと詰問され、実際に起きた事を話すまでもなく血祭りに上げられそうになった。
後で答えるからと言い訳して練習等に逃げ、そのまま村の広場……決闘場に向かう。
あれ?このシチュ前にもどっかであったような……まあいいか。
俺は広場で待っていた。小烏丸の刀身……峰の部分を右肩に乗せて。
すると定刻の五分前くらいにのしのしと群れがやってきた。恐らく、というか間違いなくこいつらが急進派だろう。
その中に俺の顔を見て、
「あっ!」
と声を上げたやつがいた。
……よく見ると、昨日金棒を真っ二つにしてやった相手だった。
「どうした?」
「あ、あいつ、昨日の………」
「へぇ、お前が言ってた金棒を真っ二つにしたっつう悪魔かい?」
面白がっているのか、嫌な笑みを浮かべて前にいる一番図体のでかい鬼………今日の決闘相手だろう、多分………が問う。
「は、はい!」
「ふん、潰して終わりかと思いきや、思ったよりも面白くなりそうだ」
………ずいぶんと舐めてくれる。『面白い』、ね。
俺は唇の端をつり上げてニィ、と不敵に笑う。小烏丸をそいつに向けた。
「ああ、楽しませてやるよ。………お代はあんたの首だがな」
この勝負はデスマッチだ。相手が降参するか、死ぬまで戦いは終わらない。
「ハハハハハハハハハ! 小僧がよく吠える! 貴様ごときがワシを殺せるとでも?」
「ああ斬れるね。師匠は目の前であんたよりも大きい岩を人間の身で真っ二つにしたんだ。弟子で悪魔の俺があんたを真っ二つにしても不思議じゃないだろう?」
「ほう、ますます面白い。………名乗れ」
「『人に名を尋ねるときはまずは自分から』って言葉も知らねえのか?」
俺の挑発めいた言葉に鬼は笑う。
「クク、違いない。ワシの名は悪路獄丸。いずれこの里を統べるものよ」
「絶端流剣士、立花剣太。悪魔の『騎士』をやっている」
「………絶端、だと?」
「……ああ、知ってるのか。もっとも俺は正規の弟子じゃなかったし、途中までしか面倒見てもらってないけど」
「人に会うては人を斬り、鬼に会うては鬼を斬り、神に会うては神を斬る……斬れぬものなき流派、か。ふん、所詮偽りであろう」
「やってみりゃその辺はわかるだろうよ」
小烏丸を青眼に構える。鬼も金棒を掴み、構えた。
静かに審判の声を待つ。
「……始め!」
直後、大きな金棒が横に薙ぎ払われた。
「手応え無し。どこに……」
そう呟く鬼の真上に俺はいた。薙ぎ払われる瞬間に高く跳躍したのだ。
急進派の観客が叫ぶ。
「上だ!」
それを聞いた鬼があわてて得物を上にやり、直後に
ガキン!
金属音が響く。……どうやら身分によって金棒の材質も違うらしい。
「あーあ、今防御しなければ真っ二つになれてたのに」
「てめえ………!」
激昂したらしき悪路は金棒を無軌道に振り回す。……うーん。この中に入るのはめんどくさそうだなー。
「らぁっ!」
力任せの一直線な攻撃を体と刀を回転させることで受け流しつつ退避。
……大体掴めた、かな。
金棒の弱点となる場所を見定める。鞘は元から持っていないので、この間と同じ技が使える。
そもそもあの技は刀の使用を前提としているから、この前よりもさらに上手くいくはずだ。
……それにしても。やはりこいつ、強制的に力を底上げしている感じが強い。力を振り回しているというより力に振り回されている感じが強いのだ。力に見合うように鍛錬していれば、このようなことにはならないはず。ミオの予想が当たったかな。強大な力を得られるという、「無限の龍神」オーフィスの蛇を飲んでいるのだろう。
「おぉっ!」
焦りを感じたか、正面から鬼が突っ込んでくる。
俺はそれを冷徹に見つめ、心を静かにして……一閃。
ズパン!
右腕ごと金棒を真っ二つにした。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
悪路が絶叫する。だがまだ降伏の言葉を聞いていない。構えたまま問う。
「降伏するか?」
「………だれがするかぁアアアアアアアアアアアアアアアア!」
残った左腕で殴りかかってきたので、俺はただ、
「そうか」
呟き、八連の斬撃……八葉一刀流の少女が用いていたもののコピー技である「八葉滅殺」を繰り出した。
真っ正面から突っ込んできていた悪路には避ける術も無く。
ザクッ! ザン! ザシュッ! ズパン! ザン! ズバン! ズダン! ズドン!
切り刻まれて四散した。
残ったのは肉塊のみ………。
あまりの光景に、固まったまま動かない審判に声をかける。
「審判」
「っ! 決着!」
直後、穏健派からは歓声が沸き上がった。
これで取り敢えず終わり。
気を緩め、後ろを振り返って笑いかける。鈴鹿さんは満足そうに頷いていたし、鈴音さんも嬉しそうだった。
が、この声で再び現実に引き戻された。
「ふざけるな! 俺達はまだ認めていないぞ!」
急進派が吠えた。そっちの方に向き思わず刀を構え直す。
その時、一瞬だけ観客席から目を離し、意識を逸らしたのが失敗だった。
「死ねぇえええええええ!」
その一瞬の間に、隠れ潜んでいた急進派の鬼が刀を持って鈴鹿さんに襲いかかり………
鈴鹿さんはとっさに防御をしようとしたが間に合わず…………
鈴鹿さんをかばって、鈴音さんがその身に刃を受けた。
「………すず、ね?」
呆然と、前に立つ鈴音さんに鈴鹿さんが問う。
「ねえ、さま。ご無事で、よか、た」
ドサッ。
鈴音さんが倒れた床に、血が流れ出す。
「…………すずねぇええええええええええええええええええええええ!」
鈴鹿さんの絶叫とともに全てが動き出す。穏健派は怒り狂い、急進派と衝突した。
俺は暗殺者の首を即座にはね、そのまま鈴音さんのもとへ走った。
傷を見る、……致命傷だ……。ならば!
「ミオ! 癒しの術は!?」
「ダメ、妖怪の怪我を直す本が見つからない」
「歌は!?」
「効かないみたいなのよ!!」
半狂乱の状態でフィーナも返す。
虫の息のような状態で鈴音さんは姉を呼ぶ。
「ねえ、さま」
「あ、ああ、ここにいるぞ!」
すぐに鈴鹿さんは答えた。それに鈴音は微笑む。
「わたしは、いつも、お荷物で、ずっと姉様の役には立てなかったけど……最期にやくにたてました……」
「お荷物とか、最期とか言うな……! 今までお前はいてくれるだけでわたしの支えだった! これからも支えてくれ……! お前がいなければ、私は…………!」
鈴鹿さんは大粒の涙を流していた。それに鈴音さんが困ったように微笑む。
「なかないで、ねえさま。そして、たちばなさま」
「ここに!」
名前を呼ばれたのですぐに答え、小烏丸を放り出して側に寄る。今は意識を保たせなければ! 体力よりも、意識が途切れて戻ってこないときの方が問題だ。
「戦いぶり、おみごと、でした…。せっかく、勝って、もらったのに、あなたの、寵愛も、受けぬまま、死んで、いくことを、お許し、ください………」
「何弱気なことを言ってるんですか! これから自分の誇れるところを見つけるんじゃなかったんですか!? 俺のものにしてほしいって言ってたじゃないですか!」
俺の叱咤に血の気の無い顔で鈴音さんは苦笑した。もう、目が開いていない…………。
「あはは……。すみ、ません……どう、やら、それは、はたせなく、なり………」
くたっ。
力が、抜ける。
まるで、生命が、抜けてしまったかのように。
「すず、ね? すずね、鈴音! 起きろ、起きてくれ、………頼むから起きてくれよぉぉおおおおおおおおおお!」
鈴鹿さんが慟哭する。
仲間達はその様子を呆然と見ていた。
俺は頭も体も凍り付いたように動かなかった。
今まで、敵を殺したことは何度もあった。「殺されることは当たり前」とそれ相応の覚悟も決めている。
その筈、だった。
でも今まで、実際に味方を失ったことは無かった。
守れなかったことは無かった。
ふと、鈴音さんの顔に、ティレイアさんの顔が重なる。
そう感じたら止まらなかった。ミオの顔、フィーナの顔、セリアの顔、ティナの顔、裕美の顔エリーゼの顔アイカの顔リリィの顔………次々と彼女達の顔が重なってしまう。
守れなかった。
助けられなかった。
何もかも、時空すらも切り裂いて、守りたいと感じたものを守り抜けるようになりたい、そう願っていたはずなのに。
これからもこういうことがあるのだろうか。
………そんなのは、嫌だ。
現在の後悔と未来の恐怖がないまぜになる。
守ると決めたのだ。守りたい存在を脅かす何もかもを切り裂いて、守るって……………
………………決めたのに!
瞬間、数百の撃鉄が一斉にガチン、と落ちる音が頭の中でしたような気がした。
Side 七街裕美
鈴音さんが亡くなり、私達が呆然としていた時。
突如として禍々しいオーラが剣太を覆い始める。
………これは、魔剣のオーラ?でも、いつものものとは比べ物にならないほど濃密で凄まじい!
一体何が起きているって言うのよ!?
『………ああ、なるほど、そういうことか。………裕美』
なによクルアッハ? この緊急事態で!
『あの「騎士」は至った。恐らくは願いが、叶わなかったときの後悔や悔しさ、恐怖という感情に転じ……そしてより強まったのだろう。爆発的とでも言うべき、凄まじい勢いで』
え? まさか………、じゃあこれは!
『そう………
大地から沸き出す闇に剣太は覆われ、禍々しい闇の柱が晴天の中に佇立する。
その中で剣太は………
嗤っていた。
Side end
Side 三人称
「ククク……アハハ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」
その哄笑に戦っていた鬼達全員が手を止め、訝しげにその笑声の方を見る。
「ハハ……なんでこんなタイミングなんだよ……もっと早ければ鈴音さんを救えたかもしれないのに………」
剣太は泣き笑いの顔で、自嘲するように嗤っていた。
そして剣太は俯き………
こんなタイミングじゃ、とその下から声がこぼれる。
「鈴音さんを殺した奴らを皆殺しにするくらいしか出来ることがねえじゃねーか…………!」
顔を上げた時、そこには修羅がいた。
それに対し、最初に金棒を断ち切られた鬼が怒声を上げる。
「な、なにいってやが」
スパン!
言い切る前に剣太は一瞬で姿を消し、瞬時に敵の目の前に現れ、右薙ぎに持っていた剣を一閃。
怒鳴ろうとしていた鬼の首は高々と宙を舞う。
「な………!」
驚愕と恐怖から声も出ない急進派の鬼達の首が次々と斬られていく。
「ど、どこに消えた!?」
「どこだ、どこにいるっ、ぎゃあ!」
後ろから心臓を貫かれ、首を跳ねられのどをかっ切られ……しかし、鬼達は剣太を見つけることは出来ない。
どこからか、冷淡な声が聞こえる。
「
そのまま、
Side end
Side リリィ・カーライゼル
「あれが剣太さんの禁手………」
私はそれ以上声が出なかった。
おそらく、鈴音さんを目の前で失ったこと、守れなかったことの後悔から至ったのだろう。私では届かない、背中も見えないほど高い技量を持ち、幼い頃から絶えず修行を積み、真剣勝負では一度自分の命を守れないだけだったからこそ、「他者を守れなかった」ということの悔しさは計り知れないものがあるのかもしれない。
その時、出し抜けにミオさんが言った。
「……まだ、彼女を救う手はある」
「どんな方法だ!?」
いきなりの言葉に鈴鹿さんはすぐさま反応した。
迷いながらも、ミオさんは答えを返す。
「……ここにある兵士の駒で、悪魔に転生させる」
「っ………!」
……確かに迷ってしまうかもしれない。つまり種族を変えなければならないと言っているのだ。ミオさんの眷属となるのだから、姉妹としてずっと共にいるのも難しくなるだろう。
「……やってくれ」
「……いいの?」
ミオさんの問いに、決意を込めて鈴鹿さんは頷く。
「時間がないんだろう? ………これは私のエゴなのだろうが、もっと鈴音と話がしたい。こんなところでいなくなってほしくない!」
「………そう」
ミオさんは頷き、兵士の駒四つを鈴音さんの胸に押し付けた。鈴音さんに吸い込まれるように駒が消え………、
バッ!と悪魔の翼が生える。そして鈴音さんは……目を覚ました。
「……あれ? 私、死んだはずじゃ………」
「鈴音!」
鈴鹿さんが強く抱きしめる。
「……悪いけどそれは後」
ミオさんの、静かなのに妙に焦っているような声。
「鈴音。あれ、止めて」
指差した先では鬼達の屍山血河が出来ていた。穏健派も呆然としながらそれを眺めている。
……ああ。喜ぶよりも確かにこっちが先ですね。
「護衛します」
私は申し出て、新たな仲間である鈴音さんとともに彼のもとへと駆け出した。
Side end
激昂していたときの感情が冷めていく。
敵を次々と斬り捨てながら、感じていたのは空しさだった。
いくら倒しても鈴音さんが戻ってくるわけではない。こんなのはただの八つ当たりだ。
でも、それぐらいしかすることが思いつかなくて………
「立花様!」
その声を最初は幻聴かと思った。
「立花……いえ、剣太様! もうおやめになってください! 私は、鈴音はここにおります!この者達も降伏しようとしています!」
耳と脳を疑い、そちらの方を気配を断つ状態のままの魔剣を手にぶら下げたまま見て……
次に目を疑って……
完膚なきまでに、鈴音さんだった。
剣を消し、呆けたように、問う。
「鈴音、さん?」
「はい! 私、悪魔に転生しましたっわぷ!」
ぎゅっと抱きしめる。その存在を確かめるように。
「よかった……いなくならないで本当に良かった……!」
………………不覚にも。
久しぶりに、…………俺は、泣いた。
というわけで仲間がそろいました。
そして主人公の禁手、とうとう出ちゃいました。
当初の予定ではもうちょっと後に出すつもりだったのですが……。
ええ、言い訳をさせてください。まるでホッチキスを口に突っ込むような女子高生に、小学生くらいの女の子を弄んでいるところを見られた男子高校生のように。
剣太って普通に技量高いし、心も強いです。逆に言うと、こういうきっかけが無い限り禁手化にらしい説明が付けられません。仮に、凄まじく強い敵と戦って苦戦したとしても基本的に願いが揺らいだりはしないのです。原作主人公と違ってエロとかのこだわりはあんまりないし、夏コミが原因で禁手とかあまりにも悲惨過ぎます。
なら、誰かを失うという恐怖の体験をきっかけとする位しか浮かびませんでした。だとすると、この先の戦いで仲間を失うか、原作一巻のアーシアのように転生前の存在を失って転生させるかしかなくてですね……。原作六巻と同じ手は使えないし………。後者の方を作者としては選びたかったのです。
え?なんで駒の存在について剣太が忘れていたか?
……あまりにも衝撃的だったので記憶から吹っ飛んでいたのでしょう。駒の適正とかもありますし。
禁手の名前とか、あの状況の剣太の台詞とシチュエーションとか、さりげなくネタを仕込んでみたのですが……気づいた方はどれほどなのでしょう?
あ、あと禁手化のシーンについては、気づいている方も多いでしょうが、原作三巻のリスペクトというかオマージュというか、そういうものを多分に含んでおります。
次回鈴鹿編終了(多分)。主人公の禁手もここで説明されたり。……そこまで最強じゃないはずなんだけど………。
感想誤字脱字等あればよろしくお願いします。
最近感想が怖い話ばっかり出してるような気が………。
ああ、ギャグが書きたい。でもストーリーは崩せない。