家がごたごたしてたせいで更新がかなり遅れてしまいました、申し訳ありません。
そんなわけで堕天使襲来編スタートです。
第三十一話
木場との試合から数日後。
俺達はやがて来るであろうレーティングゲームの対策を日々やっていた。
剣士として……「騎士」として他の家の眷属の中で最も恐るべきはやはり木場なので、できる限り剣筋を再現し、近接……前衛組の仲間たちと稽古をしている。
赤龍帝については未知数なので、様子を見つつみんなで対策を考えているところだ。
バアル家次期当主……サイラオーグも相当やるが、スピード面ではたぶん俺のほうがある程度上だ。だからそのときは俺が「王」を狙うことで大体は意見が一致している。
うちの主……ミオはレーティングゲームにおいてあまり極端な奇策も、前に出ることも好まない。策を読まれた時、前線が崩壊したときののリスクがかなりあるためだ。
しかしその一方で主は常に二重以上の基本的な策を張り巡らす。読まれることを前提に考える。
そうすれば、全ての策を完全に破られることなどめったにないし、あったとしてもフォローの方法はあるのだ。
ある意味安定した指揮ができる「王」と言えるだろう。
……「序列を理由に馬鹿にしてるやつを見返す」というのが当面の目標だが、やはりそれはすぐに果たせそうだ。
そんな、ある日……休日のことであった。
「……………………?」
書類仕事の途中なのだが、何故かミオは術式による通信画面を見ながら首を捻っている。そこに映っているのはノイズだけだ。何かあったんだろうか。
「……どうした?」
「………おかしい」
困惑した声が徐々に深刻さを帯びていく。
「魔王様直通の通信がつながらない。報告で申し上げたいことがあったのに…」
……なるほど、確かにそれは変だ。
「どこか通信のつながらないところにいらっしゃる、とか……?」
「それなら一応連絡が上層部なり何なりから来るはず」
鈴音の意見が割とあっさり否定される。
「じゃあ、何かのイベントとかお忍びとか。なんかなかったっけ?」
俺の言葉を受けてミオは予定表を見始めた。
「えっと……あった。今日、リアス・グレモリーとディオドラ・アスタロトのレーティングゲーム。VIPがたくさん来るみたい」
「…ああ、そういえばデータ貰ってまた見るんだっけ」
ややあってから思い出してぽんとひざを叩いた。
確かまたテロがあったはずだが、原作の通りなら彼らは今回もうまくやるだろう。
俺たちの間に安堵の空気が広がり、ミオもほっとしたようにため息をついてから、通信の画面を操作する。
「うん。……しょうがない、魔王様の城の執務室のほうに連絡する」
ということで執務室に映像つきで通信を繋ぐが、向こうはなにやらごたごたしているみたいだ。
「……あの、魔王様直通の通信が繋がらないようなので連絡したのだけど」
「申し訳ありません! 実は今、ルシファー様たちは結界内に閉じ込められておりまして……」
「!………何があったの」
その場にいる俺以外の全員が再び血相を変えた。俺もある程度驚いたような演技はしているが。
「テロです! どうやら他勢力の方々も同時にとらわれたようなのですが……。しかし、このことを皆様ご存知で、逆に罠にかけるつもりだったようなので心配はな……」
突如、まるでテレビの電源のスイッチが偶然切れてしまったかのように通信が途切れる。
「もしもし、どうしたの? もしもし……?」
「向こうで何かあったのか、それとも……」
こちら側で何かが起きているのか。
その時、アイカが顔を上げ鋭い声で警戒を呼びかける。
「っ! これは、結界!」
どうやら後者だったらしい。閉じ込められたようだ。ティナが続ける。
「堕天使の術式です!」
「……二方面作戦………!」
ミオの呟きにはやや慄きが混じっていた。
「これじゃあ援護が……!」
リリィが不安そうな顔になるのに対し裕美も頷き、ティナに問いかける。
「来ない、わね……。敵の数、わかる?」
「相当数……およそ50ほどです! しかもその中に上級クラスが数体、最上級クラスが1体!? 嘘………。これは、まずいです……!」
「最上級の堕天使……念のため聞きますけど、アルマロスさんじゃないんですよね?」
エリーゼも緊張しているようだ。
「ええ。この反応は……。まさか、そんな!」
ティナの言葉に焦燥と驚愕が入り混じる。
「……誰なんだ、その堕天使は?」
そんな中でセリアが静かにティナに質問した。
一度、深呼吸をした後に、ティナは全員にしっかりと向き直る。
「……コカビエル、です」
「そんな!? 彼は地獄の最下層……コキュートスで冷凍封印されているはずではないんですか!?」
取り乱すのはリリィだ。こいつは過去にも堕天使と因縁があるからな……。
「……分かりません。ただ、間違いなく反応は彼のものです」
「っ………!」
今にも倒れそうなくらい顔色が悪くなったリリィを宥める。
「落ち着け、相手は神器使いを嫌ってたから、別にお前を狙ってきたわけでもないだろうし、最上級なんて言ったってやりようはあるんだ」
「……はい」
頷いてはいるが、明らかに顔色は悪いままだ。
「それでそいつは連中の中で位置的にはどこにいるの?」
フィーナの質問だ。
「……
なるほど、疲弊させて最後は自分でしとめると。
確かに相手が普通の悪魔たちならその作戦で何とかなったかもな。
でも。
「……ラッキー」
ミオの言葉に鈴音とリリィを除く全員が頷く。
「そ、そうなのですか?」
新入りの鈴音はさすがにわからないかもな。
「邪魔さえ入らなければ、中級クラスであれくらいの数ならケンタがすぐに始末してくれる」
アイカが説明し、フィーナが続く。
「私たちはその間に上級達を抑える……そして」
最後をまとめるのは俺だ。
「最終的に全員でコカビエルを叩き潰す」
「……できるんですか?」
リリィもさすがに今回は少し懐疑的らしい。怯えが混じっているのもあるんだろうけど。
「コカビエルはおそらくコキュートスから出てそんなに間が空いてない。たぶんこれを見越して禍の団の誰かが封印を解いた。だからまだ本来の力は回復していないはず」
ミオが「王」らしく冷静に分析する。
「とはいえ脅威なのは間違いないけど。でも、『できるかどうか』じゃない、やるの。やらなきゃここで死ぬんだから」
アイカはじっとリリィの目を見据えて言い切った。
「……はい!」
リリィも頷いた。
コカビエルか……原作だとグレモリー眷属以上、白龍皇以下の強さだったんだよな。
まあそれよか弱体化してるんだろうけど、多分相手にとって不足はないだろう。
「聖書に記された堕天使の一人か……。上等、叩き潰してやる………!」
その、俺の言葉に…………、
全員が、決意をこめた目で頷くことでもって賛同の意を示した。
次回から戦闘開始です。