お待たせして申し訳ありません。
ハイスクールD×D、今冬アニメ化!
第三十二話
作戦会議のしばらく後。
結界のせいで人の姿が一切ない高校の校庭の半分ほどがカラスのような黒い堕天使の翼で埋め尽くされ、いよいよ光の槍による総攻撃が防護の魔方陣を張った校舎に向けて開始されようとしたとき。
歌が、聞こえた。
歌といっても歌詞も何もない、純粋な音の連鎖だ。
………しかしなぜか途中で「バーカバーカ」という幻聴が聞こえたのだが、気のせいだろうか。
どこから、なぜ響くのかと黒い群れが警戒する中、同じ場所……
校内放送のスピーカーから、そのメロディをBGMに、静かな声が告げた。
『「グリモワール・オブ・マリサ」第⑨章より抜粋。凍符「
その声と共にすさまじいまでの冷気が立ちこめ……
「くっ……! 一度退く」
ぞ、とリーダー格の堕天使が続ける前に、高校内にあった全ての黒い翼は動きを止めていた。完全に凍り付いていたのだ。目の前にいる全ての堕天使が氷塊の中に閉じ込められていた。
『……さよなら』
氷塊が砕け散り、さらに後方…ここからでは見えないが堕天使がいるであろう場所に向かって氷弾の雨を降り注がせた。
その中を俺は駆けていく。翼で空気を叩いて舞い上がり、
「っ!」
まずは5人ほどを斬って捨てる。ミオの援助もあって、すでに人数は半分以下。
俺が雪片を呼んで残りを始末する間、エリーゼの影とリリィの聖剣の矢による狙撃とティナやミオ、アイカの砲撃が上級堕天使に降り注ぐ。何人かは防ぎきれずに撃ち落とされた。
「くっ、これでは……」
上級堕天使の一人が呻くのを尻目に、俺は光の槍ごと次々に中級堕天使を斬り捨てる。
全ての中級の敵を切り捨てると同時に、エリーゼの影を使って皆が転移してきた。
集団を狙う光の槍を警戒するが、来る気配はない。
この時敵はわずかに三名。最上級一人に上級二人だ。
数が少ないとはいえ警戒の必要性は十分存在する。
そんな中、リリィは一人の上級堕天使の顔を見て凍り付いていた。
「あ、あなたは…………ッ!」
それを見て、その堕天使はつまらなさそうに鼻を鳴らした。
「……貴様、『聖剣創造』の実験体か。姿を消したとの報告を受けていたがまさかこのような場所で会うとはな。ちょうどいい、ここで部下の尻拭いをしておこう」
「ほう、裏切り者も悪魔となって混じっているではないか。そちらは私が始末しよう」
もう一人の堕天使がティナの顔を見て冷笑を浮かべた。
ティナは静かに答える。
「もとより私はスパイの身。どう言われようと興味などありません」
……さて、どうするか。
実際俺達は上級堕天使を甘く見ていたようで、連中は多少の傷は負っていても戦闘に強い影響はなさそう。
そうなると三体を同時に相手にすることになるが、ここは分担作戦で行くのが無難だろう。
チームの片方にリリィ、もう片方にティナが入るのは間違いないが……。
と、そこにミオの念話が入る。
(全員に通達。分担して敵を倒す。リリィを狙っている方はリリィ、鈴音、私。ティナを狙っている方はエリーゼ、セリア、裕美、ティナ。アイカとフィーナは全体の様子を見て支援。特にアイカは出来ればティナ達の方の指揮をお願い)
さて、ここで俺の名前がまだないのだが、俺は一切戸惑わない。
自分に課されるであろう役割を理解しているから。
(そして剣太。……ごめんなさい、あなたには一番つらい役割を頼むことになる)
(分かってる。だからそんな申し訳なさそうな顔するな)
(……コカビエルの足止めをお願い。命を捨てるような真似はしないで、時間を稼ぐだけでいいから)
(了解、任せろ)
(すぐに助けに行きますから、待ってて下さいね!)
ティナの声が響くので、苦笑して返す。
(なるべく早くお願いするよ)
(はい!)
しかし、リリィの声がない。
(……リリィ)
(……はい)
(大丈夫か、なんてのは訊かない。ただ、これだけ言っとく。ここで逃げたら一生逃げっぱなしだ。もしそれが嫌なら、どんなに怖くても向き合って白黒はっきりつけろ)
(……どうして)
(「そんなことが分かるのか?」 お前の師匠だからさ)
(……分かりました。怖いけど、頑張ります)
(…いい返事だ)
(じゃあ皆、散開!)
ミオの指揮に従い、俺達が分かれると堕天使たちは哄笑した。
「ハハハハハハハ! 愚かな! ただでさえ少ない数をさらに減らすなど!」
「フン、捻り潰してくれる!」
堕天使二人は狙い通りにそれぞれ分かれて両方へ向かった。
……そして、残るのは俺ともう一人のみ。フィーナとアイカは後ろで待機している。
そいつは……コカビエルはよく見れば目を閉じているようだ。
静かに見つめていると目が開き、うるさげにこちらを睨み付ける。
「なんだ貴様、他のところに行けばいいだろう」
「アンタが余計なまねをしないという確証がいまひとつなくてね」
「ならば」
超巨大な光の槍を一本生み出し、
「失せろ、邪魔だ」
俺に向かって投げつけた。
「………ッ!」
意識を集中させる。雪片の能力を発動させて、向かってくる槍のど真ん中を斬った。
目の前で裂けた槍はちょうど俺のいないところを通り、後ろで散じた。
斬らなかったら一発で消し飛んでいた……! 一撃でこの威力、やはり衰えていても聖書に記されし堕天使ってわけだ。
「ほう、今のをそう防ぐか。……ふむ、よく見れば貴様、奴らの言っていた……」
まじまじと俺を見てから俯き、肩を震わせ始めた。……奴ら? ひょっとして……。
「くっく、聖魔剣を上回る剣の実力者か、名に偽りはないようだ」
そんなもの名乗った覚えなど欠片もないのだが。
「実に面白い、グレモリーを滅ぼすついでのつまらん前座に過ぎんと思っていたら、こんな掘り出し物があったか! 騎士の小僧、しばし遊びに付き合ってもらうぞ!」
「……上等だ」
雪片の柄を握りなおし、こちらを見下して睥睨する最上級の堕天使に切っ先を向けた。
さて、それぞれの戦いが次回始まります。
出来れば今月中に出せればいいな……。