思いっきり更新をすっぽかして申し訳ありません(土下座)。
さて、リリィチーム編です。
第三十四話
Side リリィ
私たちは一人の上級堕天使相手に苦戦を強いられていた。
「くく、つまらんな、コウモリども。このイリアードが自ら手を下してやる。光栄に思え」
「お断り」
短く、ミオさんが吐き捨てた。同時に攻撃魔法を放つが、容易く回避されてしまう。
「こっちも忘れないでくださ、いっ!」
鈴音ちゃんがイリアードを空飛ぶ二刀で攪乱しつつ上空から小烏丸で斬りつける。
「ふん、ぬるいわ!」
「きゃ………っ!」
イリアードに障壁で防御されて、そのまま弾き飛ばされた。
「はあっ!」
私も斬撃を叩きつけるが、どうしても体が重い。
……恐怖で、体が固くなってしまう。
「おやおや、動きがずいぶん鈍いぞ、被験体0024号?」
「っ!」
私を……
「私を、そんな名前で……呼ぶなぁっ!」
怒りに任せて剣を叩き付けても容易く弾かれる。
戦況は非常に不利だ。今も剣太さんはコカビエルと対峙して時間を稼いでいるはずだが、いつまで持つか分からない。
ロルマーレの方も分からないし……。
焦りを感じている私に目の前の堕天使は嘲笑を向けてきた。
「ふん。……そうだ、いいことを思いついた。……提案をしよう」
「………何?」
ミオさんは一応は聞く態勢を見せる。知恵と知識を持って参謀の座にある家の血族であるが故だろう。
「そこにいる被験体0024号をこちらに引き渡しさえすれば、今後我々は貴様らに一切関与をしない。どうだ?」
「な………!?」
ミオさんたちが絶句する中、私は、
「………ほんとう、ですか?」
私は、震える声でそう問うた。
今のままでは私はこの居場所を守れない。もし私の身一つでここが守れるなら、私を短い間でも幸せにしてくれたこの場所を守れるなら。
「私の命なんて、安いものだ」と素直に言える。
だから……。
「ああ、本当だとも。こちらとしても無駄な交戦はできる限りしたくないし、これもあくまで借りを返すための仕事だからな。ある程度の功績を上げればそれでいい」
「な、なら、わた「ふざけた事を言うのも大概にしてください」……え?」
私の言葉に割って入ってきたその冷たい声に振り返る。
鈴音ちゃんが、強くイリアードをにらみ据えていた。
「ふざけたこと? 何を言う、私は本気だぞ?」
「あなたはさっき、『思いついた』と言いましたね? 思いついた程度の言葉を実際にやる気などある物ですか。それに、あなたはトップではない。あなた達を率いているのはコカビエルです。下っ端風情の言葉などますます信用できませんね」
「し、下っ端だと!?」
「何より、その交換条件は絶対に却下」
ミオさんの声は極寒ですらあった。
「この子は大事な仲間で、恋敵で、私の騎士。戦力としても、感情的にも、あなたに引き渡すなんて考えられないこと」
「待ってください、二人とも!」
この交渉をおじゃんにすれば二人とも危険な目に……!
「リリィさんもリリィさんです。こんな約束守られる訳ないじゃないですか。もっと自分を大切にしてください。剣太さまが見てたら怒ってますよ?」
鈴音ちゃんはため息をついた。
「それに、おっしゃってましたよね? ご両親が今際の際に残された言葉」
その言葉に私の脳裏にその言葉がよみがえる。
『冥府で僕たちは君の幸せを祈っている』
ミオさんも頷く。
「あなたをこんなところで失ったら、ご両親に顔向けできない」
「でも、それじゃ、ここが………!」
私をもう十分と言いたくなるほどに幸せにしてくれたここが壊れてしまう………!
「確かに、ここは大切な場所」
ミオさんは静かに、穏やかに答えた。
「でもその『大切』の理由はきっと誰が欠けても成立しなくなる」
「みんなで笑って頑張って、時には戦って。そうやってみんなでいるからここはいいところなんだって、新参者の私でも分かります。……だから」
鈴音ちゃんが笑顔で続けて、ミオさんが最後を引き取って私に笑顔で言ってくれた。
「この場所を守るためにいなくなるなんて言わないで。ここで明日も皆で
………そっか。
私は、ここにいたいんだ。
「役立たず」だなんて自分をあきらめずにもっと皆で過ごしたいんだ。
ずっと私はここにいてもいいのか分からなかった。
怖かったんだ。やっと手に入れた居場所を失ってしまうことが。
だから弱かったら居場所を失ってしまうんじゃないかなんて勝手に怯えていた。
最初に剣太さんが言ってくれていたじゃないか。
『迷惑かけてかけられて。それが仲間ってもんだろ』
って。
なら、私は。
「…………………はい!」
ここで生きて幸せになるために、頑張る。
弱いなら今強くなる。目の前の敵を倒すために…………!
泣き笑いで頷き、決意した私の周りを、
…………神々しい光が取り巻いた。
Side end
Side ミオ・ダンタリオン
「これは………まさか」
「
私と鈴音の呟きに答えるように、一瞬輝きが強くなったあと、そこにはリリィと、
………聖剣を携える、甲冑の騎士があった。
「
リリィの言葉に、イリアードはやや狼狽しつつも虚勢を張る。
「ふん、聖剣を手に携えた甲冑騎士を呼び出す禁手だろう? しかし所詮発現したばかりのもの。僅か一騎しか呼べぬようでは恐るるに足りんな!」
………ああ、こいつはまるで分かっていない。
剣太と彼の師匠が彼女に施した修行がどれほど苛烈な物だったか、私は知っている。
アレを耐えられるなら、複数を完全な形で呼び出せて当たり前。
そうしないのは、何か理由があるからだ。
「……ところで、あなたは聖魔剣の木場祐斗と、私の仲間の立花剣太の違いをご存知ですか?」
リリィはイリアードの侮辱に対し、ただ、静かに問うた。
「……知らんな」
「剣太さんの、そしてその薫陶を受けた私のコンセプトは、『少数精鋭』です。……鈴音ちゃん、ミオさん、ちょっとだけ時間稼ぎ、お願いします」
「「了解!」」
「くっ、小癪な!」
イリアードは憤怒に顔を歪め、先ほどよりも多数の光の槍を放ってくるが、それらを全て私はシールドを展開して弾き飛ばす。
「ここで、使いますよ……! 小烏丸、妖力解放!」
鈴音がそう叫ぶと同時、凄まじい妖力が小烏丸から溢れ出る!
小烏丸の特殊能力。それは手にした者の妖力を生命の危機に瀕しないレベルで吸い上げ、必要な時にそれを解放するというものだ。
鈴音が仲間となってからその力は今まで一度も使ってなかったから、莫大な量になっているはず!
「はああああああっ!」
「ぬ、おおおおおおおお!」
鈴音の斬撃をイリアードは必死で防御する。その斬撃が終わったとき、イリアードは肩で息をしていた。
戻ってきた鈴音も似たようなものだし、私もシールドの使用で相当疲弊している。
しかしこっちにはまだ切り札が残っている。
「接続完了。ブリテンの王を守りし忠義の騎士よ、その魂、王の剣の下、ここに宿るべし!」
その言葉とともに握られている聖剣は黄金の輝きを放ち、そして……。
『我を呼ぶは、そこな姫君か?』
「はい。サー・ガウェイン、お力をお貸しいただけませんか?」
『ふふ、戦乙女に請われて応えぬ騎士などおるまい。よかろう。汝の持つ我が王の模倣の剣の下に、模倣なれども我が愛剣ガラティーンを振るおうではないか!』
サー・ガウェイン。子供でも知っている、アーサー王の円卓の騎士の中でランスロットと並び立つ「忠義の騎士」
……じゃあ、リリィが持っている剣って、まさか。
「聖剣エクスカリバー。模倣とはいえ完全版の模倣です。恐らく今の分たれた本物のエクスカリバー一本一本と拮抗しうるかと」
「所詮は模倣、恐るるに足り……!」
言葉ごと、ガウェイン卿が袈裟懸けにイリアードの体を切り裂く。
『模倣とはいえ、そこに宿る意思は独特にして「本物」だ。……貴様の敗因は敵を舐めすぎたことだな』
そこにとどめと言わんばかりにリリィがエクスカリバー・レプリカで先の斬撃と交差するようにイリアードの胴を薙ぐ。
「はぁあああああっ!」
「くそ、この私が、実験体ごときにィイイイイイイッ!」
断末魔の叫びを残し、イリアードは消滅した。
「ありがとうございます。二人とも」
「……当然のこと」
振り返って感謝するリリィに普通に応える。……少し、照れているけれど。
「みんなー! 助けにきたよー!」
そこに裕美とセリアがやってきた。
「無事でしたか!」
「楽勝だ。こっちはどうだった?」
リリィの言葉にセリアが笑みを浮かべて答え、問い返す。リリィも笑顔で答えた。
「苦戦したけど、どうにか勝ちました」
「って何これこわい!」
裕美がガウェイン卿を指差して叫ぶ。それに対し指差された甲冑は顎に手を当てて思案。
『ふむ、この格好はやはり少し威圧してしまうかな?』
「ゆ、裕美さん、それは後で説明します。……サー・ガウェイン、もう少しご助力いただけますか?」
『よかろう、堕天使と戦うというのも面白そうだし、その面白みを私はまだしっかりと味わっていないようだからな』
「ありがとうございます。じゃあ……」
「そうだな」
「そうだね、行こう」
皆で頷き合い、最後に私が向かう先を告げる。
「剣太の、ところへ」
全員が了解の意を示し、私たちは彼の所へと向かった。
こんな感じで、禁手を普通にしつつもオリジナル要素を組み込んでみました。
ハーフヴァルキリーであるが故になせる技ですね。
さて、次回は堕天使編最終戦に突入します。