更新遅れて申し訳ないのです。
さて、堕天使戦、決着です。
第三十五話
「はぁっ、はぁ、は………」
そろそろ肩で息をしたくなってきた。延々と前後上下左右から来る光の槍を次々と斬り伏せていれば、流石に疲労もする。
全ての攻撃が体をかすることすらもなかったにも関わらず、体からはブスブスと煙が少し上がっている。単なる余波だけでダメージを受けているのだ。
「ふむ、実にいい。中々に楽しかったよ。グレモリーのようにパワーで押してくる訳ではなかったものの、その技巧は驚嘆に値する。だが………」
コカビエルが嗤う。その笑みに疲労の影が見えるような気がするのは、ただの俺の願望だろうか。
直後、無数の光の槍が俺の周囲を取り巻いた。
「そろそろ、幕を引こうか」
最善手は一部を斬って突破、その後は回避に徹するといったものだけど………。そもそも密度が高くて突破も厳しいし、体力が持つかどうか……。
けど、やるしかない……!
覚悟を決めて雪片を握り直し、密度の薄い場所をにらみ据える。
と、突如として右側の光の槍が散じた。
「剣太さん!」
「剣太さま、こっちです!」
皆だ。どうやらそれぞれの担当を倒し、こっちの増援に来てくれたらしい。命からがら脱出し、皆の下に向かう。直後、転移魔法を使って別の場所に移動する。
ここは……近くのデパートの屋上か?
「危なかった。助かったよ、本当に」
「…大丈夫?」
「ああ、ヒヤヒヤしたけど無事だよ。まあちょっと疲れたが、これくらいならまだやれるさ」
と、人数が増えていることに気づく。
「リリィ、その騎士甲冑………」
「はい、禁手化しました。ただ、ちょっとアレンジして………」
『自己紹介が必要だな。私はガウェイン、ブリテンの王アーサー・ペンドラゴン陛下の騎士だ。仮初ながらそこな戦乙女の願いに答え、しばし従うことになった。先ほどの戦い、見事だったぞ』
「………なるほど。忠義の騎士からの賛辞とはずいぶんと光栄だ」
笑みを含んだ甲冑の声に、唇を吊り上げて答えた。
そして、全員そろって同じ方向を見る。少し遠く、倒すべき敵がいる所を。
『それで、どうするのだ? 私は既に死んでいる身、死を恐れず突撃するのも構わないが』
「………………」
ガウェイン卿の問いにミオが沈黙する。それくらいピンチなのだ。全員疲弊しているし、俺たちには赤龍帝に匹敵する火力が………
………いや。
「一つ、手段を思いついた。賭けだけど」
「………なに?」
まず最初にセリアが食いついた。
「単純。俺以外の前衛組が攪乱、後衛組がその支援。俺が禁手使って気配を断つ魔剣で近づき急所に一撃」
「………その攻撃は徹るの?」
ミオが熟考しつつ俺に質問する。まあ確かにあの分厚いオーラの防御は凄まじいだろうな。
でも。
「徹すさ。そして当たれば………多分、必殺だ」
「なら、信じる」
ミオは即答してくれた。
………やっぱいいよな。主が自分を信じてくれるって言うのは。
数分後。
どうやらコカビエルの方からやってきたようだ。
「まだ気配が残っていると思ったら……そこにいたか」
見下してくるコカビエルを皆が睨み返す。
「………ところで、あの剣士はどうした? わざわざ引導を渡しにきてやったのだ、出迎えるのが筋だろう」
「彼なら休憩中。………それと、そんな筋は存在しない」
ミオは冷たく言った。
「そして、そんなことをする必要もありません。あなたはここで倒されるのですから」
エクスカリバー・レプリカを構えたリリィが言葉を接ぐ。
「コキュートスから出てすぐだというのにあれだけ攻撃を連発していれば、流石に疲労しているでしょう?」
聖魔の力をあわせた弓を握るティナは見えざる矢をコカビエルへと向けた。
「堕天使の血、か。ティナのはともかく、お前のは飲んでもまずそうだ。まあ、蹴り飛ばしたらストレス解消にはなるか」
セリアが獰猛な笑みを浮かべる。
「倒します、絶対に」
「っていうか倒さなきゃ終わりだしね。やるしかないでしょ!」
「いざ、参ります」
ポーンの三人が前に出ると同時、沈黙していたフィーナとアイカが支援のための歌を歌い始めた。
ミオの前に本が現れ、凄まじい勢いでページがめくられ始める。
「は、小癪な。……さっさと潰すとしよう」
『そう簡単に潰されるほど彼らも私も甘くはないぞ?』
甲冑のガウェイン卿はそう言ってガラティンを向けた。
………ああくそ、自分で提案したとはいえ、歯がゆいな。手を出せないってのは!
と、コカビエルが不意に盾を展開した。
「く、流石に防ぎますかっ………!」
聖魔弾を防がれたティナが悔しげな表情を見せる。どうやらエリーゼの神器で死角から打ち込んだようだ。
盾を展開した隙に、裕美、鈴音、セリア、ガウェイン卿が攻撃を仕掛ける。いくらコカビエルと言えど、円卓の騎士の剣撃にはさすがに対処せざるを得ないらしい。その迎撃をしている所にセリアと鈴音が攻撃をさらに打ち込んでいく。鈴音が通連を遠隔操作しているのも合わせて四方八方から攻撃して相手を封殺しているようだ。
そんな中、ガウェイン卿を召喚したリリィは剣を手にひたすら何かを念じているようだった。
「王の始まりの剣………選定の剣……湖の乙女に授けられし第二の王の剣の呼び声に答えよ……」
リリィが握るエクスカリバー・レプリカの輝きが増し、一瞬強く光った。
「昇華せよ、コールブランド・レプリカ!」
エクスカリバー・レプリカを……昇華させた?
全く、師匠として鼻が高いよ。
「行きます!」
そしてリリィも攻撃する。
「舐めるなァアアアアアッ!」
………激しい攻撃についにしびれを切らしたのか、コカビエルは全方向に強いオーラを放射する。
一瞬で攻撃していた皆が吹き飛ばされ、
「英雄だと、たかが人間風情が!」
ガウェイン卿が無数の光の槍で貫かれた。
『く………、ここまでか。だが……!』
消え行く刹那、なぜか最後の言葉には喜色が混じっていたかのようだった。
その理由はすぐに判明することになる。
「堕天使六法全書、刑法典、決定刑執行書より抜粋」
淡々としたミオの言葉にむしろ驚く。そんな本、家にあったっけ?
「大逆罪により、『
「な、ふざけるな!なぜ貴様がそれを持っているっ? それは、かつて扱いきれぬ者が使った結果大暴走を招いたためにグリゴリの禁書目録に入っていたはずだ!」
「『あなたなら扱えるだろう』ってアルマロスからもらった。それと事後承諾だけど間違いなく執行許可は出る」
「やめろ……! 私をもう一度あの監獄に入れるだと……? ふざけるなぁ!」
必死で抵抗しているが手足は既に凍り付いている。しかしそこから先、胴体の辺りで拮抗しているようだ。
コカビエルは恐怖に顔を歪ませもがいている。他のことなど眼中にないだろう。
今だ。
禁手を解除。姿が露見するがもう気にする必要はない。
俺はコカビエルの後ろ、上の方にいた。
「……おおおおおぉっ!」
そのまま、雪片を構えて真下に突っ込む!
コカビエルが顔を引きつらせる。
「な、どこに隠れていた!」
死に行くものに教える義理はないな。
コカビエルが防御しようとする前に雪片はコカビエルの体に僅かに突き刺さり、
俺はそのまま、
(ごめん、雪片)
(構うな、存分にやれ)
「
雪片に感謝しつつ、技を発動させた。そしてそのまま即座にその場を
直後、二つのことが同時に起こった。
一つ。ガラスが割れるような音とともに俺が手にした雪片が砕け散った。
そしてもう一つ。
「こ、これは一体………!?」
コカビエルの体から凄まじいまでのオーラが立ち上り始めた。しかしコカビエルの様子を見るに、
きわめて強い力を持つ者の、力の暴走の誘発。
龍脈を利用して大地をも切り裂くのとは異なるもう一つのこの技の使い方だ。
今回はコカビエルが疲弊して力の制御が不安定になっていたこと、コキュートスから出たばかりで体の中にあった力の一部が封印状態にあったのが無理矢理解放されたという二つの要因が重なってどうにかなった。普通上位の存在だったら力のバイパスを作ってそこから放出したりすることで調整されてしまう。
「ばかな、神滅具でもない神器ごときに、この私が…………!」
「じゃあな、コカビエル。今度は二度と眠りから覚めるなよ。氷結地獄より冷たい死の闇の中で、凍えて眠ってくれ」
俺の別れの言葉に対し、コカビエルは憤怒に顔を歪め……
「ぬおおおおおおおおおおッ!」
そのまま自らが放つ莫大な光のオーラに飲み込まれて消えた。
そしてさらにその光は膨れ上がり……
一瞬の閃光と、光のオーラの爆発。
「くっ!」
あまりの眩しさに目を瞑る。
ちょっとして爆発がやんでから目を開けた。
どうにか防ぎきったものの、防げなかったら間違いなく死んでたぞこれ…………。
自分がまだ生き残っていることに安堵しつつ、さっきコカビエルがいた場所を見る。
そこには、もはや塵一つ残っていなかった。
コカビエル戦でこの技を使わせることはかなり前から考えていました。
ちなみにミオが使った本、今回の元ネタは昔懐かしいなんとか相談事務所。あの頃はジャンプ毎週買ってたなあ………
さて次回は堕天使戦の後日談編です。あとシナリオ的にはエピソードが二つ………
……なんですが。
ちょっと考えていることがあってですね。
この話、以前から言っていた通り完結する目標を早期設定していました。
具体的には原作で九巻あたりですね。
ただちょっと、この前発売された11巻を読んで、このまま終わらせるのもちょっとなと考えていまして。
完結してもひょっとしたら、「第二部」的なノリでなにかやるかもです。まああくまで思いつき程度ですし、やるにしても相当先の話ですが。