お待たせして大変申し訳ありません。
新章、開始します。
第三十七話
どうにかコカビエルの襲来を防ぎ切ってからしばらくして。
情報の整理を担うダンタリオン家にある報告が届いた。
「………オーディンさまが日本に来る、ですか?」
ハーフヴァルキリーで、オーディンとも面識のあるリリィが首を傾げた。今日は鍛錬は軽めで書類整理の日だ。俺達は全員揃って人間界のダンタリオン家の一室…………つまりいつもにミオの家にいた。もう鈴音もすっかり書類に慣れたな。
「そう。日本の神との会話にやって来る」
ミオが頷き、アイカが補足した。
「これからの対テロ同盟もあるからね。でもこっちには直接の関係はない報告かな。何せ悪魔陣営からはグレモリー家が護衛に付くからね」
「なるほど…………しかし、彼らにとっては災難ですね。不完全とはいえ
エリーゼが心配そうに言うが俺はあまり気にしていなかった。
「彼らならピンチをチャンスに変えるだろうさ。つーかコッチが担当することになったらそれはそれで嫌だし。……皆がオーディンにセクハラされそうで」
「否定できないな……」
セリアが苦笑した。
「ならこっちでそれについてやることはないんですよね?」
「無い。けど………別の仕事がある」
「別の仕事?」
「そう。………ギリシャに行く。オーディンの後はそこの神々がこっちに来るからその準備」
その言葉に俺の顔は自然と渋くなった。確かにオーディンはエロじじいだが、ゼウスの方も神話に書かれてるほどの好色家である。手を出した女の数は、人妻を含めて多分片手の指の数を超えるのではないか。
考えていることを察したのか、ミオはにこりと俺に微笑みかけた。
「……大丈夫、それはない。やれば間違いなく国際問題になることくらいは心得ているはず」
「心配してくれてありがとうございます」
エリーゼも嬉しそうに言う。
ちょっと恥ずかしくなって、俺はそっぽを向いた。ついでに話題もずらす。
「ま、まあそれなら良いんだけどさ。いつ行くんだ?」
「お、照れてる」
落ち着け、ここで反応したら相手の思うつぼだ。
アイカにからかわれるのに反論するのを俺が必死でこらえてると、ミオが苦笑しながら助け舟を出してくれた。
「今度の連休。だから後で準備」
「へえ。それは良いことを聞いたな」
その声を聞いた瞬間、俺は魔剣を作り出して声の主に斬り掛かっていた。
が、手応えがない。幻影か。
「モードレッド………!」
「っ、外です!」
ティナの言葉を受けて窓を開く。そのまま視認、大跳躍で全体重を乗せて斬り下ろす。
が、大きな影が前に立ちふさがる。男だ。
その大男が手にした斧槍を大きく振って俺を弾き飛ばす。人外じみた豪腕だ。
「くっ……!」
バランスを取り、衝撃を殺して着地。
直後、ふと嫌な魔力の集まりを感じた。
いつの間にかモードレッドの隣にいた男がこっちに向けて手を突き出している。その輝きが強さを増し……
襲ってきた紫色に輝く光の球を全力で切り捨てた。
「魔法を斬る、か。さすがだよ、卓越した剣の冴えだ」
「ついでにお前も斬ってやる、よ!」
そのまま言葉通り一気に斬り掛かる。同時に影で転移した仲間、エリーゼと裕美と鈴音の『兵士』トリオがモードレッドの後ろから攻撃しようとしたが、
「ふん、ぬるいわ!」
さっき俺を吹き飛ばした男がモードレッドの後ろに割り込み、三人の攻撃を防ぐ。
同時に俺の攻撃も防がれた。
そこに無色の矢が降り注ぐ。ティナの攻撃だ。しかし超巨大な影が魔方陣から現れ、全て防ぎ切ってしまった。
「こんの!」
そいつの後ろにセリアが現れ、そのまま蹴りを叩き込む。だが、普通のやつが5メートルほど吹き飛ばされるその一撃が、その巨人には僅かに体勢を崩す程度にしか効かなかった。
「いてえ……」
ぼそりとそいつは呟くが、当たったところをぼりぼりかいているところを見るとそこまでのダメージでは無いらしい。
……でも、コンビネーションの最後の一撃。フィーナの支援を受けたアイカ、ミオ、リリィの合成攻撃なら……!
考えていたとき、ちょうどその攻撃がやって来る。禍々しいオーラを纏った漆黒の槍が分裂し、雨のように降り注ぐ。
おそらく、魔槍ゲイボルクだ。基がレプリカだったのに相当強化されて、本物に相当近いオーラを出している。本物がどれくらいのものかは分からないからあくまで推測だが。
だが、それも新たに現れた二つの影が突き出した手に阻まれる。
「……中々やるわね。全力で防御しなかったらやられてたわ」
「ふふ、でも次は大丈夫。この術式になら対応できるもの」
今度は女が二人、か。
「ち、うじゃうじゃと……」
思わず思いっきり舌打ちする。悪役みたいな台詞かもしれないがはっきり言って本心だった。
モードレッドは満面の笑みを浮かべた。
「今日は仲間の紹介ついでに招待に来たんだ」
「そうか、全員冥界に行って自首してくれ」
「この大男が呂布、巨人がグレンデル、僕の横にいる魔術師はシモン。それと彼女達はブリュンヒルデにキルケだ」
俺の言葉を無視しやがった。むかつく。
それにしても嫌な名前ばかり出てくるもんだ。英雄譚じゃ悪役扱いの名前が勢揃いだ。
「それで招待の方なんだけど、今度ギリシャで愉快なパーティーを開くんだ。キミ達にも参加してほしい」
「どうせ危険な意味なんだろう」というのはここまでの話でバカでも分かる。
「激しく遠慮したい」
「まあそう言わずにさ。キミ達が行っている間にことを起こすつもりだから、よろしくね!」
「っ待て!」
そのまま斬り掛かるが、その一瞬前に奴らは転移で消えていた。
………それにしても。
僅かに一合やり合った程度だが、あいつら全員かなり強い。何せ俺達のほぼ全力の攻撃を全て防ぎ切ったのだ。
「随分と、厄介なことになりそうだな………」
空を見上げると、さわやかすぎるほどに晴れている。なのに一瞬これから先の暗雲を見たような気がして、俺は深々とため息をついた。
そんな訳で次回から舞台はギリシャへ。
え、ハーデスとやり合う? 無理、死にます。
さて、実は結構な強者ぞろいのダンタリオン眷属、相対するはいかなるモノか。